093 いま、道は暖かく
お待たせしてすみません、やっと投稿できる……。
どうぞ。
様子がおかしいなとは思っていたけど、わりとちらちら見ていた水着からも目をそらしていた橋川は、それっきり考えることに集中してしまったようだった。
「なー樫原さん、正直なとこ……橋川とはどうなのよ」
「仲良しかなー……」
国富はぐいぐい来るけど、失礼なほどじゃない。距離を保っていれば、ふつうの男子としてそこそこ話せるほうだ。
「そっか。いや、わりかしお似合いな二人じゃん? クラスじゃもう確定みたいになってるんだよな。順川のこともあるし、あれで仲深めたんだろーなぁってさ」
「ううん、別に」
あれは、そういう感じではなかった。邪魔する相手がいなくなったから仲が深まったっていうのは、あるにはあるんだろう。でも、思ったよりそうでもない。
「ふー、そっか……そうなんだなぁ」
「どしたの。また橋川狙いいるの?」
「逆、逆。ほんと無自覚だな」
「あー、メアの方かと思った。名前出してたし」
そんなに鈍い方じゃないから、気が付いた。
「なんかね、うーん……国富はちょっと信頼できる方だし、話してもいいかなぁ。すごく変な話なんだけど、聞いてくれる?」
「おっけー? なになに」
あんまり深いところまで話すつもりはなかったけど、ちょっと吐き出すくらいの気分で、中学生のときにあったことを言うことにした。……思いっきり話題を逸らしてるけど、男子はごまかされてくれるからいいだろう。
中学校のとき、クラスの五人グループの一人だった。ちっちゃい子が中心で、なんか絶望的なことばっかり言う子とか、ふつうの子もいたけど、なじんでいた。私もそんなに変な方じゃないし、中学のときは今より柔らかい感じだったと思う。
「だろうねぇ」
「でしょ」
かなりおとなしい子が彼氏を連れてきて――けっこう、トラブルになった。
「トラブルってなに? 男の取り合い?」
「やだよそんなの。違う、なんかね……そいつがさ、グループ全員を持ってる感じになっちゃって。仲間とか連れてきて、不良っぽいグループになっちゃって」
「うわ、えっぐいな」
「大変だったよー、下ネタのからかいとかめっちゃめんどくさいし」
最低じゃんかそれ、と国富が言うとおりだった。
自慢じゃない――というか、この場合マイナスに働いていたんだけど、私はそのときからだいぶふっくらしていて、胸も大きかった。何カップあるのとか毎日のように聞かれてたし、冗談に見せかけてスカートをめくられそうになったこともある。ずいぶんイライラが溜まっていたし、毎日何をされるかと気が気じゃなかった。幸いそういうことにはならなかったけど、一緒に出かけてしまったらもうアウトだったと思う。
「なにが?」
「――――」
聞くのか。
「あ、さーせん許して」
「それ自体もう、立ち位置決めちゃうじゃん」
あ、そっちねと国富が笑った。こいつ殴りたい。
男子が三人……あれと一緒だとクラス内で決まったら、もうどうにもならない。あとは次々呼び込んで、カスの見本市だ。一緒にいる女子なんて人扱いされないに違いない。
「でもさ、その子が彼氏をきっぱりフったのきっかけに、三人ともいなくなったんだよね。なんかやらかして矯正院に入ったみたいで」
「へー、強制院にねぇ……」
だったらまだ出てないだーろなぁ、と国富はごまかすように苦笑した。
「不思議なのはさ……ね、わかる?」
「なにが……? いや、ぜんぜん」
「名前」
「名前て。どうゆ――あ、え、……えマジ?」
橋川と同レベルで察しがいい。
「思い出はあるし、顔も覚えてるし仲良かったんだけど……ね? 名前が出てこなくって。なんかおかしいんだけど、どこがおかしいのかとかよくわかんなくて」
ちっちゃい子、絶望してる子、おとなしい子、ふつうの子、そして私。
五人いる――でも、名前が思い出せない。
「ねえ橋川。なんで、聞いてないふりしてるの?」
「へ? 橋川、そんなことしてたのかよ!?」
衝撃を受けたというか、なんだか、あってはならないことが起きたような顔をしていた。でも、橋川の耳に報せが入っているとかいうふうには見えない。プールのほうを見てもいないから、それも違う。私の話を耳に入れていて、その中におかしなことがあったのだろう。
「……覚えてないだろうけど、そのときに対応をしたのは僕だから」
