059 溢れ出すのは
どうぞ。
思考:二十四時間経過、順調に成長。レベル二十に到達。事故防止策成功、再生産の必要なし。経過観察続行。
思考:三日経過、順調に成長。レベル四十に到達。経過観察続行。
思考:五日経過、順調に成長。レベル五十に到達。低コストモンスター全滅寸前、補充の必要あり。必要ステータスに到達、超成長促進を停止。低コストモンスターのコピー&ペースト開始。
思考:一週間経過、順調に成長。レベル八十に到達。成長速度異常、ステータス異常成長発生。低コストモンスター増産間に合わず。必要ステータス超過。脱皮のため空間拡張、最終段階成長に必要な空間確保。
思考:九日経過、順調に成長。レベル百に到達。脱皮成功、再生産の必要なし。高コストモンスター誕生開始。必要ステータス大幅超過。制御不能が危惧される。解放スキル順調に成長中。
思考:二週間経過、順調に成長。レベル百五十に到達。成長速度完全に異常。解放スキルレベル百に到達、危険。必要ステータス超大幅に超過。
意見:報酬アイテムの等級見直しが必要。レーティング引き上げが必要。
承認:承認。性能を提示したのち決定。
意見:本体に準ずるため魔力二割増加、特殊魔法追加、スキル経験値増加、飛行魔法追加または強化を提案。レーティング九を提案。
承認:承認しない。レーティング十が必要。もしくは分割が必要。
思考:本体に特殊魔法追加。性能大幅強化、二段階覚醒成長追加。
意見:アイテムの機能に、新たに特殊魔法追加、アイテムそのものの性能成長を提案。
承認:承認。ただし分割、それぞれレーティング十を最低ラインとする。
思考:本体に特殊魔法追加。性能強化、外界での活動開始。敗北確率ゼロ、危険。獲得経験値によっては世界級脅威になる可能性。制御を放棄。
意見:アイテムの機能に、新たに特殊魔法追加を提案。
承認:承認。
思考:三週間経過、異常速度で成長。レベル五百に到達。災害モンスター捕食確認。汚濁環境への順応化。一段階覚醒、超越級生物へ到達。制御不可能なれど種族定着前に掃討を提案する。
承認:承認しない。
意見:アイテムの機能に、新たに特殊魔法追加を提案。
承認:承認しない。
思考:一か月経過、異常速度で成長。レベル七百に到達。生態系への影響なし。高レベルの災害モンスター捕食確認。汚濁環境に適応確認。本格的な掃討を提案。
思考:一か月経過、成長停止。自動成長確認。本格的な掃討を提案。
承認:承認しない。コスト放棄は承認できない。経過観察続行を提案。
意見:アイテムの機能に、新たに特殊魔法追加を提案。
承認:承認。成長停止の間に性能を決定せよ。
意見:武器に魔力二割増加、特殊魔法複数追加を提案。防具に魔力二割増加、スキル経験値増加、飛行魔法追加または強化を提案。レーティングは双方十を提案。
承認:承認。性能を固定。規定期間経過を待機せよ。
思考:規定期間経過。当該モンスターの帰還を促す。
思考:当該モンスター帰還。入眠中。世界級の脅威であり非常に危険。
◇
エイラは、異界門を調整している王を見ながら「何をするつもり?」とそのまま尋ねた。相手が相手だからか、王は素直に「少しばかり、外の空気を吸ってもらう」と告げる。
「異界に招待されたもののすべてが才覚ある怪物というわけではない。招待されていながら二つ名で留まるものもあれば、戦いを好まないものもある。または、ある相手に対しては最強というものも……。そういったものたちには、異界は少々厳しいようだ」
「それだからいいんでしょう。情けでもかけるつもり?」
「ご明察……と言いたいところだが。あいにくと私はそこまで優しくはない。異界から出て戻る手段は、もう一度招待されるか、私の手に戻るかしかないのだ。得意な相手を狩り続けるにせよ、強敵をひたすらに攻め続けるにせよ、強くなることができないのならそのまま消えていく」
成長ボスの中でも二つ名は比較的「手に負える」存在だ。そして世界人とは比べ物にならないほどの力を持つ遊生人はさらに大きな力を付けており、過去に倒したものたちをすべて力に変えていく。二つ名ごときならば烏合の衆でも倒し得る、というのはあながち間違いでもない。
「そして、倒されたものたちはどこへ行き、何に倒されて消えていくのか。成長するならばどのように成長し、どこまで強くなるのか……。異界へ戻れるものは一割もいるまい」
