トッププレイヤーさん(複数形)
「うまー」
「だねー」
もぐもぐと味付けされた鶏肉とその他具材を白パンで挟んだ物体、通称サンドイッチを僕達は頬張る。AWOは本当に凄い。味覚をここまで再現出来るとは。
僕達が今いるのは、カブラの森の中の開けた所。教室2つ分ぐらいの木が生えていない空間で、昼食をとっている。そして、僕達の周囲には3体のゴブリンが徘徊している。とはいっても敵ではなく味方、のようなもので、ミールィさんの『召喚魔法』によって呼び出した、いわば使い魔だ。
カブラの森へ移動する道中、運良くゴブリンのレアドロップは入手して、【アクセプト】させていた。だが、これまで使い道が存在しなかった。
MPは節約すべきだと思って、『召喚魔法』のレベル上げも出来なかった所だったが、昼食をとるということで、見張りと試運転にゴブリンを召喚することにした。【アクセプト】をコンプリートしたのは他にもいたのだが、ゴブリンの方がどこまで命令通りの動くのか確認しやすい為、今回は見送った。
で、そのゴブリンの動きなのだが。
「駄目だね。僕の言葉は聞かない」
「だろうなとは思ってたけどね……。動きは結構融通が聞くんだけど」
「ま、仕方ないね」
悪くはない、と言ったところかな。ミールィさんが命令すればわりと難しいこと──僕達の周囲を警戒し、敵が近付いたら知らせて迎撃する──もこなした。動きは野生のものと大差はないと思う。モンスターと戦っている様子を見たものだから、確証はないけど。
「ゴブラッ!」
「お?」
警戒するゴブリンAが警告の声を発する。視線を向ければ森の北の方を睨んでいる。他のB・Cも同様だ。また、モンスターが近寄ってきたらしい。ゴブリンでも、索敵能力はプレイヤーよりもかなり高い。召喚モンスターはHPが全損するか召喚者が送還しない限り、いなくならない。召喚する時もMPは固定消費なことを考えても、中々に強魔法なのではと思う。
それはともかく、接近中の敵だ。どうも今まで襲ってきたウサギやイヌと様子が違う。ゴブリン達の警戒度合いがかなり高いのだ。一応戦闘準備に入った方が良いかな?
右手に残っている後4分の1ぐらいのサンドイッチを、口の中に放り込んで咀嚼する。買っておいた緑茶に似た飲み物を飲むと、傍に置いていた武器類を手に持って立ち上がる。
ミールィさんは体も口も小さいからか、まだ半分近く残っている。
放置で大丈夫かな?
武器を構えて、ゴブリンブラザーズの隣に行くと、B・Cが後方に下がり、南や東西からの襲撃に警戒する。真上から俯瞰すると、ゴブリンと僕で台形を作り、その中心にミールィさんがいる配置だ。
こいつら僕の言葉に反応しないくせに、動きに合わせてフォーメーションを変えたりと、中々に知性が高い。若干小憎たらしいと思うが、紙どころか裸同然の耐久力のミールィさんの護衛には安心できる。
ガサリガサリと草や木の枝を踏み分けて、こちらに接近してくる音が響く。この無遠慮な音からして、モンスターではなく、プレイヤーだろう。話し声まで聞こえてくる。
それなら安心……とはいかない。可能性は低いがPKかもしれない。いや、まあその時は遠慮も容赦も無くして全滅させれば良い話なんだけど。幸いにも、こちらはゴブリンのお陰で戦力が2倍以上に上がっている。ミールィさんの魔法さえ上手く当てれば、十分に勝ち目はある。
そのミールィさんはサンドイッチを美味しそうに食べているけど。ええい、気にするな!
さあ、来い!出来たらPK来い!返り討ちにしてアイテムを頂戴してあげよう!