「え、ほんと?」
それならもっと早く言ってくれればいいのに――と言いたくなったけど、それよりも気になったことがある。
「ねえ橋川、じゃあさ……私たち五人の名前、憶えてる?」
「いや。これに限っては嘘じゃないよ、ほんとうに聞いてなかったからね」
そもそもだけど、と橋川は苦笑する。
「卒業アルバムでも見れば、自分が仲良しだった人もある程度わかるよね? 遠足のときの写真に一緒に写ってるとかさ。僕に聞くまでもないよ」
言われてみればその通りだ――というか、当たり前にもほどがある。
「大丈夫、きっとすぐわかるよ」
橋川がこうも分かりにくく嘘をつくなんて珍しいな――と、私は思った。それくらい真面目ないつも通りの顔で、目にだけかすかな疑いを浮かべながら、いかにも信用できそうな顔をしている。
腑に落ちないまま、体育の時間は終わった。
「見てたぞー……? こいつめ、モテモテか!」
「違うよ?」
ユミナがカッターシャツの前を開けたまま襲いかかってきた。
「こいつか、こいつのせいか!?」
「もう……ぷるぷるするからやめて」
鎖骨のちょっと下あたりをつんつんしまくっている。私もボタンをとめる前だから、胸がぷるぷると細かく振動していてちょっと気持ち悪い。
着替えの時間にあれこれと言われたりつつかれるのは、中学のころからあった。今のほうが友達も素直だから、周りの目もおだやかだ。またやってるなーとか困ったもんだなぁみたいな、いつもの感じだよねという雰囲気だった。
「二人とも、早く着替えてください」
シャツにかっこよく袖を通したところのメアが言ったけど、逆効果だったらしい。
「私もがんばってるのに……えいっ」
「にゃいっ!?」
メアは背中が弱くて、つつかれると変な声を出してくにゃっと折れる。
「よしよし……ちょっとは落ち着くでしょ」
「むー……むぅ」
胸どうしぴったりくっつける。ものすごく暑苦しいんだけど、とりあえず落ち着かせておいてこっちへの飛び火を防ぎたい。絡みだすと酔っぱらいみたいになるので、まずは落ち着かせるのが先決だ。
「こらそこの三人娘、早く着替えなさーい。男子入れちゃうぞ」
「あ、すいません」
そうだよね、男子が入ってくるよね……と思いつつちゃっと着替える。見られて減るものじゃないよね、という無神経なことを言う人はいるけど、減るものはある。分かってない人はほんとに困る。
着替え終わって、ユミナはまだうだうだ言っていた。
「むーぅ……」
正直、ユミナの方がモテていると思う。クラスでいちばんかもしれないくらいよく男子と話しているし、私のようにかなり浮いたメンバーよりもクラスになじんでいるから、みんなに好かれているんじゃないだろうか。
「なんでそうこだわるかなぁ」
「こだわりがあるから人生なの!」
「ごめん、意味分かんない」
まあ「邪魔だ」とか言い出したりはしないし、むしろいらないとかいうことはない。運動する人なら思うかもしれないけど、私はインドア派だし動きもおとなしいから激しい揺れなんて経験したこともなかった……ゲーム内だとちょっとあるかもしれない。
「腰とかほっそりしてるし、いいよね?」
「ユミナさんはすごくいいバランスなんですよ?」
メアの怨念がユミナにぐにゅるりとまとわりついている。
「へにゃい……やめで、いきできない」
「メア、過激なのはダメ」
全員が一長一短だと思うから、ユミナが一番好きな人も多いはずだ。私が一番好きな人はあんまり思い当たらない……ちゃんと考えてみるとちょっと心当たりはあるけど。
「私、ゲームの話したかったんだけど……」
「あ、そうだったの?」
ユミナが余計なことするから、帰りの時間になってしまった……あれ、でも話すにはちょうどいいような気がする。
「どうせだし、帰りながら話そうよ」
「そうですよね、そういうのってあんまりないですし」
「だよね……あれ、これってゆのんのせい?」
「あ、ごめん……」
私は用事があるけどカラオケ行ってから帰るなら、と二人を放っていったり男子と帰っていたりしたからなんとなく放っておこう的雰囲気があったかもしれない。あったと思うし、ない方がおかしい――私のせいで間違いない。悪いことをしたな、という気分になった。
「まあ、クラスでもゆのんはレアキャラになってるし……」
「え、ほんとに?」
