魔法幼女☆ミールィちゃん!!
今回は長めです。
街中を駆け足で行く。
待ち合わせの場所は、この街の西側にある教会だ。β版では始まりの街エルディンの西側には大きな教会が建っているとテスターが、サイトで呟いていた。そして、公式のサイトでは始まりの街の名前はエルディンだと発表している。
なので、僕達は目立つ分かりやすい目印として、教会前を待ち合わせ場所とした。広域マップでも現在位置が《始まりの街 エルディン:メインストリート》と出ているし、運営がわざわざ教会だけをピンポイントで調整しない限り、問題は無い。
と言うか、もう教会は目に見える距離にまで迫っている。
さてさてあの人はもういるかな?教会にはテスター曰く、シェリーちゃんことシェルフィアなる美少女神官のNPCがいるそうだから、一目見ておきたい。
「楽しみだな~……っと」
何あれ?
僕の視線の先には、教会の前に人だかりが出来ている。頭上のマーカーを見るとプレイヤー、しかも後ろ姿からして男性っぽい人たちばかり。むしろ男しかいなさそう。そして、何やら歓声のような声も聞こえてくる。
ふむ……。
「何見てるんです?」
「うん?」
人だかりの外側にいたプレイヤーの一人に、声をかける。ほらやっぱり気になるじゃん?
こちらに振り返った男性プレイヤーは剣士のようで、腰に剣を差している。
あれ、この人って……。
「偶然通りがかったんですけど、これは一体?」
「ああ……。俺も詳しくは知らないがな、女プレイヤーの一人が撮影会始めたらしくてそう言うのが好きな奴らが集まった、とからしい」
「なるほど。でも、これってかなり人気っぽいですね。そんなに凄いので?」
「あー……、凄ぇっつうか、特殊っつうか……。そいつな、ダークエルフみたいなんだよ」
「へぇ。ダークエルフなんかも選べられたんだ。知らなかったな」
「ああ。俺も見ての通り前衛だから魔法系の種族はちゃんと見てなかったから知らなかった」
「でも、それならこれも納得ですね。そう言うの好きな人多いからなぁ」
「確かにな。しかもそのダークエルフ、キャラがガキで神官服まで着てんだよ。どんだけ盛れば気が済むんだってな」
そう言って笑う男性。
……え?ガキ?
「ガキって、何歳ぐらいですか?」
「うん?お前もそう言うの好きなのか?」
「違いますよ」
「……まあ良いけど。見た目だけを言えば7、8歳くらいか?キャラメイクに時間かけたんだろうよ。好みじゃないが、結構可愛い見た目してるぞ。って、言った傍から、ほらあれだ」
そう言って男性は、丁度人だかりが動いて通った、視界の先を指差す。
その先にいたのは、褐色肌をした神官服を着た少女、いや幼女だった。銀色に輝く髪は腰ほどにまで伸びていて、その隙間から褐色色の尖った長い耳の先を覗かせている。
その容姿は、確かに可愛らしい。大きな金色の瞳や小さな鼻口はバランスよく配置されていて、この年頃が好きな人達には堪らないだろう。
こ、これは……!
しかも、何故かその幼女は周囲の声に答えて、様々なポーズをとっている。ウインクや上目遣い、女豹のポーズや足のチラリズム等々。本人がノリノリでしている。『ミールィちゃぁん!』という声に、笑顔で応えたりもしている。
ミールィって、プレイヤーネーム?
うーん。ますますそれっぽい?
「むむむ……」
「どうしたよ?」
思わず額に手を当てて唸ってしまい、男性に心配される。
「いや、なんというか、どうも僕の待ち合わせの相手っぽいので……」
「………………あれがか?」
「Oh、Yes……」
ひきつったような出来損ないの笑みを浮かべる男性に、こちらも不本意だと精一杯の苦笑いを造る。
その顔に何を思ったか、男性は憐憫の眼差しを向けてくる。肩に優しくポンと手を置かれた。
なんだか無性に泣きたくなった。
*********
とにかく、あの人を連れ出そう。待ち合わせしていたのに何やってんだとか、文句を言うんです!その為には早くここから連れ出さないと。周りの人たちなんか怖いし。
「でも、どうやって?」
「あんた……面倒だから名乗るか。俺はフェルト。あんたは?」
「あ、どうも。九十九って言います」
「敬語は良いだろ。ゲームの中じゃあ誰でも平等だ」
「そう?じゃあこれでよろしく。フェルトさ、さっき何か言いかけてなかった?」
「ああ。お前、あの見た目幼女を「ぶふっ!」……どうした?」
「い、いえいえ!なんでも!」
見た目幼女!見た目幼女て!言われてますよ、ミールィさん!
「なんだ一体?……お前があのガキを迎えに来たってことで良いのか?」
「うん」
「なら、話は簡単だ。ほれ、行くぞ」
「うん?」
どういうこと?
