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043 一文字のタイプミス

 今日は下ネタ多め……多すぎ。男の子視点なのでくっだらねーこともたくさん。


 どうぞ。

 俺の名前を言う前に、愚痴を言わせてほしい。


 アーグ・オンラインはいろいろと規制が緩すぎる。成人ならやることがやれるし、NPCが経営する大人のお店もある。子供にだって殺人はできるわ詐欺もできるわ、ルールに則っていればやりたい放題だ。


 そうそう、ゲームならばまず付いている機能がちょっとゆるいのもある。何だか分かるかって聞いても、当たり前すぎて気付かないだろうな。……いつもやろうとしてる馬鹿どもは別だけど。


 ……たとえばだ。キャラクリエイトのとき、「キャラクター・ネーム」欄に「ち*こ」って打ち込んでみたとする。いや、「ぼっき」でも、「おしっこ」でもいい。男関連ばかりだとアレだが、「おっぱい」でも「ま*こ」でも同じことが起きるだろう。そう、そういうことだよ。必ず出るよな、「その名前は使うことができません」。


 まあネットスラングでも同じことが起きるはずだ。「*獣先輩」「ゆがみねえな」なんかでもたぶん。ところが、これには抜け道が存在する。


 例を挙げてみようか……「セーキ」って何だっけ? ミルクセーキとか……音は「性器」と一緒だが、下ネタじゃないな。加えて、あ、「くわえて」とかもかなりアレなニュアンスは感じられても、違うものは違う。この前倒した「ティムポンコ」も、「ティムポ」と「*んこ」を切り貼りしてくっつけた名前だ。……どっちなんだろうな。


 直接そう読めないものも、意味が違うものもこの中に入っている。「万古」って書かれても読み方はひとつしかないが、読みをこれに設定しなきゃ……よろずふるにでもしとけば、名前として成立できる。つづりをちょっと変えるのもアリだ。「penis’e」と書いてあって、ペニセですと主張したらそうなってしまう。表したいものはすぐわかるのにな。


 あ、分かったのか……。そうなんだよ。かっこいい名前が、紙一重でとんでもないものに変わるときはある。俺はたまたまそういうことに出くわして、大変な目に遭っている。ずっと名前を隠すのも面倒だし、そもそもなんて呼べばいいか分からないもんな。


[Vijor Unkown]


 俺の名前のつづりはこうだ。


 誰だ、ローマ字読みしたのは? 名前を言え、今すぐでも殺す。


 何かが足りないんじゃないかって言ってくれたやつ、ナイスだ。


 そうなんだよ……。「アンノウン」だったんだ、当初の予定は。かっこいいだろ? そう思って超高速で打ち込んだ……それが失敗だった。確認もせず、キャラクリエイト画面を終えて即フィールドに狩りに出た。わりと平和な時代に初ログインだったから、狩られることこそなかったんだが……ステータス情報を確認した俺の驚きを、察してくれるよな?


 あいつらはこういった――


 友達だと思っていたあいつらが、俺の名前を呼んだ第一声が。



 ◇



「ビジョー……?」

「ビヨールだよ」


「……で、下の名前はウンコウン?」

「ちっげーよアンコーンだよ!!」


 颯爽とスタイリッシュに舞い降りた紫の怪人が人間に変身した光景を見ても、予備知識のある彼らはさっぱり驚かなかった。だが、リアルの友人が初めてログインしたというときにも実名を伏せようとするのは失礼だという流れになり、彼は絶対に隠していたかった自分の失態を明るみに出すことになってしまう。


「ビヨール・アンコーンだ! ぜったい間違えんなよな!」

「い、いや、でもさぁ……ぷぶッ、うんこ……」


 四人の仲間の中でも、木村は特にデリカシーがない。共有されている事実であるだけに名前を伏せていようとしたのに、小崎が「まあ、そこは知っときたいし?」と言ってしまったこともある。


「だいたいお前の「ムラムラチオン」って何だよ!? そっちだっておかしいだろ」

「これはあからさまにネタじゃん……え、真剣にやってそれってさぁ? いや悪い、ぶっ」


 常識人の山本が「おい、いい加減にしとけよ!」と怒り出すが、ビヨールこと小波はスパークを放って戦闘形態へと変化し「もういい」とひどく低い声を出してから、跳躍して消えていった。