「やはりね。足切りの第一段階ということかしら?」
「邪推されるな、エイラどの。逆だ」
本音を引き出せて良かったわ、とエイラは嗤う。
「平均的な力を引き上げるため――とでも言うんでしょう」
「……そう読まれては、感心せざるを得ない」
王は冷たい人物ではない。そうでなければ、現在の英魔を助けに走ったりなどしなかったことだろう。
「所詮、異界などはつまらない装置にすぎない。本来の我々にとっては必要もない、それどころか邪魔者でさえあるのだ――と口では言えるが、正直なところ四つ名以上は戦ったこともない、それどころかあれほど世界各地を巡るプレイヤーでさえ見たことがないものが大半。徐々に馴らしていくのが正解だろう」
あまり周りに興味がない英魔の情報によると、プレイヤーが出くわした最強の敵は五つ名であり、討伐したともしていないとも言われている。
「異界の中は膜を解いた影響でかなり変わってると思うわ。そう言えばなんだけど……膜を解く前にどういうものかチェックした?」
「異界門はそこまで高性能ではない」
事実を告げる簡潔なひとことで、エイラは頭を抱えた。
異界門はコントロールしているすべての成長ボスを把握し、その真名と姿を知り、コストなしに召喚することができる。ただ、その性能のすべてを知ることはできないうえ、成長ボスとして把握されていない小石や小鳥、虫の一匹などは呼び出すことができない。二つ目の欠点はないに等しいとしても、性能を知ることができないのは意外に大きな欠点である。なぜなら、今回森王が行ったような一斉解放が行われたとき、始まるのは食い合いだからだ。
「あのごった煮やらバカ兵器が出てきたらどうするの、王さま。ただでさえめちゃくちゃな性能のものばかりなんだから、凍結するかしないかくらい考えて欲しいわね」
「……肝に銘じておこう。ところで「ごった煮」と「バカ兵器」はいったいどんなものを指しているのか、お教え願えまいか」
「えっとね……あらニゴォ、いいところに来たわ。あのごった煮とバカ兵器、どんな名前だったか覚えてない?」
ちょうどいいタイミングで魔術の鍛錬を終えてきたニゴォが、応接室近くを通りがかった。突然尋ねられた青い衣の青年は、目を宙にさまよわせてから「ああ、あれのことか」とうなずく。
「なんだかんだ倒しきれなかったが……フェリウスクローゼンとイルヴァースティルオンだったかな? 名前が長いもので詳しくは覚えていないよ」
「フェリウスクローゼン……インクルージョンスライムというものが該当している……これかな、お二方」
「そうだな、これだ。黒い粘液の中からあらゆるものが飛び出てきて……武装に防具、撃ちこまれた魔法や体内で固めた土なんかも好き放題に撃ってきた。最悪の相手だ」
なるほど、と王はうなずく。
「モンスター側のプレイヤーということか」
「プレイヤーはそんな化け物なのか……?」
ニゴォはひどく驚いているが、エイラは「彼もそうでしょう」とたしなめる。
「どこからか武器を出すじゃない。瞬間で装備を着替えるでしょう? 人間は私たちがいた昔からそうだったわ」
「そういえば、お二方……昔と今で変わったことは、プレイヤーのほかに何かお気付きになっては? 文献を見ても、その時代になかったものはよく分からぬもので――」
人間は昔から変わらないというが、プレイヤーでなくとも瞬間の出し入れは可能だ。アイテムボックスではなくインベントリというものを扱う点ではプレイヤーの方が優れているが、熟練のプレイヤーでもなければそう世界人に勝ることもない。
と、エイラは森王の耳慣れない言葉を口にした。
「――そういえば、ハーヴェストはどうしたのかしら」
「ああ、そうだね……あれを使わないはずはないのだが」
森王は、怪訝な顔をする。
「聞いたことのない言葉だが……」
「歴史にあれが残っていないはずはないわ。プシュケーとハーヴェストの組み合わせだけで、私たちはずいぶん苦労させられたものだけど」
「そうだな。あちこちを巡ったが、骨が砕けるほどの傷を負ったのはあれ相手の戦いしかなかったように思う」
森王は「それについて、詳しくお伺いしたい」と苦々しい顔で言った。
◇
各地で成長ボス大量発見! レイドイベントの前触れか?
