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052 歌って踊れる

 どうぞ。

 昨日の宴はすごかったなあ、と思いながら、俺は眠気をかみ殺すのに苦労していた。


「なあ、小波」

「お? ああ、木村」


 ものすごく申し訳なさそうな顔をしている。


「どすた。俺はねむい」

「ああ、うん。その、悪かった」


「うん。そうか」

「怒ってないのか?」


 俺は眠かった。名前をからかわれる、という小学生並みの嫌がらせは大人にも効くわけだし、きちんと謝らなきゃならないのは本当だ。しばらく許す気はなかったと思うのだが、俺はあっさりと流してしまった。


「名前変えるから。もういいよ」

「ああ、おう……」




 小崎も山本もけっこう心配していたみたいで、俺が居眠りしていたときにもきっちり起こしてくれた。


「……そうか、大変だったんだな」

「まーね。木村にからかわれるくらい軽い、軽い」


「ほんとマジすまん」

「いーから」


 初心者でも、攻略サイトをきっちり見てればユニークボスくらい知っている。街中にそれが現れるヤバさも加えて、だ。


「三つ名ってものすごい危険なんじゃなかったか?」

「まあ危険だったんだけどな。ギミックがさ……」


 というわけで、最後には意図せず墓穴を掘ってやられてしまったのだ、と説明した。三つ名はユニークボスとしてはかなりヤバい部類で、これまでプレイヤーに確認された最強は五つ名だったそうだ。ただ二つ名でもそうそう出現せず、三つ名はベテランを集めても負けるレベルの強さらしく、「やっぱり化人族ってすげえな」と小崎は笑っていた。


「チュートリアル投げ出して、すまんかった」


「いいよ、こっちもいい経験になった。海パン一丁なのに五人相手で瞬殺してくる人とか、こっちはこっちでダンジョン攻略してみたりとか……それなりに良かった」


「海パン……?」


 どこかで見たような気もするが、人違いだろう。


「それで、ユニークボスってすごいもの落とすんだろ? そこでしか手に入らない装備とか素材とか」


「ああ、わりといい素材だったな」

「へえ……スライムの素材って何だろうな」


「怨念液っていう、攻撃するたびに呪いを蓄積する武器が作れる素材。考えてみりゃヤバいよな」


「もう加工したのか?」




 話はめちゃくちゃ弾んで、久しぶりに楽しい時間が過ごせた。


「ニュースに載ってたぜ、お前のこと。これだよな?」

「ん? ああ」


 ラゾッコ南端部で大爆発、ユニークボス討伐イベント! ……って、ぜんぜん真実を公表する気がないあたり、やっぱり闇深だ。木村はへえ、すげえなあ、と言いながら記事を読んでいく。あのことが書いてなければなんでもいいのだが。


「お? 人気のアイドル、誘拐から救出される……」


 そこも隠蔽されとんのかい! と内心突っ込みながら、端末に「喜びのオタ芸」という動画が添付されているのを見て、ちょっと吹き出しそうになった。


「すげえな、貢献度二番目だってさ!」

「ふーん……そういうとこやっぱゲームだな」


 あんなにリアルに、というか現実的なイベントを起こしておきながら貢献度の計算なんかしてるあたり、ゲームっぽく振る舞っておきたいんだなあ、という意図が見え見えだ。まあゲームっちゃゲームなので、目的とかそういうものは関係ないといえばない。


「あーあ……報告どうすっかな」

「ギルドとか入ってたか?」


「ああ、うん。今回はわりときついミッションだったから、きっちり報告しなきゃダメなんだよな。あの人、納得してくれるのかな」


 ユニークボスから落ちたものが装備じゃなくて人間でした、なんていくら例外中の例外でも素直にうなずいてくれる人の方が少ないだろう。


「ま、そっちはそっちで頑張れよ。俺たちはまだ先輩にご指導いただくから」

「あ、ああ……」


 ご指導が(意味深)じゃなきゃいいんだが。






 エルティーネはいつも通りの化石木材の敷石、似たような色の木の柱や、そこそこまばらに歩く混成種やら姿だけ人の化人族、そんな感じだった。活気があるようなないような、夜だから少なめなのか昼の方が少ないのか、微妙な感じだ。いつもエルティーネとラゾッコ、たまにデーノンあたりにしか行ったことがないので、「プレイヤータウン独特の、夜でも活気のある感じ」ってのはどうもうまく理解できない。


 待っていた女剣士風のノミーさんと、会ったことはないが多分そうだろうテュロさんのもう一人の配下に連れられて歩く。貴族風の服を着た若い女性と侍風の鎧を着たおじさんなので、和洋折衷って感じがする。


