ヘタレな僕の恋愛事情
へへっ。恋愛とか難しすぎ過ぎだぜ。
書いては消してを繰り返して、時間過ぎたのにいつもより文量少なめです。すいません。
僕の腰程しかない身長のため、両方が立てばミールィさんは僕を見上げる体勢になる。美幼女の上目遣い、しかもミールィさんは何やら頬を赤らめているから、とっても可愛い。けど、今相対している僕には謎のプレッシャーが放たれているのを幻視してしまう。
ミールィさんは、両手を腰にあてて小首を傾げながら僕に問いかけてくる。
「うん?てことはあれかな?わ、私が可愛いってこと……?ね、そういうこと?」
「えー……いや、その、まー……………………はぃ」
「……………………ふ、ふーーーーーーん………?」
僕がミールィさん、そして横から何も言わずにじっと生暖かい目で見てくる3人の少女達からの視線に居たたまれなさを感じながら返答すると、不自然に長い相槌を打たれる。気のせいかもだけど、さっきより顔が赤い。口の端も笑顔を堪えるように、痙攣している。もしかして照れてる……?
…………。
自身の発した言葉に遅まきながらも恥ずかしさが込み上げて来た。気を逸らすように鼻の頭を掻く。
リアルネームを漏らしたことについては、ミールィさんは何も言わない。それよりも重要なことがあると、僕に問いを重ねたのがこの状況である。いや、まあ名前が問題無いってんならそれは良いんだけど、この恥ずかしい状況はどうにかならないのかと思う。
僕は、リアルとゲームははっきりと区別し、線引きするタイプだ。リアルは『浅黒真白』として、ゲームでは『九十九』として、区別をしている。VRゲームを始めた頃、親しくなったプレイヤーに『VRゲームをリアルと混同しないように』と忠告を受け、僕が考えた結果が『九十九というプレイヤーになりきるという、意識を変化させるものだった。つまり、ロールプレイング。
こういう意識の切り替えがあるから、リアルだと出来ないような容赦の無い急所攻撃が出来たり、ミールィさんと気負いなく会話が出来る。僕は、自分で言うのも悲しくなるけど、ヘタレである。二年前、オフ会でミールィさんのリアル──千藤仄香さんと会い対面し、一目惚れをしてから、未だに目を合わせて1分以上会話出来た試しがない。だから、こういう事態にはとても慣れているとは言えない。
ん?慣れてないのはミールィさんも一緒か。
ミールィさんは僕と違ってリアルと大して明確な区別は付けていないらしい。ただ、初対面の人がゲームと現実の両方の彼女と対面したら、同一人物なのかと疑問を抱くだろう。ミールィさんのリアルは、お目目が三白眼な目付き鋭い拗らせ系大学生だ。ミールィさんは目付きが悪いのを気にしている、というかその関係で対人となると、途端にへたれる。自分が身内と定めた人やコンプレックスが相手に見えないゲームだと、素の軽い感じが出るんだけどね。
そう考えると、ヘタレであるという一点において、僕とミールィさんは一緒だよなーとなんとなく思う。…………ちょっと嬉しいと思う僕は、自分でも馬鹿だと思う。
「………九十九君なんで顔赤くして笑ってるの?」
「え」
ミールィさんの訝しげな視線とともに投げ掛けられた言葉にぱっと手をやれば、口は弧を描いて笑顔を象っているのが分かる。
…………訂正。僕はかなり馬鹿な奴らしい。
そんなに嬉しかったか僕!?
羞恥心が高速で体中に巡り、ゲームなのに体温が数度上がったのを感じる。思わず、その場に膝をついて両手で顔を覆った。
「おおーい、九十九くーん?どうしたのー?九十九くーん?」
当然、目の前でそんな奇行を行えばミールィさんも気にする。肩を揺すったり二の腕をちょこちょこつついたり足を蹴ったり………おい。
「…………流石に蹴るのは酷いと思うんだけど?」
「あ、やっと殻が剥けた」
殻って。僕は甲殻類でも貝でもないぞ。
そもそも誰のせいだと…………自分のせいだった。自業自得だった。文句一つ言えなかった。ちょっと落ち込む。
ミールィさんはと言えば、いつの間にかあの謎のプレッシャーの放射も止み、いつものゆるゆるミールィさんに戻っている。
「もー。本当どうしたのさ九十九君。ほーら、よしよし」
「くぅっ……!」
やれやれだぜーみたいな雰囲気で僕の頭をぽふぽふ撫でるミールィさんに、少しの苛つきと大きな嬉しさを感じる。下手に嬉しさの比率が高いせいで、振り払う気にもなれない。出来たら、現実の仄香さんにして貰いたいなーという思いは、ミールィさんへの心遣いと僕の羞恥心の暴走を考えて胸中に仕舞っておこう。
「…………」
………なんとなーくだけど、これからもこうやって二人してわちゃわちゃとしながら付き合いが続くのかなーという予感がして、苦笑いが漏れる。
この関係が何時までも続くというのは、僕にとって嬉しくありつつ悲しくもある。それはつまり『浅黒真白』と『千藤仄香』の関係が全く進展していないということに他ならないのだから。
仄香さんが僕のことは恋愛対象として見ている様子は、全くない。僕の“可愛い”発言にあんなに狼狽えていたのも、僕が可愛いの後に“仄香さん”と付けたからだろうと思うし。今更冷静になって、そういう事に思考が至る。…………恥ずかしさがぶり返しそうになったので、意識して思考を逸らそう。
仄香さんがあんなに狼狽えていたのは、言われ慣れていないこと、そして自分をそういう対象として想定していないことが考えられる。でも、今はそんな素振りはない。僕が仄香さんにとって弟に近いものという立ち位置だからだろう。家族に可愛い言われても、照れはしても引きずるタイプではないだろうし。
そう考えると、まずは仄香さんに僕を男として見てもらわなきゃいけないわけで。それはつまり、僕の積極的なアプローチが必須ということだ。
…………もう少し、度胸をつけたい。恋愛初心者として、誰か相談を聞いてくれないだろうか。切実に思う今日この頃である。
「ふっ。久しぶりだな。我が同胞よ!」
「師匠のお知り合いだったのですね!流石師匠!」
「あんたフィスフィスさんか!?」
「うわっ、懐かしっ!久しぶり!」
その数十秒後、僕達は久しぶりの知り合いと再会することにした。




