手間と結果は比例しない
角の鑑定結果は早速ミールィさんにもスクショを送った。
「んぴょ」とか謎の感動詞を吐き出したが、分かる。分かるよ。それほどに、これは衝撃的だ。
『呪われし一角兎の捻角』。
ウィキでは一度も聞いたことの無い、武器アイテムだ。βテスターの中には当然だけど全て情報を出す者は少ない。それでも、こんなアイテムが流通していたなら、話題にならないのはおかしい。ということはもしかしたらこれは僕達が最初に見つけた物かもしれない。
「これどうする?」
「どうするって、公開か秘匿?」
「そう」
もし、第一発見者が僕達だとすると、僕達はこのアイテムを実質独占出来る。兎特効の武器なんて需要が無い?
違う。そっちではない。
このアイテムが教えてくれる情報はいくつもある。そして、最も善くも悪くも反響が大きいのが、恐らく呪いのアイテムを造り出すための方法とは、自身の体の一部で殺されることだ。
確証は無い。それでも、そうだろうという予感はある。
例えば、ファングドッグの牙では?ワイルドキャットの爪では?アンガーバードの嘴では?ゴブリンはちょっと分からないが、もっている武器を奪って殺してみよう。
うんうん。やっぱりこういうのは予定を考えている時が一番楽しい。遠足と一緒だね。
「う~ん、私が口出すことじゃなくない?」
「うん?」
「だって君が自力で発見した物でしょ?パーティの一人だからってあーだこーだ言うべきじゃないよ」
「えー」
う~ん、そうくるか。僕的に、それほど秘匿したいわけでもわざわざ公開したいわけでも無い。ミールィさんの意見を聞いて決めようかと思っていたから、実は困る。
「とりあえず、手に入れる方法が確定してから考えよう」
「適当だね~」
「ま、楽しめば良いかなって。もしかしたら僕達の他にも見つける人がいるかもしれないし」
「いや、無いよ。絶対に無い。君だけだよ」
「?なんでそこまで断言できるのさ?」
「そりゃあ九十九クン?モンスターと言っても見た目は可愛らしいウサギの角をへし折って、その角で息の根を止めるなんて非道な行為を君以外が天文学的な確率で偶然する以外無い、つまりありえないからだよ」
「あっ」
納得した。ええ、物凄く納得しました!
なんかすいません。
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《種族レベルが上がりました》
《S職業:緊縛師のレベルが上がりました》
《『捕縛術』武技の【束凝】を覚えました》
「お?」
いくら殺しただろうか。恐らくスローターと言われるぐらいの勢いで狩って狩って狩りまくった。そのお陰で、レベルも順調に上がって今のでLv.4になり、『捕縛術』の新しい武技まで覚えてしまった。
そこでメインジョブの『槌術』じゃないんだとか言わない!しょうがないじゃん!武技使いにくいし、最近だと頸折った方がダメージ効率良いし。ま、それでも出来るだけ使うようにしてはいるから捕縛術とのレベル差も1だけだ。
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名前:九十九
種族:蒼鱗族 Lv.4 (↑1)
職業:槌使い Lv.3
S職業:緊縛師 Lv.4 (↑1)
HP 310/310
MP 250/250
STR 20 (↑2+1)
VIT 8 (↑1)
AGI 20 (↑2+1)
INT 2
MIN 6
DEX 13 (↑1+1)
LUC 11 (↑1)
SP 0
〔スキル〕
『槌術 Lv.7』『捕縛術 Lv.8』『強打 Lv.8』『鑑定 Lv.4』『ダッシュ Lv.6』『投擲 Lv.4』『蹴り Lv.8』
〔称号〕
無し
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「これで……10個か」
「もう十分だよね?」
「うん」
狩りをして数時間。太陽は既に真上に昇っている。
あの後、ウサギだけでなく牙犬もといファングドッグや野良猫もといワイルドキャットなんかも、呪いアイテムを手に入れる為に工夫を凝らして殺していった。
今では、各種最低10個はあるはずだ。
ファングドッグは牙だ。
