後始末おしまい
今回は早く投稿出来ましたよ!
僕達は、ファイブスターに現状を説明した。玲奈ちゃんからメッセージである程度事情を理解してるらしいけど、一応。
ちなみに、発行されてから視界の端でチカチカ煩く自己主張していたクエストは、ファイブスター、玲奈ちゃんとパーティを組んで受諾した。二人は、今更知らない事とする気は無いそうだ。
僕の話がファイブスターと集合するまでを話し終わった時。
「お、そう言えば」
と、唐突にファイブスターが手を打った。当然僕達に理由は分かるはずもなく、首を傾げる。
「ファイブスター?」
「うん?……ああ、悪い。ちょっと待て。…………おーい、お前ら!こっちに来てくれ!」
「「??」」
いきなり何やってんだ?
後方に声を掛けるファイブスターに、僕とミールィさんはお互いに顔を見合せる。
「むふん」
すると、何故かミールィさんは腕を組み、やたらムカつく笑顔を浮かべた。やだ、イラつく。
「ほれーい」
「あうあうあー」
癪に触ったので頭を乱暴に撫でる。ミールィさんはわざとらしく、目をぐるぐる回した。それに伴って両手もわたわた動く。うわぁ、不っ気味ー。
「うっくっく」
「えへっへへへ」
なんとなく、可笑しくなる。腹の底が引き攣ったような声を上げて、二人して気持ち悪く笑う。
「何してんのお前ら?バカップルか?」
「誰がバカかー!」
「我々を愚弄するかー!」
「そうかそうか」
呆れの配合量が高めの言葉に、僕達は一気呵成の雄叫びを上げる。ファイブスターは僕達のおふざけに気を留める様子は全く無い。僕はともかく、ミールィさんは気に留めるべきだろう!と憤慨してみる。
すっとファイブスターの視線が横にずれる。酷いやつだと、視線の先に目を向けると。
「って、おお?」
「小鬼軍団だ……!」
思わず、曲がり角から出てきた一行の姿に驚愕の吐息が漏れる。ミールィさんは一行の姿を端的に纏めた。
小鬼軍団……か。確かになぁ。
小鬼。この場合はゴブリンか。玲奈ちゃんの車線誘導の如き動きに導かれて、結構な数のゴブリンがぞろぞろと僕らの前に整列していく。
その規律染みた、なにがしかによって決められたような動きから、この十数体のゴブリン達が野良ではないと分かる。そして、そんなゴブリン達を呼び出したと思わしきっていうかぜってえあんただろう、と視線に思念を込めてその男を見やる。
男は、くいっと口端を上げ笑った。
「オレのメインは《召喚士》だからな。これぐらいの数のゴブリンなら楽々と揃えられる」
「へぇ。召喚士ね……」
だから、オーガエイプことオガ君(ミールィさん命名)について詳しく聞きたがってたわけだ。
ファイブスターが僕が事情説明している途中で凄い剣幕で問い質してきた事に納得しつつ、ゴブリンへと眼球の方向を変えじっくりと見る。…………野生との違いが分からん。あ、いや。そう言えばミールィさんがゴブリンやオガ君を召喚した時も別に見分けは付かなかったなーと、海馬の地層から掘り出した記憶の鑑定を行う。
そう言えば。あのゴブリンブラザーズはいつ死んだのだろう?ビーストエイプとの乱戦が終わった時には既に姿が見えなくなっていたから、今まですっかり忘れていた。まあ、普通に考えてビーストエイプにやられた、か。ビーストエイプ自体の力量は、ゴブリンとの差はさほど無かったはずだから一対一なら、善戦ないしは相討ち程度にまで持ち込めることが出来ると思う。だが、あの時は数の差で圧倒的に負けていた。僕達は自分達に襲い掛かってくる相手を対処するだけで精一杯だった。ゴブリン3体等、ビーストエイプが5体もいれば何も出来ずに殺されただろう。
さて。
わりとどうでも良い事に思考が割かれたので、掘り出した記憶は埋め直してと。
