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064 「種族学入門Ⅱ」3回目

 どうぞ。

 長い廊下を三分ほども歩き、黒銅色の鎧兜を纏った男は扉を開ける。


「お待たせいたしました」

「良い。これへ参れ」


 おずおずと歩く魔法使い風の少女を伴って、鎧兜の男は豪奢かつゆったりしたローブを羽織る「森王」のもとへ進み出る。


「立て、そして名乗りを上げよ」


 王は左手を上げ、ぐっと握った。瞬間、部屋にいた十数人の男女が変化し、化人族としての姿を解放する。


「英魔第一位、ディーロ・メルディウス」


「第一位配下、ヴェオリ・ルルミウム」

「同じく第一位配下、ルギス・クラット」

「同じく第一位配下、シュールーム・セリィタ」


 黄金の鎧を纏う角と棘で覆われた怪人、ディーロ。揺らめく黒の曲線を纏いながら、先端に至ると恐ろしく鋭い刃となったヴェオリ。金属光沢を帯びたエメラルドグリーン、大きな羽が特徴的だが全身が棘や刃で覆い尽くされたルギス。オレンジと黒という毒々しい色彩と大きな羽、滑稽なまでに巨大な角を生やすシュールーム。


「英魔第二位、エヴェル・ザグルゥス」


 簡素なデザインながら全身に恐るべき刃を持つ、藤色の怪人。変化する瞬間、この姿に見合った装備を選んだらしく、顔の上半分を覆う不可思議な仮面と鋼色のごく薄い籠手を装着している。


「えいまだいさんい、レェム・ティンヴェル」


 白い羽や丸っこいフォルム、顔にあるくちばしを模した黄色い部分が目を引くが、手足の灰色をした爪以外に目立った脅威がない、純白にも見紛う怪人。


「英魔第四位、ユイザ・ガラストゥラ」


「第四位配下、ウェンザイト・サリウム」

「同じく第四位配下、シュリーファ・クロセルコール」

「同じく第四位配下、スペイ・クリームベッタリ」


 真っ赤な装甲とこびりついた血のような色のスキン、青緑のゴーグルと同じ色の亀裂が全身に走った、徒手空拳の怪人ユイザ。鳥を模した仮面をかぶり、肩口に大きな白いファーをかけているのが目立つが、それ以外は光を吸収するように黒いウェンザイト。空中に浮遊し、レモン色と不気味な青のまだら模様を宿した人魚、シュリーファ。後ろから生えた蜘蛛の肢が顔を覆い隠すというおぞましいデザイン、深い緑に高貴な赤紫という吐き気を催すような色彩、背中から生えた四本の蜘蛛の肢、何もかもが異常なスペイ。


「英魔第五位、テュロ・クフィシア」


「第五位配下、ルクス・キツジツ・イディウ」

「同じく第五位配下、ノミー・ザラ」

「同じく第五位配下、ビヨール・アンコーン」


 黒いエナメルのような材質でできた、スカートが足に合わせて割れたドレスという奇妙な装束を纏う、短い角と青い記号のような目を持つ怪人、テュロ。茶褐色の胴着のような、和風の趣を感じさせる装束のところどころに「いかにも」といった装備を付けたルクス。アルビノのような不健康な白さの肌だが、それを覆う少女漫画の騎士のような服装によって次元を超えかけている、レイピアを提げるノミー。曲線と棘を美しく調和させ、紫の分厚い甲殻という鈍重にも思えるそれをかっこよく見せるビヨール。


「英魔第六位、グリローザ・ユイルフェート」

「第六位配下、桜・ベスチノ」


 赤い、ひたすらに紅い、どこまでも紅色をして大きく広がったドレスを纏う、化人族というよりは歌姫の舞台衣装のような姿をした怪人、グリローザ。桜色の長い髪、体を局所的に覆うギザギザの葉、極めて不自然な形をしたスカートという清楚なのか淫靡なのか判断に困ることになるだろう桜。