「おまえ、友達になに言ってんだよ!? 笑えりゃそれでいいのか、え!?」

「うんこ……ぶほぉ」


 笑い転げている木村は、そんな言葉など耳に入れていなかった。


「あのさぁ……」


 色黒、海パン一丁の男が、目の前に立っていた。


「まあ、多少(のネタ性)は(あるかもしれないけど)ね?」

「そうですよね、もうちょっと言ってやってくださいよ!」


「でもやりすぎィ!」

「ひっ!?」


 男は、ムラムラチオンに肉薄する。


「うちさぁ、訓練場あんだけど……鍛えてかない?」

「やりますねぇ(呼応)」


 ムラムラチオンは、五センチほどの距離にある男の顔をじっと見ざるを得ない。男の顔は迫真としか表せないほどの凄まじい気迫を放っていた。


「おまえこれチラチラ見てるだろ」

「み、見てませんよ」


「嘘つけ絶対見てたゾ(論より証拠)」

「いや、その距離で見ないのは逆に無理では」


「そうだよ(便乗)」


 別にいいけど、と男は突然態度を改める。


「サーッ(迫真)」

「なんですかその粉」


「砂金」


 男は、突然光り輝く粉をぶちまけた。


「えっ、くれるんすか!」

「あげるとは言ってない(鬼畜)。でも拾うならいいんじゃないかな」


「あざーっす!」

「おい木む、ムラムラチオン……!」


 光る粉を集めて、「なんか入れものない?」と言っていた木村が急に横に倒れた。


「……(野獣の眼光)」

「な、なにしたんですか!?」


「特には何も……なんてウソだよ。これが砂金? そう思うかな」

「まさか……?」


 レベルがまだ1ではあるが、山本こと「タイサン・ベータ」は鑑定スキルを使った。


「いくらなんでも……(街中で痺れ薬は)まずいですよ!」


「あのさぁ……VRだからって何でもやっていいわけじゃないんだよね。あげるとも言ってないアイテムを拾っちゃうとかはまあ、(善意に基づいたものなら)多少は(いいかもしれないけど)ね?」


 もうちょっと友達を選んだらどうかなぁ、と男はしらけた顔で言う。


「きみね、ムラムラチオンくん? 友達ひとりなくした自覚ある? この辺にぃ、血反吐はくくらい強いPKが来てるらしいんすよぉ……じゃけん自分が最低のことやったんだって自覚しましょうねー(教育)」


「うわアッ――!!」






 まあ、こういういきさつなわけで……俺はブチ切れて友達のチュートリアル代わりを放棄した。結果として何が起きたかって、とうぜんクラスでも孤立するわけで……木村がどんな目に遭ったのか、リアルでは一切あの名前について言わなかったのは救いだった。


 友達がいないのは、まあどっちかというと耐えられる。高校に入るまでは仮面フレンズしかいなかったわけだから、あんな嘘くさい関係には慣れていた。やっとできた友達だと思っていたのに、ノリのいい木村はああいう場面でもノリが良すぎて、ちょっとばかしデリカシーがなさすぎたわけだ。


 あ、そこのやつ? キャラクター作り直せばいいとか考えたね? レベル上げのめんどくささ知らんだろ? 四百レベルになるのにもう半年ちょい費やしたってのに……あ、いやさ……レアの引きが妙に良くてね。これで終わりだって狩りのときに限って超絶レアが出るのな。さよならシンナーといっしょ。やめようと思うたび、引き寄せられてまたドボンですよ……。自慢してるんじゃねーよボケ察しろ。


 ステータスのうちLUKの上がりが不思議なくらいね、妙にいいんだよ。上げてないのに。キャラクターを作り直したらこれが消えちゃうわけで……うん、惜しくなったんですごめんなさい。求めるものがバンバン出る生活しててみ? 苦労に苦労を重ねて死ぬような思いする生活になんぞ戻りたくねーわ。


 というわけでやめるにやめられず、名前変更だけはぜったいムリという死にたくなるような状況でも……そう、化人族のステータスならできちゃうんだよなぁ。継続回復ポーションと自動回復スキル積んでればまず死なないし。フォームチェンジできるし。


 アーグやってること明かすんじゃなかったな、ってのが今の正直な感想だよ。だってそれ以外じゃふつうに友達やってけるわけだしさ。木村のノリも、困るときこそあるけどグループ内じゃ暴走気味の面白さ、ってだけだから……。


 リアルにはアーグやってるって友達はいない。もとから友達が少なかったのが災いして、学校じゃ孤立したプラスゲームでも完全ソロプレイ、なんてひっどいありさまになっていた。泣けばいいのか笑えばいいのか、吹っ切れて「ストレス解消」を仕事にすればいいんだか、もうさっぱりだ。


