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僕と彼女のVRMMO記(旧題:AWO、始めます)  作者: 炬燵ミカン
中二召喚士と盗賊団
48/55

孤児院メリーゴーランド

先週は投稿出来なくてすいません。

「ここが……」


「ここがね~……」


「普通じゃね?」


「おかしなものは無いですね」


 以上が、孤児院を前にした僕達が呟いた第一声である。事前に話は聞いてたけど、予想の範疇の域を越えない見た目だったのだ。その孤児院は。

 僕の薄い人生の中で最もこの建造物に近いものをあげようと思ったら、勝手に浮上してきたのは僕がかつて通っていた幼稚園だった。世間一般的な幼稚園が何かは知らないからなんとも言えないけど、似ているのは間違いなかった。流石に庭にジャングルジムなんかの遊具は無いみたいだけど、形とか色合いが懐かしい。。…………ん?あれって…………


「ねえ、ミールィさん」


「ん。どったの?」


 孤児ちゃん二人に、孤児院の責任者を呼んできてくれるよう頼んでいたミールィさんに声を掛ける。お互いの手を握りあって、安堵の笑顔を浮かべながら孤児院に入っていく二人の背中を見送っていたミールィさんは、端的に先を促す。指差そう、と思ったけどそれよりも簡単かなとミールィさんを持ち上げてそちらへ向けた。

 彼女は「あ~いきゃ~んふら~い」と僕の横着にはしゃぐ。


「ほら。あのぶら下がってるやつ」


「んー?……ああ、あの板?」


「そう、それ」


「あれが?」


「いや、なんとなくあれはなんなのかなって」


「知らないっちゅーの」


「まあ、だよね」


 僕達の視線の先にある()()()は、大人3人が手を繋いだぐらいの太さの幹を持つ大樹の枝に吊らされていた。

 当然そんな大樹の枝も太い。ミールィさんのイカっ腹ぐらいはあるかな。大人が乗っても簡単に折れはしないと思う。その枝に不釣り合いな──釣り合うのがどれくらいか知らないけど──ロープが二本、ある。片端を枝に結わえて、もう片端は長方形の板…………あれ板か?……まあ良いか。とにかく、その板的なそれに繋がっている。それが二本、それぞれに板がある。

 う~む。なんだあれ?


 僕はよく分からないそれに首を傾げる。ただ、それは僕だけのようでミールィさんは退屈そうに欠伸をくにゃくにゃと噛んでいた。どうやらミールィさんは興味が大して湧いて無いみたいだ。横で暇潰し100%ですと顔に表示しながら聞いていたファイブスターも同様。自分の顔を咀嚼する(舐めるの強調語だよ!)ように見つめていた玲奈ちゃんと雑談に興じ始めた。


「…………どーうでーもいーいか~」


「しゃ~るうぃーだ~んす」


「をうをうぇぇえええぇーーー」


 僕も別に、どうしても知りたいってわけでも無かったから、思考を切り替えてミールィさんと回る。ぐるりと、廻る。


ぐる

ぐる

ぐる

ぐる


 僕が駆動部、ミールィさんが馬となって人力メリーゴーランドだ。何処かの芸術家は人の肉体こそが人が造り出せる最も美しい芸術品だと言っていた。なら、僕達は芸術家だ。最高の芸術品で新たな芸術品を造る。すなわち、自分自身を芸術品にする!

 と言うことは、僕とミールィさんは一心同体だぁ。


 ぐぼぇ。


ぐる

ぐる

ぐる

ぐる


 廻る。回る。ぐるりぐるり。

 重力とは、つまり地球(ほし)の力。地球の力と宇宙空間にて全力で自己主張する慣性をその身に宿しながら、僕と彼女はただ廻る。


ぐる

ぐる

ぐる

ぐる


 1°肉体が回転行動を行う毎に三半規管がメーデーを訴えてくる。トラじゃないのにバターになった気分だ。


「はぁ、は、はああははははあは!」


「えんしんりょくはいだいなり~~~!」





 騒ぐ僕達に気付いた子ども達が、自分も自分もと僕に人間扇風機を強要してくるのは後少しの事。


*****************


「あの…………大丈夫でしょうか……?」


「…………っ!…………ぜんっ、…………だ…………ぶぉぅ………」


「あー、大丈夫大丈夫。彼はロリコン兼ショタコンというこの世の業を一身に背負う生きた悪徳みたいな人だから。ちょっとはしゃいじゃっただけだよ。問題ナッシング」


「自業自得だと思うから、オレはなんもしねーぞ?」


「えと……その……頑張って下さい…………?」


 抗議したい。異議を申し立てたい。けど、僕の肉体がそれを赦してくれない。突き放す言葉と行き先の不明な応援に何か返す事も出来ない。視界の端には現在のHP、MPを表すバー、その下方に『窒息(弱)』、『酩酊(中)』の文字が躍っている。

 なんか喉に米が詰まったみたいに呼吸がしにくいし、視界だけジェットコースターに乗ってるような天地無用(意味は察して)状態になってる。でも、不思議と気持ち悪さは無い。VRだから、なんだろうけど奇妙な気分だ。


「は、はあ…………。そうなんですか……?」


「…………っ!?…………!!」


 おいこら、なんとなく理解した風にするな。そこのロリお姉さんの言葉は95%が虚言だぞ!………はしゃいじゃったのは否定しないけど。

 普段は10秒で飽きることもたまにしたら周囲が引くレベルではしゃいじゃう事ってあるよね。えっと……躁状態だっけ?