フェルトは、ニヤリと聞こえそうな笑みを浮かべて言った。
「βテスターだからな、俺」
そう言うと、スゥと息を吸う。そして、大きな声を出す。
「おら、お前ら!道開けろ!嬢ちゃんの連れが迎え来たぞ!」
その声に、ミールィ(多分)に魅入っていた人々がばっとこちらを向く。たちまちざわめきが伝播し、広がっていく。
「ミールィちゃんの連れ?」「あいつが?」「うわ、フェルトだ凄え!」「フェルト?誰それ?」「なんだ幼女じゃないのか」「つまらん」「ばっかお前、フェルトって言ったらテスターの攻略組トップだぞ!」「ロリコン?ロリコンか?ロリコンは許さんぞ!」「何でトッププレイヤーがこんな所いんだ?」「おい、お前それ自分は?」
フェルトの知名度は、中々使えるようだ。人の壁が割れていく様は圧巻と言うものだろう。
「フェルト凄いじゃん」
「ま、これでも一応トッププレイヤーなんて呼ばれるぐらいだからな。それなりに名前と顔は知られてるんだよ。九十九は知らなかったっぽいがな」
「いや、僕も知ってるよ、『連撃剣』さん」
「は?いやでも、そんな素振りは……」
「僕はエンジョイガチ勢だからさ。トッププレイヤーだと言ってもあんまり関係無いんだよ」
「エンジョイガチ勢?何それ?」
「ゲームを真剣に楽しもう勢」
「……ははっ!面白いな!良いな、それ。そうだな。そうだよな。ゲームは楽しまないとなぁ。俺も今度からそう名乗ろうかな」
「独自の工夫を入れてね。口上が被ったらいやだから」
「口上とか何時言うんだよ……」
「モンスターと戦う前?」
「ははははは!」
トッププレイヤーのフェルトは、中々に愉快な人物のようだ。
フェルトの後ろを話しながら付いて行くと、ダークエルフ神官幼女の前に着く。
「ミールィ?さん、迎えに来たよ。九十九でーす」
「おおっ!?九十九クン?九十九クンか?君、今回はずいぶんと大きくなったねぇ!」
「そんなあなたは相変わらず幼女幼女してるね。何故こんな事態に?」
そう言いながら、ミールィ(仮)さんの脇に手を通して、目線が合うように持ち上げる。予想よりも少し軽かった。このぐらいの子どもって何キロだっけ?30いかないのは確かだと思うが。
ミールィ(疑)さんは僕の突然の行動に全く慌てること無く、話を続ける。もう馴れたからね。
「いや、30分ぐらい前に、教会の神官を唆して子ども用の神官服を手に入れてさ。君を驚かそうと待っていたんだけどね。なんかそこのプレイヤーにスクショを撮って良いか聞かれたんだよ」
「色々突っ込みたいことがあるけど、とりあえず続けて?」
「私としては時間をかけて作ったこの体になんら恥じることは無いので、当然了承したさ」
「でしょうね」
「そしたらさ、自分も良いかって次々と来るんだ」
「人に続くの楽だからね」
「で、中には遠くからこっそり撮る奴もいるんだよ」
「中にはそういう人もいるだろう」
「だから、さ。“撮りたい奴は出てこいやぁ!”ってしたらこうなった」
「そっかぁ」
うーん、こうやって聞くとこの人なら確かにあり得る展開なので上手く文句を言えない。いや、一応一般論的なことは言えるのだけど、僕がしょうがないよな、と思っちゃているので、言っても意味は無い。
「ま、良いか」
「君のそういう寛容な所好きだよ」
「そりゃどーも。もうこういうことが起きないようフレ登録しようか。申請出すから受けて」
「おーけー」
ざわり、と周りが驚くような反応を見せる。え?何?
《プレイヤー『ミールィ』にフレンド申請を送りました》
《プレイヤー『ミールィ』が了承しました》
これで、フレンド登録は終了。僕の最初のフレンド枠が埋る。
「ま、とにもかくにも行こうか、九十九クン」
「そうだね。折角MMORPGに来て、未だにモンスターと戦えていないのはちょっと淋しいし」
「な、なあ」
「ん?」
「おや?」
その場を立ち去ろうとすると、眼鏡をかけた一人のプレイヤーに止められる。
「何?」
「聞くのは失礼かもしれないけど、二人の関係を教えて欲しい」
「関係……」
「関係……?」
関係って言ってもなぁ。僕とミールィさんは、目を合わせると、端的に応える。
「「リア友」」
「は、ははっ……ソウデスカー」
なんだかやけに気持ちの込もっていない返事に、思わず首をひねる。眼鏡の人は、そのままふらふらとした足取りで、去っていく。
「ミールィさん、あの人に何かした?」
「君は失礼なことを言うのに容赦が無いなあ。私じゃなくて、私と君がリア友だってのが気に食わないのさ」
ああ、なるほど。
男と女で、リアルで知り合い、んでもってゲーム内で待ち合わせまでしている。
そう言う関係だと思うのも無理ないのか。
てか、
「それを分かってて、ああ応えたの?」
「いや、私は事実を言ったまでだよ?」
「君ねぇ……」
「あー、お前ら?そろそろ良いか?」
いけしゃあしゃあと応えるミールィさんに呆れていると、声をかけられる。
振り向くと、フェルトだった。
「お前らさ、そろそろ離れろ。なんか、もう抑え込め無さそうだからよ」
そう言って、フェルトは肩越しに後ろを振り向く。僕もその視線の先を見れば、沢山の嫉妬の炎に燃えた目が……。
うわぁ。
僕とミールィさんは連れたって、その場をそそくさと後にした。建物の陰で視線が切れるまで、僕は背中に刺すようなものを感じた。でも、ミールィさんには30以上のフレンド申請が送られて来たらしい。
ちゃっかりしてるね!
あ、僕にもフレ申請来てた。
《プレイヤー『フェルト』からフレンド申請が送られて来ました。了承しますか? Yes/No 》
おお!フェルト!やっぱり君は良い奴だ。
当然、僕はYesを選んだ。