「青年、其れでユニークボスから意外な物が落ちたと言う話だったが、一体何だった? 意外と言うからには、テュロ様も驚くような物か」


「はあ、たぶん。そっちの人がもう一人の配下の人ですか」


「私がルクス・キツジツ・イディウ、テュロさまの配下の一人。君もこれから加わるとか試練の途中だとか……どっちだったかな?」


 穏やかで優しそうな人だ。英魔の部下は信奉者だという噂を耳にしたことがあるので、おかしな人なのかなと思っていたのだが、どうやら違ったらしい。


「レベル四百くらいか。それだともうソロで倒せる頃合いだろう?」

「いやいや……」


 何言ってんだこの人。


「気にするな青年、ルクスはレベル三十の頃にボスモンスターを単独討伐している。此れの戦闘能力はまともではない」


「失敬な。攻撃に偏りすぎて防御が死んでるだけだろう?」

「隠密からの首狩りで、ボスモンスターを一撃で倒していたように思うが」


「……ダメだ、まともじゃなかった」


 穏やかでいい人そうだと思ったのだが、戦闘スタイルはおかしいみたいだった。まあ、テュロさんもひとのする戦い方じゃないけど。


「三人とも揃った?」

「はい」


 上から声が聞こえた瞬間に、二人とも一瞬で直立不動になる。うん、おかしいな。建物の陰に隠れていたわけでもなく、どうやら空を飛んでいてこっちを見つけたから降りてきたらしい。


「じゃ、お城に行きましょうか」


 今まで一度も会ったことがない「森王(しんおう)」に会えるのだろうか――と、かなり緊張する。森王は「天王」「海王」と同列の、世界観そのものでの最強格で、なんと英魔第一位ディーロ・メルディウスを一撃で倒したという逸話があるのだ。このあいだ国境線を一人で封鎖したとか聞いているのでめちゃくちゃ強いはずなのだが、それを何倍も上回っているとなるともう想像がつかない。王自身は「私が最強なのではない」と謙遜しているそうだが、拳の一撃でも即死しそうなイメージがあって、ちょっと怖い。


「着いたわ」

「久しぶりですね、此処へ来るのは。テュロ様は正式な誓いをご所望なのですか?」


 えっなにそれ聞いてない! と言ってしまいそうになるが、こらえる。


「というよりも、新しい戦力をきっちり見せたいのよ。報酬のお披露目を、王の御前でやろうかと思って。ビヨール、それでいいでしょう?」


「あ、あえっとその、それがですね……ちょっとその」

「ん? 三つ名の貢献度二番目だから、君は確実に報酬を手に入れているよね?」


「いやそうなんです、そうなんですけど……ちょっと手元にないんです」


 テュロさんとノミーさんとルクスさん、三人ともが「こいつ何言ってんの」という顔をする。いや、俺にもその意味は分かっているし、だから事前に詳細を伝え忘れた……というか伝えるのが怖くて言いそびれていたのだ。昨日の今日だから仕方ない、と思ってくれているところに裏切るようで申し訳ないが、そうだった。


「……えーっと、ビヨール君。その――自律型なのかな?」

「あっはい、そうです」


 ゴーレムからダウンサイジングしたミニチュアゴーレムが出る、ということがあるらしい。それとか卵系アイテムはそのまま孵化して、自由意思を持ったモンスターになることもあるらしい。確かにアレはそうだろう。


「では、それが動いているところを見せればいいのでは?」

「あ、そうですね!」


 ルクスさん超ナイス――じゃない! いまのニューカは、確実に仕事中(・・・)だ。それが何を意味しているかと言えば、……うわあ、どうすればいいのかさっぱり分からない。


「昨日そのまま話してくれなかったから、気になってるのよ。王の御前で見せるものだから、変なところじゃないとは思うけど」


「アッハイ」

「自律型か。となると共に戦う仲間を得たことになるな、青年」


「Yes」


 もうそれ以外、どんな言葉を出していいのか分からなかった。




 初めて出会った森王さまは、人間でいう四十代くらいの、ごく普通の男性だった。異常にいかついわけでもなく、剣呑でもなく威圧的でもなく、かといってだらしないとか子供っぽいとかそういうわけでもない。だから無個性だとも言えないし、どこにでもいそうな男性というわけでもない。まあ、玉座に腰かけてる時点で王さまなのは確定だが。


