迷いました(side:ミールィ)
フハハハ!
投稿しないとは言ってないよね!
今回はミールィ視点です。ちょっとだけ九十九君について気持ちの描写があります。
心理描写が苦手ですので、ご容赦を。(得意があるとは言ってない)
迷ったよ~。
私達が今いるのは、陽の光が届かない裏路地の何処か。スリ少年を追いかけてたら、いつの間にか迷い込んでた。そのスリ少年も見失っちゃったし、踏んだり蹴ったりだ。
あのショタ、あんまり足速くないけど動きに無駄が無いって言うか、手慣れてた。走るのに手慣れてるって言い方が文章からして変だけど、そうなんだ。
私達が通った道は、どこもかしこも狭かったり障害物があったりと、中々エンターテイメント性に溢れていた。なんだか小学校の障害物競争を思い出したね。私障害物競争出てないけど。
わたくしは将来の夢に『深窓の令嬢』と、卒業アルバムに書いた程の淑女でしてよ!走るなんて野蛮なしませんの!
まあ、冗談は程々に。
どうやらあのショタ、ここら辺の路地の知識が私達より断然上っぽい。や、リアル時間でまだプレイして半日なのに原住民のNPCより詳しいわけもないから当たり前なんだけどさ。
ただ、その当たり前が今回ちょっと面倒臭い方面で作用しちゃってる。そう、迷ったのだ!
街の中で迷った?馬鹿じゃーんと思ったあなた!君も是非一度ここを攻略してみると良い。絶対迷うから。似たような壁、細かく枝分かれする道、不自然に凹凸があるせいで走りにくい石畳。私は走ってないけどね。
横道が二つしか無いと思ってたら、3歩歩くだけで五つも新しく横道が見付かるなんてざらにある。ざらざらだ。紙ヤスリぐらいにざらざらだ。
痛そう。
聞いてはいたけど、まさかここまでとは思わんちゅーに。
ここは始まりの街であるけど、マップが適用されない場所なんだって。だから、プレイヤーが一度この場所に迷い込んだなら、自力で脱出するか、死んでリスポンするしかない。
私達がいるのは、前に九十九君やフェルト君と話した覚えのあるスラム街だ。犯罪者の坩堝。もやがかかって見えない街中の迷宮路地。
どうやら、スリ少年を追って、中央の通りから南東のこのエリアまで来てしまっていたらしい。
スリ少年を見失って、自分達の所在地が分からず、マップを開いて現在地を確認して、知った。私達はシステムのマップの恩恵を受けることが出来ない状態で、この迷宮から抜け出さないといけないと言うことを。
「さてさて、どうしよっかミールィさん?」
「どうしましょうか九十九君?」
薄暗い路地の中で、私達の声だけが随分と明るい。九十九君の肩でぶらぶらと体を左右に揺らしながら、軽口を交わす。
「僕は無難にリスポンが良いと思うよ?βでは、ここの攻略をしようとしたプレイヤーはいたみたいだけど、殆ど上手くいかなかったらしいからね。僕達がテスターより優れた空間把握能力を持ってるわけでも無いし」
「む~~~」
迷路から脱出するために死ぬ、か~……。う~ん……。
「負けた気分になるから、やだ」
「へ?負ける?あー……まぁ、確かにね」
「でしょ~?」
「あはは……」
九十九君は苦笑しながら、私の言葉を受け入れてくれた。うむうむ、良い子だねー。
私は目下の頭に凭れ掛かる。
九十九君のキャラクターは蒼鱗族という種族だ。体表に生えた青い鱗と爬虫類っぽい目が特徴的。とは言っても、鱗は全身じゃなくて所々。二の腕とか、太ももとか。前髪の生え際にもちょこっと生えている。その鱗が丁度私の顎に当たる。
んー、つるつるひやひや。色が青いから私が冷たいと感じているのか、それとも本当に冷たいのか分かんないけど、ひんやりとしてる気がする。
気持ちいー。
「…………ん?」
「んーー?」
とりあえずあてもなく道なき道どころか、道はあるけど行先分かんなけりゃそれって無いのと殆ど変わんなくないって言いたくなる道を歩いていた九十九君が立ち止まる。
あ、私は歩かないよ?九十九君に肩車されてるんだし。私のステータスは極振りの影響で嗤えるぐらいの格差が出来ちゃってるから、はっきり言って魔法以外に関して木偶の坊だ。見た目は良いから愛玩ドールかな?
