鬼猿襲来 2
モンスターハウスとは何か?
一般的なゲームの知識として言えば、モンスターが大量に発生する密室をさす。映画もあるが、まあ今は関係無い。
そのモンスターハウスは、ゲームではプレイヤーが部屋に入り、入り口を塞ぎ、個を圧倒する物量でもって押し潰す。詰まるところ罠として使われることが多い。
だが、決して野外でも無いとは言い切れない。ゲームの運営というのは、えてして消費者の虚を突きたがるもので、どんなゲームの中にもこれは非道いと思うものが数点ある。酷いじゃない、非道いだ。
AWOも例に洩れず、そうであるようで。
いや、ホントこれは無いって。
まさか、モンスターを壁として密室にするなんて。
「ギキーィッ!」
「ふぅっ……!【拘縛】っ!」
目を血走らせ、左から飛びかかるビーストエイプに鎖を放り、動きを縛る。ミールィさんより僅かに高い程度のくせに筋力値が僕より上なので数秒しか制限出来ない。だが、戦いの中でその数秒は死を意味する。
「ミールィさん!」
「【アイスボール】!」
勢いよく射出された氷球は狙いを外さず、サルの頭をぶち抜く。顔面が陥没し、首の骨が勢いで折れ、それでも止まらず吹き飛ぶ。その後方から次いで襲いかかろうとしていた2体のビーストエイプもついでとばかりに巻き込んで、左方向からの襲撃が一旦止む。
だが、安心してはいられない。ザリッと土を蹴る音が後方から聞こえた。反射的に、右手のハンマーを振り抜く。
「ひゃぁっ」
勢いに驚きの声を上げるミールィさん。あら可愛い。
めきょっという肉を叩く感触が手に伝わる、そこか!
視線を向けず、そちらに蹴りを放つ。さっき殺したサルの体が光の粒子に変わり、縛るものの無くなった鎖を手繰る。
一息。
影が落ちる。樹上から隙を窺っていた1体のビーストエイプが飛び降りたのだと分かった。
「【旋蹴】」
武技でその場を離脱、体を反転。1秒前まで僕達がいた場所に音をたてて着地したサルの胸に、幼女の声に呼び出された雷の矢が突き刺さる。風穴開いた。凄い。
左右から挟み撃ちの要領でビーストエイプが迫ってくる。右の奴にハンマー、左には鎖で【拘縛】をプレゼント。鎖を一旦手放し、顎をかち上げたサルに接近する。首を左手で掴み、引き倒すとハンマーでのどを潰す。ガボガボと声にならない悲鳴をもらす。顔に更に数発。
不意をつこうとしていたのだろう、ビーストエイプの1体にミールィさんの【サンダーアロー】が刺さった。けど残念。脇腹に当たったからか、即死はしなかった。顔連打でどんどこどーんしていた瀕死のビーストエイプを顔を踏みつけて、ダメージで前屈みになる目の前のサルに飛び膝蹴り。
時間差で、2体のビーストエイプが粒子と変わる。
「…………」
踵を返して、今にも拘束を抜け出さんとするサルの目にアイテムボックスから取り出した『呪われし一角兎の捻角』を武技を使って投擲する。
「ギュキ……ァッ!」
捻角は右目を潰し、 HPをゴリッと削る。おお、6割は減った!ビクンビクンと痙攣し始めるが脳にまで届いたのか?
そのまま無造作に近付き、ハンマーを一旦手離すと、右掌を頭頂部、左掌を顎にとサルの頭を両手で挟むようにする。そして、鼻のあたりを中心に、勢いよく時計回りに回転させる。
コキリ、と軽い音と同時にHPバーが0になる。
「おお……」
まさか本当に出来るとは……。自分でやって結構びっくりだよ!思ってたよりも軽い感触だったことに、何とも言えない気分になる。これ、プレイヤーにも出来るかな?
「九十九クン九十九クン」
「……っあ、うん。何?」
「もういないよ、あのサル」
「え?」
ミールィさんの言葉に周囲を見回すと、確かにもうサル、ビーストエイプの姿が見付からない。樹上は?いたモンスターは揃って逃げ出している。これで終わりなのかな?
よく分からず警戒を続けていると、声をかけられる。
「九十九!ミールィ!」
「あっ、フェルト」
「どうやらこれで終わりっぽいな。サル達が逃げていく」
「即席のモンスターハウスは一定数狩れば解除、かな?」
「そんなとこだろうな」
理解を示すフェルトは、革鎧のあちこちに幾つもの傷を付けていた。後ろに続いている4人も同様だ。全方位+樹上からの襲撃ということで、後衛であるティニャやベルムシュラスさんまで負傷している様子だ。ベルムシュラスさんが、恐らく治癒魔法で回復させている。
戦闘が終わりならと、ミールィさんを下ろす。なんか、フェルトの顔が引きつっているが、見て見ぬふりを敢行。
「さて、戦闘は終わったわけだが……」
「アイテムの分配をどうするか、だね」
「ああ。ま、俺達は1:1でも構わないけどな」
「え?」
「遠くからしか見えなかったが……明らかに、おかしいんだよ」
「おかしいって?」
「惚けるなよ。魔法だ。一撃で死ぬのを見たぞ、見間違いじゃない。何回も、だ」
「う~ん……」
「……もしかしたらだが、スレで騒ぎになっていたゴブリンを魔法で一撃死って……」
「あ、ミールィさんだね」
「やっぱりか!って、隠さないのかよ?」
「いや、見られちゃった以上否定するのも変だし、特別秘匿することでもないしね。魔法を使わないでデスペナ喰らうのも癪でしょ?」
「まあ、確かになぁ」
「そうそうって、話ずれてるし。そんなことより、なんで1:1で良いのさ」
僕の言葉に、フェルトは言いづらそうに頭をかく。
ん?
「あー……お前ら狩った獲物の数分かるか?」
「いや」
「私数えてたよ~」
マジか。ミールィさんあの状況で凄い。
「24体だよ」
「24……やっぱりな」
「何が?」
「良いか?俺のパーティのキル数は大体30強だ。分かるか?5人でパーティを組んでおきながら、俺達はお前らと10体以下の差しかつけられなかったんだ。1:1で構わない」
「まあ、ミールィさんの魔法って強いしね」
「ふっふっふ、極振りした甲斐があったってものだね!」
「あの威力は極振りか……幾ら振ったんだよ」
「全てさ!」
「ドヤ顔で言うこと?」
「……あー、分かった。分かったぞ。九十九、さてはこの女馬鹿だな?」
「この人のコンセプトは魔法幼女だよ」
この言葉だけで、フェルトは理解したらしい。ミールィさんを憐れむような呆れるような、何とも言えない瞳で見詰めている。
僕は、それを横から苦笑するしかなかった。
あとミールィさん。さっきから僕の服を掴んで離さないのは何故?え?背負えって……たまには運動しなきゃダメよ?お母さん心配!
ミールィさんとフェルトから脛を蹴られた。痛いよ!
鬼猿はあと1話続きます。




