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僕と彼女のVRMMO記(旧題:AWO、始めます)  作者: 炬燵ミカン
鱗男と魔法幼女
8/55

魔法のあれこれ

長めです。

 落ち着けそうな場所を探したがなかなか見付からず、最終的に宿をとってそこで食べようということになった。宿は二人部屋をとった。端から見ると、お菓子で子どもを釣って連れ込むという完璧事案ものだが、宿屋の人には何も言われなかった。むしろ、子どもの世話して偉いね、みたいな目で見られた。


 部屋は……まあ良くも悪くも中世といった感じだ。まあ、寝る分にはなんの問題も無い。


「おっかっしっ!おっかっしっ!」


 部屋に入ってミールィさんを下ろすと、いきなり謎の踊りをし始めた。何してるん?

 自分のアイテムボックスからあの用途謎の絶妙に可愛くない人形を取り出して、掲げたり床に転がしたりする。


 うん。あなたがはしゃいでることは分かった。

 そんなあなたに朗報です。


「落ち着かないと菓子没収」


「サー!イエス、サー!」


 僕の言葉に瞬間的に反応し、その場に正座する。

 この人面白いなあ。


 笑いを堪えながら、ミールィさんの幼女の体を持ち上げ、ベッドに座らせる。僕も、少し間を開けて隣に。出来た空白には、宿屋に着くまでに買っておいた陶器の皿をアイテムボックスから出す。そこに、フィナンシェを袋から移す。

 飛び付く幼女を抑えて、紅茶を渡すと、二人で揃って手を合わせる。


「「いただきます」」


 言葉が終わると同時に、ミールィさんが皿に顔を突っ込む勢いで頬張る。


 サクサクザクザクサクサクザクザクゴックン。


「お~~いすぃ~~っ!!」


「そりゃようござんした」


 僕も一つ取って食べる。


「あ、美味しい」


 粗く潰したアーモンドのザクザクとした食感と、マドレーヌに似た柔らかさのアンバランスさが丁度良い。

 紅茶も一口飲む。すると、口に残っていた甘さが洗い流され、紅茶の味がスッキリとさせる。そこに、またフィナンシェを食べる。紅茶の一口。


 これは、良いな。


 ミールィさんの方を伺えば、勢いよく食べるのを止め、一つ一つを味わうようにゆっくりと食べている。頬を緩め、目尻を落としながら食べる様子は、リアルの彼女との類似点が多く見つけられる。

 なんとも愛らしい。


 僕は、口で菓子を楽しみ、目でミールィさんを楽しみながら、平原での狩りを思い返した。


***********


「【サンダーアロー】!」


 幼い少女の可愛らしい声が紡ぐのは、魔法の真名。自身の魔力(MP)を代価として、この世に奇跡を起こす。

 彼女の掲げる杖の先に顕現するのは、雷の矢。名前に違わず、目にも止まらぬ早さで標的……ゴブリンの腹を撃ち抜く。


 そして、ゴブリンのHPバーはその一撃()()で砕け散る。


「え?」


「あれ?」


 思わぬ結果に、僕とミールィさんは固まる。

 え?なんで?


「ゴブアァ!?」


「ゴブゴ!?」


 同胞が、突然腹を撃ち抜かれて死んだことに遅まきながら気付いた狙われなかった残り2体のゴブリンは、驚きの声をあげる。

 そして、その声に僕達の硬直も溶ける。


「い、一撃?」


「だった、よね……」


 顔を見合わせ、確認する。



 僕達は、駄弁るのを止めた後、移動を開始した。ミールィさんは、当然僕の背中に縛り付けている。AGI0の魔法砲台さんだから仕方ない。亀の歩みにわざわざ付き合う理由が無いのだから。幸い、キャラの重さは見た目準拠っぽいので、子ども一人を背負っても、ギリギリ移動ペナルティは発生しなかった。

