情報をすり合わせるだけで1話使った
最近タイトル考えるのがめんどくさいです
《条件を満たしました。NPC『サリア』からクエスト『孤児院の守護』が発行されました。受諾しますか? Yes/No 》
「んぁ?」
「な、なんだっ!?……ぐえっ!」
唐突なシステムメッセージに、思わず変な声が漏れる。
クエスト?疑問符が頭の中を埋めるが、とりあえず勝手に口を利いた斧男の鳩尾を蹴って黙らせる。彼は、話が一段落して一息ついたことで気が緩んでしまったようだ。僕が質問した事以外は喋るなと言ったのに。こんな歳になっても黙る事が出来ない彼はなんと可哀想なんだろう。ふぅ、優しく躾てあげる僕ってばやっさしー!
……ま、冗談はほどほどに。
「てか、これミールィさんだよね?」
ログを確認すると、NPC『サリア』がクエストを出したらしい。
眼下の、苦痛で目玉を飛び出しそうなぐらいに見開いている斧男を睥睨する。名前を知らないが、こいつがサリアなんて可愛らしい名前ではないのは分かる。となると、あの少女達しかいないんだが…………。
少女達は僕のことを怖がってた風なので、あちらを見ない様に背を向けていた。その背に、視線が突き刺さっているのをなんとなく感じる。しかも、複数。
う~ん……これ、話しかけて良いの?僕が話しかけたら、ミールィさんが折角手間をかけて和らげた少女達の緊張がぶり返しそうな気がする。流石にそれは忍びない。かといって、クエストについてや僕が斧男から聞き出した事の相談もしたい。
……ミールィさんの方から話しかけてくれないかなー?それなら、いきなり僕が話しかけるよりも少女達が怯えずに済むと思うんだけど。
「九十九くーん!ちょっと良いー?」
「あ。来た」
フラグ回収早ぇ。
振り向けば、少女3人を引き連れてミールィさんがこちらに向かって来ている。3人は大分落ち着いたようで、僕と目を合わせはしないものの足取りは良好だ。ミールィさんはフォロー頑張ってくれたらしい。あ、そうだ。
ふと思いついたから、ミールィさん達に背を向け、アイテムボックスの中から適当なものを見繕って取り出す。白い、ハンドタオルを半分にしたぐらいの大きさの布。確か、何かのお菓子の包みだったと思う。まあそれは別に良い。僕はその布を足下に転がる斧男の顔に被せる。斧男の厳つい顔が白で覆われ、呼吸で布が引っ付いたり離れたりを繰り返す。
うん。強面の顔が見えなくなった。今のこいつの顔は子どもに見せられるものではない。僕が盾になって見えないようにするのも面倒だし、これで良いね。3人が斧男に怖がることは無いだろう。
「その布、顔から外したら耳千切るから。あ、事故でもね」
耳打ちをすると、びくんと斧男の肩が跳ねる。
「よし」
「何がよし!?」
「え?」
振り返ると、何故かミールィさんがこめかみを押さえて立っている。
「どうしたの?」
「九十九君はもう少し自分の言動を省みて……」
「ミールィさんが言う?」
「私が言うぐらいなんだよ」
私だって世間様から見ておかしい人枠に片足突っ込んでる自覚はあるさ、と呟くミールィさん。
片足……?両足どころか肩までどっぷり漬かってると思うけど…………。いや、口には出すまい。話が進まない。
「まあ、それは置いといて。情報のすり合わせしよう?」
「置いといてって……うん。そうだね」
若干納得いかなそうだけど、いつまでもこんな話をする意味が無いので妥協して欲しい。
「じゃ、私がこの子達から聞いたことを話すね」
「で、サリアちゃんから頼まれてクエストが出たってわけ」
「なるほど」
聞いた話は殆どが斧男から聞いたものと変わりない。NPCやプレイヤーについて知れたのは良かったけど。ただ、ミールィさんの話には無いもの、というよりミールィさんが気付いて無いっぽい事があるから、それを先に教えておこう。
「ミールィさん僕達がこの場所に来た経緯って覚えてる?悲鳴を聴く前」
「ん?何いきなり?えーと、悲鳴を聴く前……私の発狂……あれ?確かスリの少年がぁあああ!」
「やっぱ気付いてなかったのね」
「ああうん。そうだ。そうだね!元々私達ってばそれを追いかけてたんだ!」
ミールィさんが合点がいったとばかりにしきりに頷く。もしかしたらミールィさん自身、引っ掛かりを持っていたのかもしれない。
