二日目の終わり
すいません。遅くなりました。
ぴきゅわーんと光ったと思ったら、僕達を囲んでいた光のドームが粒子となって砕け散る。なるほど、こういう演出か。お洒落だ、と感心しつつ達成感をじんわりと味わう。
さっきの攻防は、中々の接戦、ギリギリだった。危うく右手が吹き飛ぶ所だった。いや、そこまでじゃないか?ともかく、危なかった。あんまり無茶はするもんじゃないよなと思いつつも、ゲームの中でならまたしそう。……練習しとこうかな?
アカリさんが放った炎球──【ファイアボール】は直撃すれば、僕のHPをルールで設定されたラインたる4割を超過するダメージを与えられる威力を秘めたものだった。直撃すれば、だけど。
魔法を使うことは、ある程度予想してはいた。
アカリさん達は運営により雇われた人たちであり、このゲームの広告塔だ。広告塔は目立たねばならない。オンラインゲームで目立つにはどうすれば良いか?簡単だ。トッププレイヤーになれば良い。生産、PvM、PvP、シナリオ攻略。どんな分野でも、一番の者に注目が集まる。それがリアルでも有名な芸能人だと尚更だ。運営なら、当然そう運ぶはずだ。例えば、経験値取得量増加アイテムとかを持たせたり、ね。そういう類のアイテムを彼女達が持っていることは予想できる。そして、普通にプレイした僕やミールィさんよりもレベルが高いだろうということも。
それなのに、彼女の能力は低かった。STRは僕より高め、AGIは僕の方が若干高い、VITは同じくらいだろうか。という事は、だ。他にも回していることはすぐに察せられる。戦闘が最も強いらしいので、メイン、サブ両方とも戦闘職だろう。MIN、DEX、LUCに振っている場合は問題無い。僕は魔法攻撃を持っていないから、MINは関係無い。DEXが必要な戦闘ジョブは《弓使い》なんかの遠距離攻撃系だから接近すれば関係無いし、準備に時間がかかるからそこを突くまで。LUCは言わずもがな。
警戒するとしたら、INTに振って魔法攻撃をしてくることだ。僕のMINはINTに次いで二番目に低い7である。仮に彼女のINTが僕のDEXと同じ15+2、3レベル分のSPを振られていたら?大ダメージ間違いなしだ。
だから、当然警戒した。そして、その対処法も考えた。
「……なんか考え事するのは別に良いけど、重いよ?」
「あ、すいません」
「うん……君は容赦が無いね」
「いやぁ、まだまだだと思いますよ?」
「………そうなの?」
「だって顔を狙わなかったですし……」
おや?そういう事じゃねぇよという目で見られているような気が……?気のせいだろう。うん。きっと。
僕がアカリさんの魔法にしたことは、単純なこと。ファイアボールに対して、武器を投げただけだ。僕が投げたのは、スコップと言い張るスプーン型のハンマー。つまり、投槌。初日からやっていた事だ。当然ながら、武器を投げたぐらいではファイアボールを吹き飛ばすほどの威力は出ない。けど、破裂させ、爆発させ、拡散させる事は出来る。
【ファイアボール】の攻撃の大元は炎球にある。それが崩れ、一部が体に当たった所で、勢いも火力(文字通り)も弱い欠片に僕の貧弱MINも頑張ってくれた。その結果、僕は体の表面が軽く炙られる程度のダメージで済み、HPも減少量は1割以下だった。
炎球を対処すれば、目の前にいるのは呆けて突っ立っている敵だけだ。僕は即行で膝蹴りを鳩尾に突き刺した。そして、そのまま地面に蹴り倒し、右膝は鳩尾に、左足はアカリさんの右手を踏んで押し止め、左手に忍ばせていたもう一振りの投げナイフで喉を突いた。一応、【豪投】付きで指で押し出すようにして飛ばしたからか、ざっくりと刃が半分以上埋まった。
仕上げに頸動脈を切り裂いて、決闘終了である。
本当は目潰しを入れたかったし、膝蹴りも顔に入れておきたかった。アカリさんが女性、しかもリアルでも有名なアイドルだから出来なかったけど。
アカリさんは立ち上がるとぐぐぐと体を伸ばし、大きく息を吐く。僕が付けた傷は、とうに消え失せていた。
「ああ~~、負けた、負けた」
「楽しかったですねー」
