序盤モンスターにゴブリンは必須
とりあえず、モンスターと戦ってみよう。
僕達はその結論にようやく至った。この時、ゲーム内の時間は17時過ぎ。サービス開始時間がゲーム時間で12時なので、実質5時間は何もしていない計算になる。思考加速化によって、ゲーム内の時間が4倍に加速されているからと言って、時間を無駄にするなんて勿体無いことはしたくない。
……てか、その内1時間ぐらいのミールィさんと平原でひたすら駄弁るだけしていた。しょ、しょうがないじゃないか!なんだかんだでミールィさんと話すの楽しいし。
あ、ミールィってロシア語で“可愛い”って意味らしい。自分で可愛いとか……凄いなー。
ま、それはともかく、だ。
「じゃあ行こうか。ミールィさん」
「えー……本当に行くのかな?これで?」
「うん。これで」
背中のミールィさんが、何やら乗り気で無いようだが、効率的に動くためにはコレが一番良い。無駄に時間を過ごしたら、その後を効率化させるべきだ。
て言うかぶっちゃけ、先にAWOの世界を楽しんでいる奴らがいると思うと、妬ましい!
「うぅ……まさか私が魔法特化で後悔する日が来るとは……。九十九クン恐るべし……!」
何やら背中でAHOっぽいことを呟いているが、無視無視。応えたら、日が沈む前にレベルアップするという最低限の目標さえ達成出来そうに無い。
「目指せ、Lv.3!」
「わ、ちょ、早っ揺れっ、るぅ……!?」
僕は、駆け出す。日が沈もうとする平原を。
もしも、平原を走る僕達を見る人がいたら、まず一人だけしか走っていないように見えるだろう。
だが、目を凝らせば走る一人の背中が不自然に膨らんでいるのが分かる筈だ。
それを不思議に思って、距離を詰め、頭を柔らかくして見れば、きっと見えると思う。
銀髪の幼女が、縄で背中に縛り付けられている姿が。
*************
走る。走る。走る。
人型の影を一つ、見つける
視線の先には、頭上に赤のマーカーのある、汚れた緑色の肌をもつ子どもほどの背丈の怪物。
ゴブリンだ。
「【豪投】っ。……【旋蹴】!」
距離が残り10メートルを切ろうという時。ゴブリンがパッシブからアクティブへと変わる直前、僕は右手に持つハンマーを『投擲』の武技で投げる。
更に、『蹴り』の武技【旋蹴】で、残りの距離を詰める。カシャリと金属の擦れる音が、微かに鳴る。
「グゲァッ!?」
「【旋蹴】!」
回転するハンマーは、ゴブリンの右肩に当たり、突然の襲撃に驚きの悲鳴を上げる。HPバーは僅かに減る。その間に、もう一度発動して一気に0距離に。【旋蹴】は、威力は殆ど無いが一回の移動距離と再使用可能時間の短さは、かなり良い。
左肩にかけていた鎖に手をかけ、ゴブリンに相対する。ゴブリンも、当然黙って突っ立ってはいない。その手に持つ粗雑な造りの棍棒を振り上げる。
端から見るなら馬鹿も良いところだろう。鎖でどうやってモンスターを殺すというのか。
こうする。
「【拘縛】」
『捕縛術』の武技が発動し、軽く放るだけで鎖はゴブリンの首と右腕、胴に絡み付く。
「ギャギャッ!?」
「うわぁ……。ゴブリンの緊縛とか、誰得?早く倒してね、九十九クン」
「一応今の僕は得だよ?主に蹴りやすいって意味で」
まあ、リクエストがあったので手早く済ませよう。
左足で足払いをかけながら、左手に持った鎖を引っ張る。それだけで容易く転がる。蹴りやすいところにある頭が悪いと責任転嫁しながら、げしげしと何度も蹴る。何度も。何度も。何度も。何度も。
一回の蹴りだとHPの5%ほどしか削れないので、数を打ち込まないといけない。DEXにもポイントを振っているので、普通の戦士よりもSTRは低めだ。『蹴り』のスキルを持ってはいるが、使える武技はまだ【旋蹴】の一つだけ。