スリは、斧男が言っている通りならこの騒動を起こした原因だ。そして、僕達はそのスリを行っている少年を知っている。そのスリ少年が孤児院の子どもかは知らないけど、あの少年を追いかけた結果がこれだ。無関係とはとても言えない。
「……え?てことはもしかして、あれがこのクエストに到達するための前提条件とか?」
「!?……それは思い付かなかったな」
指摘されてみれば、そう思えてくる。
ここで、AWOのクエストについて話しておこう。クエストとは主にNPCから発行される依頼で、依頼を達成することで金銭やアイテムを報酬として貰う。ただ、クエストを受けるために前提条件がある。分かりやすい例で言えば、魔物の討伐依頼だと『Lv.30以上の者のみ』と制限があったりや『○○のアイテムを持っている者以外』だったり。
ただ、こういう風にしっかりと明記されているクエストは、冒険者ギルドのクエストぐらいだ。冒険者ギルドはチュートリアルの施設として用意されてるっぽく、クエストを受ける方法の説明やドロップアイテムの買取りを行ってくれる。尚、テスターの話だと専門店で交渉して売れば冒険者ギルドより高値で買い取ってくれるそうだが、面倒だしそういう方面の知識があるわけでもないしで、冒険者ギルドに売るで僕とミールィさんの意思は統一されている。
閑話休題。
僕達はまだ利用していないけど、冒険者ギルドはクエストの依頼書が貼り出されていて、そこから依頼を選んでクエストを受諾するという風に簡単になっている。ちなみに、ギルドにAとかS言ったランクではなく、ポイント方式らしい。
前提条件がしっかりと分かるギルドのクエストと違って、前提条件が明記されていない──つまり、NPCと関わりを持つ事でクエストが発生するタイプだと、前提条件は手探りとなる。これがクエストを発行するNPCが易しく、『もう少し強くなってから来なさい』(=『レベルを上げてから来てね』)とかヒントをくれるとありがたいけど、今回のように未発見のクエストだとその前提条件が分からない。
……余談だが、前提条件とクエストの発生条件は別物である。例えば、仮にあのスリ少年を追って貧民街に行くのを前提条件とすると、クエストの発生条件は似非盗賊どもを何かしらの方法で対処し少女達──玲奈ちゃん(?)を含まない……この娘、本当にプレイヤーだよね?NPCの二人はともかく全く喋らないんだけど──サリアとティーカを助けることだ。前提条件がもし達成していなかったら、二人を助けたとしてもクエストは発生しない。
「ミールィさんやるじゃん」
「へっへー!」
「かーわいー。てい」
「ひゃにほふふはー!」
はーー。もちもちだー。柔けー。両頬を摘まんで、縦横に引っ張ればうにょーんと伸びる。可愛らしい顔も、今は驚くべき間抜け面だ。
ほの、じゃなくてミールィさんはと言えば、ぽかぽかとオノマトペを装備したような貧弱貧弱ゥ‼とか言いたくなるパンチで僕の腹を叩いている。可愛い。
「可愛いね、仄香さんは」
「ひゅあ!?」
「あ」
おっと、つい本音が。んーヤバいな。少し疲れてるのかな?いつもだったらゲーム内外で心の声もちゃんと切り替え出来てるのに。ログアウトしたら寝よう。
「…………」
「あーごめん。ミールィさん。……ミールィさん?」
ミールィさんが何故か石像のように固まって微動だにしない。でも、頬は柔らかい。もちもちー。後、さっきより温かい?て、謝る態度じゃないなこれ。
頬から手を話すと、うにょーんと伸びていたのがふにゅんと元に戻る。ミールィさんは、ばっと頬が伸びるのを抑えるように、両手を当てる。褐色肌だから分かりにくいけど、顔も赤い。
「(可愛い…………ミールィじゃなくて仄香って…………!)」
なんかぶつぶつ言ってる。も、もしかして怒った……?
「み、ミールィさん……?あの、ごめん。本当に。わざとじゃなくて、えと、事故っていうか、思ったことが口に出たというかですね……」
「思ったことが口に出た!?」
「はい……?あの、えーその…………すいません!」
「なんで!?」
「ええ!?」
結局、二人して落ち着くまで1分程かかり少女達に生暖かい目で見られることになった。
ミールィ(仄香)の自己評価
『こんな目付きの悪いやつがもてるわけねーじゃん』
九十九の仄香評価
『そういう所が可愛いんだよ!』