どうにもさっきから気になるものが僕の視界に入り込んでいる。
「…………ファイブスター。これは?」
そう言って僕は、見覚えのある3人の男たちを指差す。
「オレがゴブリン達を連れて玲奈を探してたら、突然横道から飛び出してきてよ。ぶつかりはしなかったが、喧嘩を売ってきたから買った」
「まじか」
「マジだ」
こいつら何やっとんの?いや本当に。
僕達が仕留めた斧男。その仲間だった3人は、拘束されダルマとなった状態で転がっていた。
あ、目が合った。3人とも口に詰め物か何かを入れられてるらしく、言葉は出せないようだ。んごんごと謎の言語で訴えてくる。
「『殺さないでくれー』『助けてくれー』かな?」
僕達(僕だけじゃないと言い張る)に恐怖し逃げ出したっていうのに、こうやって無防備な状態で二度目の対面を果たすとは。
「馬鹿だーー!馬鹿がいるーー!!ぷーくすくす!」
ミールィさんめっちゃ煽ってる。男たちの目の前で腹抱えて嗤ってる。
うわぁー、3人ともめっちゃ恥ずかしそう。いや、まあ笑えるけどね!主に道化的な意味で。
「ねえ、今どんな気持ち?ねえ、今どんな気持ち?えぬでぃーけー!えぬでぃーけー!」
「ぶふぅっ!……ちょっ、待っ、反復横跳び止めて…………!」
は、腹痛い…………!
「あーオレは当事者じゃないからなんとも言えんが、可哀想だからもう止めてやれ。…………あ、玲奈まで笑ってる」
声を上手く出せないから、代用の首肯を何度も行う。
はー、はー、……ふぅ。
胸に手を当て、息を調える。
周囲を確認すると未だに反復横跳びで煽るミールィさん、必死に堪えてはいるものの笑っているのを誤魔化しきれてない玲奈ちゃん、そんな玲奈ちゃんをどう宥めようかと戸惑っているファイブスターの姿が。
うーむ。混沌だ。
「とりあえず、だ。あんたは落ち着け」
「んう゛ぉあ」
「あ」
反復横跳びの進路上に掌を差し込むと、横移動したミールィさんの脇腹を容赦なく抉る。適当にやったせいか、上手い具合に斜めの角度になった掌の爪先が肋骨どうしの隙間に沈み込んだ。
と、止めようとしただけだよ。本当さ。
「をををぉぉぉoooooo!?」
痛みで若干アクセントが変調した呻きを上げるミールィさん。一本釣りされたカツオの挙動でびったんびったん跳ねるのを抑えるには、少なくない勇気がいる。気分は、と畜場で息の根を上手く止められず半狂乱する豚に立ち向かう解体士の人。あれは中々に悲惨だったから、僕の心のメモリーに匂いと音声込みでばっちり保存されている。その後貰ったベーコンは、さっきの豚じゃないと分かっていても結局食えなかったなー……。
いや、別に仕留めようとか、今の内に息の根止めようとか全くもって考えてないから。だから、その眼は止めてください。お願いします、ミールィさん。
「んっ!」
「あーはい」
今なら目だけで親の仇も殺せそうなミールィさんから一単語にもなっていない音声とポーズで指令が下ったので、大人しく言う事を聞く。悪い事をした自覚はあるので、文句を言うつもりは無い。
すしざんま(略)のポーズをするミールィさんを抱き上げ、彼女の顎が肩に乗るように位置を調整。軽石みたいに見た目よりも軽い体重を僕に預けきった、その小さく無防備な背中を優しく撫でる。
「ごめんね。痛かったでしょ。わざとじゃないよ。ちょっとミールィさんの動きを停止させたかっただけ。…………いや、本当」
僕の言葉に幼女のジト目が突き刺さる。いたたたーってマジに痛い。ちょっ、つねるのはやめい。え?無理?そっかー。ならしゃーないなー。
ミールィさんの機嫌がこんなもので直るのならと許容しておこう。
ふと、僕達を呆然と見詰める男3人と目が合う。
あ。いたね。ってことは、当然僕達の今のやり取りも見てたんだろうなーーー。あーーーー!
