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僕と彼女のVRMMO記(旧題:AWO、始めます)  作者: 炬燵ミカン
中二召喚士と盗賊団
45/55

僕達の友人

すいません。本当遅れてすいません!

「九十九君!? え? フィスフィス?…………っあ!」


 僕の叫びにミールィさんが驚きの声をあげる。あっと思ったけど既に遅く、玲奈(たまな)ちゃんや孤児ガールズも声をあげないものの驚きに目を見張っている。す、すいません。

 ただ、四人が驚いているのは一緒だけど、ミールィさんは僕の台詞になんらかの察しがついたようだ。彼女の頭上に浮かぶ、理解の豆電球に光が灯るのを幻視した。僕と同じで引っ掛かりを持ち合わせていたらしい。

 って、それよりもだ。


 いきなり大声をあげた事に少女達に目礼をして、ファイブスター(フィスフィスさん)に向き合う。すると、いつの間にかファイブスターはサングラスを外して、片手で顔を覆っていた。そして、指の隙間からこっちをしかと見詰め、もう片方の手の指先を僕に突き付ける。ファイブスターの碧眼がきらりと煌めく。


「ふっ。久しぶりだな。我が同胞(はらから)よ!」


 邪気眼かよ!!

 僕はぐっとその言葉を飲み込んだ。僕偉い。

 変わりに、黒ずくめの衣装とかお前はどこの組織の人間だよ!と心の中で罵倒しておく。

 改めて挨拶を、とばかりにノリッノリでポーズを決めるのに若干イラッとするな。人を指差しちゃいけません!とりあえず、人差し指をぐにゅあ(柔らかい表現)しておいた。


師匠(せんせい)のお知り合いだったのですね!流石師匠!」


 驚愕から復帰した玲奈ちゃんはと言えば両手を胸の前で組んで、頬を赤く染める。そして、その場でくるくると廻りながら、ファイブスターの賛辞を歌うように語る。

 自分の世界に入っているのか、目の前でうずくまる自らの師の様子に気付いていない。

 …………。


「あんたフィスフィスさんか!?」


 確かめるために大袈裟に聞くと、「こいつこの状況で何言ってんの」みたいな目をしてきた。


「え。フィスフィス?うわっ、懐かしっ!久しぶり!」


 ミールィさんも、現状を無視してどこかわざとらしくはしゃぐ。ファイブスターの目端にきらりと光るものが溢れた。


「…………」


 さあっ、回想パートに入るよ!


 『ニューサーガ・クロニクル』。

 典型的なハックアンドスラッシュのファンタジーゲームで、僕とミールィさん(その頃はミールィという名前じゃなかった)が今もこうして共に、ゲームをする切っ掛けとなった思い出深いVRゲームだ。


 略称『さがくろ』は約3年前、僕が小6だった頃の冬にサービスを開始した。僕がさがくろをプレイし始めたのはその4ヶ月後、小学校を卒業した僕に両親が“小学校卒業兼中学校入学祝い”としてVR用ゲーム機を頂いてからだ。

クリスマスと正月を合併したみたいな、ざっくりとした形式のプレゼントをサプライズで頂戴して、当時はとても驚いた。まあそれは、僕がお年玉なんかをVR用ゲーム機を買うために貯めていたのを両親は知っていたから、らしかったが。

 ……そう考えれば、こうやってミールィさんとゲーム出来ているのは両親のお陰なわけだ。僕が自分の扱える資金だけで買おうと思えば、まだかなり月日が必要だったはずだ。そうしたらミールィさんと偶々パーティを組み、意気投合してそれからずっとコンビになるなんて事はあり得なかった。ありがとう、お父さんお母さん。


 閑話休題。

 当時僕は中1の子どもだった。VR用ゲーム機をプレゼントして貰った事からでも分かるが、VRゲーム初心者、ついでに言えば見知らぬ他人とがっつり触れ合うオンラインゲームも初だった。つまり、ドがつく素人。そんな僕を優しく、というより同情による憐れみから色々教えてくれたプレイヤーがいた。フィスフィスさんである。

 その時の僕は、ネットで知識を得てはいたものの理解まではしておらず、根拠の無い楽観的思考に身を任せて遊んでいた。だから、PKer(プレイヤーキラー)に対処出来ず有り金ほぼ全てをむしり取られてしまったのだった。だから、同情。憐れみ。


 そんな経緯で出来た繋がりは案外と頑丈なものだったらしく、一時的なレクチャーのようなものだったのがいつの間にか同ギルドに所属、ついにはオフ会をする仲にまで出来たのは今でも信じられない。

 ま、その繋がりもここ数ヶ月ぐらいはろくに機能していなかったけど。現実でもゲームでも、面と向かって会うのは一年ぶりになる。だから、感動の再会、とはとても言えないけどそこそこ嬉しい。


 ただ。出来れば。もっと普通の装いとキャラクター性をしてくれてたら、喜びが増しただろうなぁとは思うけどね!




