テンプレ的なあれ?
本日1話目。
長くなったんで半分にして2話にしました。
2話は19時に。
ミールィさんの謎の狂乱が終息したので、微かに聞こえてきた悲鳴の調査を始めた。……本当、あの突然の謎挙動は意味不明だった。軽く怖かったし。状態異常系の魔法で攻撃されたのかと思った。
すぐに立ち直って、ミールィさんもいつも通りだったから、“まあ、ミールィさんだしな……”とその時は納得することにしたけど…………。
今は気にしないで良っか!ミールィさんだしね!
「むむむっ!何処かで私が馬鹿にされてる気がする!」
「………………」
下!あなたの真下!何その微妙に外れてる勘?
あ、あともうちょい静かにね?ばれるから。
肩車されながら虚空の何かに向けて拳を繰り出す幼女──STRとAGIが0のせいで風を切れていない──を宥めてから、不慣れな隠密の動きで声の聞こえる方へと移動する。
僕はそれなりにVRゲームの経験を重ねているが、それによると残念ながら音を消して移動したり、向けられる注意から身を隠したりといった、斥候職なんかに必要な行動が苦手らしい。キャラクターの能力としてではなく、PSとして、だ。
人生初のVRMMOをプレイして、チュートリアルで鬼教官から『お前は斥候職だけは止めておけ』と、憐れみの目で見られたのは未だに僕の心の日記帳の中に、セピア色の思い出として保存されている。
あの頃は暗殺者スタイルが至高!とか謎の拘りを持っていたなぁとしみじみ。
閑話休題。
一旦ミールィさんを下ろして、耳を澄ます。
悲鳴と笑い声の源へはまだ距離があるが、ここから先は道が一直線でわき道が一つも無い。しかも、現場は開けていて他の路地よりかなり明るい。近付けば薄暗くて誤魔化されてた僕達のなんちゃって隠密を看破されてしまう。揉め事に割り込むかどうかはまだ未定なので、こうやって見付からないように情報収集をして無理目なら諦めるつもりだ。……そもそも、相手の強さとかぱっと見じゃ分からないから、基準は人数なんだけど。
さて……。
「──お──どうし──死んじまう──」
「────ろぉっ!──ブ助は──」
「──あっ!──揃え───っ!?」
「「「「「────ハハハハハッ!」」」」」
聞こえるのは、男の嘲笑混じりの怒鳴り声、悲鳴とも怒声とも判別のつかない女性の声、複数の男たちの重なった笑い声だ。話している内容は、距離の関係で微妙に聞き取れないけど、ニュアンスは察することが出来る。
僕は眉をひそめた。
「(これって、十中八九ろくな奴らじゃ無さそうだねー)」
「(ミールィさん?)」
僕と一緒に耳を澄ませていたミールィさんは、突然アイテムボックスから昨日買った杖を取り出す。
ミールィさんが以前持っていた初期装備の杖は、見た目は木の枝だった。そこらに生えている木から適当に折り採った、と言われれば信じられるぐらいの酷さだ。まあ、僕が持つ槌や縄と同じ系列の、耐久値無限の初心者武器だから、その見た目と能力はお察しである。
その杖と成り代わったのが、今彼女が両手で持つ長さ30センチ程の木彫りの杖だ。単純ながらも装飾が施されていて、ミールィさんはその自己主張の少ないデザインが気に入ったようだ。
尚、補正値はINT+6・MIN+2だ。流石ミールィさん、ぶれない。
思考が脱線した。
「(いきなり武器出してどうしたの?やる気満々?)」
「(うん!やるよ!やるやる!私やっちゃうよ!)」
「(は、はぁ……)」
どうしたの?まさかミールィさんの小さすぎる正義感が活動期にでも入ったとか?
ミールィさんがキランキランした目でこちらを見てくる。
「(九十九君!あいつらってクズだよね?人間のクズだよね?だったら、思いきり魔法をぶち当てても大丈夫だよね?ね!?」
「あっ」
…………ミールィさんはミールィさんだね。お兄さん安心です。
どうやらミールィさん、男たちのことを既に魔法を当てる的としてしか認識していないらしい。
「(い、いや、ミールィさん待って。まだ分かんないよ。もしかしたら男たちの方がワンチャン良い奴らって可能性が……)」
僕の言葉に、ミールィさんは『はー、やれやれ……』と言わんばかりに大きく肩を竦める。
うわっ、すっげーイラッとくる。何この顔、ひっぱたきたい。
ミールィさんへの苛立ちをぶつけるのを堪える僕に、彼女はちょいちょいと裾を引っ張る。
「(ほら、見て見て)」
「(え?ミールィさんこっそり見たの?あっちから見付かる可能性があるからしないようにしてたのに)」
「(良いから良いから)」
「(ええ~……)」
どうやらミールィさん、こっそりあっちの様子を盗み見ていたらしい。危ないことをする。やるなら僕がやった方が良いだろうに。
まあ、ミールィさんが大丈夫なら僕も大丈夫かな?
壁から片目だけ出して、見る。
まず目に留まったのは、筋肉が目一杯に自己主張している男だ。遠目でも分かるぐらいにガタイの良く、ボタンを留めずに服一枚しか羽織っていないせいで岩のような胸板がよく見える。肩に斧を凭れかけ、悪人面を喜悦で醜く歪ませている。頭に髪は無く、つるりと剥げ上がっている。その男が視線を落とす先にいるのは、二人……いや三人の少女。一人はともかく、もう二人は涙を流して瞳を絶望で染めている。斧の男の背後では、5人のこれまた性悪そうな男たちが下卑た笑みを浮かべている。
あっ、これ駄目なやつだ。
「って、普通にピンチじゃん!?(っあ、やべ……)」
「(そうだよ、ピンチ。でも、私達ならなんとかなると思わない?)」
「(いや、思わないけどね?)」
ユーは何を言ってんだーい?
「(もー、そう言いながら付き合ってくれる癖に~!)」
「(めんどくさっ!まあ、付き合うけどさ……)」
ミールィさんがやる気出さなかったら、僕一人で特攻するつもりだったし。その場合、僕はほぼ間違いなく死に戻りしたはずだから、実を言うとかなり助かる。ある程度のレベル差を考えても、ミールィさんの魔法はかなり効くはずだ。
ミールィさんのINTは武器補正も入れれば、余裕で90を越える。見るからに戦士職のあの斧男になら、10レベル差でもそれなりにダメージを与えられると思う。……多分。
実際に検証したわけでもないから、大体当てずっぽうだけど……大外れってことはないだろう。
ミールィさんに、今回の方針を伝える。人数でまず負けている僕達が考える、生き残るためのやり方。
方針は単純明快、斧男をフルボッコにする、だ!
トップをヤれば、ああいうザ・小悪党は途端にへたれる。そうなったら、後はこっちのやりたい放題だ!
ヒャッハー!
ミールィさんに蛮族を見るかのような目で見られた。
冗談だったのに。解せぬ。