「英魔第七位、ゼル・クウィルム・ヘルヴスィルム」


「第七位配下、アビスルーム・アクアリウム」

「同じく第七位配下、シウル・クラット」


 シャープで無駄がなく、ある種の水泳スーツにも思える青灰色の怪人、ゼル。宇宙の深淵に浮かぶ星々をその色彩のままにかたどったような彩り、泥を固めたような形のアビスルーム。オレンジ色の装甲が連なるドレスアーマー、背中にはツインテールが下がる、それなりに巨大ながら可愛らしいデザインのシウル。


 ――そして。


「超都市エルティーネが長、「森王」ルチーム・エルタイン」


 突起や棘は最小限、額の角は一本、筋肉はそのままの形に鎧装となり、一切の無駄を省いた凄まじき戦士、それこそがカブトムシを模した化人族の王である。


「客人、そなたは?」

「ユキカ・ルゥスです」


「ふむ。変化を見慣れているようだが、そこは合格としよう。英魔の中にも数人、彼女を見たと言うものがいる……レギアという男が起こした事件について、それは二年前に行われた「異界門の形代」の模倣であることが分かっている」


 呼び出した力をもとにして、何をしようとしていたのかは分からない。しかし人体を捧げることで高位のモンスターや強力な武具を呼び出そうとする行為は、一人を除いた英魔たちにとって、ある種のタブーである。


「助ける理由はあっただろう。しかし、それが後先に続く理由にはならぬ」

「承知しています」


 王は、その威厳にふさわしい重い声で「ならば」と続ける。


「その娘が我らが都、我らが城、我が種族にとって利となる理由を示せ、エヴェル。同じ苦しみを持つものとしての共感か? 義侠心にほだされたか? 言うがよい」


 藤色の怪人は、ややあって面を上げた。


「私は、彼女に幾度も助けられました。そして正体を知ってなお、それを受け入れている。この世界にこのような種族が存在するということを、ごく自然に理解している。彼女は我らが種族へ味方すると言っております」


「ほう。真実かな?」


 水を向けられたユキカは「はい」とうなずいた。


「どのように小さな力であれ、化人族に味方する人間は貴重。他の問題がなければ、むろん喜んで受け入れようとも。しかしながら国民感情は最悪……人間には外道が多く混じると、やはり昔のままなのだと――歴史を紐解いて批判する輩さえいる始末」


 ここにいるほとんどは、「化人族」の歴史についてよく知らない。混成種がレベルアップによって姿を変えたものだと理解している愚か者もいれば、その起源、真なる名前さえも頭に入れている智者もいた。


「ディーロからは「デートをしていた」と聞いたが……人目を忍ばずの逢引きとはこれ、なかなかに面白い。これはユキカどのに弁明していただこう」


 頬を赤くしていたユキカはびくりと反応し、緊張しながらも「はい、えっと」と慌てつつ答えていく。


「なぜ、二人でいたのか――デートではない可能性は?」


「ありません……友達の戦い方を見てもらおうと思ったけど、好きな人と二人で歩いてるから、デートみたいだねって言ってました」


 ふむ、と王はやや笑いの混じった声を出した。


「好きな人……」

「いい人だし、優しいから……」


「種族の違いは、気にならないということかな?」

「違っても、そんなに違わないような気がして」


 王は額に手を当てた。


「やや哲学的な問いになるが。――人の形をして、人の言葉を話すものがあるとしよう。ユキカ殿、あなたにとってそれは何か」


「人っぽいなら、人でしょう?」

「――大変面白い答えだ」


 王は、回答に対して2パターンを考えていた。


 化人族が好き、イコール「怪人」なる異形の姿が好きなもの。


 人間であるかないかでなく、個人や精神性を重視するもの。


 出た答えは、後者である。


「国家が妨げる二人の恋路……と言えばロマンチックにも聞こえようが、それを認めるわけにはいかない理由は山ほどある。それらすべてをかなぐり捨てれば、私は王としての力を失うことになるだろう」


