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078 教育指導・保険観察

 まさかの、話数間違えて投稿するトンデモなミスをやらかしてました。もう同時投稿してもいいんじゃあとは思いましたが……私の趣味に反するので、この前の部分は79部分に回します。内容の修正などはないので、すでに読まれた方はこちらが最新話ということになります。ご了承ください。


 どうぞ。

 セーブポイントはパルベンテイスだったので、ログインするといつもの木の街並みだった。二人には「今日は用事があるから」と言ってあるから、二人は街にいない。外で狩りをしているのだろう。


 用事は、ない。ただ、何もする気になれなかった。空がどんより曇っていて、いつも当然のように見える月が半分以上隠れている。季節柄当然だとは思うんだけど、気分と似たような感じなのが悲しかった。




 操られている間、私には意識があった。首がぐらぐらして痛くて、体を引きずられているのであちこちぶつけて、さんざんな状態だ。ようやく地面に立てたと思ったらどこかの屋根で待機して、糸が引っ張られるまでただ立っていた。足がだるくなっていくのに姿勢も変えられないし、本当に、白黒の人が言っていた通り「ズボラさんには生き物は飼えない」状態だったと思う。


 そして、これはたぶん思ってはいけないことなんだけど――私もそうしただろう選択は、私には決してできなかっただろうな、と痛感してしまった。


 ゲーム内であんなことがあるなんて思わないし、私があの人を倒さなきゃいけない状況なんて想像できない。でも、仮に同じことが起こって、立場が逆だとしても、私にはあの人は倒せなかっただろう。私は確信している。


 エヴェルさんを倒すことを考えているわけではなかった。あの人に助けてもらった恩を同じ形では返せないと思うと、なんだか悲しくなったのだ。


「――やあ」


 黒銅色の鎧兜、隙間からはみ出すぼろ布、兜の奥で光る紫色の目。これ以上ないくらいに特徴が伝わる、エヴェルさんだ。曇り空のせいで、いつもよりも黒く見える。ひょろひょろした柱が陰影を作る中にいっそう黒く、一人立っていた。


「すまなかった。スペイはああいう人間なのだ……我々の監督不足だった」

「謝らないでください、エヴェルさん。エルティーネにいるから――」


 それは違う、とエヴェルさんは言う。


「例えばアリを見ても踏みつぶす人と避ける人がいる。しかしどちらも信号は守るだろう。社会や集団の悪と個人の悪意は別だ」

「えっと。集団には従うなかでもいい人と悪い人、ってことですか?」


「残念なことに、ね。彼にとって「化け人族にとって人間は敵である」というのは、くだらない大義名分にすぎない。その背景を考えず、便乗してひたすらにやり続ける。ある意味では凡人の発想なのだが……個人的な背景が絡んでいた」

「――それって」


 深いため息のような声が、兜の内側から聞こえた。


「パーソナルスキルは、ハ――いや、ある程度個人の求めに応じて出現する。他人を直接操るなどというスキル……それが生じる原因が、サディズム以外にあるだろうか?」

「サディズム……」


 誰かを傷付けたい、殺したい、なんて思い続けている人がいると思うと、ぞっとする。


「君のように、誰かを助けたいと願う気持ちからパスキルを発現する人もいる。だが、誰かを傷付けたいと思って力に目覚める者がいるのも、また事実」

「どうしてなんでしょう?」


 君はあまりにも優しい世界に生きている、と言った声は、低く濁っていた。


「そのほうがいい……それは分かっている。だが、それでも「善意が通用しない相手」というものがいることを分かっておいてほしいのだ。君はとても優しい、それだけに傷付きやすくもあるだろう。どうか、信じる相手を選んではくれないか」

「いえ……スペイさんのことは、分かってました」


「なに?」

「パルベンテイスで会ったんです。先生の娘さんをゾンビにしようとしてて」


 さっと説明すると、エヴェルさんは「なるほど、やつらしい」と吐き捨てる。この人の怒りには、私がどうこうしたなんてレベルではない激しいものが込められているように思う。