「あっぶなかったねー!」
「だから言ったろ、今は無理だって」
「レベルさえ上がってれば勝てたし……」
「そのレベルが足りなかったんじゃないの?」
「急ぐ必要も無いんだし、今はレベル上げて戦力増強だろうがって…………九十九、か?」
「あれ?フェルト?」
わいわいと騒ぎながら木々の奥から出てきたのは、昨日フレンドになったフェルトだった。
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「あー……なんか悪かったな」
「いや、フェルト達だと気付いて良かったよ。攻撃するところだったから」
一日振りの挨拶を交わして、お互いに苦笑する。
話を聞けば、僕達と同様森でのレベル上げをしていて、休憩の為僕達のいる広間に来たというわけだ。
「自己紹介しとくか。俺はフェルト、一応このパーティのリーダー的な役についてる」
最初に名乗ったのはフェルトだった。フェルトの装備は、昨日見たものより良いものになっていた。いや、初期装備の『ぬののふく』よりは大抵の装備が良いものだろうけど、というか僕は今だ初期装備のままだ。ミールィさんでも神官服を着ているのに!
革鎧を着ている。
「俺は千代丸。フェルトと一緒に前衛してるよ。ヨロシク」
次に名乗ったのは、槍を背負った茶髪の10代後半ほどの見た目の獣人の男性だ。痩せているし、力士の人と関係は無いのかな?耳からして犬だろう。
チラチラと未だサンドイッチを食べるミールィさんを、横目で見ている。気になるのだろうか。
防具類はフェルトと大差無い。
「次は私達!」
「自己紹介だよ!」
「私はジュリ!」
「私はティニャ!」
「ティニャは後衛!魔法でドカンドカーン!」
「ジュリは遊撃!こっそりザシュザシュ!」
「「よろしく!」」
「あ、うん」
ジュリとティニャは双子のプレイヤーで、矢継ぎ早に名乗り互いにプレイスタイルの紹介をしてくれる。
ジュリは黒髪ポニーテールの少女で、軽戦士らしく装備は最低限の防具と腰に短剣を差しているのみ。
対してティニャは魔法を使うという通り、ローブと杖を装備している。ジュリとは反対で白髪をポニーテールにしている。
「我輩はベルムシュラスと申す」
「……そういう設定?」
明らかにおかしな言動のお爺さんキャラに、ついフェルトに確かめる。こういう、ゲームの世界に没入する人やなにかしらのキャラクターのロールプレイをする人は、ネットゲームでは必ず現れるからだ。
「ああ。この爺さんβの時から一度もこのロールプレイ解いたことがないぞ」
「そりゃあ凄い」
こういうのって長時間すると粗が出たりするんだけど。どうやらかなり徹底しているらしい。
ま、そういう人たちも嫌いではない。見ている分には面白いし、ゲームを楽しむ方法の一つでもあるだろう。
ベルムシュラスさんはパーティ内の回復役のようで、ミールィさんの着ているものとよく似たデザインの神官服を着て、杖というより棍の類だと思う棒状の武器を持っている。
フェルトと千代丸が前衛、ジュリが遊撃、ティニャとベルムシュラスさんが後衛の5人編成ということか。
「俺達5人はβん時からパーティ組んでいてな、今回も変わらずって感じだ」
「なるほど。じゃあ僕達も。僕は九十九、彼女がミールィさん」
フェルト達の自己紹介が終わり僕達もと、名前の時にそれぞれ指差しながら応える。ミールィさんはようやく食べ終わって、けぷぅと息を吐いている。自分で自己紹介しようね?
僕とフェルト達5人が向かい合うようにしているのに、ミールィさんは僕の左後ろに呑気そうな顔を浮かべている。ゴブリンブラザーズは見張りに周囲に散開しているけど、まあ聞いてこない以上興味が無いのか既に知っているかだろう。
とりあえず、お茶を一服しているミールィさんをひょいっと持ち上げ、フェルト達の前に下ろす。
『自己紹介しろって?』『それぐらい自分でしなよ』という会話を視線で交わすと、了解したとばかりに頷く。
これなら大丈夫かなと、思った矢先だった。
そして、きゃぴるんっ!とかオノマトペが付きそうな──片目を閉じて横ピースを添え、腰に手を当てた──ポーズをとり、見る者の見惚れるような素晴らしい笑顔を浮かべると、ミールィさんは言う。
「ミールィで~す!九十九クンの~お嫁さんしてま~す♪」
グーで殴った僕はあんまり悪くないと思う。




