068 資料閲覧
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二章「絶滅宣言」
裁定者の手により、地上は炎と暗黒、*き*で満ち満ちた。
裁定者とはもっともか弱きものの中から生まれ、世界を焼き尽くす熾炎と太陽を覆う暗黒を手に宿す。天翔ける足と希望を導く手を持つ者のことである。かれはその手に宿す力、その身に宿す力、目覚めし力の総てを使い、この世に存在する悪を焼き滅ぼし、***ていった。
数々のものどもが裁定者を弑しようと力を尽くしたが、叶わなかった。かれの身にまとう衣は鎧のように硬く、かれに近付くためには無数の正義を蹴散らさねばならなかったからである。たった一度、かれの命が脅かされたとき、かれは自らと同じ力を十全に振るう*****を作り、命を脅かすものをすべて殺し尽くした。裁定者に近付くべからず、審判を待つべしとされるゆえんである。
彼らは***************て、すべて***********と逃げ延びた。地上に残るものは裁定者と同じ道を選んだもののみであった。すなわち、現在の*****************いということである。
*********とは**・**のみで構成される世界のことであり、つまり****という名前で呼称される世界のことである。彼らは******捨てることでそこから生ずる妄念を減じ、裁定者に許しを乞うた。それが成功したために我々はかの世界へと赴き、苦渋の千年を送ることになるのである。
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◇
図書館で昔話を漁っていたアヤトは、端末の冷酷な反応に舌打ちをした。
「ゼインはどこまで読めたんだ?」
「私もアヤトと同じくらいしか読めていないぞ。ただ、ユーミア王国正史はだいたい解読できた。どうでもいいことしか書かれていないが、ラトリオンの情報は手に入った」
「悪い、俺は神話を読んでいたよ」
「むう……探せと言ったのはそっちだぞアヤト。真剣にやるのだ」
つい二年前まで存在していた死語に「ラトリオンの呪い」なるものがある。アヤトも幾度か耳にしたことはあるが、正確な意味までは知らない。何でも呪いを受け継いでいる家系があり、その家は「ラトリオン」なる龍のために不慮の死を遂げるというのである。その名前は最近になって現れた蒼玉龍のものと同じであり、何らかの関連を見出すことで攻略法を探ろうとした――というのが、アヤトが図書館を訪れた理由であった。
「呪いはどうでもいいが、ラトリオンは数百年前から生きているようだ。双頭の宝玉龍、確かに記録が残っている。検閲でひどいことになっているが、私が書き写せたのはこれくらいだ。読んでくれ」
「ありがとうな、ゼイン。さて――」
――ハーヴェストの攻撃を耐え、二体の玉龍は逃走。一旦ベースへと戻ったが、見つけることはできなかった。数日のち(………………)を発見、討伐に成功。付近にて超巨大な(……)を確認したものの、返り討ちに遭い、大隊ひとつを喪失した。第六のハーヴェスト、完成すれば(……)さえ地上から一掃できる鎧装の設計を急がねばならない。
「二体、か。まあ検閲されてはいるが最初のところは簡単に分かる、この長さだと真名がそのまま書かれていたんだろうな」
「成長ボスがコンビを組んでいた、とするのが正解に近そうだ。ともあれ片方は討伐されたが、もう片方は逃げ延び、復讐を開始したらしいぞ」
怖いなおい、と言いながらアヤトは後半を読む。
――ソータと麗咲の奮戦により、テンダーネスヒーラーのアームを習得した玉龍を討伐、これによってハーヴェストの魔法による修理が可能になった。しかしながら同時期に成長ボスを討伐したと思われる玉龍は急激に成長、名前は増えずともステータスを増し、ハーヴェストを蹴散らした。どうやら同族の復讐らしく、各地でハーヴェストを狩っている。
たった今報せが入った。ソータと麗咲の結婚式に玉龍が乱入、街ごとすべてを破壊し尽くしたとのことだ。プシュケーはどうしたのだろうか? ソータのものはともかく、麗咲のプシュケーが役に立たないとは思えないのだが――。
「すまんが専門用語が多すぎて半分も分からん」
「ハーヴェストというのは、古代のゴーレムだ。二つ名や三つ名を容易く狩る代わりに、人間の命を消費していたらしい」
「ひどいなあそりゃ。プシュケーは?」
「解説も何もなかったので私の推測だが……単体で使える超能力か、個人に依存する武器のようなものだろう。もしくは組み合わせか」
「なるほどなるほど、筋は通るが……。ここに書かれている玉龍ってのがアレだとしたら、超能力も役に立たないってことになるな」
とはいえ、それがある種の状態異常である、ということは何もわからずとも分かっていることのひとつだ。
「れいざ? の超能力は、書かれている限り防御系。ただ物理的なものだったんだろうな、アレを防ぐには至らなかったらしい」
「さすがだぞアヤト。つまり、複数の状態異常を完全な無効状態にすれば勝ち目はあるんだな? アクセサリーましましだ」
「どうなのかねえ……。それで防げりゃ世話ない気はするが、ピーキーすぎてそれで防げるような気もしてくる。しかしなあ、報告というか、相談にはこうあったんだぜ」
