クールでスマートな聞き取り方(side:ミールィ)
二週間も空けてしまってすいません。流石に三週間も空けるのはまずいと思ったので、急いで仕上げました。
デレステ楽しい。美波ちゃん可愛い。
「離せよおおぉぉっ!!」
「まあまあ落ち着いて~?」
「コレが落ち着いてられるか!?」
「あ、確かに」
そりゃ出会い頭に縛られて落ち着けるはずも無いね。
「納得するなよ!?」
何故か怒られた。
「もうっ!なら、私にどうして欲しいの?言ってみなさい」
「いいからこれ解けよーー!!」
「あはは~。私の筋力じゃ、その結び目解くのとか無理くさいんだよね~」
「はぁ!?」
「君を縛ったお兄さんを呼ばなきゃねー。どうしようも無いの」
ま、私の魔法だったらなんとかならなくもない気がするけど…………この子が死んじゃいそうだし。逃がすつもりも無いから、言わない。
「……………………じゃあ、どういうつもりだよ」
「ん~?」
何がじゃあなのか分かんない、けど何を聞きたいのかは察せられる。
「それは、君が一番分かってるんじゃない?」
「………………」
俯いて、黙りこくる。静かになっちゃったなぁ。どうしよ?いや、どうするも何も無いけどさ?
とりあえず、少年を見詰める。じっと。じっくり。じっとりと。
「………………」
「………………」
目の前の少年、スリ少年と勝手に呼んでる彼の頭からはモサモサの、獣の耳が生えている。錆色の毛で、形は丸っこい。クマの耳とかに似てると思う。じゃあクマの獣人なのか、と言えばそうは見えない。クマのイメージと言ったら背が高く、横幅もあって、強い。見た目からして強者なのだと思わせる動物だけど、スリ少年は背が低く、どちらかと言えば痩せ気味で、どう見ても弱そう。
AWOは一部の種族に体格制限があった。ドワーフは身長160以上のアバターを製作出来ない、象の獣人である象人族は身長170以上、体重80以上で製作しないといけない、とか。
触ったら分かるかな?
「………………」
「………………」
触って確かめたい、という建前のもと、もふもふしようと思ったら、脳内の九十九君が『そういう事したらややこしくなるから止めようね~』と制止してくる。ここに九十九君がいたら察して同じ事を言ってきそう。デコピンとかとセットで。
うん。止めとこう。
今、その九十九君はファイブスター、U・Uちゃん、自己紹介を聞けなかったNPCでエルフな錬金術師のマリエルちゃん(愛称メリーちゃん)と院長に会いに行ってる。そりゃあ、件の子が見つかったんだから報告しないとねー。
「………………」
「………………」
今私と一緒にスリ少年と相対してるのは、調教師の玲奈ちゃんに盾使いの鱗華ちゃん。でも、私達3人ってまだ知り合ったばかりだから、別にそれほど仲が良いわけじゃないんだなー。コレが。いや、仲が良くなくても話自体は出来るんだよ?でも、こうやって話が途切れて無言の間が出来ると、喋る気勢が弱るっていうか…………。
現実で対面してるってわけじゃないから、ちゃんと目を合わせて、表情筋を動かして会話出来る。でも、知り合ったばかりの私達にグッドコミュニケーションを求められてもどうしようも無いんだぁ!…………思考がファラオの記憶の迷宮でアテムってるから、レッドカードからのスローインで流れを変える。
「………………」
「………………」
鱗華ちゃんも玲奈ちゃんも沈黙を貫く。私がスリ少年をからかってる間もだんまりだ。ていうか、結局3人は協力してくれるのだろうか?ファイブスターから聞き忘れてしまった。まあ、後で九十九君から聞こう。多分、彼の事だし聞いてるんでしょう。
ちらっと、後方確認をすれば鱗華ちゃんと玲奈ちゃんが気まずそうに座ってる。鱗華ちゃんは体育座り、玲奈ちゃんは正座だ。………………気まずい自覚があるなら、正座は止めて欲しいなー。説教してるみたいで可哀想になってくる。
あ。鱗華ちゃんと目が合った、と思ったら何か口をぱくぱくさせてる。え~と?…………『ま』『か』『せ』『た』…………?
