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065 ある物語の朗読

 どうぞ。

 ディーロ・メルディウス――拳の一撃。


 エヴェル・ザグルゥス――蹴りで五つに寸断され、為す術もなく失血死。


 レェム・ティンヴェル――「壁」を割られ、心臓を破壊。


 ユイザ・ガラストゥラ――粉砕。


 テュロ・クフィシア――縦に二等分、横に二等分。


 ゼル・クウィルム・ヘルヴスィルム――頭部から心臓までを割られる。


「と、このように。英魔は森王さまに一瞬で敗退しているんですねぇ」

「六位さんの分は、どうしてないんですか?」


 あら、アリーでいいわとグリローザは現実での名前をあっけなく晒す。


「ごほん……グリローザさまとは戦う必要がなかったから、ですねぇ。彼女の戦闘スタイルは王とはかち合わないので」


「王の力って、言っても良かったのかしら」

「ええ、まあ……知ったところでどうしようもありませんからねぇ」




 ユキカは闘技場の控え室にいる。ランダムに選ばれた二人が護衛につくことになっていたが、それがこの二人だとは知る由もない。


「森王というジョブの特性で、修めている一帯にいるものの力を使える、というものがあるそうでして……要するに、師匠のパスキル「増撃」を使えますし、我々の力はすべて王の手の中にあるようなものです」


「一撃浴びせるの、無理なんじゃ……」


「英魔と戦ったのは、持っている本人がどう使うかを見るため。長く付き合っている人間こそがもっともうまく使うはずですからねぇ。ちなみに歌で戦うグリローザさまは、ご本人の天才と合わさって王には真似できなかったようです」


 私のリアルネームはアリエラ・フェイルチュース、とグリローザは笑う。


「知ってる? 有名だけど」

「あ、聞いたことあります。ステージで生まれる歌……」


 彼女はあらゆる意味で天才だ。歌に使用している言語が意味不明であるためカラオケにできず、なんと発音しているか分からないために歌詞カードもない。ただ受け入れること、それが彼女の歌の観賞方法だ。


 そして、彼女は即興で歌を作り出す。


「思いつくのよね。これまでに百いくつか作ったみたいだし、同じ歌もいっぱい歌ったけど、歌の意味を聞かれる瞬間とか大変。ぜんぶ物語だもの」


「グリローザさまのパスキルはですねぇ、これまた、と思うような名前で。「幻想郷」というんですがね、このお方のイメージしたものをMPやSPを消費して作り出す……という、もうどう考えればいいのか分からないようなものなんです」


 彼女の物語には、その幻想にふさわしいさまざまなものが登場する。「滅びの歌」にはマグマから現れ、世界を炎に変えていく巨人。「優しい歌・草原」には風と花を友達に持つ、駆け抜ける狭間の妖精。「死神の歌」には、穴や洞穴の奥から現れる、白く細い「何か」を束ねたような生き物「死神のしっぽ」。


「まあ、正直なんでもありなんですが。王は歌が下手というわけではないんですが、人並み外れてうまいわけではなく、いつも新しい歌を思いついて歌うような才能もありません。おまけに、ぶつけてどうなるってところもそうですし、怪物を想像する力というのもご本人の想像力に依存しますからねぇ」


 ユキカの決闘とはまるで関係のない話だが、有益ではあるだろう。


「六位ではありますが、師匠が絶対に戦いたくない相手ランキング1位です」


「2位は……」

「森王さま。3位がエヴェルさん」


 簡単に言えば、緋色のドレスを纏うその女性は、超都市エルティーネでも随一の力を持つ化人族である、ということだ。


「と、いうわけで。話とは何のつながりもありませんが、ユキカさん。エヴェルさんがどうしても好きだというなら、現実で結ばれることですね。英魔のパスキルは対抗手段があってないようなものばかり……王はそれを超越しています。万にひとつも勝てる見込みはありませんねぇ」


「でも、私は……私の決めた道を進みたいんです」


 ヴェオリは、ふっと笑った。


「……個人的に好ましい性格だと思っていますし、世論さえまともなら受け入れるでしょうとも。ええ、今回ばかりは諦めろ、というほかありません。どうしても諦めたくないのならば、……そうですねぇ。なお足掻くなら――奇跡を起こして見せてください、ユキカ・ルゥス」