「昼休みとかいないじゃん」
「あ、そうだっけ」
こうしてみると、クラスから浮いていても仕方ないというか、浮かない方がおかしいような気がしてきた。いないんだからしょうがない。
「それより! ゲームの話だってば」
「あ、うん」
手に入れた装備の性能がよく分からなかったから、連携の確認も交えてしっかり試してみよう――と思っていたけど、数日間かけて狩りをしながらパルベンテイスに戻ったり、その狩りでレベルが上がって「剣舞乙女」に転職できたり、いろんなことがあって実験はできていなかった。先生の名前は相変わらず見えないままだし、魔法はかなり強化されたとか物理も使えるとか、そういうことだけわかってもしょうがない。
「あのあたりの森にさ、大きめのボスがいるんだ。けっこう強いけど」
「ふーん。試し撃ちにちょうどいいかも」
下駄箱から靴を出しながら、今日の予定を考えた。
「もうちょっと奥に行ってみたり、ダンジョンとか攻略するのもいいかも」
「ちょっと法銃のメンテナンスに行きたいなー……ガルを装填しても大丈夫かどうか、見てもらわなきゃなんだよね」
「そういえばまだ使っていませんでしたからね。妥当です」
メアは邪魔な草木を払うときに例のナイフを使っていたみたいだし、私も杖はそれなりに使えるなぁと思っている。ふつうの使い方ばかりだから、ボス相手に特殊な魔法がどのくらい使えるかを知りたい。
「ユミナはメンテナンスって誰にしてもらってるの?」
「え? ……えっと、フェスタさんって人だよ?」
「なんか反応が変なんだけど」
「鈍いですね結乃さん」
……なんか変な流れになってる気がする。
「探ったつもりとかなかったんだけど……」
「あ、ならいいんだけど! エヴェルさんとは最近どう?」
「やっぱそういう話なんだ……?」
「いいじゃん、私のことは」
あんまりよくないけど。
「防衛からずっと会えてないかな……でも、報酬装備を使いこなせるようになってから会うのがいいんじゃないかなって思ってるから。強くならなきゃって言われたし」
「ふむふむ。それでそれで?」
「あ、そういえば……」
マントをまだ返してなかったのを思い出した。
「マント、まだ返してないなぁ」
「あのマント? そういえばなんでマント羽織ってたの?」
あ、ヤバい。
「え、っと……ボスと戦ってたら」
「たら?」
「攻撃が想像以上にヤバくて。地形とかめちゃくちゃで」
「それ死ぬんじゃ……」
「光魔法だったから、服が燃え――あ」
「……耐火性に性能を割いた服だったはずですけど」
ユミナが「裸見られちゃったの?」と直球すぎる聞き方をした。
「……うん」
「うわー……うわぉ」
この子らしくないローテンションだ。でも、この場合はありがたい。通学路だし、変に大声で話されるよりはダウナーするほうがいい。
「これもうメインヒロインだよ……」
「エヴェルさん周辺の女性は誰かいるんですか?」
「テュロさんと……あれ、思いつかない」
「いないの?」
英魔にはレェムちゃんとテュロさん、グリローザさんがいるけど……レェムちゃんはあの無敵のディーロさんとべったり、テュロさんは配下を強くするのに躍起になっている。グリローザさんは確か、リアルでもゲームでも付き人さんといちゃいちゃしているらしい。やっぱり女の気配はないんじゃないだろうか。
「ぜんぜんいないと思う」
「もうちょっとビブラートに包んでもいいんじゃない?」
「え?」
「オブラートですね」
思わず吹き出してしまった。
「ちょ、もう……なんで素でそんな間違うの」
「ぼ、ボケただけだよ? ボケただけだもん」
「うん、ふぅ……ふふ」
「こいつぅ……ほっぺたむにってやる!」
笑いをこらえようと思ったけど、ほっぺたが言うことを聞かなくて端っこから空気が噴き出してしまった。素直に笑っただけなんだけど、ユミナはほっぺたをむにっと引っ張る。
「今夜はたっっぷり付き合ってもらうからね? 絶対勝つ」
「望むところだよ、ユミナ」
次回はたぶんユキカVSキューナになるはず。同等の力を持つ相手との対人戦は初めてかもしれぬ。
ユキカはメインヒロイン……「女の子主人公」って意味でのヒロインでもあり、「彼ら」に守られる立場のヒロインでもあります。むしろ逆ハー的なアレのヒロインかもしれないくらいにはヒロイン。ゲシュタルト崩壊してきたな。