「面を上げよ、四人とも。拝謁を願い出たのは、誓いの件か?」


「はい。この者、ビヨール・アンコーンが私の設ける基準を突破いたしました。加えて彼はすでにハザード。この城に踏み入るに充分かと存じます」


「ふむ……。なるほど、テュロ・クフィシア、お前の設ける基準は「二つ以上の姿を持つこと」「ユニークボス討伐経験」だったな」


「はい」


 ほかの人もそういう基準があるんだろうか――と、言葉を発しているときだけヤバい重圧がのしかかってくることから逃げるように考えていると、王さまがこっちを見た。


「……そう怯えずともよい。では、お前の持つ姿と力を見せてみよ」

「はいっ」


 まずはシフト・リラになって、真空状態を作ってから雷をばら撒く。いちおう誰にも当たらないように調整した。


 次にシフト・リリーでテュロさんが投げてくれた大きい盾を一秒でハンコ注射状態にした。コントロールがきついのでめまいがするが、まあ大丈夫だ。


 そして最後にシフト・グレープになる。これではそこまで大きなことはできないので、そのまま立っていた。


「いいだろう。次にテュロ、お前が設けていた条件の一つにユニークボス討伐経験があったな。装備を身に付けている様子はないようだが――」


「自律型だそうなので、現在地を投影すればよいでしょう。ビヨール」

「あ、……はい」


 うん、しょうがないな。説明してなかった俺が悪いんだからしょうがないね。ちょっと連絡を入れつつ、あっちでも同じようなカメラ的アイテムを用意してもらい、玉座の間にあるすぐ横の平らな壁に、その様子を映し出す。


『はいっ! たったいまご主人様から連絡があって、魔法を使って今夜のショーを見てくれているそうです! というわけなので――はいっ、大サービスっ! 分身の術ぅーっ!!』


 お客さん(プレイヤー)が提供してくれた砕いた宝石をちりばめた、短めのスカート。同じ素材で作ってある、ノースリーブだが下へ鋭く伸びる上着。


「ご、しゅじん……さま?」


 ニーハイソックスでもまだ絶対領域が見えているという反則的に短いスカートはともかく、純粋天上純白金(ハイエストメタル)と鉱竜種の落とす竜質エメラルドや種々の宝石がちりばめられたティアラ、少し無理がある姿勢でもこなせるようになるブーツなど、戦闘職として見るべき点もあった。


「アイ、ドル……なのかい?」


 背のとても高い女の子、長くて美しい色の髪の毛を持った女の子と一緒に、たくさんの一人の女の子がいた。舞台だけでなくディナーショー風に配置されたテーブルの隙間、そのあちこちに同一人物レベルで似た、しっとりした黒髪巨乳の女の子が微笑んでいる。彼女らは「曲名、雲の上へ!」とコールして、マイクを持って歌い始めた。


「……擬態したままここまでの術を使いこなすもの、ということかな」


 好意的な解釈すぎて泣きそうだ。


 歌を歌いながら、とっくに正体を受け入れられたらしく、テーブルの間にいたニューカ分身体は、それぞれさまざまなものに変化して飽きさせない。


「ビヨール、説明がしにくかった理由はよく分かったわ。でも聞かせて、これはいったい何なの? ちょっと理解できなかったわ」


「あー、それについては……俺の方から説明させてもらおうか。ボスとの戦いに駆り出した本人としてだ」


 ユイザさんが唐突に出てきた。タイミングを計っていたようだ。すらすらと、まだ俺の知らない情報がぽんぽん出てくる。どれだけ情報を持っていたんだろうか。


「ほう……。ひと一人を強化して蘇生させる奇跡を起こすとは。なるほど、その力は戦士にふさわしい。さらに力を高めれば、英魔にも匹敵するだろう」


「だろう、王さま? もうすぐ来る候補生はまだそこまでじゃないが、あいつがうまく導いてくれることだろう。やったなビヨール」


「ああ……」


 このアイテム……アイテムというか報酬〈生存念液人体 ニューカ・クラル=リエントーナ〉は、簡単に言えば「ちょっと強化された人間」だ。報酬としてはそこまで強力な部類じゃないというか、むしろバフをかける程度しかできないので弱い方だろう。しかも持ち主と性格が合わないとか要求を飲まないと反抗する恐れの方が大きい。


 ――から、俺は彼女を放っておいている。やりたいように生きればいいし、別に俺を利する必要もない。たまに急用ができて今みたいな中継でもなければ、それこそ本当に関わることすらない状態だろう。


「誓いの剣を。誓いの言葉を。誓いの水を。ここへ彼を戦士と認定する」

「謹んでお受けする。我が身、我が剣は王と共に」


 心は自由にしておいてくれるんだな、なんて思いつつ。


 俺は正式に、英魔第五位テュロ・クフィシアの配下になった。

 ビヨールくん……w


 装備っぽくない装備はどしどし出していこうと思っています。昨日は設定の考えすぎで寝られなくて大変でした。頭の中に文字列がどんどん登場して、どれをどこに……うおお寝られん!! みたいな状態。結局一時間ほどしか寝てませぬ……

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