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僕と彼女のVRMMO記(旧題:AWO、始めます)  作者: 炬燵ミカン
中二召喚士と盗賊団
34/55

僕達はお前を見たぞ!

追記:来週は執筆時間の関係で投稿出来ないと思います。すいません



若干風邪気味だったけど、日本の太陽見たら元気出ました。すごい。



本作品のタイトルを『僕と彼女のVRMMO記』に変更しました。旧題はある程度時間が経ったら消すつもりです。

「甘~い」


「う~ん。これは……」


 只今、僕達は屋台の一つから購入した菓子を齧りながら、ミールィさんと並んでベンチに座っている。道の隅の目立たない場所に休憩のため置いてあったようで、所々傷んでいる。直したり点検をする人がいないのだと思う。体を動かすとギシギシと鳴る。出来るだけ余計な動作を挟まないように、キラキラと煌めく焼き菓子を頂く。…………甘ぇ。

 僕は別に、甘いものが嫌いではない。むしろ好きな部類だ。幼少の頃から、好き嫌いがあまり明確ではなかった僕は大抵の──僕の安い舌に合う──美味しいものは、好きなものに分類される。特に好きと言えるものは………………オムライス?あれ?僕ってやっぱり子ども舌?ミールィさんをバカに出来ないぞ!?


「九十九君?何景気の悪い顔してるのさ?」


「……え?ああ、いや、ちょっと僕にこれは甘過ぎるなぁって」


 ミールィさんに声をかけられ、考えていた事を誤魔化すように咄嗟に別の事を口に出す。でも、今僕が言ったことが嘘という訳ではなく、本心である。

 僕がもそもそと咀嚼する、“串に刺した焼きドーナツにハニーシロップをかけたもの”と言うべきそれは、甘い。滅茶苦茶甘い。シロップが甘いのは勿論ながら、ドーナツの方は二重構造だ。外側はさっくりふわっと、内側は蜂蜜を練り込んだしっとりとした感触をしている。この内側がまた甘いのだ。口内で噛み潰すのと共に、蜂蜜を凝縮したような濃厚な甘味が僕の舌を蹂躙する。

 昼食前のおやつのつもりで買ったけど、これを完食するのは中々苦しいものがある。串には、まだ半分程残っている。


 僕が串を片手に頭を悩ましていると、ふと左から視線を感じる。欲望の視線である。


「…………」


 ちらりと、横目で見ればミールィさんが物欲しそうに僕の手元に視線を注いでいる。わざとらしく人指し指の爪を噛んでいて、アバターの容姿と相まって、まるで見た目通りの幼女に見える。彼女の左手には、裸になって寒そうな串があった。

 …………僕は黙ってミールィさんに、食べかけの刺さった串を差し出す。彼女は、ニコパーッ!と太陽のように眩しい笑顔を作って、それを受け取る。渡すふりして1回からかってやろうか……と思ってたけど、ミールィさんのその笑顔に毒気を抜かれてしまったので、結局出来なかった。


 僕はリスのように頬を膨らますミールィさんをぼーっと眺めながら、先程までの事を思い出す。



 図書室ではあの後、情報収集をある程度すると、教会を後にした。地図は図書委員さん(仮)に預けておいた。中身を見たら、やけに慌ててたけどどうしたのだろう?


 掲示板に書き込んだのは図書室の存在と地図の発見、そして図書室の情報をNPCからの聞き込みによって知ったということだ。ほぼ全部と言っても良い。ただ、何故宿屋のおばさんが僕達に情報をもたらしてくれたのかは謎だけど。


 図書委員さん(仮)に聞くと、この三日間僕達以外に図書室に来た霧人──つまりプレイヤーは、0らしい。ここに来た人は図書委員さん(仮)が記録していて、昨日や一昨日なんかは別の図書委員さん(仮)がカウンターにいたようだ。


 これで、図書室に来たプレイヤーは僕達だけなのだと証明された。それが何、という訳ではないけど、優越感に浸ることは出来た。僕達は他プレイヤーを出し抜いて、未知の情報を手に入れたのだ!ドヤァッ!


 ………というやり取りをして、時間が12時よりちょい前という時間に教会から出てきた。昼食には若干早いけど、何かすると思ったら中途半端な時間。しょうがないので、ぶらぶらしていたら、ミールィさんがこの焼き菓子の屋台を見付けた次第だ。


「………………」


 視線に気付いたのか頬を膨らませたまま、こちらを見てくる。…………頬を引っ張りたくなったけど、流石に自重する。我慢するために、目を逸らした。ミールィさんを視界に入れないようにすると、大勢のプレイヤーもしくはNPCが行き交うのが目に付く。

 道の端という事もあって、誰も僕達を気に留めない。いや、そうでもないか。頭上に青のマーカーが浮かべるプレイヤーが、ちらちらと僕…………ではなく、隣のミールィさんを見ている。まあ、ミールィさんは可愛い見た目してるからなぁ。プレイヤーの数も大分増えてきたし、面倒臭い奴も出てくるだろうなぁ。特にミールィさんの見た目関連で…………ん?