「どうしたんですか? どうしてそんなに……」

「男と女を……親と子を、妻と夫を殺し合わせる。やつはそういう遊びをしていたのさ。ゲームを遊ぶにしたって、遊び方というものがあるだろう? 人を殺すというのは、ある意味では挑戦だ。やつはそれさえ投げ捨てて、楽しみ以外に何も求めていない」


「……そんな」


 私は、さすがに絶句した。


「ゲームにおける人殺し……プレイヤーキルというのはね、知略と腕前のぶつかり合いなんだ。相手に勝てるようにと策を練って装備も整えて……なおかつ腕前も必要で、となると挑戦できるのはごく上層のものに限られる。やつはその挑戦の楽しみを捨て、ただ格下殺しを楽しむだけの怪物と化した……それをありがたがる人間などどこにもいない。国から指名手配されるのも致し方ないことさ」


 ここ以外(・・・・)でも同じことを繰り返していたらしくて、スペイはどこにも(・・・・)いられない身になった。当然といえば当然、自業自得だ。


「君のことが……気が気でならなかった。本当に大丈夫かい?」

「はい。もう傷もすっかり……」


「念のため、見せてくれるかな?」

「え、あはい」


 髪をすっと上げて、うなじを見せる。


「ふむ、治っているね。――なにもない」


 数回たんたんと触れた指が、少しくすぐったい。


「本当に無事だ……。ああ、無事だ」

「そんなに心配しなくて大丈夫ですよ、エヴェルさん」


 私が笑ったのを見て、エヴェルさんも少しだけ笑ってくれた。




「英魔に向かってレベル上げに付き合えとは、なかなか度胸があるね、ゆっちゃん?」

「強くなれって言われたから、お願いしますね?」


「ふふ、その通りだな」

「そうです」


 魔法のレベルを上げるのもそうだけど、杖スキルは魔法だけ使っていて上がるのが本当にありがたい。職業レベルも魔法系ばかりだから効率よく上がるし、いい感じだ。


「そういえば「踊り子」のレベルはそろそろ50かい?」

「はい。次は「剣舞乙女(ソードダンサー)」に転職しようと思ってます」


 今までは手に持った武器が発揮する効果は見た目通り、杖を持っているところに敵が当たっても「ぶつかった」程度のダメージしかなかったけど、中級職「剣舞乙女」は違う。攻撃しながら支援効果をかけて、戦いながらさらに強くなることができる。


「戦闘中に一回でも支援効果をかければいいのだから、比較的楽だね。スキルレベル上げは大変だが、こちらはそれなりに楽だ」


 話しながら、パルベンテイスの近くの森で戦っている。


 ボスモンスターの「テラリウム・タートル」はものすごく大きい亀で、防御力も高い。エヴェルさんに本体の相手をしてもらって、ちょっとした林ほどある背中に潜んでいる雑魚の相手をするのが私の役目だ。何が出てくるかわからないところが少し危ないけど、そこまで強い敵はいない。ボスからボス、なんて恐ろしいこともふつうは起きないから、自分とエヴェルさんにバフをかけながら相手に魔法を撃っているだけでいい。


 トカゲにヘビにバッタに小鳥、ネズミやイタチもいた。


 バッタの顔面を殴りながらネズミに魔法をぶつけて、バッタの向こうから現れたヘビの首を〈ニューロブラスト〉で叩いて即死させる。スズメみたいな小鳥には追尾性の高い火の魔法で対処して、トカゲには氷の塊をぶつけておいた。


