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077 「モンスター使役(アンデッド編)Ⅱ」2回目

 めっちゃ時間かかった……。


 世界が見え隠れするパート、どうぞ。

 夜空が黒く染まっていく。その光景に攻撃を仕掛けるほど、スペイも無謀ではない。精密なコントロールが可能である代わりに糸を直接繋ぐ必要があり、しかも有線操作しなければならないという馬鹿げたパーソナルスキルは「あれ」には無効化されてしまう。そもそもあのスキルは複数人をむりやり戦わせ、嫌がる感情を感じ取りながら愉しむためのものだった。実用的なスキルとはとても言えないもので、まだしも感知圏を広げるという直接戦闘には使えないものの方が役立つほどである。


(……ただ、エメロドラグーンは光属性魔法を撃てなかったね↑)


 基本的に、種族として定着するまで突然変異種はテイムモンスターにできない。風や水の属性を操る彼らは物理寄りの性能を持っているため、数十から数百が集まり、かじられるのがもっとも危険であることはよく知られている。魔法攻撃を警戒する必要は――と、普通なら考えるところだが、統制の取れた動きを取るあのトンボが操られて戦術を使うようになる、ということになれば魔法も警戒しなければならない。


 スペイの戦い方は少人数を嬲ることに特化しているため、個人対個人も個人対多数も苦手である。ましてや強力な個人が数人集まって、という状況はもっともまずい。相手の精神をいたぶりながら戦うことができれば死んでも楽しめるだろうが、英魔ほど精神が強い生き物は見たことがなかった。


(なにせ……↓、拷問を耐えてまでこのゲームに執着する廃人どもだ)


 屋根を伝って高速で走っているが、先ほどから攻撃魔法と矢と投げ槍が止まない。そもそも戦いを得意としていないという極めて稀有な特質を持ったスペイは、罠を張る、精神を殺しにかかるといったいやらしい戦法をとるほかない。それができなければ勝つことはおろか、まともに戦うことすら難しいのだ。


 アンデッドのストックはそれなりにあるが、性能の高いアンデッドや化人族をしのぐ性能を持つものはいない。いたとしたら大したものだが、スペイは実に中途半端な戦力しか持っていなかった。


(英魔の配下になんぞ、なれなくて良かったんだが……おおかた監視したかったのに違いないな。殺人衝動……か)


 スペイは、昔からそうだった。




 首を吊って死んでいる子供がどうして死んでいるのか、誰にも説明できなかった。近くにいた子供は心神耗弱状態で何も説明できず、ただ「ロープが動いて」としか言わない。実際に何が起きたのかは録画、録音いっさいの記録になく、事件は迷宮入りした。


 ――その夜、子供は誕生日のようなお祝いを受けた。


(さすがはパパとママの子供だな。こんな歳で覚醒するなんて!)

(やつらもきっと驚くわね。反抗勢力にいい戦力が加わるわ)


 言っている意味を理解しているわけではなかったが、やったことに対して親が喜んでいると知って、子供は自分と、それから大好きな両親がいっしょに喜んでいると知った。ただ彼らは子供たちがどうしてそれをしたのか、そこを理解しようとしていなかった。


 子供同士なら遊びのトラブルもよくある――ならば、なぜロープが使われたのか。それは、一瞬だけ見てしまったドラマの、人が死ぬシーンを参考にしていたからだ。とても苦しそうにして、しかし相手は笑っていて。彼は同じように笑っていた。楽しそうにヒーローごっこをする子供と同じように、ドラマの真似をして人を殺して、笑っていた。


 中学生くらいになると、自分が好きなものも分かってくる。


 彼は、誰かが苦しむところが大好きだった。肉体的、物理的な苦しみもたしかに面白いものだったが、それ以上に精神的な苦しみが心を打つと知った。


 自分は表に出ないように、ひたすら他人の観察を続けた。女子同士のトラブルはとても良いもので、最底辺に沈んでいくのにも気付かず努力を続けるブスは見ていてとても楽しかった。浮いていることに気付いていてもどうしようもなく、クラスにいること自体が苦痛なのに友達作りすらしないやつもいる。最高だった。冤罪で数日だけ強制院に入り、出てきた不良がひどく冷たい目で見られていた。仲間だった不良からさえ白眼視され、行き場がなくなった彼は不登校になった。これも、感動的だった。


(――ここで、満足できなくなった)


 家にある漫画を全巻読みつくしたから図書館に行く、といったような感覚で、スペイは人を殺し始めた。ただ殺したわけではない。信頼関係に結ばれた複数人を、できるだけ惨い方法で殺し合わせたのだ。これこそが真の幸福であると確信できるほどの、すばらしい時間を過ごすことができた――が、追跡者が現れた。ついうっかり殺してしまい、彼はしばらく謹慎しろと親に怒られてしまった。


