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僕と彼女のVRMMO記(旧題:AWO、始めます)  作者: 炬燵ミカン
中二召喚士と盗賊団
30/55

教会散策、ある視点ではデート

三時間オーバー……!!

遅れてすいません!

「はい、と言うわけで着きました」


「わーい」


 ミールィさんの適当なわーいを聞きながら、教会の入り口をくぐる。


「でさ、来てみたのは良いけど、本が何処あるか分かんないよ?おばちゃんが言ってた本って多分図書館みたいなのだと思うけど」


「うん。教会の人に聞いても別に良いんだけどさ、今回はどうせだし古き良きRPGよろしくしらみ潰しでじっくり見て行こうかな~って。そしたらいつか見つかるよ……どう?」


「ぶっちゃけちゃえば?」


「一目ぐらい噂のシェルフィアちゃんを見てみたい」


「正直でよろしい」


 ご褒美の幼女からの撫で撫でだよ~と僕の頭をくしゃくしゃとかき混ぜてくる。

 くしゃくしゃくしゃくしゃくしゃくしゃ…………長いわ!


「やーめーろー」


「いーやーだー」


 何をそんなに気に入ったか、僕の頭を撫でるのを止めないミールィさんと、頭をわっしゃわっしゃされて抗議をあげる僕。実力行使も辞さずにヘッドバンキングを始めれば、僕の頭を抱き締めるようにして振り落とされんとする。彼女の両足は僕が支えているから地面に叩きつけることも無い。だから、思いきり、ヘビメタの如く世界を何度も縦に揺らす。

 けれど彼女は動かない。むしろ頭を抱き締めるようにしているせいで、幼女特有?の肉感の少ない上半身が後頭部に押し付けられている。AWOは今までで一番リアルに近いゲームであり、つまりは今僕が後頭部に感じる硬さと柔さはリアルとほぼ違いないということだ。幼女に欲情することは無いものの、恥じらいは感じる。僕は、幼女は好きではないが、骨はけっこう好きだ。女の人の脇腹に浮き出る肋骨とか鎖骨とか、ああいうのは好きなのだ。

 僕は揺さぶるのを止めた。


「はぁ、はぁ……どうだい九十九君。STR0の私もやれるもんだろう!」


「あーうんそーね」


 意地の張り合いというか不毛の争いに勝ってご満悦な様子。その喜び方からして見た目とマッチし過ぎだよなぁ。あんたは小学生かっての。

 はぁ、と溜め息がこぼれる。


「…………幼……危険………」


「……フィア様に報…………」


 げっ。

 そう言えばここって教会だった。遠目で僕達を見て、ひそひそと話をする神官NPCの二人組がいる。めっちゃ訝しそうに見てくるんですけど!「何こいつら」みたいな感情が透けて見える。

 僕、悪いプレイヤーじゃないよ?ぷるぷるしてもミールィさんに笑われる未来しか見えない。僕は目を合わせないようにそそくさとその場を後にした。

 ミールィさんは僕の頭の上で楽しそうに鼻唄を歌っていた。


**********


「~~♪~~~~♪」


 最近人目が気になるのであまり人前でミールィさんと戯れるのも程々にしようと心を戒めながら教会の中を散策していく。今の所、大して面白いものは見当たらない。マップで教会──ミムザ教と言うらしい──を見て確認すると、今歩いている回廊をもう少し進んで左に行くと大きい空間に出るっぽい。流石に教会内の構造は表示されないから俯瞰で見た教会の形でなんとなくでしかないんだけど。


 そんな風に思考を巡らしながら歩いていると、頭上から「お」と吐息と驚愕が半々な声がこぼれてくる。それがなんなのか疑問に感じる前に、ミールィさんが乗り出すようにして顔を僕の目の前に持ってくる。

 ひぇっ。

 慌てて首を動かして前を確認する。だが。

 僕が右に動かすとミールィさんの頭も右に。僕が左に動かすとミールィさんの頭も左に。鬱陶しいわ!


「…………」


 じとりと頭頂部が下を向いたミールィさんの顔を見ると、にこにこと楽しそうに笑う。むぅ……。


「九十九君九十九君、天井を見てごらんよ!」


「はぁ?天井?」


 ミールィさんに言われて上に視線を向ける……が、ミールィさんの上下逆さまな顔に遮られて見えない。


「邪魔なんだけど?っていうか近い!もうちょっと距離をかんがえなさい!」


「えー?そーぅ?」


「そーですそーです!」


 そっかー!とキャハキャハ心の底から楽しそうに笑う。

 全く、僕以外にもこんな距離感なんだろうか?もしそうなら気が気じゃないので止めて欲しい。ゲームと言えど良い気にはならない。いや、それは僕が口出しして良いことじゃないとは思うんだけどさ?あ、でも僕との距離感は出来たらもうちょっと考えてくれたら良いなーと思います。ええ。主に僕の世間体として!