 この学校にもいくらか廃人がいるので、そいつらがアーグをめちゃくちゃ積極的にやりまくっているのは知っている。しかしそいつらがゲーム内でどういう立ち位置なのかが分からないと気軽にはアクセスできない。たとえば人間の中でも穏健派なのか過激派なのか、所属する団体によってもけっこう派閥とか考えの影響を受けていたりする。現実でデモやるほどの過激な団体じゃないが、化人族見たらすぐ殺すべし! みたいに、現地のアイアイみたいな扱いを受けることだってあるのだ。うっかりそういうのと知り合いになってしまったりしたら、現実でもえげつない事件が起きるだろう。


 まあ、起きたところで俺だけ生き残るんだけどね。


 ともあれ、俺がストレス解消に乗り出すのも仕方がないことなわけで。その犠牲になるのは哀れなモンスター? いや違う、哀れとも思われない、蔑まれるべき人種。そうじゃなきゃ俺の沽券にかかわる。むやみと大量虐殺するのはもちろん簡単だし、それ専用の力を編み出すのもまあ簡単っちゃ簡単だろう。だが今の「ひとまずやめとこうか?」みたいな状態を俺一人の力で動かしちゃうのはヤバイ気がするし、責任も取れない。


 プレイヤーは死んでも死なない。ならその体を使って普通なら死んじゃう環境で戦えよと思うんだけども、もちろん楽したがるアホのほうが多い。強靭な肉体を持ってるからってボディービルダーが建築現場にいないのと一緒だ。


 でも、死んでも死なないなら、いくら殺したってかまわないことになる。殺すことが罪になるのは、相手が死んでしまって、その先にあるものを何も得ることができなくなるからだ。ということは、死ぬということがあるひとつの変化、風邪と同じようなものでいつか治るとすれば、予防はするけど本気で防がない人だっているだろう。


 初心者が新しい狩場に行くときは、ちょっと高額でもその辺の情報を買っておくべきだ。なぜなら買った相手が盗賊で、お金は絞ったからもういいや、ってなることもあるからなのだ。尋常な金額でも、初心者が「あの人は信頼できる!」とか言い出したら売れる売れる、普段の商売をやめちゃうくらい儲かる。そういうのを断ったりするのも勇気だし、新しい場所へ何も知らないまま行きたいのも分かるけど……腐った初心者狩りはいる。俺だって似たようなものだけど、盗賊狩りなだけマシだろう。


 ま、人間をやったほうが楽で、経験値も儲かるからってのはある。相手のレベルが高ければ高いほど儲かるから、最近は500レベル超えてるやつらも余裕になってきた。もともとのステータスもあるし、LUKが高いせいでやたらクリティカルが出る。攻防を兼ね備え遠近自在となれば、まあ無敵みたいなもんだ。


 ――なんて、そのときの俺は思っていた。




 学校から帰ってアーグにログインしてから、適当に討伐依頼を確認する。モンスターでもそこそこ強いものから数が多くて困ってるってだけのものもあり、ユニークモンスターやユニークボスなんかの困った連中もいる。どこかにはユニークと名前がつけばどんなものでも狩ってくれる人もいるそうだが、俺はそんなに暇人じゃない。


 どうやら強敵しかいないのを見て興味をなくした俺は、今日の情報を得るべく凶報を見に行った。だれだれが盗賊の犠牲になりました、昨日のなんていう団体による被害額はこれだけです、なんて書かれたポスターだ。被害者団体みたいなものがあって、こういうものは毎日のように更新されている。どこかの誰かが確認しに来ては盗賊団を退治してくれるようになったらしく、最近の更新にはなかなか熱が入っている。まっとうな商売をやって稼いでくれるなら構わないのだが、こういう困った情報を売るのはだいたいが事情をよく知る元悪人だ。


 いちおうだが、このポスター類の前にはけっこうたくさんの人がいる。NPCだって混じっているし、遊び半分のやつらもけっこう多かった。


 俺はそんなアホどもの仲間には入りたくない。名誉欲だので人間を殺すなら、もっとほかの方法を探すべきだ。それに、報酬金額でポスターを見るようなやつも俺は嫌いだった。奪われた人間が金を持っているはずがない。奪われた後の人間からさらにもらおうなんて、盗賊と何が違うだろう。


「これか……?」


 行商のふりをして安全に移動し、乗り捨てられた馬車を装って「あれを調べてくれ」などと空々しい依頼を出していたやつらがついにばれたらしく、そいつらを掃討しろという張り紙があった。


「エンブレムが特徴的……。なるほど、これはやりやすそうだ」


 ポスターは明日にも剥がされることだろう。その光景を幻視しながら、俺は夕暮れの街を歩き、出口に近いセーブポイントでセーブした後、ログアウトした。

 唐突な淫夢……まあ、多少は(使ってたから出てくるって予測できるよ)ね?


 次回、赤い英魔が登場。五月では「こっちはこっちで忙しい」だった舞台裏が見られます。

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