094 おもてみせずに
これを書き始めたときの情熱は、残り火すら見えない状態……賞に送るためなんて不純な理由だったから、当然かもしれませんが。話は嫌いじゃないんですが、命と引き換えにしてもと思うほどの作品ではないので更新順はあとになってしまいますね……。
どうぞ。
やや狭い闘技場で、キューナは法銃を構えた。お互いフル装備――いちばん強い最新の装備で戦おうという話を受けてくれたのだろう、ユキカは恐ろしいほど強力な装備で全身を固めているらしかった。ここ最近きちんと買い物をしていたこともあって、とても充実している。
銀河のような光が揺らめく黒紫のスリップドレス、振り回すことも想定内に入っているのだろうメイスのような杖。これはルグーニオンでの戦いで手に入れた、成長ボス「ネビュラサフィーア」の討伐報酬アイテムだ。
(ずっと目の前で使ってたのに、装備の性能がさっぱり分からなかったんだよね……。まさか聞くわけにもいかないけど、まだあるし)
目を引くのは左右の長さが違うスリップドレスと杖、裾からのぞく左の絶対領域とニーハイにガーターベルト。すごくえろっちいカッコしてるなーとは思うのだが、キューナにも「ダンサー系統は魅力値補正で特技の威力が上がる」という知識がある。舞踊によるバフも強力になり、魔法も強くなる――凄まじい相乗効果だ。
(最新……「絶世瞬撃靴ヘルネキューラ」。名前通りの性能だけど、ふたつしか性能がないだけあって尖りっぷりがすっごい)
黒曜石のようにきらめくハイヒールである。付与されているスキルは「空中浮遊」と「滑天」のみだが、ユキカのようなプレイヤーがそれを持つと「もう勝てる人いないんじゃない?」と思えてしまうくらいには強い。彼女自身は「英魔の人にはこんなの通用しないよ」と笑っていたが、そういう規格外の相手のことを言っているのではない。
(もっとも……なんだよね。わたしのガルもおかしいし)
「キューナ、そろそろいいー?」
「いいよー?」
決闘――対人戦が始まる前から布石は打ってある。そして――やや卑怯だとは思っていたが、エヴェルから事前に情報を聞いていた。
極大威力の魔法攻撃と杖による物理攻撃、異常な戦闘センス。どれを取っても、目の前にいるインドア派クール系ふんにゃり女子とは釣り合わない。えろっちい格好をしているから大胆なことをしそうかな、くらいのもので、とても「将来は手に負えなくなりそうだ」などと言われるような人間ではないのだ。
『決闘、開始!!』
派手な見せ場を作れるほど、キューナに余裕はない。魔法発動の予兆を受けて、全力で飛び退りながらトリガーを引いた。
二つの名を持っていた成長ボスから得られた討伐報酬装備である法銃の弾倉、「透散雨刃ガルクスヴェイザー」。カスタマイズ可能で、一発だけBIMH――トリガーを引くことで魔法を発動する弾丸もどき――の入った拡張性の高い装備だ。BIMHを買って使える魔法を増やしておいたが、弾倉のスペックは撃てる魔法にほとんど関係しない。
「銃、替えたんだね」
「さっすがユキカ。そうだよ」
その理屈は、要するに「上等な銃を持っていればいい」というもの……そして「金さえあれば高位魔法も思いのまま」ということでもある。
魔法切り替え動作で左右の銃から撃つ魔法を別のものに変える。
トリガーを引くだけでダメージが入るというような、戦いというには粗末に過ぎる代物〈サンダー・レイ〉。そしてあの成長ボスが使っていた〈風鳴切刃〉。
――を、撃とうとしたのだが。
「〈グレイシャル・ウォール〉」
どうやら魔法発動を遅延していたらしい。もしくは溜めることで効果を増していたのか、闘技場を分断するようなすさまじい規模の氷の壁が突き立った。
(……魔法の威力も装備効果で上がってるのかな? 投げ出したくなるよね……)
職業「射撃手」は命中率に関するDEXがいちばん高い。ほかに修めている「炎魔術師」「隠密」で魔法の威力に関係するINTや速度に関係するAGIを上げ、隙を減らしている。
