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086 闇黒を切り裂く紺碧

 どうぞ。

 空から光が失われていく。否、暗雲が深く垂れこめ、恐ろしいほどの速度で近隣一帯を覆っていく。草木や動物、鳥たちが不安そうにざわめく中、空気中からある種のエネルギーが枯渇していった。やがてそれは黒い粒子を呼吸や粘膜から取り込んだ生物たちにも影響を及ぼし始め、ばたばたと倒れていく生物を尻目に雲は広がり、黒い霧は満ちる。


『まだ災害扱いもしてもらえないのね……。どうしてなのかしら』


 オーゼルクは独り言をつぶやくが、聞いてくれるものはいない。会話できるほどの吸収耐性を持つものもいなければ、吸収されてなお死ぬことのない体力数値を誇るものもいなかったからである。


 災害モンスターとはすなわち自然災害のことであり、モンスターを指す言葉ではない。細かいニュアンスの違いはオーゼルクが理解するところではなかった。しかしながら大規模な都市魔力の供給停滞を存在するだけで起こしてしまう彼女は、確かに災害と呼ぶべきものだ。討伐に訪れたものもいたが、あるものは吸収されたのみで死亡し、あるものは彼女のおやつとして味を楽しまれるために死んだ。強かったわけではなく、彼女の装職が行動に影響を与えていただけだが、倒せないという点は同じだった。


 空中でのしばしのまどろみは、吸い取った栄養が最終的に定着するための休眠である。知らず、彼女はこれまで生きてきた三か月を思いやっていた。童女の心と成熟した体というアンバランスから生まれるギャップ、それはあちこちがずれた命の構造に拠っている。


 命令を理解するためある程度の知能を与えられてはいるが、姉ほどに賢くもない。レベルは現時点で902あり、強さとしては超一級品の部類だが、ひどい妥協をしてのレベルアップだった。彼女の装職(アーム)は「カーニバルファング」と「カタストロフィーキャスター」、獲物を喰らいながら殺すことで経験値とステータスが底上げされる、といういやらしい性能と、広範囲を対象にした破壊が行いやすくなる極大戦闘能力、この二つの融合である。


『姉さん、どこへ行ったのかしら』


 姉のガルクスヴェイザーは、オーゼルクとは違い、自分たちについてよく知っていた。ほとんど攻撃性能だけに偏った自分たちは「殺される前に殺す」以外の方法を知らない。そして、ある種の防御手段を取られれば簡単に敗れる。姉が思いついた手段は「不意打ち」だった。


『……そういえば、姉さんって強いんだっけ……?』


 彼女が寝ている間に何事も起きなかったのは、姉が守っていたからである。だが、オーゼルクはそのことについて何も知らない。そして今も、彼女は何も知らなかった。


 姉が今まさに死のうとしていること。そして――


 彼女のいる場所に向かっているのは、たった一人だということも。



 ◇



 パーソナルスキルはぜんぶが漢字で表現されるわけではないらしい。メアのパスキルである「オーバーフロー」は初めて見るカタカナだった。


「……いま、発動してない」


 メアの体力は別のパスキルのおかげでずっと自動回復を続けている。満タンのときはそれ以上回復しない――のかと思ったら、パーティーメンバーの体力が減っている人に分け与える仕組みになっている。メアさえいれば、メアの体力が満タンなら、パーティー全体が安全なはずだった。


 メアが倒れていないことは分かる。メンバーの体力は簡単だけど見ることができるから、そこから倒れてはいないことを察している。でも、言葉は半分以上ウソだった。


「……後衛なのに」


 HPが半分以下、四割くらいになっている。一撃を受けたのか、死にかけてとりあえず回復したというところだろう。あの謎の敵とは、やっぱり三人で戦うべきだったのかもしれない。