 そもそも幼女の体じゃなかったら、こんな移動方法も取らなかったし、《緊縛師》ジョブに就くことも無かったに違いない。


 平原は、モンスターが驚くほどいなかった。なにせ、サービス開始初日だ。あっちを見ても、こっちを見てもプレイヤーばかりでモンスターを見付けられない。よしんばいたとしても、すぐに狩られる。

 フィールドに出ていても、一時間以上話していて一度もモンスターに襲われることが無かったのは呆れるべきか感心すべきか悩むところだった。


 そんな訳で、1分ほど走ってようやくゴブリン3体の群れを見付け、ミールィさんの魔法の試し撃ちをパッシブ状態の1体に放った結果が、一撃死(先程の結果)というわけだ。

 ちなみに、ミールィさんは一旦下ろしている。背中にいては僕が魔法の発動をしっかりと見れないからだ。


 えーと、これは……あれだ。


致命的一撃(クリティカルヒット)、的な?」


「腹にクリティカル判定は普通出ないと思うよ」


「だよね……」


 そうだよな。普通クリティカルって首とかだもんな。


「あ、確か氷魔法もあったよね!それは?」


「やっちゃって良いの?」


 この場合のやっちゃっては、“殺しちゃって良いの?”ということだろう。その表情には、喜びと期待、そして少しの不安が伺える。確信があるのだと思う。

 いや、僕も内心では死ぬんだろうと思っている。

 何故なら、先程の【サンダーアロー】。魔法の中でも、()()()()()()()()では魔法のLv.1攻撃魔法の中でも最速だが、()()()()()なのだから。


「【アイスボール】!」


 やっと、僕達が同胞を殺した犯人なのだと気が付いた2体のゴブリンは、愚直に僕達の元へ走って来るが、遅い。

 詠唱時間(キャストタイム)が終わり、ミールィさんの持つ初期装備の安っぽい杖から、バスケットボールほどの大きさの氷の球体が射出。右側にいた、錆びた短剣を持ったゴブリンの顔に直撃し、吹き飛ばす。

 もう片方の、棍棒を持ったゴブリンは、驚き固まる。だが、すぐに怒りの声をあげてミールィさんへ向かう。一撃死させたミールィさんにヘイトが集まっているのか、それともAIが見た目から判断して幼女の方が近付けば楽だと計算したか。どちらにしても、驚いて止まったのは失敗だった。


 ()()()()()()()()()()()()()()()


「【マギボール】!」


 『無属性魔法』。魔法系の基本ジョブに就くと自動的に覚えるスキル。その、最初の魔法はゴブリンの右腰に当たり、炸裂する。

 ドパン!と右足の付け根が半分以上吹き飛び、悲鳴を上げながら転げる。傷口は赤い粒子で覆われている。血を表現しているのか、あまりグロテスクでは無い。HPバーを見ると、僅か数ドット残っていた。当たり所が悪かったせいだろう。


 ミールィさんは、痛みと恐怖で転げ回るゴブリンに少し近寄り、杖の先を向ける。


「【サンダーアロー】」


 雷の矢は、狙い違わずゴブリンの頭を撃ち抜き、HPを0にした。


「おおぉ~……!」


 僕は、思わず感心と恐怖の入り交じった声を出して拍手する。

 ミールィさんは、振り返るとにぱっと向日葵の笑顔を浮かべ、ブイサインをイエーイとつくった。


 若干笑顔が恐かった。


***********


 その後、色々恐くなったのでミールィさんの持つ魔法を一通り検証することにした。


 まず、魔法威力。

 これは攻撃魔法が3つしか無く、平原にはゴブリンだけだったから詳しいデータは取れなかったが、一番威力の低い【サンダーアロー】でも正中線か首から上に当てれば一撃だった。そうで無くとも、手や足に当たるだけでも、HPが8割ぐらい削れたから問題無いと思う。