五月下旬に入ってからユーミア王国、ドレイセス王国、千万神木などルスカ中央大陸の各地で二百を超える成長ボスが確認されている。面積比でひとつの国家に対して最低でも五十が存在する異常事態であるとの発表が為された。成長ボスは三国にまたがるマロス山脈に突如出現、のちバラバラの方角に進出している模様。
成長ボスの特徴には統一性がなく、あらゆる種類やこれまで観測されたことのない種別の生物・物体も混じっている。普段出会えず、大量出現したこの機会に戦力を強化しようと奮戦する遊生人たちの活躍に期待したい。
◇
マロス山脈にはいくつかのダンジョンが存在する。文字通り、歴史において悪しきものを封じる監獄であったダンジョンであったり、単なる天然の洞窟であったり、資源採掘のために作られた坑道であったりした。それらはプレイヤーや世界人にとってもさほど恐ろしい場所ではなく、五人ほど連れだって向かえば護衛など必要ないくらいだ、と考えられている。実際にここ十年で死者が出たことはない。
監獄の奥へと潜って貴重な素材を取りに行った高レベルのプレイヤーにしてみれば、そのような認識をする必要さえない。今しがた補強された出口から出てきたプレイヤーたちは、常日頃のように座り、思い思いの休憩をする。水筒を一本空けるもの、景気づけの魔法を空に向かって放つもの、寝転んで折り重なるもの。
「くあー、やっぱ長いと疲れるよなー」
「そっすねー。あー、やっと最終強化ですよぉ」
「ぷはぁお茶うめえ! おかわりっ!」
「自分で出せよな……。ん?」
冷静沈着な彼が出した声に、近くにいたものたちは一斉に振り向く。
「どしたぁ? うぉ、なんじゃありゃあ!?」
「ひえっ、なんすかあの数!? この近くに魔法陣クエありました?」
「確認されてないですね……いったい……」
マロス山脈にほど近い森で、何かが起きている。
――成長ボスが、虚空からあふれ出ていた。
それがただ単なるモンスターでないことは、見れば分かる。ありとあらゆる種族を見てきたプレイヤーでなくても、その卓越したデザインセンスを見れば、あれは何か特別なものだとすぐに分かるはずだ。
工場を背負った、小さな山ほどもある蜘蛛。どうして飛行できているのか思考が及ばないほどに巨大な翼竜。森、海、宝石、ありとあらゆる美しい緑を揺らめかせるオーロラ。何か小さなものがゾロゾロと蠢く、薄気味悪い半流動体。英雄がそれを倒すのではなく、それそのものがある種の英雄であると思わせるほどに美しい、白龍。
「逃げるぞ!」
「ヤバい、ヤバい……何が起きてる!?」
高レベルプレイヤーからしても、成長ボス複数体――二体以上は分が悪い。種族に起因しない能力を持っていることも多い成長ボスは、単なるごり押しで勝てることも珍しい。仮にあれらがすべて最弱クラスとされる「二つ名」で留まっているのならば、数体を相手にしても勝ち目はあるだろう。だが、そうであっても膨大な体力と理不尽とも思える特殊能力を前にして、比較的エンジョイ勢に近い彼らが勝利できるとは考えられない。
テレポートによってホームタウンに帰還した彼らは、すぐさま凶報を伝えた。あまりに真に迫った言葉に動かされた成長ボス狙いのプレイヤーたちは、恐らくそのあたりであろうと思われる場所に向かい、隅々まで探索したが――何も見つけることはできなかった。少なくともユーミア王国領内では何の変化もなく、凶報は無為なものとなっている。
しかし山脈を隔てた隣国、ドレイセス王国では街がひとつ増えることになった。もともと属国や僻地にむりやり作られては滅ぶ村が多く、村や町の存在に対して大きな注意を払うことがない国であるため、その街はそのまま受け入れられることとなる。加えて、どうやら化身した龍が守護しているという噂もあってか、その街はいつからあったかも知れないのに繁栄していることに対して、何の疑問も持たれなかった。
それは、あるいはドレイセス王国の持つ独自の混沌――「種族が何であれ、気にしない」という暗黙の了解を極限まで突き詰めたものだったのかもしれない。プレイヤーたちがそこを訪れても、彼らが隠す事実に気付く様子はなかった。彼らが宿す人の意識のリアルさ、そして、その街においては何も知ることができないという恐るべき隠蔽の強力さが、普段なら疑ってかかる人間たちをもねじ伏せたのだろう。
こうしてルグーニオン南十キロに「パルベンテイス」が誕生した。
やべーやつが多すぎる気がしますが、世界のうち半分は人間がいない場所なのでなんでも出てきます。あと千五百年くらいかけて蓄積されているので、異界門の内側にはそれこそ無数の成長ボスが……。デザイン型(ルグーニオン襲撃で勝ち上がったやつ)はほんの数体しかいないので、ほとんどオリジナル。うっかり全開放したらとんでもねーことになるだろうなぁ……。
ハーヴェストは名前のままです。




