スキルと崩落
俺達は始まりのダンジョンの五階層目で一度休憩をとりながら雑談をしていた。アイラが女王様っていうのは正直驚いたが、展開としては普通なのかもしれないな。
誠「それにしても苦戦したな…。」
ベル「そうでしたね…。」
誠「何か簡単に強くなる方法ってないのか?」
アイラ「横着者だな…。」
誠「うっせ。」
ベル「簡単に強くなるなら…スキルですかね?」
誠「スキルなんてあるのか?」
ベル「ありますよ。まずギルドカードを出してください。」
俺はポーチからギルドカードを取りだし、カードを見た。すると視界の端にギルドカードを取りだすアイラが映った。お前もスキルのこと知らなかったんかい…。
ベル「そしたら種族の下にスキルの欄があると思いますから、そこをタッチすれば色んなスキルが出てきますよ。」
誠「へー…。でも、多過ぎて何がいいのか分かんないな…。」
俺はスキルの欄をスクロールしながら、どれにしようか迷っていた。ポイントもあまりないから大事にしないと。すると一つのスキルに俺は目が釘付けになった。
誠「ギアブレイク…。危ない名前してるな…。大丈夫なのかこれ…?」
詳細を見ようとタッチしてみると、「速さによってダメージの上がる攻撃を放つ」と書かれていた。
誠「…俺専用スキルじゃないか!」
俺は即断即決でギアブレイクを習得し、残りのポイントは防御力アップにふった。それを見たベルが驚いた表情で近づいてきた。
ベル「えっ!?な、なんで防御なんですか!?」
誠「…というと?」
ベル「他のスキルは覚えなくていいんですか!?」
誠「ギアブレイクだけでなんとかなるかと…。」
ベル「…ひ、否定できない…。じゃ、じゃあ攻撃力は!?攻撃力にはふらないんですか!?」
誠「…なるほど?」
俺はそう言いながら地面に落ちていた小石を拾った。それを軽くベルの腕に投げつけた。
誠「痛いか?」
ベル「い、いや痛くないですけど…?」
次に俺は少し力を強めてベルの腕に小石を投げつけた。するとベルは声をあげて痛がった。
ベル「な、なにするんですか!?」
誠「こんな風に速さが変われば、当たったときの衝撃も変わるってこと。」
ベル「な、なるほど…。」
誠「つまり、実質俺は攻撃力もカンストしてるって訳。」
俺はそう言いながら立ち上がり、コートに付いた砂を手で払って、部屋の奥の扉に向かった。
誠「そろそろ行こうぜ。」
セナ「わかった…。」
アイラ「あ、ちょ、ちょっと待って!」
誠「そういえばアイラは何のスキルを覚えたんだ?」
アイラ「え…?いや…それが…。」
誠「ん?」
アイラ「全然モンスター倒さなかったから、ポイントがなくて何も覚えられなかった…。」
誠「…行くか…。」
全員が扉の前に集まったのを確認してから俺は扉を開けた。五階層にあれだけの強敵がいたんだ。六階層にはどんな敵が待っているのかワクワクしていた。
誠「どんな奴も俺のギアブレイクで倒してやるぜ…!」
そう意気込みながら六階層目の部屋に入った。俺は大型のモンスターを期待していたのだが、そこにいたのはスライムだった。
誠「…なんでまたスライムなんだよ…。」
俺のテンションは物凄い勢いで下がっていった。例えるなら、エロゲのキャラが可愛くて買ったのに、シーンが好みじゃなかったって感じだ。
誠「はあ…。」
アイラ「テンション下がりすぎだろ。」
誠「…お前はここでポイント稼いでろ…。」
アイラ「余計なお世話だっ!」
俺はテンションを下げながらも、周りのスライムを蹴り倒していった。しかし、残念なことに七階層、八階層、九階層もスライムしか出てこなかった。
誠「…これで十階層目もスライムだったら訴えるぞ…。」
ベル「流石にないと思いますよ…。」
誠「…じゃあ開けるぞ…。」
扉を開けるとそこには一匹のドラゴンがこちらを睨みながら佇んでいた。その時の俺のテンションはぶち上がっていた。剣を持ちながら目を輝かせ、ハアハアと息をあげて興奮していた。
誠「お前ら…ハアハア…手出すなよ…ハアハア…。」
アイラ「どうしたお前…。」
セナ「怖い…。」
誠「ハアハア…ギアブレイクウウ!!」
俺はギアブレイクを発動させた剣でドラゴンの喉元に斬りかかった。そして、刃がドラゴンに当たった瞬間、俺達は爆風と共に外に飛び出していた。
誠「…はっ!?」
どうやら威力が強すぎたらしく、ダンジョンの壁をぶち抜いてしまっていた。剣をしまい、辺りを見回した。すると全員が地面に向かって落下していた。
誠「待ってろ!すぐ助ける!」
俺は飛び散ったダンジョンの壁を足場に、空中を駆けながら三人を抱えて地上に足を付いた。
誠「大丈夫か…?」
ベル「な、なんとか…。」
セナ「…平気。」
アイラ「…し、死ぬかと思った…。」
誠「…やりすぎたな…。」
振り返るとダンジョンが地面に崩れ落ちていっていた。ギアブレイク…恐ろしい…。これ賠償金とかとられないよな…?
誠「ず、ずらかるぞ…。」
アイラ「言い方悪いな…。」
馬車に乗りギルドに帰るとなんだかいつも以上に騒がしかった。たまたま目の前に、リディが通りかかったので聞いてみると、
リディ「あっ!誠さん!無事でよかった!」
誠「無事って?」
リディ「実は先ほど始まりのダンジョンが崩落したんです!怪我がなくて本当によかったです!」
誠「フ、フーン…。ソーナンダ…。」
リディ「それでは私は処理があるのでっ!」
誠「ア、ウン…。」