おそらく、この壁はおとりだ。消費MPを減らし、MPそのものを大きく引き上げたうえに魔力回復速度を上げ、極限まで消費を抑えている……そんな状況で「大魔法を使った」という事実は、たいした判断材料にならない。
いったん止まり、冷静になる。
(ユキカはたぶん、自分でこれを破る。この量の氷を無駄にするはずない)
とてもインスタントな攻撃方法だ。ものごとはシンプルである方が有効であることも多い、これだけの量の氷が炸裂すれば大ダメージを免れないのは分かり切っている。
「持ち替え、だね」
法銃は魔法使いにとっての強力な武器であり――ひとつの選択肢である。威力を絞った連射であっても、時間あたりのダメージで比べると増えることがある。基礎ダメージと耐性による加算・減算が関係して、時間あたりに多く叩き込んだ方がダメージが上がる、という事実により、法銃は強武器とされている。
(法銃二丁使いがセオリーだけど、数が意味ない、ってなったら二の次。間に合わせの錫杖だけど、ボスドロップ品だけあってわりと強いんだよね)
パルベンテイスからラゾッコへの道中で出くわした「ギガ・ワイズトレント」というボスモンスターを倒した彼女らは、少なからぬアイテムや金銭を手にした。耐久型ウィザードというなかなかに面倒な相手だったが、性質に応じたものを彼女らにもたらしたために「面倒な相手だった」という印象はない。
炎が噴き上がり、氷が砕け散る。火属性単発・中位爆発魔法〈フレア・エクスプロージョン〉――威力や範囲を強化する装備でブーストされたそれは、ちょっとした二階建ての住宅ほどもある氷の壁をちょうどよく爆砕した。
「わー、えげつなーい……」
氷塊を〈サーペント・バーニング〉で迎撃し、ぎりぎりで避けられなかった氷を溶かす。透明の刃散弾が銃口から発射され、いくつかがユキカをかすめた。
(あちゃー、融合スキルがレベル低いからわたしにも見えないんだ、これ。まあ、大した問題じゃないんだけど)
彼女のパーソナルスキルは、狂気じみて便利だ。ユキカは全方向から乱射される刃を、勘で三割ほど回避していた。しかし七割は当たったり防御されたりと成果を残している。もっとも、三割を回避したところで意味はない――三割は七割に混ざる。つまるところ回避不能、十割ヒットするのだから。
「あ、れ? こんなことできたの?」
「消費はおっきいけどねー」
彼女の放つ弾丸は、ある条件を持った空間内で数度反射する。そして、彼女の放つ弾丸は透明な刃散弾であり、ふつうのものよりも威力が高い。避けきれない高威力の弾丸をすさまじいペースで大量に撃ち続けられる――それは、言い換えずとも死の強制であった。
しかし、防御性能が皆無であったとはいえ、そのぶんの攻撃力を持った怪物を相手取り、勝利したユキカのこと。師匠譲りの勘や回避能力は、こちらよりもはるかに上を行くと思ってよい。
「〈突刺花火〉」
手持ち花火のような急激に燃焼する火花が、幾筋も宙を滑った。火属性、範囲妖術だろうか――特技の威力があるとはいえ、カルマ値が減算を受けやすくなるという特性を知ってしまうと〈妖術師〉を習得する気にはなれなかった彼女は、妖術に明るくない。
「あ、やっぱり引っかかった。前に聞いた気がするんだよね、「すなー」君だっけ? 今逃げたの」
「察し良すぎるってばー……」
彼女は、キューナの展開したフィールドの範囲とルールに気付いた。キューナを守るように配置された、微細な粒子で構成される糸のようなもの――網目状でひとつながりであり、焼けることを嫌がって自律的に避けるところを見ると、単なる力場ではない。ユキカの記憶の中には、種族名こそ覚えていないものの「すなー」「ぶつりん」という名前とビジュアルが残っていた。
受け始めてほんの数秒で気付き、対策を持ち出すのに半秒もかかっていない。
(この対応速度だから、ボス戦もいけたんだろうなー。でもでも。すなー、戻って!)