 中学生でぎりぎりプレイできるくらいのレーティングのゲームを買い漁り、人を殺しまくってみたが、どうにも満たされなかった。俺がしたいのはこういう殺しじゃない、という感覚に苛まれた。心からの苦しみが、絶望が、NPCにあろうはずもない。


(そうだな……この辺りだ)


 VRデバイスが発売され、文字通り「別世界」にアクセスできることが分かっても、それは大したニュースに思えなかった。ただ、親に買い与えられて「この中ならばいくらでも殺し放題だ」と言われて始めてみると――なるほど、確かにそうだった。


 起きたことは取り返しがつかない。そんなゲームがあるとは思ってもみなかった。死んだ人間はデザインの流用されたポリゴンモデルで、別の街でも多少服装が変わっただけの同じものが歩いている。それがゲームだったはずだ。


 それに、吐き気がするほどリアルなグラフィックもたいへん気に入っている。飛び出た臓物や血液がべたりと貼り付き、汚臭を漂わせる。死体には蛆が湧き、魚介が腐るよりもなおおぞましい、あの腐臭を味わわせてくれた。


 そして何より、世界人とかいうNPCには自我があった。仲良しの男女四人組を殺し合わせるときの哀しみ、ぎりぎりで刃を止めようとする腕の抵抗、血に塗れた顔を伝う涙、これだけは予想外だった、仲がいいためかレイプを受け入れてしまった女、どれもすばらしいものだ。生の感情があり、彼らが生きていると確信できるだけの命があった。腐っていく彼らの心がなくなっていく過程も、死というものを知るにちょうどいい資料だ。




 スペイ・クリームベッタリは人殺しが好きだったが、それはただの趣味だった。肉体性能に任せてモンスターを狩る方がずっと多かったし、アンデッド使いとして高名な世界人に技術を教わったこともある。ゲーム内でやることは所詮ゲームであり、人殺しは現実でやるものだと思ってしまったのだ。


「さて、追いついたね」

「早すぎるよ、あなたは……」


 AGI任せでなく、街の構造を知り尽くしたうえでの時間短縮である。


「……ところで、なんだけど」

「話を聞くまでもないね、見ればわかるよ」


 首元に糸を撃ちこまれ、糸の先でぐらぐらと運ばれていたのは――ユキカ・ルゥス、彼にとってのパートナーであり、守るべきときまで守ると決めている少女だった。


「だがまあ、ミスチョイスというかなんというか……。外部から魔力を使わせるのは大変でね、魔法使いタイプのモンスターは彼らに頼ると決めたうえで本気を引き出させるのがセオリーとされている。アンデッドは意思を持たないことも多いし制御はたいへんだ。当然、魔力の制御なんかは超高レベルのアンデッドでなければ成し得ない」


 そもそも、この世界におけるアンデッドというものは極めて強力か、それとも悲しいほどに脆弱かの二択である。半生ゾンビは魔力を使えず肉体性能を引き出せず、精神が残っているために反抗する可能性ありとひどいものだった。せめて死亡したゾンビならば少しは違うのだが、プレイヤーは死亡すると光になって消えてしまい、死体を使うことはできない。スペイは自分の力――他者をいたぶるというところに際しては自信を持っていたが、彼の口調はその自信さえ砕かんばかりの落ち着きを感じさせた。


「ゆっちゃんを使ったことに対して、大変不愉快だという感想は述べておこう。ただ、だからそれに手が出せないかというと別の問題だ」


 いいのかなぁ、とスペイは虚勢を張る。


「女の子は繊細だよ。嫌われるのが怖くないのかな↑?」


「お前らしいな、スペイ。アホくせぇにもほどがある……お前の遊びにもいたろ、こいつの手にかかって殺されるならって受け入れたようなやつが。もちろん心は複雑だから、うまくいくとは限らねえが……な」


 いつの間にか、赤い悪魔までもが追い付いていた。


「来い、スペイ。お前の姑息な手が通用すると思うならば」

「いいよ↑」


 目が白く濁った少女が、杖を構えて突進する。


 ――かなりのAGIを誇るはずのスペイにも何が起こったのか分からないほど、その攻撃は素早かった。


「直接目で見て操作しなくちゃならないうえに、主人の感知能力を超えると対応できない。ごく格下をいじめるにはちょうどいいのかもしれないが、英魔と戦うには不足……いや、お前が来たところで負けはしないがね」


 ユキカ・ルゥスは全身から血を噴いて関節ごとに分解し、じゃがいもの袋を転がしたようにごろごろと転がって、光の粒になって消滅する。


「さて、時間稼ぎをするとしよう」

「……なんだって↓?」


 エヴェル・ザグルゥスはトップクラスの実力者だ。スペイを殺すにはそこまでの時間をかけずに済むはずだが、――という思考へと及んだとき、スペイは先ほどの言葉を思い出した。


(どうあっても、どのような経過をたどっても、どのような手段を使ってでも殺す……それってどういうことだ?)


