なんかどんどん危険人物になってる
すいません。主人公のステータスでMPの数値に誤りがあったので修正しました。
《種族レベルが上がりました》
《職業:槌使いのレベルが上がりました》
《条件を満たしました。称号『恐怖を誘起する者』を獲得しました》
《称号『恐怖を誘起する者』の効果により、スキル『恐怖耐性 Lv.1』を取得しました》
「はーー。疲れたー!」
システムメッセージが聞こえたのとほぼ同時に、そう心からの言葉を吐いて、その場にへたり込む。疲労を感じない体だけど、精神は摩耗する。盗賊男の仲間が戻ってくるかもしれない、という事を分かっていても、今は無用心に感慨に浸りたい。
僕は地に臥せる、盗賊男だったモノに目を向ける。強かった。本当に、強かった。オーガエイプがいなければ多分死んでたな。よく勝てた。凄いぞ僕!特に最後の踵落としは綺麗に決まった自信がある。ウルトラかかと落とし!
ああ~……でも、正面から純粋な身体能力と技量で勝負したら負けは目に見えてた。だから、奇策として武器を投げ捨てて素手で目潰しからの脳破壊を狙った……つもりだったんだけど、ちょっと集中し過ぎたな。隙を見て、刃物で脳を狙ったり武器を排除したりするべきだった。
後、盗賊男のHPが思ったよりも減っていなかった。いや、HPが4割切ってたのは充分良いんだけど、片目潰してあんだけ血だらけだったのを考えると、見た目以上にHPがあったらしい。
それ以外にも、オーガエイプタフだったなーとか、ミールィさんの魔法結局殆ど使わずに終わったなーでもMP節約出来たし良かったーとか、そういや今は消えてるあの赤いオーラはなんだったんだとか、いろんな事が頭の中に浮かんでは消える。
……あれ、これ感慨って言うか反省じゃね?いや、良いのか?感慨って確か、物思いにふける的な意味合いだったから、反省も一応感慨?
「ま、いっかー」
疲れた頭で考えることじゃーないなー。うん。
あ、そう言えば、僕ってばゲーム内の時間も合計したら軽く一日以上起きてるぞ?だからじゃね?だから盗賊男と戦ってた時も変なトリップ状態になったんじゃないの?徹夜したらおかしなテンションなったりするし。なーるなーる。
で。
そろそろ気になることについて。
システムメッセージが聞こえた。レベルアップは、まあ良い。NPCを殺すことで経験値が入ることは、β版でも既出の情報だ。問題はレベルアップの後の方。なんか称号とか聞こえたんですが?他にもスキルを取得したらしいけど。
心を落ち着かせて、ログを開く。…………あった。称号『恐怖を誘起する者』、そしてスキル『恐怖耐性』。聞き間違えじゃない、か。ステータスを開いても、ちゃんと表示されてる。
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名前:九十九
種族:蒼鱗族 Lv.6 (↑1)
職業:槌使い Lv.5 (↑1)
S職業:緊縛師 Lv.5
HP 450/450
MP 350/350
STR 26 (↑2+1)
VIT 10 (↑1)
AGI 25 (↑2)
INT 2
MIN 8 (↑1)
DEX 17 (↑1+1)
LUC 12 (↑1)
SP 0
〔スキル〕
『槌術 Lv.14』『捕縛術 Lv.13』『投擲 Lv.8』『蹴り Lv.15』『鑑定 Lv.8』『強打 Lv.19』『ダッシュ Lv.12』『強力 Lv.6』『恐怖耐性 Lv.1』
〔称号〕
『恐怖を誘起する者』
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レベルアップで得たSPを割り振り、新たに得た物を確認する。
『恐怖耐性』は状態異常の一つ、『恐怖』への耐性を上げるスキルとのこと。読んで字の如くだ。これについては、あまり気にしていない。耐性系のスキルは持っていて損は無いし、状態異常の耐性は序盤じゃ中々手が出しにくい。こうして、棚ぼたで貰う分にはどんと来いだ。
問題はもう一つ、称号『恐怖を誘起する者』の方。ちなみに、説明はこんな感じ。
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『恐怖を誘起する者』
恐怖へと誘い、呑み込む者に贈られる称号。
詳細:近辺にいる自身に属する者以外の、恐怖に対する耐性を引き下げる。
取得スキル:『恐怖耐性 Lv.1』
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「…………」
