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僕と彼女のVRMMO記(旧題:AWO、始めます)  作者: 炬燵ミカン
鱗男と魔法幼女
25/55

なんだかんだ言って楽しそう(side:ミールィ)

別視点です。

 アカリちゃんが笑い止み、ようやく戦いが始まる。ようやくだ。アカリちゃん笑い過ぎじゃない?


 二人は、虚空に指を走らせて《決闘(デュエル)》の設定を決める。《決闘》とは、PvPをノーリスクで行うためのゲームシステムの1つ。他のゲームだと色々違ったりするんだけど、AWOのデスペナルティはランダムのアイテムドロップと一時的なステータス低下だ。アイテムドロップは自身のLUC値参照、だから私は極振りしてるせいで死んだら100%何かしらのアイテムが紛失するらしい。極振りは止めないけどね!極振りはロマン!


 とは言っても、全ステータスを魔法攻撃力につぎ込むのって難しいんだよね~。ミールィ(これ)も、若干MINに流れちゃってるし。

 九十九クンは私のこの極振りに良い顔も悪い顔もしない。呆れてるけどね。もうちょっと自力で動けないかな~と思わないでもないけど、九十九クンに運ばれるのは存外気持ちいい。リアルだとああいうことをしてくれる人はいないし、私がはしゃぐのに付き合ってくれる人もいない。だから良いかなと思っちゃいもする。

 妹はなにかと私に構ってくれるけど、家族だからやっぱりどこか本気ではっちゃけられない。一番に心を許せるのは、適度に距離のある他人だと聞いたことがあるけど、私にとって九十九クンは正にそれだと思う。


 彼は、ぶちぶち文句を言ったり溜め息を吐いたりするけど、大抵のことは許しちゃう結構なお人好しだ。だから、私もついつい我が儘を言いがちだけど……げ、ゲーム内だし?リアルじゃちゃんと九十九クンにお姉さんしてるし?……うん、うん。ゲーム内ではっちゃけてる時点で威厳とか皆無そうだけど、気にしちゃいけない。いけないったらいけないんだよ!


「ほら、ミールィちゃん。始まるよ?」


「うん?」


 シオリちゃん声をかけられて、二人が準備を終わらせて待機状態にいることに気が付く。そして、二人を包むように光がドームを形作っている。どうやら、あれが《決闘》システムのフィールドらしい。あのフィールドの中は、戦う者以外の侵入をシステムによって防いでいて、何人も立ち入ることの出来ない二人だけの戦いの舞台になる。そのせいで、私やシオリちゃん達は距離をとらなくちゃいけなくなった。場所は倉庫だ。フィールド内のオブジェクトは戦いが終われば修復するらしいけど、流石に食事処で暴れて欲しいと思わない。だから、その店の使っていない倉庫を借りることにした。でも、入る前の倉庫の大きさからしてでかくない?数倍はあると思うよ?


 ……ふんふん。《決闘》システムは、両者の合意によって勝敗の基準が決められ、その設定は近くにいるプレイヤーには分かるようになっているようだね。

 時間制限無しで、魔法あり、どちらかのHPが4割を切った時点で終了か~。分かりやすくて良いね!私は実の所、あまり戦いの駆け引きやらなんやらはあまり分かんない。強い攻撃をずっと当ててれば勝てるでしょ~、を基本概念に今までゲームをしてきた。九十九クンならもっと考えて戦ってるんだろうけどね~。


 その九十九クンはと言うと、右手に今日買ったばかりの巨大スプーン型ハンマーを持ち、左手には彼が非道な過程を経て手に入れた()()兎の捻角が握られている。目はアカリちゃんの動きをつぶさに観察し、口元が薄く笑みを作っている。……九十九クンが角を手に入れた過程や今までの戦い方を知っていると、なんだか深読みしちゃいそうだね。

 攻撃がエグいんだよね、彼。戦闘狂は言い過ぎかもだけど、九十九クンは実際かなり戦うのが好きだと思う。口では嫌そうだったけど、今回も嬉しそうだし?セッティングした甲斐があったね!天の邪鬼なのかな~?モンスターハウスでの戦いも九十九クンは常に笑っていた。気付かないのは本人ばかりってやつなのかな?


 シオリちゃん達はきゃっきゃとどっちが勝つか話し合っている。

 え!?Lv.7なの!?高くない!?格上だけど、九十九クン勝てるかな?


 チュルルリと持って来ていたジュースを飲む。美味しい。

 二人の間に軽やかなベルの音が鳴る。それが開戦の合図だった。二人は同時に動き出す。


**********


「【豪投】!」


「【流水】!」


 始まりは九十九クンの『投擲術』による遠距離攻撃と、アカリちゃんの知らない武技による受け流しから始まった。

 アカリちゃんはその手に持つ細剣(レイピア)の切っ先に捻角を添え、手首のひねりで逸らす。捻角はアカリちゃんの横を抜けていった。


 九十九クンはその間に、【旋蹴】の連続使用で距離を詰める。九十九クンは『蹴り』の武技をよく使う。そして、よく蹴る。『蹴り』スキルが『槌術』より高いって頭を抱えてたけど、そういう所治さないと無理だと思うな?