「あれは……」


「九十九君?」


「お、食べ終わった?」


「ブイ!」


 ダブルピースで串二本をそれぞれ挟み、笑うミールィさん。思わず笑顔が溢れる。

 僕は人混みの中のある人物を指差す。


「ほら、あれ」


「う~ん?あれって、もしや?」


「もしやだね」


「おー気付かれてない。思ったより高レベルなんかな?」


「確かDEXとAGI差で成功率が変わるはず」


「NPCのステ振りが気になるな~」


「どうなってんだろうね?」


「ね~?」


 若干話が脱線したけど、僕が見付けたのは少年のNPCだ。ただのNPCなら、じっと見ていたらミールィさんからショタコン呼ばわりされるぐらいだけど、そのNPCは普通ではなかった。スリをしていたのだ。

 リアル時間で昼頃の今は、AWOを買ったプレイヤーが大量にログインし、始まりの街エルディンの人口密度を急上昇させている。そうなると当然、僕達のいる大通りなんかも人が溢れ、塊となり、視野が急激に狭まる。NPCだけでなく、最新鋭のVRゲームに注意を奪われているプレイヤー(彼ら)には、足下をチョロチョロと動く少年スリ師には気付かないだろう。

 僕達のように一歩引いて、注視しなければ。


「どうする~?」


「どうしよっか~?」


「ここで捕まえるのは、面白くないし~」


「でもここで見ているだけなのも詰まらないな~」


「じゃあ、追いかける?」


「追い詰めよう」


「没収する?」


「カツアゲだね」


「あ、動いた」


「追跡開始だ」


「ストーキングだぁ。どうでも良いけど、ストーキングってストーのキング()みたいだよね」


「マジどうでも良いなあ!てか、ストーって何さ?」


「アメリカの街の名前」


「どうでも良い知識が増えちゃったな~……」


「ほらほら、見えなくなっちゃう。隠密で追跡だよ。スネークスネーク!」


「ダンボールを被って、“待たせたな”とか言っちゃえば良いの?」


 それはちょっとなぁ……。苦笑を漏らしながら、スリ少年の後を追う。ミールィさんはいつもと同じく肩車されている。一時的に周囲から頭二つぐらい目線の高くなった彼女のナビがあるので、人混みの中でも僕達は少年を見失うことなく軽口を叩きながら追うことができる。


 少年は後ろを一度も振り返らない。逃げるように駆ける。いや、事実逃げているのか。彼にとって幸いな事に、僕達が見ていた限り、被害にあったプレイヤーがスリに気付いた様子は無かった。スリ少年のレベルが(と言うかNPCにレベルの概念とかあるのか知らないけど)どれぐらいか知らないが、プレイヤー数人に袋叩きに合えばただでは済まないだろう。


「横道入った」


「あいさ」


 横幅がミールィさんを寝転がらせたぐらいしかない、細道に入る。

 おっと。浮浪者風のNPCが座り込んでいた。危ない、蹴る所だった。


カツン


 あ、酒瓶。

 その時、音に対してスリ少年が振り返った。


「えっ?」


「あ」


「おや」


 ぴたりと、僕、ミールィさん、スリ少年の動きが止まる。僕とミールィさんは見付かった事に、少年はいつの間にか自分の後ろを見知らぬ二人組がいた事に。


 戸惑っているのか、少年の茶色の瞳がゆらゆら揺れる。

 それを良い事に、ミールィさんが親しげに手を振る。かあと少年の頬が赤く染まる。


「お」


「お?」


「お?」


「……お、おおおぉおお~~っ!」


「「…………」」


 逃げた。思わず二人してぽかんとする、脱兎の如き、見事な走りだった。


「っは!九十九君、追うよ!」


「へ?は、うん」


 ミールィさんに急き立てられて、慌てて足を動かす。少年は既に大分遠くまで行ってしまっている。追い付けるか?体格は勿論、敏捷性もこちらが上なので障害物の存在しない競争なら、当然僕が勝つだろう。だが、ここは恐らく彼のホームグラウンド。迷いのない少年の走りから、彼がここの周辺地理についての知識と経験を持ち合わせている事が伺える。


 ……ま、別に追い付けなかったら、それはそれで問題無いか。これは結局の所、暇つぶしなんだから。


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