「………………」
「「「……………………」」」
気まずい沈黙が僕らを覆った。
僕は恥ずかしい場面を見られた事に。男たちは……自分達の目の前で行われたやり取りの内容に、かな。
…………うん?そもそもなんでこいつら相手に気まずい気持ちにならなきゃいけないんだ?無いよね?こいつら子どもを遊び半分で殺そうとしてた畜生だし。
利用しようにも、情報は既に斧男から頂いてるから無用、人手としても今の所特段欲しくは無い。
じゃあ、生かしておく必要は無い、よなぁ。
「あ。それならまず連れてきたファイブスターから話聞かないと」
OKすると思うけど、一応確認はとらないと。
ミールィさんをそのままの体勢で、玲奈ちゃんと話していたファイブスターに話しかける。ファイブスターは、僕らの姿に微妙な顔をする。
「何してんだよ……」
「いやー……」
僕は目を逸らす。
「ああうん。まあ、良いがな。それで?どうした?」
「あの3つの経験値袋じゃなくて3人をファイブスターはどうするつもりなのかなって」
「おい、経験値袋呼びは止めろ。流石に止めろ」
おや、ストップがかかっちゃったか。
「オッケー。これからはエクスペリエンスポイントサックと呼ぼう」
「いや、同じじゃねえかよ!」
「あはー」
笑顔えっがおー。
「…………はぁ。………それで、あの3人をどうするか、か?オレも別に決めてたわけじゃねえからなぁ。あいつらを取り押さえた後に玲奈からメッセージ来て、関係者っぽいからってことで連れてきただけだし」
「じゃあ、殺っても?」
「良いが…………大丈夫か?確かNPC殺しはカルマ的なの溜まるって話だろう?」
カルマねぇ。そう言えばそんなのもあったなぁ……。
「もう一人殺ったからなー。後5人殺っても大して変わんないよ。…………多分」
「不安になる事付け足すなよ…………ん?5人?」
「あれ」
僕は少し遠くに転がる斧男とその手下を示す。
「…………九十九、お前確かあいつを殺さないでやるって」
「なんの事?」
「……………………」
ファイブスターは閉口し、玲奈ちゃんの目を塞ぐ。玲奈ちゃんは顔を赤くし、少女漫画みたいなリアクションで照れたりしている。
まずは斧男の元へ歩を進める。
「ミールィさん、そろそろ降りて欲しいなーと………あ駄目ですか。そうですか」
僕の言葉は彼女にとって不満足なものだったらしい。首元に歯を立ててきた。おおぅ、ゾクゾクする。結構性癖に直撃なので、ヤバい。いや、僕はどっちかと言えばする方が良くて、噛むより舐めたいなっと思考停止!
「吸血ミールィちゃんに逆らってはいけません!」
「ぉーぅ………………………………………」
「??」
邪な思いを抱く僕に向けて、ミールィさんは無垢な笑顔光線を発射する。
「ごめんなさい………」
「???」
「分からなければ良いんだよ」
頭を物理的に揺らして、煩悩を叩き出す。それに耐えるためにミールィさんが首に腕を回してきた。思いっきり頸動脈が締まる。苦しいけど、でも…………うん。これも自業自得なのだろう。
ミールィさんは降りる気は無いみたいだったし、このまま処理をするかな。多分出来るでしょ。
僕は彼女を抱え直して、斧男を見下ろしながらそう思った。
全員殺したらレベルが2も上がった。経験値うまー。
名前:九十九
種族:蒼鱗族 Lv.8 (↑2)
職業:槌使い Lv.5
S職業:緊縛師 Lv.5
HP 590/590
MP 450/450
STR 32 (↑4+2)
VIT 12 (↑2)
AGI 30 (↑4+1)
INT 2
MIN 10 (↑2)
DEX 20 (↑2+1)
LUC 14 (↑2)
SP 0