 九十九クンの左手には、アイテムボックスから取り出した鎖が握られていた。


「【拘縛】!」


「遅い!【閃突】!」


「くっ……!」


 九十九クンが鎖を放つも、アカリちゃんに易々と避けられ、逆に刺突が飛ぶ。九十九クンは、スプーンの腹で逸らし、ギリギリ直撃を避ける。

 九十九クンの左手が動き、鎖を鞭のようにしならせた。鎖はアカリちゃんの足に絡み付く。やった!と思ったけど、あくまで片足に絡み付いただけ。アカリちゃんの動きをろくに阻害出来ない弱っちい拘束だ。事実、アカリちゃんは余裕の表情で何度も刺突を繰り出している。


「どうしたの?これで私を捕まえられたとでも……」


「【束凝】」


「え?ひっ、きゃぁっ!?」


「「「「「えぇっ?」」」」」


 スプーンで直撃を避けながら、いなしていると突如鎖が動き出す。まるで生きているかのようにするすると、アカリちゃんの引き締められた足に纏わりつく。

 な、何あれ?鎖が蛇みたいに動き出した!?武技!?エロくない!?


 驚く私達を置いて、展開は加速する。


「なんかすいません!」


「じゃあ、ほどきなさいよ!!」


「それとこれとは別っ!【翔挫】!」


「っ!?くっ!」


 恥ずかしさか怒りか、顔を紅潮させるアカリちゃんと言葉を交わしつつも、九十九クンは攻勢を緩めない。九十九クンの膝から下が淡く輝き、ハイキックで首を狙う。アカリちゃんは咄嗟に左手を挟むものの、ガクリと突如体勢を崩す。驚愕する彼女の肩に蹴りが入った。……よく見れば、九十九クンが鎖を引っ張っていた。あれで体勢が崩れたんだろう。

 アカリちゃんの頭上に浮かぶHPバーが1割ほど減る。


「……っ!ならっ!」


「ほっ、とっ、よっ」


 アカリちゃんも負けじと、突きを繰り出すけど、尽く九十九クンに受け流される。九十九クンは鎖を保持している以上、武器を振るえるのは右手だけだ。その分打ち合いでは不利になるのだけど、九十九クンのさっきの蹴りでアカリちゃんの左肩にダメージが入った。AWOでは、攻撃を受けるとダメージに応じて痺れるような感覚になる。正座をした足のような感じの微妙な痛みだと言えば分かりやすいと思う。そのお陰で、アカリちゃんの左腕はあまり上手く動かせないようだ。今も、彼は受けるだけでなく反撃を入れている。


「やるじゃない……なら【限界突破】!」


 アカリちゃんが細剣を大きく振ってスプーンを弾く。そして、一瞬の溜めの後アカリちゃんの体が燐光に包まれる。

 な、何あれ!?覚醒?覚醒したの?怒りと哀しみのスーパーな戦闘民族みたいになっちゃうの!?

 アカリちゃんは笑う。九十九クンもつられるように浮かべていた笑みを深くする。アカリちゃんは肉食獣を連想させる笑顔だけど、九十九クンは爬虫類系の目だからか、蛇を連想させた。


 アカリちゃんは九十九クンに突撃した。明らかにさっきよりも速い。力も変化したっぽく、九十九クンは一撃受けるごとにじりじりと後ずさる。堪らず、鎖を手離してバックステップで距離をとった。アカリちゃんは追わなかった。彼女の左足に絡み付いていた鎖が、突然力が抜けたように拘束を解いて地面に落ちたからだ。

 ……引き締まった太腿に刻まれた鎖の跡がなんともエロチックだ。九十九クン狙ってやったんじゃないよね!?ね!?


「この武技、君が手に持ってないと効果を発揮しないのかな?」


「いやー、僕も何気に初めて使ったんだよね」


「あら?じゃあもしかして私が()()()?嬉しいわぁ」


「言い方に悪意を感じるなぁっ!」


「気のせいだねー!」


 話している間に九十九クンは投げナイフを取り出し、アカリちゃんは鎖を遠くに蹴って、詠唱を始める。


「って、詠唱!?」


 つまり魔法!?でも、剣で戦ってたよね……魔法剣士?あ、だから九十九クンは打ち合えたんだ。アカリちゃんが純戦士のステ振りだったら、DEXにも多目に振っていてレベルでも負けている九十九クンがまともに打ち合えるわけがない。


「【豪投】」


 九十九クンがナイフを投げる。アカリちゃんは楽々と避ける。九十九クンは距離を詰めて、アカリちゃんも詠唱をしながら後退する。九十九クンはなんとか詠唱を止めさせようとしているけど、上手くいかない。

 そして、詠唱が完了する。


「勝ったっ!【ファイアボール】!」


 詠唱を止めようと接近していた九十九クンの目の前に炎球が出現する。どうやっても避けられない。

 ぼぉっ!と当たると同時に爆ぜ、炎に包まれた。がいんと石畳と金属のぶつかる音が響く。


 負けた、と思った。

 九十九クンの防御力は他のステータスと比べて、低めだった。お互いに打ち合いでHPを削り合って、アカリちゃんは5割、九十九クンは6割ほど残っていた。そして、【ファイアボール】──『火魔法』は初期の魔法で一番の威力と派手さを誇る。

 炎と土煙が晴れる。


「え?」


「「「「「ええぇ~~?」」」」」


 そこに誰も立っていなかった。九十九クンも、アカリちゃんも。かわりに、アカリちゃんが仰向けに倒れ、その上に九十九クンが乗ることで押さえ付け、ナイフをアカリちゃんの首に突き刺していた。


 九十九クンが生きていた。でも、どうやって?


 九十九クンがナイフでずるりと頸動脈を切り裂き、赤い粒子が空を舞う。

 アカリちゃんのHPは、4割を既に切っていた。

スキル『限界突破』

 スキルレベルに応じた時間、LUC以外の基礎ステータスを全て上昇させる。

 効果終了後、ステータス低下の状態異常が発生。途中解除は可能。その場合、その途中までの時間量で低下量が変動。


発動時間は60秒+(スキルレベル-1)×10秒

Lv.1……60秒

Lv.2……70秒

Lv.3……80秒

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