そんな私と組んでくれる九十九君にはそれなりに感謝してたりする。実際問題、思い返してみると私ってば九十九君に迷惑ばっかかけてる気がするのよ。優しいんだよね、九十九君は。
別のゲームで知り合って、オフ会で顔合わせをして明確な繋がりが出来て、こうやって今も一緒にゲームしてる。それが、ほんのりと嬉しい。
恥ずかしいから言葉にはしないけど、九十九君とこれからもゲームしたい気持ちを持っている。この小狡くて、戦いに容赦がなくて、けど優しい少年とずっとゲームをしたい。九十九君もそう思ってくれてたら嬉しいんだけどな。
…………あれー?私何考えてんだ?なんか滅茶苦茶恥ずかしくなって来たぞ!?顔が熱いし、背中がむずむずする。
うひ~~!
「むぐおぐきー!」
「ミールィさん!?」
あー!あー!
身の内からじわじわと湧き出て来る羞恥心を誤魔化すため、のちゃのちゃと身動ぎする。
ええい、君のせいだぞ!君の!
ぺしん!とアバターの小さな手で九十九君の額を叩く。叩く。叩く。
連打~~!
「ええ?何?え?……ミールィさんっ!?混乱?状態異常?」
「…………っは!」
うん。私ちょっと混乱してた。
私のビンタは効いてないみたい。そりゃそっか。私のSTRは燦然と輝く0。零なのだ。九十九君は私と違ってバランスよくステ振りしてるから、0の私の攻撃だとHPが1減ることも無い。
すっすっはーとゆっくり深呼吸を一つ。
ようやく、冷静になってきた。
いきなり挙動不審になって、暴れる幼女(中身は年上)とか……怖っ!
ごめんねの気持ちを込めて、叩いた所を撫でる。
「ごめんごめん、九十九君。なんでも無いよ~」
「え?あ、そう?なら良いけど……」
ころころと変わる私の雰囲気に戸惑いを露に、けれど決して怒ったりはせずにふぅと息を溢す。
…………九十九君、私が言うのもあれだけど、なんか慣れてる?こう、“またこの人はこんな感じか~”みたいな、諦めの混じった溜め息を思わずといった風に吐き出されると、ね?
私が悪いけど、私が悪いんだけど、言いたくなる。
私ってそんな溜め息吐かれるぐらいにいつもおかしなことしてるっけ!?
いやいやいやいやいやいや!
クールだCOOLになれ、私。
そもそも、あくまで私の推論のであって、九十九君の吐いた溜め息にそんな意味は無いのかもしれないしー?本当は迷路に困ってるだけかもしれないしー?九十九君の中ではお茶目でラブリーな年上幼女かもしれないしー?
よぉし、目逸らし完了!
………溜め息自体を吐かれたことは否定出来ないなーとか、迷路に困ってるのは私の我が儘だよなーとか、年上幼女ってなんじゃらほいとか。
そう言うことから目を逸らしちゃえ~♪視界に入らないなら、存在しないのと一緒だよね☆
………………。
さて。
「それで、どうしたの?」
「は?何が?」
「何がって、九十九君が立ち止まったんじゃん」
「?……っあ!そうだった!忘れてた!」
「あははー、九十九君もドジっ子だねー?」
「いや、ミールィさんが突然狂乱したからだよ?」
「…………ごめんなさい」
九十九君が上体を反らして、仰ぐようにジト目で見てきたから私もちょこんと頭を下げる。肩車されてる状態だとしっかり頭を下げて謝れない。
九十九君は優しげに目を細めると、「まあ良いけど」と言った。やっぱり九十九君は優しい。
おほん、と九十九君の咳払いで換気を行う。
「僕が突然立ち止まった理由について、だよね?」
「うん、そう」
「僕も気になって、ちょっとミールィさんにこのことを話そうと思ってた所だったんだけどね……」
九十九君はそう言って、“静かに”とジェスチャーをしながら、今歩いてる路地の右二番目の道に入る。その時、私の耳に微かに、甲高い声が聞こえる。これは……悲鳴?
「(九十九君?)」
小声で九十九君に話しかけると、小さく首肯した。九十九君はこれが聞こえて、立ち止まったんだろう。
もう少し耳を澄ますと、野太い笑い声も聞こえてくる。
「(どうするつもり?)」
「(とりあえずこっそり隅から様子見しようかなって)」
「(おーけー)」
さささっと、出来るだけ音を発てないように移動する九十九君。上からじゃ分かりにくいけど、口元が笑みを作っているのが分かった。
期待してるんだろうか?相手がNPCかプレイヤーかで、強さや今後のゲームプレイが変わってくるけど、どうなるかなー?
ま、九十九君とならきっとどんなことでも、楽しめる。気楽に行こう。そうしましょ。