では、『槌術』は?武器は飛び道具に使って、手元に無い。僕の手持ちの中では使えそうなものがハンマーしか無かったせいだ。
一応を言うと、蹴りを入れなくてもゴブリンのHPは減っている。微々たる数値だが確かに減っているHPは、鎖のお陰だ。
鎖が首を締め、頸動脈を止めるだけでゴブリンの身体にはダメージが溜まっていく。
とは言っても、それはおまけのようなもので、蹴る回数が一回減るぐらいのものだ。
だから、蹴る。逃げようともがくので、足を蹴る。空いている左手で足を掴もうとしてきたので、肩を蹴る。こちらを睨んできたので、蹴るというより削るように顔を蹴る。
そして、ようやく……。
「ゴブベ、バ……!!」
ゴブリンの微かな断末魔が喉から洩れた後、HPバーが無くなる。命の尽きた骸は、世界のシステムにより光の粒子とドロップアイテムに変わる。
《種族レベルが上がりました》
《s職業:緊縛師のレベルが上がりました》
……あれ?《槌使い》は?《槌使い》は上がらないの?メインジョブなのに?……あっれー?
「九十九クン、私のレベルが上がったぞ!君もだろう?……どうした?」
「ああ、いや、種族レベルと《緊縛師》のレベルは上がったんだけど……《槌使い》が上がらなかった」
「ああー……」
背中から、呆れた声を頂戴する。
ま、まあ、僕の戦い方ってさっきから《槌使い》だと名乗ったら本職の人にドロップキックされそうな感じだったからね。経験値が足りなかったっぽい。
「でも、今のところコレが一番安定して戦えるんだよなあ」
「ん~……、ま、とりあえずはこのままで良いんじゃないかい?私も大分この体勢に慣れたことだし」
「ま、あなたがAGIに5でも振ってればまた別の戦い方があったんだろうけどね」
「極振りは止めないからね!」
「もうとっくにその事に関しては諦めているから安心して良いよ。……もう暗いし、街に戻ろうか」
「うん。そうだね」
狩りに夢中で気付かなかったけど、太陽はもう半分以上が沈んでいて、辺りがかなり暗くなっていた。
視界の端に表示させている時計を見れば、もう19時前だった。どれだけ夢中でやっていたんだろう。
暗いと、『暗視』スキルを持たない僕達では行動するのは難しい。
ドロップアイテムをしっかり回収した後、僕達は足元に気を付けながら(ミールィさんは僕の背中にいたままだけど)、街へと帰路に着いたのだった。
名前:九十九
種族:蒼鱗族 Lv.2 (↑1)
職業:槌使い Lv.1
s職業:緊縛師 Lv.2 (↑1)
HP 170/170
MP 150/150
STR 13 (↑2)
VIT 5
AGI 13 (↑2)
INT 2
MIN 5
DEX 9 (↑1)
LUC 8
SP 5
〔スキル〕
『槌術 Lv.2』『捕縛術 Lv.4』『強打 Lv.3』『鑑定 Lv.2』『ダッシュ Lv.4』『投擲 Lv.2』『蹴り Lv.3』
〔称号〕
無し
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名前:ミールィ
種族:ダークエルフ Lv.2 (↑1)
職業:妖術師 Lv.1
s職業:魔道師 Lv.1
HP 130/130
MP 190/190
STR 0
VIT 0
AGI 0
INT 54 (↑4)
MIN 2 (↑2)
DEX 0
LUC 0
SP 5
〔スキル〕
『無属性魔法 Lv.1』『雷魔法 Lv.1』『氷魔法 Lv.1』『精霊魔法 Lv.1』『召喚魔法 Lv.1』『付与魔法 Lv.2』『精神統一 Lv.2』
〔称号〕
無し




