今後の為の節約術
AWOではスキルを取得する方法は、一般的に二通りあると言われている。
ひとつはプレイヤーの行動によって経験値が溜まり、一定以上に達すると、取得出来るようになるというもの。
もうひとつは、NPCの経営する店等でスキルブックを入手し、それを使ってスキルを取得するというものだ。
この二通りの方法はそれぞれメリット、デメリットがある。
前者では、時間以外は何も消費しないという点だ。経験値は、プレイヤーが目にすることは出来ない。だから、プレイヤーはスキルが取得可能になるまで、ひたすら経験値を貯めるしかない。逆に言えば、誰でも時間さえかければ全てのスキルを自力で取得することも可能であるということだ。ただし、スキルは種族やジョブによって、取得のしやすさ、しづらさが変わってくる。例えば、種族が兎人族の場合、『跳躍』や『蹴り』等の足に関するスキルの取得に補正がかかる。
だから、最初のスキル選択は、とても重要であると言える。ノーコストでどんなスキルでも5つまで選べるというのは、とてつもなく貴重だ。
「…………」
後者のメリットは、なんと言っても取得時間の短さだ。まだスキルブックなるものを手に入れていないので分からないが、一応は読むことでスキルを取得出来るらしい。スキルブックの中身はそのスキルに関するフレーバーテキストのようなものだそうで、斜め読みでも最後のページまで見れば、スキルブックは燃え上がって無くなるらしい。
使い回しは禁止ということか。
この方法のデメリットはやはりというか、スキルブックは高級品だということだ。一冊だけでも最低一万ジルはするそうで。補助スキル、例えば僕の持つ打撃攻撃に補正をかける『強打』なんかは半値の5000ジルで買えるらしいが、それでも今の全所持金を持ち合わせても買うことは出来ない。
さて長々と話したが、何が言いたいかと言うと今の僕達にはスキルブックなるお高いものはどうやっても手に入れることは出来ないし、自力でなんとかなるなら頑張ろうぜというわけで。
なので、只今スキル取得のための天体観測です。
欲しいスキルは『暗視』。暗い場所でも物が見えるようになるスキルだ。
MMORPGでは、昼と夜でフィールドに出現するモンスターが変わることは、度々ある。今のところ僕達の行動範囲はゴブリンしか出てこない平原だけだが、何かしらの変化があるかもしれない。是非とも狩りにいきたいのだが、僕もミールィさんも、暗闇での行動に適したスキルは一つも持っていない。アイテムで照らす手もあるが、デフォルトで暗視を持っていることの多いゴブリンに先手をとられることが多くなるはずだ。
僕達のパーティは、基本的に攻めのスタイルとでも言うか、僕はともかくミールィさんは紙以下の防御力だ。ゴブリンの一撃で死にかねない。
だから、こちらから相手を見つけるための目が必要、ということだ。
現在の時間は夜の3時、外はまだ日も昇っていない。ついさっき再ログインをして、横たわる幼女の姿を視界の端に捉えた。どうやらまだミールィさんはログインしていないそうなので、経験値を貯めておこうと窓を開けて、備え付けのイスを近くに運び、座って星と月の光る夜空をじっと見上げる。
その体勢をぼけーっと一時間ぐらい維持していた時。
《フレンドのミールィがログインしました》
「お?」
こんなシステムメッセージが頭に流れる。
振り向けば、丁度ベッドから起き上がったミールィさんと目が合う。
「おっす」
「ども」
簡単に挨拶を交わすと、疑問そうなミールィさんに、『暗視』取得のための天体観測だと言うと、自分もとこちらにとてとてと歩いてくる。
小さな体では大変なので、僕がイスを運び、ミールィさんが座る。大きめのイスにちょこんと座る姿は、なんだか可笑しくて少し笑ってしまった。
***********
「へ~ここが……」
「『カブラの森』かぁ……」
思わず言葉を漏らす僕達の目の前には、鬱蒼とした木々が広がっている。
ゴブリン平原(適当)を昨日と同じ、幼女を背中に縄で括り付けるスタイルで北に駆け抜け、着いたのがここ。『カブラの森』だ。
どうでも良いことだけど、今日はダメージを与えず縛ることが出来た。最初にしようとした時は、強く縛り過ぎて地味にミールィさんのHPが削れてたから……。
何故ここに来ているのかと言えば、レベル上げ兼探索だ。ウィキにもある程度情報が上がっていたけど、自分で見たいからね。そう思い行動したのが、朝の7時。平原をゴブリンを狩りながら1時間ほどで踏破し、現在8時頃になる。
あ、『暗視』はとることは出来なかったです。経験値は結構稼いだとは思うけど、まだだったらしい。急ぐわけでもないから別に良いさ。
「んじゃ、出発進行ー」
「おー」
背中からの声に応えつつ、森へと入って行く。
さて、強いやつは来るかな?
森に入って10分。未だに入り口近くをうろうろしてます。何故って?薬草が採れるからだよ!
レベルを上げるためにそこら辺の雑草にも鑑定を使っていたら、見つかる見つかる。
「そーれそーれ」
「ほーれほーれ」
「やんややんや~」
「えいさほいさ~」
暇潰しに口からこぼれる謎の掛け声とともに、見た目完全ヨモギの薬草を採集し、アイテムボックスに収納していく。……ヨモギて。そこはもうちょいファンタジー感だそうよ運営さん?
気分は田舎の山村に住む老人だ。もしくは地方でスローライフを送る青年。どっちにしても、背中にダークエルフで神官服の幼女を背負っていないと思うけどね!
ちなみに、ミールィさんには採集はさせない。何故ならこの人DEXが0なんですもの。試しに背中から下ろしてやらせてみると、まだそこいらの剣士にでもやらせた方がマシだと思うような惨々たる結果になった。
ミールィさんもその結果は中々堪えたらしく、がくりと肩を落としていた。その姿が見た目と合わない、社会の荒波に疲れた大人の哀愁を漂わせていて、思わず頭を撫でてしまったのは仕方ないことなのだと思う。……思うよね?
さて、というわけで採集だ。何がというわけだ?金だ!
ウィキで知ったが、今は薬草が高値で売れるらしい。それなら逃す手は無い。
ここら辺一帯狩り尽くしてやろう。そして、売ったお金で色々買いたい。本当、色々。
あぁ、楽しみだなぁ……。
「ふ、ふふ、ふふふふふふ……」
「ツクモクン怖い、怖いよお……!」
おっと、声が漏れたか。
にしても人の笑い声を聞いて背中でぷるぷるとし出すとか、失礼だよ?
文句を言ってやろうと口を開こうとしたその瞬間、前方左斜め先からがさがさと、何かが動いたと思われる音が響く。
「……!」
「…………」
反射的に、警戒体勢をとる。さあ、何が来る、と身構える現れたのは───
「ゴブギァ?」
ゴブリンだった。
「「お前かよ!!」」
そこは別の奴来いよ!いや、マジで。