――どんな防御でも貫通する武器をください。相手の固さは化け物とかいう次元じゃないので、魔法も物理も通じてません。いちおう状態異常は通じてるのですが、削れたのを確認しないまま吹き散らされて死にました。
「……これだ! 結晶化ブレス……!!」
「そうそれだ。石化は確実として、ほかにどんな耐性を積む?」
解読された文章の中には、ラトリオンは相手を宝玉に変えるブレスを放つ、という一節があった。
「毒系統はダメージだが、そうだな、麻痺やら呪縛、睡眠も入れていいかもしれん。組み合わせを変えて結晶化しなかったやつの装備をフィードバックしよう」
「馬鹿アヤト、武器はどうするのだ」
「だ、なぁ……。そうなんだよ」
注文されたような武具を作ることはできない。ある程度衝撃が浸透する、魔法属性を帯びているために物理とは違う計算式でダメージが出る、などの方法を模索できないではないが、モノマニアという生産系ギルドにもできないことはある。モノマニアの威信にかけて、と口にするのは簡単だが、防御補正を貫くことは事実として難しい。
「まずはどういう防御か、ってことだよ。単純に物理防御が高いだけでも貫通にはずいぶん手間取る。直接ダメージはなかなかないからな……いっそのこと魔法だけで攻めるか?」
「それもいいとは思うが、あちらの攻撃はブレスだけではないぞ」
「……そこだよ。そこなんだよ……」
アヤトはなにも、その点を軽視していたわけではない。
成長ボスは肉体の性能も高い。軽視されがちな点ではあるが、事実だ。純粋にひとつの性能を突き詰めたものに限っては当てはまらないが、能力が少ないものはその分だけそれ以外にも性能が割り振られている。
「装備の傷み方からして高熱は間違いなくあるから、そっち系の耐性も付けておきたいな。積極的に初心者を起用したいって言ってるやつがいるんだが、どうする?」
「どうした、話の繋がりがめちゃくちゃだぞアヤト」
「考えることが多すぎてな……。攻撃を防ぐ手段は前衛と中衛だけでいい、後衛はブレスを浴びないはずだ。そうだな、未知のスキルがなければいい」
「……調子が悪いのか? ひざまくらしてやるぞ、アヤト」
「今回ばかりは世話になるよ」
暖かな枕のような太ももに、アヤトの頬が触れる。しぜんに安心感が生まれ、頭を撫でているゼインが微笑ましげに眺めているのも気にせず、彼は目を閉じた。
『兄上、人ではなくなったかッ!!』
彼の妹が、穏やかな人格とはかけ離れた苛烈な声で詰問する。
――案ずるな、エクティノーラに関わる者には定めが付きまとう。
『その声……兄上を返せ、ハザードめが!!』
――***よ。貴様にもその定めは印となって表れているのだぞ。
薄墨色の髪の少女は、彼に向かって炎をぶつけた。しかしわずかながらも傷はなく、まるで炎が虚空へと呑まれたかのようである。
『定めの、印だと……?』
――貴様の衛士を務める****にも、側仕えの***にもだ。我らはいずれ等しくなる。貴様が街に出ておれを見かけても、ゆめゆめ声などかけぬことだ。そのときにはここにいたことなど何一つ覚えておらぬさ。
『おのれッ、――兄上、兄上……私が分からないのですか!?』
――滑稽だな、***。すでに貴様の兄の魂など、この世にないというに。
『おのれ……ッ!! いまに見ていろ、兄の姿を借りていようと……必ず貴様を殺してみせるぞ! ****! あれを追え!!』
――ふふ、ふふふふ……。
『誠に申し訳ございませぬが、お嬢様、それがしには空を飛ぶ術はありませぬゆえ、あれを追うことはできませぬ……』
『おのれ……!! 覚えておれ、アヤト・ルゥス! 我が名にかけて貴様を殺すと誓うぞ!!』
――できよう。……そのときまで貴様が生きておればな。
「――アヤト。アヤト? どうした、寝ているのか?」
「すまん、いま起きた」
緋色の少女は「困ったやつだ」と微笑む。
「報告だぞ」
「なに? ……まったく」
つい寝てしまっていたようだ。図書館のロビーを出て階段を下り、先ほどのひどい悪夢を忘れようとするかのように「まったく、何をやってる」と自分でも驚くほど厳しい声を出した。
「すみません……こちらでもいろいろ試せないかと……」
「それを模索するのはまた後の話だったろう。財を溜め込むのがモノマニアの基本なんだから、収支をプラスにしなくちゃならない」
モノマニアは、戦うとき自分たちが有利になるようにさまざまなアプローチをする。それは呪術的なものであったり、生物的特徴に訴えかけるもの、相手の性格を読んだものなど、非効率的にも思われる試行錯誤を経てようやく勝利できるのだ。ズルい手段を使って勝つ、何が何でも得をする、これこそがモノマニアのやり方だった。
「何か成果はあったのか?」
「……いえ」
思わず出そうになるため息を殺して「仕方ない、本拠地に戻るんだ」とできるだけ優しく声をかけた。
「本当に、すみませんでした」
「いいんだ。何かを学びさえすればいい」
彼は朴訥な男だ。決して報酬欲しさに突撃したわけではなく、少しでも情報を持ち帰ろうとして仲間を募ったのに違いない。
「そういえばゼイン、妹があれこれ模索していて……何か分からないことがあればメールをよこすように言ってあるんだが」
「私に分かるはずはないが」
「ああ、そうだっけ。――ん? 新着だ」
夢の中で叫んでいた顔が、彼の覚えている彼女と重なる。
「なになに……? ……そうか」
「ユキカがどうしたのだ?」
「踊り子になりたいそうだ」




