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僕と彼女のVRMMO記(旧題:AWO、始めます)  作者: 炬燵ミカン
鱗男と魔法幼女
19/55

エンジェルパースエイション

 そもそも、僕達が生産区画に来たのはフェルトたちの粋な計らいからだった。

 曰く、「Lv.5になって初期装備はあり得ない。相応の武器、防具にすべきだ」らしい。僕もその意見に全くもって異論は無かったのだけど、僕達は今まで金が無かった。菓子やら謎の置物やらに無駄に浪費され、装備に消費出来なかったからだ。

 幸いというか、僕もミールィさんも攻撃は回避し、当たらないようにするスタイルだった為一日目はあまり問題は無かった。だが、あのビーストエイプの包囲により、僕の防御力の低さが浮き彫りに出た。ミールィさんに当たらないように意識が散漫し、隙も出来た。

 このことから、僕達はようやく初期装備の脱退を決めた。あ、ミールィさんは神官服だから一応初期装備では無いんだったか。いや、それでも更新はするけどね?二撃ぐらいは耐えて貰わないとこっちが気が気で無い。


 モンスターハウスでたんまりと手に入ったドロップアイテムもあるので、売り払えばそれなりの金にはなる。呪いの武器アイテムは……売らないことにした。未だ、価値が分からず手に入れることが出来るのは僕達だけだからだ。出来たら、第一発見者は別プレイヤーに負ってもらいたい。新情報の発見者は色々と注目されやすく、面倒事──PKなんか──に遭うことも多いからだ。


 ともかく、そういうわけで僕達は新装備を準備することにし、フェルトからお誘いがかかった。


「βからの知り合いで、腕の良い生産職がいる。良かったら紹介するぞ?」


 僕達は断る理由も持ち合わせていなかったので、喜んで頼んだ。


 で。


「………………フェルト、僕達って装備買いに来たんだよね?ランウェイ見に来たんじゃないよね?」


「………………俺に、聞くな」


 呆然と見ることしか出来ない僕達の目の前では、リアルのアイドルモデルも顔負けの美女美少女ついでに美幼女がきらびやかなライトに照らされて、周りより1メートルほど高いステージでそれぞれ決めポーズをとる。それに呼応するように、吼える観客。彼らはこの瞬間を一時も見逃さないとばかりにスクリーンショットを撮る。撮る。撮る。


 ステージの上の彼女達は、そんな彼らを咎めはしない。ただ、微笑む。それが彼女達の仕事だから。彼女達の使命だから。見る者に笑顔を与え、そのために彼女達はいつだって笑う。笑顔を作るのが彼女達の職業(ジョブ)の目的だ。


 ステージに立つのは、()()()()()()。種族は様々。エルフやドワーフ、獣人に僕と同じ鱗系種族。


 その中で、センターで笑顔を振り撒くのは、1人の幼女。チョコレート色の肌に、ぴんと尖った耳。輝く銀髪は流れるように舞い、その柔らかな肢体を包むドレス(ステージ衣装)と合わさって見る者の目を惹き付ける。

 相貌は整っていた。宝石のように煌めく金色の瞳と、形の良い目鼻立ち。小さな唇は口角を上げ、誰もが可愛いと評する天使の如き笑顔を造り出す。


「…………ミールィさん」


 僕は相棒たる幼女の名を呟く。

 この時、僕は死んだ魚の目だったのだろう。

 彼女は、アイカツをしていた。


 何故か?

 それは一時間ほど前まで遡る。


**********


「お願いします!どうか僕の天使になってください!」


「は、」


「ふぇ?」


「ああ?」


 なんか薔薇に話しかけられた。

 あ、いや違うか?目の前に突然真っ赤な薔薇が現れたから驚いたけど、その向こうに人がいる。て言うか天使?


「一目見た時からあなただけだと直感したんです!どうか、僕の天使に!」


 薔薇の花束の向こう、幼い顔立ちの美少年が熱のこもった声でそう告白する。僕じゃないよね?その視線は僕の目よりいくらか上部、僕が肩車をして先ほど与えたフライドポテトをくわえるミールィさんに注がれている。ちなみに、僕の口にもミールィさんが無理矢理押し込むようにして入れられたフライドポテトがあったりする。


 ここは、生産区画の中の中央付近である広間だ。

 そもそも始まりの街エルディンには4つの広間がある。中央と南東、北東、南西、の4ヶ所だ。北西は領主の屋敷がある。

 裁縫職人達の溜まり場(ソーイングストリート)を、獲物を目の前にした肉食獣の如き眼光を放つ職人達から逃げるように立ち去ると、鍛冶師達の地区へと行くため北東の広間を突っ切ろうというところで、突然現れたのがこの薔薇少年だ。


