本当のプロローグ
あぶねー疾走するとこやった
斬る。目にどす黒い赤色が映る。何度敵を斬ってもこの色を見る度に背筋に寒いものが走る、もう見たくないと常々思っているのだが、どうやらその願いは叶いそうにないようだ。鈴木左近は残る敵の数を確認した。12人。行ける。同僚の和田主殿は多くの戦いをくぐり抜けてきた槍の名手だ。今もまた1人敵が彼の槍に突かれて絶命した。残り11人。後輩の森と河村も各々の武器を手に戦っている。いい顔つきになっている、格上の敵に互角以上に戦えている。まあ当然か。こいつらは若を守る為に揃えられた精鋭。そう簡単にやられるはずもない。大分疲れが来てるが、それは向こうとて同じだ。勝てる。守るべき若、真田熊野丞を背にして彼は確信した。このまま若を殿のもとへ連れて帰れる、誰も死なず、生きて。
鈍い音がした。左を見ると、河村が血を吹き出して倒れていた。「ふう、雑魚が手間かけさせやがっ…」容赦はなかった。大切な後輩を討たれたのだ、一撃で死なせただけでもマシだ。「左近!見ろ!」主殿の指差す方を見れば、そこにはさらに10人の加勢が迫っていた。そこから先はよく覚えていない。こちらはさらに5、6人斬り捨てたが、代わりに森が死んだ。さらに不覚を取った主殿が腹に重症を負ってしまった。「行け。お前は若を連れて逃げろ。」反論する間もなく俺は突き飛ばされた。逃げた。若の手を取って、無我夢中で逃げた。そして戦場から大分離れた所まで来て、疲れて座り込んだ。その時、涙が溢れてきた。なぜ自分はのうのうと生きてるのだ、主をこんな目に遭わせて、大切な同僚や部下がみんな死んでしまったというのに、なんで俺だけが死ねないでいるのだ。そう思うと自分が情けなくなって無性に死にたくなった。
そこに、人影が現れた。見ずともわかる。敵の浪人共だ。きっと主殿を殺し、俺を追ってここに来たのだ。俺と若を殺す為に。だが、もう構わないと思った。さぁ、ひと思いにやってくれ。俺は諦めて刀をおろした。敵の刀が振り降ろされる。
ーことはなかった。代わりに、目の前には倒れた敵と1人の侍がいた。