アイラと王家
俺はダンジョンの扉を両手で押し開けた。中には何もいなかったのだが、足を踏み入れた途端に数十体のモンスターが現れた。
誠「いくぞっ!」
ドロドロとしたスライムの様なモンスターは、たった一回斬っただけで粉々に消え去った。これならセナを連れたまま攻略できそうだ。
ベル「…一階層はこれで終わりですかね。」
一分もしない内にスライムは全滅し、奥の扉が開いた。扉の先には二階層への階段があった。俺達は会話を挟みながら階段をのぼった。
誠「意外と楽勝だな。」
アイラ「確かに。」
誠「戦ってないくせに。」
アイラ「うっ…。バレてた…?」
誠「はあ…。次の層では戦ってくれよ?」
アイラ「…わかった。」
そんな話をしながら階段をのぼりきり、二階層目の扉の前に着いた。俺は皆に目配せした後、扉に手をかけた。
誠「じゃあ開けるぞ。」
扉を開けるとまた大量のスライムが現れた。スライムのダンジョンって名前でいいんじゃないかって位にスライムしか出なかった。三階層も四階層もスライムだらけだった。
誠「…つまらないっ!!」
ベル「き、急にどうしたんですか!?」
誠「スライムしか出ないじゃないかっ!」
セナ「楽でいいと思う…。」
誠「楽すぎるわっ!さっき試しに蹴ってみたらそれだけで倒せたぞっ!?」
アイラ「良いことじゃん…。」
誠「おぉ前はいぃ加減に戦えぇえ!!」
アイラ「だ、だって…。」
誠「次の層で戦わなかったら本気ではっ倒すぞっ!?」
俺はアイラを睨み付けながら言った。そして睨み付けていたら、一つ気づいたことがある。皆が持っている物を持っていないのだ。
誠「…お前…武器はどうしたんだ…?」
アイラ「え…?あ、あたし武闘家だぞ!?武器はこの拳だから…!」
誠「…ならその拳を使えよぉお…!」
アイラ「わ、わかったって…。」
誠「じゃあ次行くぞ…。」
五階層目の扉を開けるとスライムらしきモンスターは出てこなかった。代わりに土が辺り一帯に落ちていた。
ベル「土…ですね。」
ベルが土に触れると周りの土は部屋の奥で一つにまとまり、人形に固まった。ゴーレムと言うやつだ。
誠「面白くなってきたぞ…!」
俺はゴーレムに近づいて右足元に斬りかかった。しかし何度斬っても土が散り、その土が元の場所に戻りを繰り返した。
誠「…これじゃ埒があかないぞ…!」
ゴーレム「ウアアアアアッ!!」
誠「危ねっ!」
ゴーレムは手のひらを俺に向かって叩きつけた。その地面にはヒビが入っている。ただの土のくせになんて破壊力だ…。
ベル「ま、誠さん!このままじゃ勝てませんよ…!」
誠「あ、ああ…。」
どうする…?あの感じだと物理攻撃が一切効かないタイプだろう…。俺のパーティに魔法少女はいない…。もし無事に帰れたら募集しよう…。
ゴーレム「ウアアアアアッ!!」
ベル「キャッ!!」
ゴーレムはベルの体を手で握りしめ、ジリジリと力を強めていった。その度にベルは苦しそうな声をあげた。
ベル「ぐっ…くぅっ!ゲホッ…!」
誠「ベル!」
ゴーレム「ウアアアアアッ!!」
俺がベルを助けようとしたその瞬間、ゴーレムはセナに握り拳をぶつけようとしていた。俺は少し迷った。でも無防備なセナにあれが当たれば絶対に死んでしまう。
誠「クソッ!」
俺はゴーレムの拳を受け止め、セナを守った。俺は拳を受け止めながらアイラの方を見た。アイラは口を開けて怯えた顔で突っ立っていた。
誠「アイラ!突っ立ってないでベルを助けろ!」
アイラ「…あ…わ、わかった…!」
誠「頼んだぞ…!」
俺はセナを守るのに手一杯でベルを助けに行くことができなかった。アイラはベルを握るゴーレムの手を必死で殴っていた。
アイラ「くっ…!ふっ…!」
しかし、アイラの拳は少しのダメージも与えられず、ゴーレムの手はベルを握り続けたままだった。
アイラ「…もう…やるしかない!」
ベル「…え…?」
アイラはポーチから水色の石が埋め込まれた金の指輪を右中指にはめた。そして、右手を強く握り左の手のひらに叩きつけた。するとアイラの両手は水をまとった。
アイラ「くらえっ!」
アイラがゴーレムの手を殴ると、手、腕、足、体全体が泥状になり地面に落ちた。そこから元に戻ることはなく、粉々に消え去った。
誠「ベル!大丈夫か!?」
ベル「は、はい…。なんとか…。」
ベルは薬草を頬張りながら答えた。ベルが回復した後、すぐに次の層には行かずに少し休憩してから行くことになった。
ベル「…そういえばアイラさんが使ってたあの指輪って…。」
セナ「王家の指輪…。」
誠「王家の指輪?なんだそれ?」
アイラ「…王家の人しか扱えない魔法具のことよ。」
誠「…つまり、アイラは女王様ってことか?」
アイラ「そういうこと。」
誠「ふーん…。そうは見えないけどな。」
アイラ「失礼なやつだなお前は…。」
誠「悪かったな。てか、何で指輪を隠してたんだ?」
アイラ「王家の人って知ったら距離をおかれると思ったんだ。…まあ余計な心配だったみたいだけどね。」
ベル「距離をおくなんてことしませんよ。私達パーティなんですよ?」
誠「そうそう。あまり深く考えない方がいいぞ。」
アイラ「うん…そうかもね。」