ちらり、と僕達が助け、戦いのためにちょっとだけ放置してしまった、3人の少女に視線を送る。
「「「………………!?!」」」
どうやらあちらの方も僕の事を見ていたらしい。目が合い、ビクン!と少女達の肩が跳ねる。危険から身を守ろうとするかのように3人で体を寄せ合った。
…………プレイヤーの少女にまで怯えられてしまってようだ。
慌てた様子で、ミールィさんが宥めている。彼女は呆れた風に流し目を僕へ送る。背中に片手を回して、簡単なジェスチャーを始めた。…………『離れてて』、ね。迷惑かけます。
今更遅いと思うけど、少しでもプラスになればと3人娘に会釈をして顔を逸らす。礼儀は大事だ。
う~ん。説明とか見ると、あの怯え具合がこの称号の獲得条件に関係しているんじゃないかなーと思う。あの少女達以外にも、盗賊男のお仲間を3人ほど恐怖で逃走させたから、切りよく考えて5人?5人以上のNPCを恐怖の状態異常にする、かな?分からん。
称号は、β版では数種類しか確認されていないレアものだ。称号を獲得するのと共にスキルを一つ取得し、称号自体にもなんらかの効果を持つ。獲得条件も難しい。とは言っても、ものによっては誰でも比較的簡単に獲得出来る。例えば、称号『魔物殺し』は魔物を一定数殺すことで獲得出来る。獲得条件が判明しているものの中で条件も緩く、戦闘職なら遅かれ早かれ獲得するだろう称号だ。僕もいつか、ね。
では、『魔物殺し』と比べて『恐怖を誘起する者』は条件が緩いか厳しいか、で言えば厳しいに入る、んだろう。多分?ネットには出てないから初出だろうし、という事は普通のプレイをしていては獲得しにくいって事だ。
……あ、でも獲得した人が秘匿している可能性もあるよなぁ。この称号、滅茶苦茶外聞悪そうだもん。僕もこの称号持っている人と会ったら、あまり仲良くしようと思わない。だから、僕は秘匿します。隠しますよ。ええ。当然じゃないですか!
称号の効果自体は良いのにね。恐怖耐性の取得と自身に属する者──つまりパーティってことだろう──以外の恐怖耐性の低下が常時発動。とても良い。確かβ版で、これまた検証班が状態異常の効果や持続時間とか調べていた。覚えて無いから、後で確認しておこう。
「さて、と……」
気になってた事も粗方分かった。気持ちの整理も終わった。とりあえず、オーガエイプでの手伝いでもするか?
オーガエイプは死体となった盗賊男と最初に捕らえた斧男とその取り巻きの一人を積んでいる。斧男が台座で、取り巻きと盗賊男はそれぞれ上半身と下半身に横に乗せられていた。‡感じ。いまだに意識が微妙に残ってる斧男は、自身の上にある大人二人分の重さに喘いでいる。
おっと。そういや取り巻きの男の方は縛ってなかった。オーガエイプに手伝って貰い、後ろ手に縛る。足は……オーガエイプが片方折ってるから良いね。
「んー…………縛り方調べとくか?」
僕は別に縛りについて一家言持ってるとか無い。現実じゃしがない高校生だもの。だから、本格的に捕縛術を使っていこうと思ったらなんちゃってではない、正式(?)な縛りを知っておきたい。
まあ、それはログアウト後だ。ミールィさんの方をこっそり窺う。3人娘と少しは打ち解けたようで、まだ頬が若干引きつってるけど少女達の笑顔が見えた。
「ミールィさんも仕事してるんだし、僕も少しは貢献しなきゃね」
僕達が戦いに介入してから時間で言えば、10分程度しか経っていない。けど、ギャーギャーと騒いでいれば注目はとても集める。何処からか、大量の視線が僕に突き刺さっているのを感じる。逃げた取り巻きがどれぐらいで戻ってくるのか、そもそも戻ってくるのかも分からない以上、手段を選ばず、迅速に尋問し、場を去る必要がある。
僕は斧男の頭へと近付き、投げナイフの内1本を首筋に当てる。投げナイフでも、そういう形なだけで切断能力は普通にある。斧男は、ペタペタと刀身を引っ付けたり離したりすると、面白いぐらいに狼狽える。
「ーーーー!?!!ーーーーーッッ!?」
「僕はね、知りたいんだよ。君達の事をさ。だから、喋ってくれるかな?くれるよね?僕と君の仲じゃないか!」
どんな仲だってね。
コクコクコクコクと窮屈そうに一心不乱で首肯してくれた。うんうん。やっぱり後の事を考えないならこうやって脅すのが一番楽だよね。
「素直に教えてくれたらさ、君の事、殺さないであげるから。ね、僕優しいでしょ?ね?」
きっと、この時の僕はなんとも不気味な笑顔を浮かべていたに違いない。
斧男は死の宣告を待つ罪人のような目で僕を見つめていた。




