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僕と彼女のVRMMO記(旧題:AWO、始めます)  作者: 炬燵ミカン
鱗男と魔法幼女
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夏休みに入りまして

 初投稿です。よろしくお願いします。

 

「はい、それでは。さようなら~」


『さようなら~!』


 先生の挨拶に声を返すと、クラスメイトは三々五々にワイワイと帰宅の準備を始める。その喧騒は、いつもよりも大きい。なにせ、明日から夏休みだ。当然、僕も心が浮きだっている。まあ、僕が楽しみなのは今日から始めるゲームの方だけど。


 隣の席の友人とこれからの予定をたてるクラスメイトを尻目に僕は教室を、一足先に後にする。


「フンフフ~ン……っとと!」


 危ない危ない。気が急いていたのか、階段を踏み外しかけた。ゲームをやる前に怪我とか、幸先悪いし気を付けなければ。

 今度は、一段ずつ、気を付けて歩く。三つ……二つ……一つ……着地!イエーイ!

 ……はい、深呼吸深呼吸。クールダウンだ。今から楽しみにしていても、まだまだ時間がある。なんたって、配信開始が今日の24時。今日は終業式で昼前に終わったので、まだ12時間以上も時間がある。家に帰ったら昼ご飯を食べて8時ぐらいまで寝るつもりだ。今日は徹夜ですよ!


「……お?」


 これからのゲーム予定を考えて一人ニマニマと、自分でも分かるぐらい気色悪い笑みを浮かべていると、視界の端に動く物を捉える。なんぞや?と目で追えばさ、らりと風に揺れる艶やかな長い黒髪とうちの高校の女子の制服の背中を見付ける。

 女の人?気になったのでちょっと追いかけてみる。

 僕がいたのはすでに下駄箱の前。靴に履き替え、建物の陰に隠れた女生徒の姿を追う。


 女生徒の姿は、すぐに見つけることが出来た。方向を確認してもしやと思ったが、予想どうりだった。

 相対する二人の男女。

 告白だ!

 方向的に体育館裏だったからまさかと思ったけど、今時こんな場所で告白する人がいるとは……。


「……」


 僕は無言で、建物の陰から様子を見守る。……え?立ち去らないのかって?他人のこういうシチュエーションって、見る分には結構面白いよね。自分がされたら普通に嫌だけど。


 黒髪ロングの少女はこちらに背を向けているので、顔は見えないが美人の雰囲気を感じる。立ち方とか、背中から見える体型とかからだが。昔、と言うほど前では無いが、女性の立ち姿から美人度を計測する、と言う意味も価値も地層を掘り返しても見出だせなさそうな特技を伝授された影響だ。フィスフィスさん、あなたに教えられた背面美人スカウターが今日初めて役に立ちそうですよ。


 その少女に今から告白しようとしているのは、僕よりも幾らか年上と思われる男子。あの顔は……生徒会長、だったかな?先輩で接する機会がまず無いので、顔も名前もうろ覚えだ。荒木だったか藤木だったか……。生徒会長になるだけあって、中々のイケメンさんだ。生徒会長って基本人気投票みたいなものだからな。


「ーーーー」


 何やら言葉を交わしているようだが、距離があって聞こえない。でも、雰囲気はなんとなく分かる。黒木先輩が少女に何か話しかけるが、少女は首を横に振るばかり。どうやらなんとか木先輩のアプローチはあまり芳しくはないようだ。

 そして、少女が何やら言ったようで、なんとか木先輩は目に薄く涙を浮かべながらがくりと項垂れた。玉砕で間違い無いっぽい。


「さて、と」


 二人がこちらに来る前にさっさと撤退することにしよう。対面すると気まずい思いしか感じないのは目に見えている。青春の風も存分に味わったことだしね。僕は電脳の青春へと進もうじゃないか。

 そうして僕は、気分良く校門をくぐるのだった。



 目の前を黒猫が通りました!怖っ!


***


 Another World Online。通称、AWO。

 このVRMMORPGが世に認知されたのが、今から半年ほど前。

 今までのVRゲームの常識を越えたリアリティーを題目に掲げ、世界初の思考加速システムを取り入れたそのゲームは、たちまち知らぬ者はいないほどに知名度を上げた。


 思考加速システム。いわば、○神と時の部屋なわけだが、今までその技術は開発されはしたものの、一般に普及することは無かった。医療関係や軍事関係で引っ張りだこな人気者なので、仕方ないのかもしれない。それでも、僕達ゲーマーとすれば思考加速システムは是非欲しい。とてつもなく欲しい。


 だから、それがゲームに、しかも今まで以上にリアリティーのあるVRゲームに適用されたとなれば、それはもう大騒ぎだ。3月に応募され、4月から1ヶ月間あったβテストには、規定人数である1000人を大幅に越えた15万人、倍率150倍と言う驚異の数値を叩き出した。

 ちなみに、僕も応募したけど、やっぱりというか当然というか落選した。残念。


 選ばれた1000人のβテスターは、AWOをプレイし、僕達にAWOのリアリティーと思考加速システムの素晴らしさ、そしてゲームの面白さをネット越しに教えてくれた。

 プレイヤーの選べる、様々な種族やジョブ、スキル、人間と間違えそうなほど精巧なAIに自由度の高いゲームの世界観等、心を躍らせる魅惑の数々に、僕達ゲーマーだけでなく、今までゲームをしたことの無い人々までも注目した。


 だから、僕は運が良かったのだと思う。βテストには受からなかったが、こうして配信日にログインすることが出来るのだから。



 学校から家に帰って、昼ご飯を食べるとすぐに横になった。ご飯を食べた後すぐに横になると牛になる(太る)と言うけれど、実のところは夜の時だけ。むしろ、昼ご飯を食べた後は横になった方が消化良い、体に良いらしい。でも、八時間は寝すぎ?


 閑話休題。


 起きると、シャワーを浴びて、ご飯を食べて、大小済ませて、ストレッチをしたりして時間を潰した。それでも、一時間ほど時間が余ったので、ネットを覗いてみたら、僕と同じような奴らばっかりで、流れていくスレを眺めている内にサービスの開始10分前、11時50分頃にまでなっていて、慌てて準備を始めた。


 思考加速システムという今までと全く別のものを扱うため、VRゲームの本体。ヘルメット型の接続機を新しく買うことになった。ゲームのディスクと合わせて、8万9800円だった。僕のゲーム用の貯金が吹っ飛びました。はい。

 若干後悔しないでも無かったけど、その分AWOを楽しもうと思う。


 さあ、時間がきた。既に準備は万端。接続機であるヘルメット型の精密機器を被って、ベッドに寝転がっている。

 僕は、電脳の世界へと繋がるための、言葉を呟く。


「コネクトスタート」


 そして、僕の意識は白に沈んでいった。


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