ホシ
「『太陽。この世界を照らし、生存可能な状態を作る銀河系の中心。月。太陽と対になるもの。地球の衛星』って、衛星で対って。ネメシスの立場ないじゃんか。本の最後に、これはないわぁ」
「なに言ってんだ?」
「『星空の名前88の謎』っていう本読んでるんだけど面白いぜ?」
狭い部屋の二段ベッド上下で会話が行われている。
「今更、星の本なんて読んでるのか?」
「俺が知ってる内容とずいぶん違うんだよ。例えばさ、ヘラクレス・ペルセウス・アンドロメダ・カシオペアとか個人の名前がついてるのも、コイヌ・オオイヌ・コグマ・オオグマ・コギツネとか動物の名前がついてるってのも理解できるんだけどさ。中には、ヘビツカイとヘビがセットだったり、ウシカイとリョウケンがセットだったり」
「別にいいだろ。ヒツジカイとクジラって組み合わせより普通だね」
上段の男がベッドから飛び降り、一つしかない机の椅子に座る。
「それだけじゃない。見たこともない生物までいるんだぞ。例えば、リュウとかペガサスとかイッカクジュウとか」
下段の男も、うつ伏せ状態で読んでいた本を置いてその場に腰かける。
「アリだろ」
「んじゃさ、日用品は? コップ・カンムリ・ジョウギ・コンパス・タテ・ヤとか」
「アリ」
「ヤだぜ? ヤなんて横棒なんでもいいじゃんかよ」
「対象物が身の回りの物ってのは普通だろ」
「じゃ、チョウコクシツとかは? なんだよソレってならねぇ?」
「チョウコクシツ? また随分限定的な」
下段の男は少し顔をしかめた。それを見た男はうれし気に話す。
「だろだろ。あとな、トモ・リュウコツ・ホ・ラシンバンってあるんだけどさ、これ全部アルゴ船っていう船の部分なんだってさ。バラバラにした意味ないよね」
「……それ、本当に星の本か?」
「エリダヌスっていう名前のがあるんだけど読んでも川ってしか載ってなくて。意味が川ってことじゃないんだぜ。小さい星座ならまだしもでかいんだよ結構。あと、ギョシャって言いにくくないか? ギョシャジャ」
「あほ。で? 俺らの星は?」
「カニな。プレセペ星団ってのがあるらしいぜ。星座のカニって悲惨過ぎ。ヘラクレスがヒドラ退治に行ったときに、ヒドラ側のお手伝いに行って、あっさりグシャって潰されたらしい」
ケタケタ笑い声を発する。
『ピ‐ピ‐』
同調したわけじゃないだろうが、甲高い音がリフレインして聞こえた。
二人は、顔を見合わせて我先にと部屋を飛び出した。
今までくつろいでいた部屋よりもさらに狭い空間へ入ると、二つある椅子にそれぞれが腰かけた。
「見えたぞ。あれだ」
ひときわ明るく青く光る物体。
「うわぉ。めちゃくちゃキレイな惑星じゃん。予想外だわ」
「俺も、斑模様を予想してた」
二人そろって、だんだん大きくなる球体に見とれていた。着陸態勢に入る準備の慌てようったら。
「おい、やべぇ。大気圏ってやつに入るぞ。ちゃんと席に着け」
「おう。中に降りても期待できるな。うん。俺らが住めそうだ」
ニヤッと笑みがこぼれた。