「却下♪」


「ナチュラルに心読まないで」


「むふふー。お姉さんには九十九君の考えてることが手に取るように分かるのだー!」


「な、なんだってー」


「当ててあげよう。君は今、『ミールィさんエロ過ぎるぜぇ!はぁはぁ……!』とか考えているだろう!?』


「わー、全然かすりもしてなーい」


 僕のストライクゾーンにおいて幼女はギリギリじゃないボールだから、見逃しOKだ。むしろ推奨派である。人の性癖にあーだこーだ言う気はないけど、流石に10歳以下をそういう目で見るのはやベーと思う。そして、そう言う僕こそ端から見ればやベー奴筆頭なのだと思われてそうだ。好みはむしろ歳上なんだが。


 閑話休題。


「で?天井って?」


「あれあれ」


 今度は特に妨害することもなく、顔を退けてくれる。そして、見えたのは天井一杯に描かれた美しき絵だった。

 歴史の授業で習った……いや、美術だったかな?ともかく授業で習った、神を描いた天井絵。僕の視界を埋める芸術は、つまりそれだろう。頭の中に適当に詰め込まれた情報を幾つかサルベージすると、昔は卵を絵の具の材料の一つとして使ったから絵が長持ちしなかったやら、天井に描いてたから絵の具が目に垂れてきて失明した画家がいたやら、ろくな知識を持ち合わせていなかった。もう少し記憶を掘り返してみても、僕は特別美術や歴史が得意でも好きでもなかったからか、てんであてにはならない。好きも嫌いもなく、テストでそれなりの点数を全教科でとってそこそこ良い順位になることが僕のちょっとした個性的な部分だと言える。


「…………」


 ミールィさんを上目遣いで伺う。

 彼女は夢中になったように天井に描かれた絵をその瞳に映す。僕の頭に両手を添えて、僅かでも近くへ行こうと体を伸ばす。

 ……何時だったか、ミールィ(仄香)さんが話していた気がする。妹が元々ルネサンスらへんの歴史が好きで、仲の良かった仄香さんも関連するの知識を得ることがあり、好きになったとかなんとか。


「ミールィさん確か好きだったよね?」


「そう!好き!大好き!なんて言うの?歴史の重厚さ、とか神秘性、とか?なんか私ボキャブラリー貧相だね!」


「……………………ぅん」


「? 九十九君顔赤い?」


「…………」


 ミールィさんはしゃいでんなぁ、とか叩くの止めなさい、とか言いたいことがあるのに、不意に飛んできた冗談けの混じっていない「大好き!」に口が上手く動かない。僕の対してではないのは分かっているし、ミールィ(仄香)さんが僕にそう言う感情を抱いていないことも分かっている。ミールィさんが僕に抱く感情は、男友達か弟が精々だ。それでも、嬉しい。とても。気を緩めればすぐにでも口が笑みを作ってしまうぐらい。


 だから、後ろから近付く人影に僕達はすぐ近くまで、それこそ声を掛けられるまで気付けなかった。


「そう言って貰えますと、聖女として私も嬉しい限りです」


「「!?」」


 鈴を鳴らしたように澄んだ声が突如背後からかかる。驚きに振り返ると、そこに()()はいた。


 まず目を惹かれたのは輝くプラチナブロンドの髪だ。毛先がふわふわと柔らかそうなロングヘアー。光が薄く反射して、まるで彼女に後光が差しているように見えた。その細やかな光に彼女の美貌が浮かび上がる。正に、完成された美。そう評して然るべき、均整の取れた(かんはぜ)。慈母の如き微笑を浮かべて、少女はいた。

 齢にして高1の僕ともさほど違わない、少女。僕は、この少女を知っている。何故なら、僕は一日目に彼女に会おうとしていた。結局忘れて叶わなかったけど、一目見ようと思っていた。だから、その容姿は知っていた。けれど、実際に、この目で見て、その美しさに思わず息を呑んだ。


 聖女、シェルフィア。女神の写し身。

 僕もミールィさんも、暫くの間固まることしか出来なかった。

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