「まさか……ッ↓↓!?」


 手が動こうとするたびに、エヴェルの手がそれを妨害する。背中の腕をどうにか代用しようとしたが、背後にはユイザが回り込んでおり、それも不可能だった。


「気付いてくれて助かったよ、お前のような外道にはお似合いだ。……避けようのない死が迫る感覚というのは、どのような感覚なのか……知りたいものだね」


「くそ、くそっ……↓、お前ら、こんなことが許されると――↓」

「はは、スペイ。……お前が言うなよ、なあ?」


 ゲームの世界にいる、現実の肉体を動かしようのない今このとき、現実世界に死が迫っている。もとより英魔にはスペイを「死亡させる」つもりなどなかったのだ。


「え、他人ばかし自分の楽しみに殺しておいてだ、死ぬのは嫌だってえのか。楽しみでやることは自分がやられるときにも楽しむもんだぜ……なあ、エヴェル?」


「常識のある人間ならばね。このガキはそれ以前の問題さ」


 言葉ひとつひとつに、スペイの体は冷えていく。彼ら――『体制側』はすべてを知っている。現実に帰還したとしても勝ち目は万にひとつもなく、そして生き残ったところで社会的な死は避けられないのだ。


「さあ、もう少しばかり時間を稼ぐぜ」

「ああ……ああっ、あああ↓↓!!」


 もとよりダメージを与える気のない攻撃は、表面上それなりのダメージを保ちながらも、彼をその場から動かさないための連撃にすぎない。


「死亡すりゃどこで再開するか分からねえもんな……追放はもちっと後にすりゃよかったな、確実に殺せる仕掛けをしとくべきだった。次からの反省にしとこうぜ」


「そうだね。リスポーン・キルというのも有効かもしれない」


 とてつもなくおぞましい会話を、しごく平凡に、まるで友達の噂話をつまらなさそうに相槌打って聞くような平坦さで交わしている。日常が違い、相手のレベルが思っていたようなものではなかったのだと、スペイは今さらながら心に深く刻むことになった。




「――なに?」


 それは突然の変調だった。


「逃げられた……?」

「あ?」


 一瞬、彼は意味が分からなくなった。そしてすぐに、喝采を叫ぼうとした。


「じゃあ手加減しなくっていいわけか」

「そういうことになるね」


 スペイの体内で、何かが目覚める。


「ま、まさ、――」

「こんだけやってたんだ、自動でばら撒かれてるっての。ちょいと起動すりゃいいだけの話だろ……ほらよ」


 めちめち、と異音がひどくきしみながら広がる。わざわざこんな場所を、と思うほど激痛を覚える箇所ばかりが、内側から広がって破壊されていく。


「ぐ、があ……ッ↓↓!!」


 あまりの痛みに、彼は気絶してしまった。




「もしもし……それで、いったい何がどうなった?」


 現実に戻った『彼』は、現場に向かったはずの部隊に連絡をする。


『とんでもなく早いヤツが現れて、掻き回されて……青い、ナチュラルです』

「報告を出しておいてくれ。青、か」


 記憶には、そういうものは存在していない。『彼』が目にしたものの中で、青いものはこれまでに例がなかった。


「父親か母親の可能性は?」

『両方、仕留めています』


「そうか。対象は――」

『連れ出されてしまいました……あちらの派閥のものですね』


 なるほどな、と『彼』はうなずく。


「どうでもいいことに腐心する馬鹿どもめ……。こちらも暇ではないのだが」


 通信の切れた端末を見ながら、彼はつぶやいた。

 出てきた瞬間バラバラになってデスペナなヒロイン……


 ここあたりから現実世界のあれやこれやを説明していくんですが、どうやら新しい仕事の内容もあんまり変わらないらしいので忙しさも変わらない、ということです。プロットはまだ手探りなので、書ける作品を書きつつ筋道を立てて、少し時間をかけて連続投稿したいと思っています。




 執筆しながら仕事してる人って大変なんだなぁ。わが身になって実感できましたが、これほどとはね。アイデアはいくらでも湧くけど書く時間がなくてうっかり忘れる、新作のアイデアを作っては「これは続けられないから統合して……」と悩む、たいへん。意思がまるで折れないところが自分でもすごいくらいです。つかこの状態から新作とかできるわけないでしょ! と思いつつ、いつもの作品と一緒に頑張って……台風のせいでたまたま休みになった今日、頑張ります。

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