「んー、まー、そうね。こう、胸の奥が熱くなるっていうの?」
「あー。なんとなく分かりますねぇ」
でしょー?と笑うアカリさん。そう言えば、彼女は戦っている間高い頻度で笑顔だった。きっと戦うのが好きなんだろう。僕と同じだ。似た者さんだ。
「九十九くん、機会が会ったらまた戦わない?」
《プレイヤー『アカリ』からフレンド申請が送られて来ました。了承しますか? Yes/No 》
アカリさんからのお誘い兼フレンド申請が飛んできた。当然、僕はYesだ。僕のフレンドがまた一人増えた。リアルでぼっちとかそういうあれでは無いけど、嬉しい。……改めて見ると、僕のフレンドに中々可愛らしい人物が多い。ミールィさんにアカリさん、フェルトパーティの双子姉妹。まあ、アカリさんはともかく双子はは弄ってるだろうから、リアルはまた別の顔だろうけど。ミールィさんはリアルの顔を知ってるから、可愛いことに間違いはない。どっちかと言うと綺麗系だけど。
「…………」
そうだよ。可愛いんだよ、アカリさん。素顔でアイドルなるぐらいに、容姿端麗。戦ってる時は気にして無かったけど、足はすらっと長くて綺麗だった。引き締まった太ももやつるりとした膝が美しかった。当然、リアルも同じように綺麗なんだろう。
僕の脳裏に甦るのは先程の攻防。その足を、僕は鎖で縛ったわけで……。あ、そう言えば鎖を解いた時、鎖の跡が足に赤く付いていたなあああああ!
「…………んんっ!!」
「!?……どうしたの、九十九君?」
「え?あぁ、ミールィさんか。いや、なんでもないヨ。ナンデモ」
「ふぅ~ん?……ま、良いけど。ほい、鎖」
「お、ありがとう」
いつの間にか近くにいたミールィさんから、そう言えば放り出して放置していた鎖を受け取る。あ、投げナイフもだ。どこやったかなと周囲を見渡せば、アカリさんと他のメンバーの人達がきゃっきゃっとはしゃいでいた。チラッチラッとこっちを時々見てくるのが気になるけど、出来るだけ気にせずナイフ達を回収する。
うん。好意的な目で見られてないのは分かる。半分くらい『あいつやべぇ』って目で、もう半分は無関心と興味が半々くらい態度だ。例外はアカリさんぐらいで、何故かかなり好意的な感じだ。文句言ってたけど、それはそれということだろうか。まあ、一人だけでも好意的なのは嬉しい。……訂正、滅茶苦茶嬉しい。アイドルと電脳世界の中でと言えど仲良くなれるのだ。男子高校生としては今日の夜、ベッドの上で身悶えしそうだ。
「九十九君や?」
「なんだいミールィさん?」
「何をはしゃいでいるのかな?」
「…………」
「てい」
ミールィさんが小枝みたいな足で脛を蹴ってくる。地味に痛いよ?ミールィさんは口を尖らせ、僕を上目遣いで見てくる。小動物みたいだ。頭を撫でてあげると、不満げに頬を膨らませながらも、されるがままのミールィさんだった。
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その後、店に戻って夕方ほどまで歓談を楽しんだら、解散となった。ミールィさんは全員とフレンドになり、僕はシオリさんとケイさんが苦笑しながらフレンド申請を送ってくれた。
「あんまりやり過ぎないようにね?」と言うシオリさんが印象的だった。
μ蘭からのステージの報酬は1万ジルだった。中々の金額じゃないかな?μ蘭は空いてたら参加してね、とミールィさんに予定表のような物を渡していた。μ蘭曰く、たまに来てくれると新しい客層も確保出来るから、人気次第でお金を弾むよ~と悪そうな顔で言っていた。ミールィさんはやる気らしい。僕としても軍資金が増えるのは良いことなので、出てくれるのは助かる。
店を出ると、人が大分増えていた。NPCではなく、プレイヤーの方だ。リアル時間で言うと朝の7時半くらいだろう。早起きの人達ならログインしていてもおかしくない。
僕達は必要だと思う物、欲しい物、贅沢したい物、色々買った。なにせ、今日は色々あって昨日の収入の8倍ぐらいは手に入った。
僕達は買い物をすると、昨日と同じ宿屋に泊まってログアウトした。
こうして、僕達の二日目のAWOは終了した。