 そう思いかけたとき、私はその考えを改めた。


『……百人くらいいると思ったんだけど』

「いたよ、それくらい。お姉さん? が倒しちゃって」


『ガル姉ぇ、そんなことしてたのね』


 大きい、といっても空を覆い尽くすとかそういう大きさじゃない。でも、特急電車が通りすぎるのと同じくらいに、大きさ以外の恐ろしさがあった。


 顔は勉強机と同じくらいの大きさ、複眼がふたつ並んでいて、五寸釘か、それともボールペンくらいの「毛」がもさりと生えている。人間が使いそうなどんな道具より大きくて、鋭くて、ずっしりとした金属光沢のある大あごは、人間の上半身くらいならひと噛みでちぎってしまうことができるだろう。なんとなく、ごみ収集車が回収された古紙を潰すところが思い浮かんだ。


 ただ、顔なんて小さい方だ。全長は二十メートルくらい、顔はその中で一メートルも占めていない。恐ろしげではあるけど、鉄パイプを何本も束ねたほど太い足、大型の包丁をもっと大きくしたようなツメ、一枚が十メートルほどもありそうな紫に光る羽、トンボを凶悪にしたものを近くで見るのがこんなに恐ろしいとは思わなかった。


『焼肉って知ってる? 地面を熱くして、人間を押し付けるの』

「鉄板……じゃない。それって、焼肉じゃないよ」


 私の知っている焼肉は、そんなにワイルドな焼き方をしない。人間にできる方法ではないし、どこの文化でもそんな残虐な食べ方は聞かない。


『……あなたは、すごくおいしそう。女の子は甘くってふんわりして、焦げるにおいもとっても素敵だから』

「ユイザさんが言ってたよ。男の名言にはこんなのがあるって」



――食っていいのは、食われる覚悟があるやつだけだ……とよ。殺すときも同じ。殺される段になって泣きわめくようなやつァ、ダメだぜ。



『つまりどういうこと?』

「私が、あなたを食う」


 三段になった棒状の体力ゲージが、すうっと浮かぶ。


『じゃあ、食われるのね』

「そうさせると思う?」


 ずうっ、とものすごい速度で迫ったネビュラサフィーアへ、とびきり冷たくてひどく痛い魔法を投げかける。


「〈グレイシャルウォール〉!」


 硬直時間が終わった瞬間、横っ飛びに跳ねて相手の体を避ける。相手の速度を見越して、私は自分の後ろに向かって狙いを付けていた。


『ぐう、冷た、いっ』


 体力ゲージは、ほんの少しだけ削れている。



――トンボのはばたく回数は、意外に少ない。君の反射速度ならばその合間を潜り抜けられるはずだ。実際にやってみないと分からないがね。



 エヴェルさんの言葉は本当だった。


 相手の羽には刃が付いていて、飛んでいるときにぶつかったものをざくりと切断するようになっている。ただ、姿勢制御のために羽を動かした瞬間だけ、相手の狙った場所に羽が当たることはない。ほんの一瞬だったけど、結果からするとできたみたいだ。


 次は、羽に杖を叩き付ける。



――魔法はね、応用が大事なの。この〈ウォーターロープ〉って水魔法、手の届かないとこの汚れ取りのためにあるんだけど……イメージで操作性を上げると、肩もみもできるようになるわ。氷魔法にもそういうのあるんじゃない?



 そのために、テュロさんの言葉から発案した魔法を、いま使う。


「〈アイシクルブラスト〉!!」


 最初に使っていたときより熟練度が上がったおかげで、威力、速度が上がり射程も伸びている。空中にいる相手は当然、それを避ける。


「〈アイシクル・フォール〉」


 上に飛んでいった氷柱、今この魔法で生み出された氷柱、両方が恐ろしい速度で落ちてきた。上にある氷柱ならだいたい使えるので、氷系の洞窟だと自分を巻き込む血みどろの地獄になる。でも、今は私の作った氷柱しかない。追尾性を持って(・・・・・・・)落ちてくる氷柱ということと、上からの攻撃は予想外だったのか、敵は面積の大きい背中でダメージをすべて受けた。