 僕が内心でそう思っている頃、師匠の現状に気付いた玲奈ちゃんがおろおろしながら慰めていた。ミールィさんはそれを随分と愉しそうに眺めていた。


***************


「痛かった……」


「心が?」


 うん、と頷くファイブスター。ミールィさんはけらけらと笑う。止めなさいな。


「ごめんね。フィスフィ……ファイブスター。ちょっと弄りすぎたね」


「あ、九十九君良い人ぶってるー!のりのりだった癖にー」


「あっはっは。まっさかー。僕の心は瞬間接着剤並の速乾性だよ」


「ゴム風船みたいな顔してもだーめ。君がのりのりでベタついた性格なのは知ってるんだから!」


「べたべたするのはミールィさんだけだよ」


「きゃっ!くねくね」


「君らは変わらないなー……」


 セルフでオノマトペを発音するミールィさんを撫でていると、ファイブスターは呆れるような、懐かしいものを見るような目で僕達を見詰めてくる。なんだよう。恥ずかしいだろー。


「おほんおほん」


「わざわざ言葉にしなくても」


「黙らっしゃい」


 ミールィさんに制裁のデコピンを与えて、改めてファイブスターと向き合う。


「それで?どうしてここに?玲奈ちゃんを探してたとか?」


「あれ、聞いてないのか?オレとはぐれた玲奈を探してたらよ、メッセージ貰ってさ、それで来た」


「へぇ?」


 玲奈ちゃんの方を見れば、「荒っぽい言葉遣いの師匠もカッコイイです!」と言わんばかりの輝く笑顔で、ファイブスターの横顔を見詰めている。こんな感じの子だったのかー。猫被ってた、ってよりも両方素でファイブスターの前だけこんな風になるんかな?


「仄かな犯罪のかほり……」


「違うからな?」


「でも、そう見えるよ」


「あ。ミールィさん復活」


「ミールィact2!」


「ならばこっちはレクイエムだ!」


「お前ら少しは黙れねえか?お?」


「「こっちが悪い」」


「どっちもわりぃよ」


「「まあまあ。それは置いといて」」


「息ぴったりだな、おい」


 まあ良いけど、と重量級の溜め息を吐くと、ファイブスターは語り出す。


「オレが玲奈を助けたのは、さっき言ってたが偶然だな。レベル1の《調教師》の癖に単独でゴブリン3体と戦ってたから、まあオレはレベル3だったしって事で助けて。そしたらなんかなつかれて。で、ちょこっと手助けしてやろうとおもったら、『じゃあ私は弟子ですね!よろしくお願いします、師匠!』とか言ってくるんだよ。だからだな」


「ファイブスターってば説明へたー」


「事前に想定してたら上手いのにね」


「うっせー」


「はいはい。それで?玲奈ちゃんとの関係は分かったけど、あのイッタイ言動は何さ?その服装とか」


「あ。それ僕も気になってた」


「ああ……うん。これな……」


 歯切れ悪く、言葉を詰まらせる。う~ん?わけありな風?


「なになーに?実はレア装備とか?」


「いや、そうじゃあ無いけど……な。………実は、中二病に若干憧れがあってだな……」


「うん?」


 どういうこと?

 僕とミールィさんは揃って首を傾げる。玲奈ちゃんは能天気な笑顔で『私はどっちも好きです』と呟く。


「ほら。中二病のやつらって、自分の世界を持ってるっつーか、善くも悪くも周りを気にしないもんだろ?お前らと同じで」


「これって悪口?」


「芸術は受け取り手によって感じるものは違うってゆーし、ここはプラス判定にしとけば?」


「皮肉だよ。そーいう所だ。そーいう」


「あはあは」


「うひゃひゃひゃ」


 笑いで嫌な事を吹き飛ばせー。

 …………ま、実際の所『九十九』は僕であって僕じゃないというか、どこか他人事として心の中で処理してるから、こんな感じでヘリウムガスより軽い言葉の応酬が出来るんだけど。ん?いや、それって中二病も同じでは?…………深く考えるのは止そう。


「だから、な。そんな風にいれたら楽しいのかなって思ったんだが…………上手くいかなかった」


「上手く?」


「中二病に上手いも下手も無いでしょうに」


「オレの思う中二病にはあるんだよ。没入出来るかどうかだけど、それが出来ねえのなんの」


「ふーん?なんでさ?」


「知識量」


「はあ」


「あー」


 ミールィさんはよく分かんないと言いたげだけど、僕はなんとなく分かった。


「あれでしょ。ファイブスターの思う中二病ってなんか小難しい言葉をごちゃごちゃ言ってたり、黒ずくめの服装で片目隠したり。そういう」


「そーそー。そういう知識が全然ねーの、オレ。だから、どうしても動きが一辺倒になって自分でも詰まんねーなーってなった」


「なるほどー。あ、じゃあさっきから素で話してるのって」


「もう止めだ。止め。オレにゃあ合ってなかったんだよ」


 そう、ぺらぺらと顔の前で手を振って、やる気の無さをアピールする。

 僕とミールィさんは、そんなファイブスターの態度に顔を見合せ、笑顔を溢す。僕達の間には、幸せな空気が満ちていた。

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