 理由が次々に述べられていく。


 第一に、紛れ込んだ異種族の姿が分かりやすすぎること。これは避け得ず、また先ほどの「人間が入ってきた」騒ぎによって全員から見られており、ユキカの顔までも知れ渡ってしまった。性能を求めた結果サブキャラクターを作って紛れているようなものはともかく、人間を毛嫌いするものたちは少なくない反感を持つだろう。


 第二に、英魔第二位エヴェル・ザグルゥスの力は失ってはならないものであり、第一の理由と併せ、しぜんユキカとの関係にひびを入れざるを得ない状況になること。


「混成種や化人族は、人間から惨い目に遭ってきた。個人としていい人間がいようと、すぐには信じられないのが我らというもの。コウモリということもあり得る、他の可能性でも、疑り深い頭からは無限に湧いて出る」


 エヴェルは失えない。そして、ユキカをこの街に入れるわけにはいかない。ユキカを街に入れず、エヴェルは忍びで彼女に会うという選択もできるだろうが、それは現在と大差ない――つまり、僻目で見られることには変わりがない。


 彼を英魔として使っている王にも不満が溜まってゆき、権力も力も失った王は一介の化人族として暮らすことになるだろう。比較的穏健な今の王はよいが、過激な思想を持つものが祭り上げられれば、人間を絶滅せんとかかっていくものも、それに便乗するものも決して少なくはあるまい。


「私には、人間に味方する理由はなにひとつありません」

「――ほう?」


 毅然として放ったその言葉は、かすかなざわめきを呼ぶ。


「種族として敵対しろって言われてもいないし、化人族を討伐するクエストもなかったんです。遊生人は自由だから、どこに行ってもいいって……ちょっとおかしなことをしていても、遊生人だからするだろうって」


遊生人(プレイヤー)だから……?」


「鬼も、エルフも、竜人も、別に「種族に貢献しろ」とか「繁栄に力を貸せ」とか、何も言われてないんです。種族を問わず(・・・・・・)遊生人(プレイヤー)何をしてもいい(・・・・・・・)んです」


「ふ、ふふ……なるほど、なるほど。確かにその通りだ」


 そこのエヴェルがやっていることも、結局はそういうことだ、と王は笑った。


「その通り……世界人の争いは、遊生人には関係なきこと。ルスカ西大陸で鬼神を僭称すればどうなるか、考えもせず名前を使っていた愚か者……神とあがめられた龍を事もなげに倒して、剣に変えて笑っている化け物。なるほど、人間が化人族に味方する、それも一興」


 王は玉座から立った。


「――であれば、それを証明していただこう。ここの連中にもっとも分かりやすい方法、もっとも理解しやすいものを見せていただく。それが無理だというのであれば、ユキカ殿、あなたにはエルティーネに入る資格なしとする」


 今しがた啖呵を切ったとは思われないような蒼ざめた顔で、ユキカは「えっと」と口ごもる。


「何を……」


「闘技場に向かう。主だった化人族たちが見ている中で、この私に一撃を浴びせてみよ。それができたのなら、ユキカ殿を「王も認めた人間」としてエルティーネに迎え入れる」


 静かな殺気は、恐らくそれぞれ全員から放たれている。


 ふざけてんのか、と言いたげなディーロ。


 私が代わりに千回死んでみせる、と言い出しそうなエヴェル。


 むりだよ、とほんの小さな声で漏らしたレェム。


 正気か、と言いそうになって口を押さえるビヨール。


「なお、フェアな戦いのために先に言っておこう。私はこの場にいるすべてと戦い、完勝している」


 そう、王に一撃浴びせるなど、どだい不可能な話なのだ。


 ――誰にもできたことがないのだから。

 無茶を言う王さま。まあ、戦時中の日本の中に金髪碧眼のイギリス人が乗り込んでいくようなものですから、トップに認められないと無理なんだよなぁ。


 プレイヤーは何をしても勝手というのは事実で、国家や種族単位での縛りがあるのは鬼と化人族くらいのもの。それでも明確な禁止行為はひとつあるかないか、という超絶優しい仕様だったり。人間種族は完全に自由なので、敵対種族に味方していても指名手配とか一切ありません。すげーなおい。

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