Get Away
失踪したわけではありません。隙間を見つけてちょくちょく投稿していきます。
「な、何者だてめぇは!」
今の状況を説明しよう。浪人一味に襲われそうになった所を1人の浪人姿の男に助けられた。男は細くも無駄な肉のないしっかりした体つきをしていて、その道の連中なら一目見て相当の使い手だとわかる。しかし突然の乱入に戸惑っている浪人共にはわからないようだ。
「何者だって聞いてんだよ!オイ!場合によってはてめぇもぶった斬るぞ!」
「悪いな。不貞の輩に教える名は、ない。」
男は不敵に笑った。
これで完全に切れた浪人が本来の目的そっちのけで一斉に男に襲いかかる。
速い。
ほんの一瞬のことだった。自分も見えなかった。太刀筋が目で追えないのだ。首、背中、心の臓。的確に敵の急所に刀が打ち込まれ、1人また1人と倒れていく。
「おい、そこのお侍さん」
呼ばれた私は我に返り守るべき主、熊野丞を抱き抱えて立ち上がった。
「そんなとこつっ立てないで早く逃げろ。殿は俺がやる。」
「!しかし!」関係のないものを巻き込む訳にはいかない。そう言おうとしたとき、彼の言葉に遮られた。
「心配すんな、てめぇの連れよりは強い。」
普段なら胸ぐらに掴みかかってるところだ。信頼していた同僚を悪く言う輩は許せない。だが、今はそのことで腹を立てている時ではない。私は胸に小さな主君を抱えたまま走り出した。それにしてもこの少年、こんな状況でも涙1つ流さないとはさすが真田家次期当主といったところか。しばらく走った先に、厄介なものを見つけた。さっきの敵の仲間だ。待ち伏せていたらしい。太刀を抜きはなってくる2人を前にこちらも刀を抜きはなった。その時だった。藪から駆け出してきた影が一瞬にして2人の首をはねた。
「ほら、こっちはいいから、その子連れてさっさと行きな。」その男は長い髪をひとまとめにしていて、整った顔立ちをして…いや待て、こいつ女か?生憎また敵が3人飛び出てきたのでそんなことを尋ねる暇はなくなってしまった。
「かたじけない」
それだけ言って私達はその場を離れた。そして山の中をしばらく走って、ようやく城下町までたどり着いたのだった。腕には護衛すべき主君と、数カ所の刀傷があった。なんとか戻ってこれたという安堵感と、仲間を死なせてしまったという罪悪感とが入り交じる脳裏に、先程助けてもらった2人の顔がよぎった。