『かき混ぜるのが早いみたいね』


 歪んだ声が上から響く。


 すべての魔法には、ある程度の追尾性がある。とはいっても、追尾性が高い魔法は射程が短いとか、まっすぐ撃てる魔法は地面に落ちてしまうとか、そういった次元の話だ。


『〈ホロウブラスト〉』


 鈍色(にびいろ)の槍が五本ほど飛んできた。あまりにもまっすぐな軌道だし、魔法というより実物のような飛び方だったので、簡単にかわす。物理的なものなら投げ返せるんじゃないか、と思った瞬間に、いちばん遠くにあった槍がゴウッと黒い炎を上げて爆発した。


「妖術と混じってる……!?」


 炎は渦を巻いて、黒灰色の竜巻を五本も生み出す。すぐに消滅したけど、地面はぼろぼろになって穴が開いている。


『――〈グランドネビュラ〉』


 急に辺りが暗くなった。


「な、……っ」


 息ができなくなって、その状態であちこちを殴られるような痛みが走る。どすんっ、とお腹へ一撃が入って、私は高々と吹き飛んだ。


「う、く」

『キャッチしたわ』


 どん、と着地した先は相手の爪の中だった。肋骨がぎしりと音を立てる。背中とおしりに熱い線が刻まれて、血が流れているのが分かった。防御が弱いのは知っていたけど、掴まれただけで血が出るほどとは聞いてない。


「……、〈焔突槍〉」


 これだけ近ければ、相手が早くても狙いは外さないし、外せない。


 スローモーションのように炎の槍が飛ぶところが見えて――私を食べようとしたあごががしりと閉じて、口の中を守る。敵は欲張ることなく、私を離した。


 落ちていく時間の中でも、ずっと相手を見ていた。相手の顔に向けて飛んだ炎槍は、運悪く大あごの付け根あたりにヒットして固い装甲をほとんど通らない――と思われた瞬間に、炎妖術のテンプレートとして、炎槍はゴワッと大爆発する。


『ぎゃっ……!?』


 大あごの上にあった部分、右の複眼が少し濁った。そして速度のせいか敵は炎の中を通過し、羽をも焼き焦がしていく。


『〈戦火〉!!』


 怒り狂う声とともに、どす黒く燃え盛る炎が生まれた。



――竜虫ってのはゴミ以下の防御しか持ってないってのは、エヴェルからも聞いてるよな。オレからのアドバイスはそれを活かすための方法だ。



 ディーロさんの言葉が、すっと浮かんできた。



――火力で押し切るってのは普通のやり方だ。ただ、初心者にはちょっと厳しい。成長ボスなら体力もそこそこあるから、ゴリ押しでってのは熟練者向けのやり方になっちまう。俺なんかはできるが、パーティーを組んでるときにも火力ぶっ放しは連携を乱しがちだし、そもそも属性の相性なんかもあるからな。



 そう。ディーロさんの言ったことは、いまこのときのためにあった。



――でかい敵が強い魔法を撃ったらよ……まず最初にやるんだ、覚えとけ。


――初心者だろうと安定してダメージを出せる、しかも相手との相性もまったく関係なし、レベルが低かろうが連発できる……上げといて損はない。もう覚えてるだろ?


――完全反射。

 体力ゲージ「棒状:3段」はかなり少ない。これレベル902とかいうトンデモじゃなかったら初心者でも削り殺せますね……。ちなみに


「棒状・棒状×数段」(短ゲージ×段数)

→「らせん・らせん×数段」(長ゲージ×段数)

→「二重らせん・二重らせん×数段」(長ゲージ×段数×2)


 の順で多くなっていきます。最大級だと「二重らせん3段×3層」=長ゲージ18本とかある。ゲームやってるときどうやって表示されるのかすっごく気になりますね。マジにキマってるタンクでもない限りはいないと思いますけど……あれ、あのお嫁さんもしかして……?

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