「はい」


 少女は、そう言って首肯した。






 ユキカ・ルゥスには、確実な勝算があったわけではない。というよりも、ただ意地を張っているだけ、と表現するのが最も近いと言える。戦法がないわけではないが、そんなものは破られるに決まっている。本当のところ、彼女自身にも負けることは分かり切っていた。


(……エヴェルさんにリアルを聞くっていうのも、確かにそうだけど――)


 彼女の迷いはひとつではない。


(何を選んだらいいか、分からないよ……)


 ゲームの中でエヴェルを選ぶか、それとも現実で仲の良い者ともっと仲良くなるか。


 種族など眼中にないのに、人間に味方していると思われるのも心外だ。


(憐れんでもいないし、強がってるわけじゃないし……ましてや人外大好きじゃない。私は優しいあの人が好きなんだ)


 エヴェルは、他人が憐れんでもさほど影響を受けないだろう。そこまで弱い人間でもない。ユキカとて化け物の巣窟で平気でいられる、というわけでもない。人外に囲まれるのが好きという性癖を持っているわけでもなかった。


「行こう……ベストを尽くすんだ!」


 意地は最後まで張り続ける。それが彼女の決意だった。


 戦い方の組み合わせは、ほんのいくつかしかない。というより、彼女の戦法は現在思いつく限りたった二つである。


(……どっちも通用しそうにないなぁ)


 遠くから魔法を撃つか、魔法を牽制にして杖でぶん殴るか、どちらにしても無謀であって、絶対的に戦力が乖離している状況では無為だ。


 「遠くから」といっても瞬く間に接近されることは目に見えている。人間の形をした生物の中では最強クラスの「森王」に対してそのような小細工をしようと考える方がおかしい。


 「魔法を牽制にして殴る」という方が確実であるようにも思えるが、接近するのは無謀だ。というよりそれは即、死を意味していると言える。


(もう、あれこれ考えてもしょうがない……!)


 勝負に挑む――それしか方法はない。




 これまでユキカが相手にしてきたのは、どちらかといえば格下ばかりだった。ボスモンスターであっても自分よりレベルが下か、攻略法が分かっている敵ばかりを相手にしていた。安定したレベル上げとも言えるが、圧倒的強者との邂逅には為す術もない。


『現れ出でるはなんと、化け人族に味方すると公言する不遜の少女、ユキカ・ルゥス! 今回は英魔との恋を成就するため、無謀にも森王に挑戦いたします!!』


 装備、特技、本体の性能、どれをとっても王に敵うものはあるまい。会場はひどいブーイングで満ちているが、それもじきに治まる。


『――表すべき言葉はなし。絶対者、混沌の王――森王陛下!!!』


 バンザーイ!! というあまりに揃いすぎた声が轟いた。独裁国家でもないのにこの人気、統治能力や実質的な人気よりも「圧倒的な強さ」というカリスマがあるためである。見た目には中年男性だが、だらしなさや老けた印象は一切なく精気に満ち、溢れんばかりの力を宿すことが目にも伝わってくる。


『今回は大穴狙いや決まりきった勝負を退屈とする人のため、賭けは行われておりません。それでは両者構え――』


 ユキカは杖を構える。王は自然体のまま、変化した。


『始め!』




 ユキカは、現実世界において橋川にさまざまなことを尋ねている。中にはくだらないものもあり、中にはドン引きするような内容もあった。その中でも彼女の印象に強く残っているのは「アーグ・オンラインにおける使用武器の割合について」である。


「見た目がかっこよくて、使う人が多いから工夫されてるのは片手剣だね。特技もいろいろあるし、振りのバリエーションもすごいよ」


 そういった橋川の薄い笑顔を見ながら、樫原は疑問を口にする。


「じゃあ、使う人が少ない武器は?」


「ん? そうだな、突撃槍とレイピアかな……? 長年の修行が必要になるような武器は不人気だし、そもそも特技ばっかり使用してるんじゃ、ろくに使えないからね。SPとかMPもすぐ切れるし、モーションを合わせるのはいいけど硬直するから」