「そういえば、なんだが――ゆっちゃんは、英魔になる条件を知っていたかな」

「まだ聞いてません」


 何百人も倒したから、という理由だけは、薄々察している。人間と明確に敵対しているとか、ほかにもいろいろな条件があるはずだ。


「今の英魔は、一人が……三百人以上倒している。命を奪ったものもあれば、デス・ペナルティーに追い込んだだけ、というものもあるがね。そこで君に質問」


 エヴェルさんは、右手首の刃を大きく振って、テラリウム・タートルの頭をゴリッと大きく傷付けた。


「このボスと私、どちらの体力が多いと思う?」

「……ボスじゃないでしょうか」


 私と同じくらいの大きさの小鳥に〈ブレイン・クエイク〉を叩き込んで倒す。


「正解だ。引っかからなかったね」

「見た目が多そうですから」


 橋川に何度も聞き直して、ようやく覚えつつある「ビルド」のうちのひとつ、「タンク」はたぶんこのカメがいちばん似ている。体力が多くて防御力が高くて、敵の攻撃を受け止めるのに適している――らしい。大きな盾とか分厚い鎧を着ている人は、だいたいタンクだと教わった。


「まあ、そこまでは変わらなかった。我々英魔と比較になる人間などいない……モンスターの中でも、ボスモンスター以上でなければ我々とは対等にならないのだ」


 エヴェルさんがエフェクトをまとった拳を突き入れると、カメの甲殻が恐ろしいくらいの勢いでひしゃげた。爆散したカメは光の粒になって消える。


「どうしてそんなに強いんですか?」


 難しい質問だね、とエヴェルさんは大きな根っこに腰掛けつつ、うなる。私も、コケが生えていなくて乾燥したところに座った。


「君も気付いてはいると思うんだが……ステータス以上の動きができるプレイヤーがいるね? あれに実際のステータスを上乗せするとどうなるだろう、と考えてみると」


 珍しく、言いたいことがすぐ分かった。


「それより、さらに上に――?」

「そう。要するに「素のプレイヤースキル」というやつなんだが、英魔は全員それを持っている。それぞれが他の誰よりも優れていると――外部から見て確信できるだけの、恐ろしいほどの力さ。相性はあるが」


 君もぜひ身に付けてくれないかな、とエヴェルさんは笑う。


「我々にこれだけ目をかけられているんだ、君も相応の強さを持ってほしいね」

「……そんな簡単にできるでしょうか」


 すっごいことを言われている気がする。そんなに簡単にできたら苦労しないと思うんだけど――と思ったとき、エヴェルさんは意外なことを言った。


「才能の片鱗は見えているんだから、それを引っ張り出すきっかけが必要だね」

「え、……見えてますか?」


「ああ、見えている。魔法の発動と特技の発動が同時に行われていたね? あれはディーロと同じ技術だ。そして魔法の応用、あれはテュロから取ったもの……もしやとは思うが、英魔を超越するほどの力を持つかもしれない」


 買いかぶりすぎですよ、といつもなら言うところだったけど、エヴェルさんの声はあまりにも真剣だった。


「やはり、君には例のボスを倒してほしい……と、思ってはいるが。わりあい優秀な新人というのは多くて、かなりの取り合いになるんだ。正直言って君が取れる保証はどこにもないから、安心していい」

「なんですか、それ。じゃあ私取ります」


「冗談だよ。半分ほどは」


 エヴェルさんは、兜のほっぺたをコン、コンと叩きながら笑う。


「争奪戦に勝つ方法なんてのは、ない。君自身が誰よりも努力するほかない……そして、君が誰よりも強いものになるしかない。君は果たして、それだけの力を持つことができるのかな……?」


 挑発しているような、期待しているような、――中身がちっとも見えない言葉だった。裏はきっとないけど、これが表だとしたらおかしな感じだ。


「いつかきっと、並んでみせます。それまで待っててくださいね」

「……ふふ、私は待たないよ。私を超えたければ、飛び越えたまえ」


 とても朗らかな声で、エヴェルさんは言った。

 アーナキソ(大ポカやらかした件について


 最近は新作を書いたり、展開を詰めたりして非常に面倒なことになっています。投稿ペースは相変わらずのカスですが、耐え忍ぶ強さでお待ちいただければと思います。

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