 選択した単語が決定的に違う気がしなくもないからこの思考は止めにしようと思う。

 すると、さっきまで意識して聞き流していた騒音が、一瞬空白となった脳に満ち、自動的に言語に翻訳される。


「ねえ!もう一回!ねえ!良いでしょ!あと一回!」「休憩したらまたしてくれるつったろー!俺もしてくれよ!」「あの、出来たら私も良いですか?」「あ、それならアタシにもしてよ」「じゃあ私もついでに」「おねーちゃんたちは後ー!」「そーだそーだ!」「いーじゃん、いーじゃん!アタシたちだって日頃の疲れがあるんだよ!?」「知らねーよー!」「アタシだって知らないわぁー!?」「何言ってんだよ!?」「ふふっ。鱗華ちゃん子どもと口喧嘩してる」「バカだな」「バカだよね~」


「……………………」


 ワイワイガヤガヤ喧喧囂囂(けんけんごうごう)と僕の頭上にて生産性の感じられない言語の応酬が続いていく。

 ……………………。


 うぅぅるぅぅせぇぇぁいぃぃぁぁああ!!!?





 数分前。

 僕が遠心力とはなんたるかを体に叩き込んでいたら、孤児院の子ども達に混ざって3人の少女が現れた。面白いことに、3人の内2人がプレイヤーで一人がNPCだった。大変興味深かったけど、深入りはしないでおいた。僕偉い。

 多分僕達と関連あるんじゃないかなーっていう予感はあるけどね。


「うぶ、ぶ…………ぐおおおぉ」


 一息つき、全身に力を込めて上半身を起こす。吸ってー、吐いてー。吸ってー、吐いてー。

 すっはすっはーと肺を酷使して何度か深呼吸をすると、『酩酊』はともかく『窒息』の方はだいぶ症状が()()()()()()()()()。気がするだけなのは悲しいなぁと嘆息。

 まあ、VRだからね。『麻痺』や『睡眠』の状態異常とかと比べて『窒息』や『酩酊』は体の操作性が若干悪くなるぐらいだし。呼吸しづらいから声を出しにくいのはちょっとめんどいけど。


「やっほい九十九君。人気者をツラいふぇ~」


 体の違和感ひとつひとつを確かめるように(つまりは適当に)体を動かす僕へと、ミールィさんがとことこ歩いてきた。…………おい、話してる途中に食い出すなや。

 なんか黄色いのが挟まってるサンドイッチをもちゃもちゃ(ついば)む幼女に自然、手が伸びる。

 ていや。


「オウ!ワタクシのエッグサンドパンが!?」


「ふっふっふ。貴様の喰らう物は全て我の物よ!」


「くっ!…………負けない!私は負けないわ!亡きハムサンドに必ず食べるって誓ったものっ!!」


「はて、それはこいつの親戚かな?」


「そっ、それは…………ハムカツサンドっ!?」


「そうだ。貴様が喰らったハムサンドの父だ!」


「ハムカツサンドを物質(ものじち)に!?おのれ、卑怯な!」


「なんとでも言うが良い。これで貴様はただの木偶だ!」


「……………………早よ食えアホども」


 ノってきた所で、ファイブスターの冷ややかな秋口の水道水ぐらいの温度の言葉が降ってきた。

 僕はミールィさんから徴収した玉子サンドとアイテムボックスから出したハムカツサンドの二刀流スタイルのまま、声の方を振り向く。声の主たる黒ずくめの男はサンドイッチ片手に頭を抱えていた。

 はて?


「九十九君カモーン」


 首を傾げてたらミールィさんに呼ばれたので潔く召喚される。


「あ、さっきは挨拶出来なくてすいません。九十九といいます」


「まあ、これはどうもご丁寧に。ここの院長をしていますレマーリアです」


 ミールィさんは、レマーリア院長と一緒だった。芝生に座る院長の傍らに一抱え程あるバスケットが鎮座している。中に満ちていたのは、多種多様のサンドイッチ。

 視線を手にあるサンドイッチの片割れに落とす。なるほど、これは院長から貰ったのか。


「ほらほら九十九君!私の玉子サンドさんをお返しなさい」


「むう…………」


 へいへーいと手招きする幼女に悪戯心が湧くが、今は院長の目の前。NPCとは言え、こうまじまじ幼女をからかう姿を見られるのは体裁が悪い。…………はい、そこ今更とか言わない。僕だって自覚はあるから。

 と言うわけで、僕にしては珍しく何もからかうことはせず、玉子サンドを渡すってああっ!?


「いっただきー!」


「おいこら、ハムカツサンドも取るな」


 それは僕が食べようとしてたやつだぞ!?

 くるくる院長の周りを走るミールィさんを僕はバスケットにぶつかったりしないよう注意しながら走る。あががが、視界が揺れて走りにくい。


ふふふぁはひぇまいも(器が狭いよ)ふひゅもひゅーん(九十九くーん)


「あ、食うなよ!」


 走るか喋るか食うかどれかにしろ!


「うふっ、ふふ…………ふふふふ!」


 僕達の掛け合いに、堪えきれずといった調子で吹き出す院長。

 それが呼び水となったのか、ぎゃいぎゃい言い争っていた少年少女が僕達の方へやって来る。



 5分後、騒がしくサンドイッチを食べる僕達の姿がそこにはあった。


状態異常は多様にあり、一部を除き異常強度は大弱・中・強となる。


『窒息』

 酸素の供給量が不足している状態。(弱)では呼吸がしづらくなる、スタミナの減少速度上昇等


『酩酊』

 三半規管が不調な状態。(弱)では視界の不安定化、(中)では更にDEXにマイナス補正がかかる。

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