まず、【拘縛】で縛り上げて地面に押さえつけ、頸に踵落としを決める。最初は上手くいかなかったが、落とす場所さえはっきりすれば結構簡単な方だった。世間で所謂、プロと呼ばれる人たちなら動いている相手にも的確に急所に当てることも可能なのだろうが、僕にそれほどの技量も経験も無い。縛ってないと結構難しいよ、これ。
頸折りでHPは最低半分以上削れる。そして、HP全快時では決して一撃死は出来ない。これは絶対というかそういう仕様らしい。魔法では一撃死出来るのに。モンスターだから?生物としての肉体構造がリアルと少し違うのかもしれない。
HPを大体削ると、牙を取る。頸を折ったからか噛み付いてこようとはしないので、楽に取れる。「キャウゥ~ン!」と、取ろうとすると怯えというか懇願の声を出してくるが、無視するのが大事だ。ミールィさんは「あ~あ~聞こえない~」と耳を押さえていた。聞かなかったことにしてあげた。
そして最後。その牙でかつての持ち主を殺すのだが、ここで大事なのが直接的に殺してはいけないということだ。
僕達も最初、意味が分からなかった。ウサギを上手く殺さないと、角は死ぬのと一緒に消えるので、歯痒く思いながらも試行錯誤し、ようやく入手方法を確立させた。
継続ダメージで止めを差すのだ。継続ダメージとは?AWOでは毒等の状態異常によるHPの減少か、刺突系の武器が対象に刺さり続けること等で起こる。
道理で、僕が手に入れた時のウサギは、すぐに消えなかったわけだ。あれはHPが僅か数ドット残っていたから、そして角を突き刺した状態で放置されて継続ダメージが発生。死亡したというわけだ。
はっきり言って、面倒臭い。生きている内に肉体の一部を剥ぎ取らないといけないし、継続ダメージで止めを差さないといけないからHP管理も重要となる。それでいて、得られるアイテムは同系列のモンスターに特効を持つ扱いに困る武器。
ちなみに、ウサギの角は投擲武器だったが、イヌの牙とネコの爪は暗器、トリの嘴は投擲武器だった。ステップスクウォールとか言うリスもいたが、外見を見る限り尻尾ぐらいしか可能性がありそうなのは無かったから諦めた。ゴブリンは無理だった。以上。
投擲武器とか暗器とか、色物プレイする人にしか需要が無さそうで、それを鑑みてもこれは今のところは有益な情報にはならないと思う。
でも、この先はどうか。分からない。分からないから、とりあえず隠しとこうそうしよう。
「というわけで、この情報は僕達の秘密ということで」
「何がというわけ?」
「かくかくしかじか」
「OK、OK。さては君ケンカ売ってるな?」
「今なら特売セール実施中です」
「よっし、君の頭でスイカ割りをしてあげよう。リクエストがあるなら聞くよ?【アイスボール】と【アイスボール】と【アイスボール】だ。夏にぴったりだね。好きなものを選びんしゃい」
「街で2000ジル使い放題」
「低い。6000ジル」
「高過ぎだよ、3000」
「頭ぶち抜くよ?5000」
「4000。これ以上は流石に……」
「私はスキルブックでも良いんだよ?4800」
「んぐぅ。……4500、これが限界」
「交渉成立」
と、特に意味の無い会話を交わす。こんな風な、ちょっと頭良さげな交渉的な会話をすると、自分の頭が実際に良くなった気がするのは、誰でもあると思う。だから、これはただの遊びで意味は皆無に等しい。僕の冗談に、ミールィさんが付き合った結果だ。
街に戻ったら4500ジルぐらいは別に使って良いけどね。午前中だけで多分昨日の3倍ぐらい稼いだし。
「えっと……なんの話してたんだっけ?」
「いや、だから呪いアイテムの情報をどうするかって話でしょうは。九十九クン忘れるとか……若年性健忘症?」
「痴呆呼びは止めてよ」
ミールィさんに、僕の思ったことというか、“この先のことを考えて隠しとこうぜ、ばらしてもメリット無いし”ということを伝えた。ミールィさんは「ふーん」とそれだけだったけど、まあ大丈夫でしょう。
「昼ご飯を食べる場所探そうか」
「そうだね。何買ったっけ?」
「アンガーバードの照り焼きサンド」
「……早く食べよう」
「そうだね」
食欲に忠実だね。まあ僕も早く食べたいから頑張って探すけどさ!