「…………『任せた』かぁ」
君達やる気無いぬをぉぉおお!?って言ってあげたいけど、ここはぐっと我慢して。まあ、この構図ってあんまり良い気分はしないだろうから強制もしづらいし。
「…………………………なんだよ」
「お」
そんな風に思ってたら、私の独り言に少年が反応する。
無言で見詰め続けること約5分。ようやく反応が。
おねーさんはうれしーよー。
「…………っ!!何笑ってんだよ!?」
「おっと。ごめんごめん。ちょっと嬉しくてね」
「意味わかんねぇ!」
「そんなに顔を赤くして怒らなくても良いじゃない」
「してねえ!!」
してるよ、とは言わないであげよう。また口利いてくれなくなったら嫌だし。
によによとした軟質の笑みを、すっきりとした硬質のものへと変える。
「それで、スリ少年はなんでスリなんかしたの?」
「おい!なんだよ、その呼び名!俺はそんな名前じゃねえ!」
「えー?だって私君の名前知らないしー。スリしてたんだからスリ少年で良くない?」
「良くねぇ!」
「じゃあ、教えて」
「キット」
なんか意外と簡単に教えてくれた。もっとごねたりするかと思ってたのに。
「んじゃ、キット君。君はなんでスリなんてしたの?」
「うるせえよ」
もういけずー。
ま、想定の範囲内だし変化球を試してみよう。
「院長悲しむだろうねー。優しそうだったし、責任感じちゃうんだろうなー」
「…………かんけーねーだろ」
手応えあり…………かな?ならこの方面で攻めてみよう。
頭の中にイメージするのは、九十九君の悪どい笑顔。思考トレース!九十九君の考えそうな事を考える。…………あ、ダメだ。ろくなのが思い付かない。ぱっと5つぐらい出てきはしたけど、その内3つがアプローチは違えど脅しってね。全く、九十九君は物騒な事しか考えられない病気にでもかかってるのかな?霊長類らしく話し合いはして欲しいもんだよ。
…………おや?脳内の九十九君がひやりとする笑顔で私の頭を鷲掴みしてくる。おかしい。なんで私の脳内の中なのに避けることが出来ない!?まさか、君は、『死神13』!?
………………………。
悪霊退散!悪霊退散!屋上でアーメンソーメンヒヤソーメンとハットリ仮面を装備して踊れば今すぐ君も“ともだち”さ!
やっばい。何がやばいって偏差値10ぐらいの物事しか考えることが出来てないって話だ。SAN値の削れる音が聞こえてきそう。
わーわわぁーわーわあーー!!
よし!これで正気!全然正気じゃない気がするけど、正気だと思うんだ、私!
「それがあるんだなあ。これが」
「は?」
「君さぁ、なんで私が孤児院にいると思ってるの?」
「なんでって…………俺を追いかけてきたんじゃ…………?」
「ぶっぶー!ざ~んねん不正解!…………正解は君が原因で死にそうになった孤児の子達を助けたから、でした」
「な…………は…………?」
うむ。見事な間抜け面。スクショ撮っちゃえー。ぱしゃり。
「意味分かんないって顔してるから説明してあげると、君がしていたスリは『夜狼の巣』の怒りに触れちゃったの。そして、君だとは分からなくても孤児院に住む孤児の誰かだってことを嗅ぎ付けた奴らは、脅し兼見せしめにサリアとティーカ殺そうとした」
「っ!?二人はっ!?」
サリアとティーカから聞いたしキットも知ってるだろうと推測して『夜狼の巣』の説明は省く。ていうか知識だけなら私よりも知ってるでしょうね。
予想以上の食い付きにちょっと面食らいつつ、それを抑え込んで澄ました顔で頷く。
「私達が助けたからピンピンしてるよ」
「そう、か………………」
重い、重い安堵と後悔の入り混じった溜め息を吐く。キットにとって、彼女達は大事な人なのだろう。思い出してみれば、見た目だけなら孤児院にキットより歳上の孤児は居なかった。という事は、彼が年長さんで取り纏めをしてたのだろうか。彼は彼なりに孤児達に対して責任を持っているのかもしれない。関係無いけどね。
私はその隙を突くように、言葉を浴びせる。
「はい、じゃあそれを踏まえた上で聞くね。君がスリをした動機は何?」
「……………………それ、は…………」
一度息を詰め、逡巡した様子を見せた後、キットはぽつぽつと理由を話し始めた。