 ――被弾前提なので鎧を着ているが、装備重量が限界に近くなる、という重量の関係でハンマーカテゴリの武器は採用されにくい。


 ――最初の一撃にロマンを込める大剣はスタイルとして採用されているが、長期戦にはまったく向いていない。


「って風に、意外と普通に思える武器もあんまり使われてないんだ。ゲームの中だからってことでなんでもありそうなものだけど、そんなことないよ」


 ふーん、と感心したようにうなずいている樫原に、「あ、そうそう」と橋川は付け加えた。


「あと二つ、装備してはいるけど攻撃には使われないものがあるんだ」




 ひとつは盾。多くは防御に使われ、相手へのダメージソースとしては貧弱で、火力を求めて盾を装備するものは少ない。こちらは盾をぶつけて注意を引き付けるなど、ダメージこそ少ないものの攻撃手段自体はよく使われる方である。


 ――杖もね、魔法サポート用にしか使われてない。魔術師系統は防御に難があるから、前衛に出ないんだ。そういうわけで杖スキルを上げてても、攻撃技を派生させてる人はごくごく一部なんじゃないかな。消費MP軽減を最終段階まで強化した後、遊びでやる人はいるかもしれないけど。


「〈グレイシャル・ウォール〉!」


 わずかな時間稼ぎのための魔法は、詠唱時間をほとんどゼロにまで短縮されている。そうでなければ「わずかな時間稼ぎ」などできない。


 半秒ほどで完成した十数個の氷の塊が凄まじい勢いで地面に降り注ぎ、厚さ二メートルはあろうかという氷の壁を作り出した。


(……これが当たれば、なんてバカだったね)


 相手の体力は減っていない。逃れるのは簡単だったはずだが、余波さえまったく受けていないのだろう。


(氷耐性もすごく高いのかも。魔法はダメだ)


 ドゴンッ!! と打撃音が響く。地面が微かに揺れるほどの衝撃だった。


「や、……破ろうとしてる!?」


 闘技場を分断するようなものではあったが、跳んで超えるなり回り込むなり方法はあったはずだ。音はもう一度、青白い氷を亀裂で白く染めながら、こだまのように轟く。


(違う、これは見せ技だ!)


 分厚い氷など無駄だと、心までも砕くための砕氷。


 そしてつぶてを飛ばし、その隙に相手を仕留めようとする手管。


(――来る!!)


 氷壁は、積み木の塔にも思えるほどの脆さで弾け飛んだ。


「〈ラピッド・ヒット〉!」


 相手が氷の壁を破ったのが見えたこと、それはある種の奇跡であっただろう。魔術師系統ではAGIはお情け程度しか上がらず、体感速度もそこまでのものではない。追尾性能がある魔法にしても、速度には限界があった。


(当たらない……!)


 恐るべき速度で迫る王の姿は、ユキカには数コマ飛ばしたように見える。


 振り下ろした杖は、当然のように空を切った。


(――っ!)


 意識の為せる業か、ゲーム的なステータスを超えて、ユキカの視界にはゆっくりと迫る王の右拳が見えている。そして――


 跳ね上がった杖が、ぺこっ、と情けない音を立てて王の左手首に当たった。発動されていたある男のスキル「無敵反射」の効果により、その攻撃は1.5倍にして反射され、ユキカを跳ね飛ばす。


「ふぎゅっ」


 闘技場が、沈黙に包まれる。


「――――約定は果たされた!!!」


 王は、闘技場全体に響き渡る大音声で叫ぶ。


「初の偉業を成し遂げたこの少女に、森王ルチーム・エルタインは……超都市エルティーネへの立ち入りを許可せんとする! 異論のあるものは名乗り出よ」


 沈黙は、守られていた。


「賛同の意を示すものよ――歓喜の雄たけびを以て、喝采せよ!!」


 う お お お お ッ !!! ――と、大歓声がエルティーネじゅうに響き渡った。


「え、死んでない……?」


 ユキカは、やや遅れて目を覚ました。

 やればできる……わけではなく、偶然、というか主人公補正だから(蒼白


 王の力はチートですが、支配下にいないものの力は使えず、支配下にいてもモンスターの能力は使えません。じゃなかったら異界門手に入れた時点で世界最強……いや、すでに片足踏み込んでるけど。


 「バブみについての考察」というエッセイがやたらポイントをもらってて笑いました。なにげに感想が立て続けに来たのもあれが初めて。嬉しいんだけど、うん、嬉しいけど……。

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