配下である「ウェットサンド・ゴーレム」に指示を出した瞬間、忠誠の厚いかれはぶつりんとの切り替えを提案する。
(違うよ、もうユキカを相手にするには私だけでやるしかないってこと)
残念そうな気持ちが伝わってきたが、従魔二体は納得したようだった。それに、「ウィンド・カナリア」を失ったトラウマを形だけでも繰り返したくはない――たったそれだけのわがままのために負けても、いっこうに構わないと考えるほどである。
「キューナ、めちゃくちゃすぎ!」
「ユキカが言わないの!」
気付かぬものが相手にするならば、キューナの刃弾圏は理不尽そのものであり理解不能な死の強制である。しかし、ユキカは警戒だの対策だの手段だのをまとめて真正面からぶっ潰し、平らにするだけの強さを持っている。レベルはさほど違わないが、あの恐るべきボスモンスターの討伐報酬だけがこれだけの差を生み出しているとは思いがたい。
(普段どんな訓練やってるんだろ、この子)
互いに「受ける」という意識はなく、相手の攻撃は回避あるのみと刻み込まれている。そのうえで最適な場所への攻撃や、回避不能の隙を探るという師匠たちの教えが間違っているとは思わない。
「決めに……行くよ!!」
突然の宣言に、キューナはぎりぎり回避した姿勢からさらに飛びのき、バランスを少し崩す。
「ヤバっ……!?」
いったい何をしたのか――目にも止まらぬ速度で、黒いものが駆け抜けた。ちょうど片足を突き出したキックのような体勢、おそらくはあの靴の特殊効果を活かした攻撃だったのだろう、と思われたが。
「止まれ、ぬゃ――っ!?」
ユキカが崩れた体勢の上をすり抜けた一瞬の後、へそが露わになり髪が吹きちぎられるほどの風が巻き起こった。不安定な姿勢で風に耐えることはできず、彼女は煽られるままに吹き飛ばされ、ほこりのように地面を転がる。恐ろしいほどの爆音とわずかな音が続けて聞こえ、キューナは慌ててそちらへ顔を向ける。
「うぅ……」
「……パンツ丸見えじゃん」
装備品としての等級も相当に高そうな、ユニークハンターさんが見たらいろんな意味で戦慄しそうなシロモノであった。この間のぬいぐるみのような成長ボスの討伐報酬なのだろう、色がほとんど同じだ。ユニークハンターことエヴェルは「また素材だったよ」と悲しげにつぶやいていたので、ユキカって恵まれすぎてて恨み買いそうだなーと完全に他人事になっているキューナもさすがに共感せざるを得なかった。
(あの人、ほんと装備運ないもんねー……とか言ってる場合じゃなくて)
足が折れ、HPも一割ほどしかない。
「倒すね」
「きゅう……」
スピードについていけず目を回してしまったたらしいユキカに魔法を撃ちこみ、気持ちのいいものではなかったものの、キューナは勝利した。
「ねえ、最後なにしようとしたの?」
「いまレベル上げてる〈剣舞乙女〉って、武器で攻撃しながら自己バフかけるからSTRも上がるんだ」
なら切り込めばいいのにと突っ込みたくなったが、ユキカは続ける。
「それとあの靴なんだけど、消費するMPを多くしたら速度が上がるみたいでさ。かっこよくキックしようと思ったんだけど、全然言うこと聞かなかった。やっぱ、ぶっつけ本番ってダメだね」
「そだね」
練習に付き合わされるのかと思ったが、ユキカは「ちょっと危なそうだし一人で練習してくる」と言って駆け出していった。
「だいじょーぶなのかなぁ……」
友達としていつもつるんでいる三人の中では飛び抜けて強く、凄まじく強い装備も持っているため負けるところは想像しにくい。それでも心配はしてしまうのが友人というものである。
「ほんとにすごいクエストに出くわしたら連絡とかしてって言ってあるし、大丈夫だよね……」
ここのところ平穏だったので、そろそろ大きな何かが起きてもおかしくはない――そう考えたところで、現実からのメールが入った。
『今夜もことを構える予定だ。内部では張り付いていてほしい』
「了解」
上司の言うことは、決して無茶振りというわけではない。
「メッセージ飛ばせば、まだ間に合うよね」
死の危険を冒すことに比べれば、友達と一緒にいるというだけの……絵面は平和そのものの光景は、任務とも呼べないものなのだから。
弟が「生きる意味って何だろう」と悩んでいるようで、ちょっと困っています。自殺未遂に二回失敗した身としては「生きようと思ってる方が死ぬ」とか、クソ以下のアドバイスしかできないんですよねー……。
未来は時間だから存在していますけど、「希望をつかめるかどうかは自分次第」(=やってきたこと、今やってることの結果はいずれ出るからそれまで待て)みたいな、これまたゴミカスなきれいごとしか言えない。その結果がいま出てほしいってのが彼の言いたいことなんでしょうね、きっと。なろうじゃないんだから、すぐ出る結果なんてろくなもんじゃないんですが……。