 尚、職人達は話せば断るのは意外と簡単だった。ミールィさんがマネキン役を受けようとしたのを止めたりもしたけど、それぐらいだ。付き合ったら今日の時間が全て無くなりそうだからね。いつかその内……と日本人的断り文句で逃げたけど、親しげに笑う職人達の獣のような目に、背筋が凍りそうだった。


「…………」


 少年は、ただ静かに見つめてくる。僕はミールィさんを指差す。少年はコクコクと頷く。

 えーっと。


「ミールィさんにお客さんだけど知り合い?」


「んーん。初めて会うね」


「なんか天使になってって言ってるけど?」


「彼には天使のお友だちがいるんだよ」


「一目惚れ的な風だよ?」


「一見さんはお断りですの」


「それじゃあ仕方ないね」


「ねー」


「という訳で」


「あばよ、とっつぁん!」


 スタコラサッサとその場を後にしようと脇を抜けようと思ったが、まあ当然ながら少年は許さない。

 僕の手を取って逃がさないつもりのようだ。


「お待ち下さい、僕の天使!」


「……ミールィさん」


「はぁ、分かったよ」


 溜め息を吐きながらもミールィさんが了承してくれたので、肩車の状態から地面に下ろす。両手でフライドポテトを持っているが、そのままで話す気らしい。


「それで、何用かな?」


「僕の天使になってください!」


「……名前は?」


「ファランと言います!」


 自らをファランと名乗る少年は、ミールィさんと並んで10センチほど背が高いが、ミールィさんが元々小さいロリキャラなので見た目は年端もいかない少年だ。顔は見事な美少年で耳が少し尖っている。エルフ……では無さそうだ。ミールィさんと比べて尖り具合が弱い。耳って調整できるのかな?

 服は初期装備で、所々に黒や青といった汚れが見える。頭上には緑のマーカーがあることからプレイヤーだとういうことは分かる。


「んー……ファラン君、で良いのかな?」


「っ!……ありがとうございます!」


「はい!?なんで!?」


「天使様に僕なんかの愚名を呼んで頂き光栄の至りです!」


「うわぁ……」


 突然涙ぐむファラン少年。

 あ、ミールィさんが引いてる。ついでに僕も引いてる。横目で見るとフェルトも引いてた。フェルトはこの面倒臭そうな状況に静観の構えらしく、一歩引いている様子だ。ナイス判断。


「……うん、うん。オーケーオーケー、君の人となりは何となく察したよ。それで?天使って何さ?」


「天使はあなたです!」


「そういうことを聞いてないの!」


「では一体?あ、天使様花束(これ)どうぞ」


「ああ、ありがとうって違う!私が天使ってどういうわけ?」


「? 天使様は天使様ですが?」


「こ、このガキゃぁ……!」


「ミールィさんはなんで自分のことを天使と呼ぶのか聞いてるんだよ」


 ミールィさんがイライラして口調が乱れ始めたので、横から口を挟む形だけど、質問をする。


「従者殿。それはですね──」


「ごめん、質問しといて遮っちゃって悪いんだけど、従者殿って一体……」


「天使様の従者殿のことですが?」


 きょとんとした目で見られる。嘘、ではなさそう。

 ひくり、と口の端がひきつるのを感じる。


「……一応聞くけど、従者って僕?」


「そうですけど」


 それがなにかと言わんばかりの顔に、頭を抱える。

 従者ってなんだよ!ミールィさんの従者かよ!なんで僕が従者になるの!肩車って従者の仕事なのか!……ふぅ。

 文句を一通り言って心がようやく落ち着く。ん?ミールィさんがこっちを見て笑っている。


「九十九ク~ン、ご主人様がよしよししてあげようか~?」


「うっさいわ」


「あいったー!」


 ムカついたので、チェシャ猫のように笑うミールィさんにデコピンを入れれば、痛みに仰け反りぐぴゃーと叫ぶ。大袈裟な。

 フェルトを見れば、口を手で隠しているが分かる。こちらも肩をぷるぷると震わせて笑っている!


「おお!天使様の涙目!素晴らしい!」


 他方、興奮してスクショを連写してると思われるのはファラン少年である。後ろや上、下から等、体勢を変えながら様々な角度からスクショを撮る彼はまるで熟練のカメラマンのように淀みが無い。

 えぇ……。こいつやべぇ、やべぇよ。どうしたら良いのこれ?いや、話しかけるしかないんだけどさ。逃げるのも面倒臭そうな感じだし。


「はぁ……」


 なんでこんな感じになったんだと若干先ほどの自分を恨みながら、溜め息をついて再度会話に試みる僕でした。まる。


中途半端な感じですいません。


更新は毎週日曜日でいこうと思います。

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