 むしろ、威力があり過ぎて僕が寄生してるみたいだった。


 続いて、攻撃魔法以外への影響。

 ミールィさんが持っている魔法スキルは、魔法威力向上スキルの『精神統一』以外の6つ。

 『無属性魔法』、『雷魔法』、『氷魔法』、『召喚魔法』、『精霊魔法』、『付与魔法』だ。


 『無属性魔法』とは、その名の通り属性を持たない純粋な魔力を扱う魔法だ。Lv.1で覚えられるのは、【マギボール】と【マジックシールド】の2つ。

 【マギボール】は攻撃魔法の初歩的な技で、威力、射程、発動時間はどれも平均的という良くも悪くも目立たない子だ。使い勝手は良さそうだけどね。当たったら破裂するから部位破壊も狙えそうだし。

 【マジックシールド】は、文字通り壁魔法。ゴブリン相手に使うのは怖いから、僕が攻撃して感触を確かめようとしたんだけどね……。壊せなかった。うん。エフェクトは厚めのガラスみたいな感じだったけど、効果時間が終わるまでぜーんぜん壊せなかった。どうやら、これもINTで変わるらしい。


 『雷魔法』と『氷魔法』は省略。覚えられる魔法がそれぞれ1つだけだったので。


 『召喚魔法』は、魔法職の中で《召喚士(サモナー)》という専門職があるスキルなのだが……別に専門職以外が取れないわけでも無いらしい。

 『召喚魔法』のLv.1の魔法は、【アクセプト】、【サモン】の2つだ。これは、順序立てて説明する方が分かりやすい。


Part.1

 サモンしたいモンスターを狩る。狩って狩って狩りまくる。

Part.2

 狩ったモンスターから落ちる、()()()()()()()()()()()を【アクセプト】で集める。

Part.3

 Part.2の条件を達成した状態で【サモン】を使えば、モンスター召喚。

 今日からあなたもサモナーだ!


 という感じだ。つまり、『召喚魔法』をとった人は、強制的にレアドロップを捧げなければならない。ま、温情というかなんというか、【アクセプト】する必要のあるアイテムは、各種1個だけなのは救いだろうか。

 ミールィさんも『召喚魔法』を持っているので、ドロップアイテムを【アクセプト】させたのだが、ゴブリンのレアドロップの魔石(小)が落ちなかった。平原はゴブリンしかいないっぽいから、全戦ゴブリンだったのに……。

 と言うか、ミールィさんがラストアタック(とどめ)を刺したら、半々の確率でアイテムが落ちなかった。僕はドロップアイテムの種類はともかく毎回落ちたのに。

 恐らく、これは極振りの弊害……LUC値0の影響だと思う。ゲームでは多くの場合、LUCの高低でレアドロップの落ちる確率が変わるからだ。

 INTの影響は、分からなかった。


 『精霊魔法』もまた、《精霊召喚士(スピリットサモナー)》という専門職があるが、『召喚魔法』とは、随分毛色が違う。

 まず、魔法は【スピリットサモン】の1つだけで、場所で呼べる精霊が変わるらしい。平原では、風の精霊のシルフィと土の精霊のノームしか呼べなかった。

 また、魔力消費もかなり激しい。一度、シルフィを呼んでみたが、数十秒で3割近くも減ったのは焦った。慌てて送り返したが、シルフィの起こした風でゴブリンが軽く数十メートル以上の空中遊泳を楽しんだので、INTは影響していると思う。


 『付与魔法』は、バフの魔法だ。デバフの魔法はあるかもしれないが、まだ知らない。

 Lv.1で覚えられるのは、【パワー】と【ハード】。それぞれ、STRとVITを強化する……んだけど、効果はINT、持続時間がMINで変わるようで、MIN0のミールィさんは、5秒しか効果が発揮されない。

 はっきり言って、産廃だ。だが、効果が残っている時に攻撃を当てたら、かなり爽快だった。体感2倍ぐらいだろうか?

 嵌まればヒドイことになると思う。勿論、良い意味で。



 そんな風に検証をして、MPが尽きたので僕がミールィさんを背負ってゴブリンを狩っていき、種族がLv.2になった所で大分暗くなったので、切り上げた、というわけだ。


 結論。ミールィさんの魔法には絶対に当たったらやばい。

 そういうことだ。


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