準備と到着
俺達はダンジョンに行く約束をしてその日はそれぞれの部屋で寝た。そして次の日の朝。
誠「…久々に朝起きたな…。さて、準備するかな。」
装備や持ち物の準備をして俺は部屋を出た。すると部屋の前で、なんだか疲れ気味のアイラに出会った。よく見るとアイラの目の下には、くまができていた。
誠「お前…寝てないのか?」
アイラ「…緊張して寝れなかったんだよ…。」
誠「小学生かっ!」
アイラ「だ、だってダンジョンだぞ!?いつ死ぬか分からないんだぞ!?」
誠「死にそうになってたら助けてやっから。ほら、行くぞ。」
アイラ「本当か!?嘘じゃないよね!?見捨てないよね!?」
誠「見捨てる訳ないだろ。」
アイラ「…よかった…。」
外に出るとベルが待っていた。玄関の開く音に気づいたのかベルは俺達に手を振ってきた。
誠「おはよう。」
ベル「おはようございます!」
アイラ「朝から元気ね…。」
誠「お前が寝ないのが悪い。」
アイラ「まあ、確かにそうだけど…。」
誠「じゃ、とりあえず買い物だな。」
ベル「ですね!」
俺達はまず道具屋に向かった。そこで薬草等の回復アイテムを買い揃えた。次に向かったのは装備屋だ。俺はたくさんの鎧が並ぶなか、どれを選んだらいいのか分からなかった。すると、
ベル「だいぶ長考してますね。」
誠「うん…どれが良いのか分からないんだ。」
ベル「…誠さんは速さが取り柄ですからね…。」
誠「他にもあると思うよ…?」
ベル「こういうコート系の装備はどうですか?防御は劣りますが速さを活かせますよ。」
誠「なるほどな…。」
俺はベルが選んだ黒いコートを試着してみた。確かに重さがなくて防御もそれなりに上がる。
誠「似合ってるか?」
ベル「似合ってますよ。」
誠「よし!これ買ってくる!」
俺はコートを買った後、店を出た。店の外のベンチにはアイラが寝息をたてて座っていた。
誠「みっともないから寝るんじゃない!」
アイラ「…はっ!?寝てた!」
誠「てかお前ら何も買わなくていいのか?」
ベル「私はこの装備で満足ですし…。」
アイラ「あたしは戦わないし…。」
誠「許されるとでも…?」
アイラ「わかった!戦う!戦うから!」
一通り準備の終わった俺達は馬車乗り場へと向かった。俺達が行く「始まりのダンジョン」は、始まりとか言うわりに結構遠い場所にあるのだ。
誠「俺達が乗る馬車ってどれだ?」
ベル「あれですね。」
誠「アイラ行くぞー。」
アイラ「待って…休もうよ…てか寝ようよ…。」
誠「馬車で寝れるだろ。」
俺達は馬車に乗せてもらい、ゆっくりとしたペースでダンジョンへと向かった。カタカタと揺れる車内のせいでアイラはすぐに寝てしまっていた。
ベル「なんで馬車なんですか?」
誠「というと?」
ベル「走った方が明らかに速いですよね?」
誠「お前らはどうするんだよ。」
ベル「…担ぐ?」
誠「ハッ。バカ言うな。…ん…?」
馬車から見える景色を見ていると、あるモンスターが目に映った。こん棒を振り上げる太ったオークの様なモンスターだ。そのモンスターの前に銀髪の女の子が棒立ちしていた。
誠「危ないっ!」
ベル「えっ!?誠さ…うわっ!?」
俺は腰の剣を抜き、急いでオークの元に向かった。振り下ろされたこん棒は俺の剣に阻まれ女の子に当たることはなかった。
誠「だ、大丈夫っ?」
?「大丈夫…。」
誠「…よっ!」
俺はこん棒を弾き飛ばし、オークに斬りかかった。数回斬るとオークは倒れ粉々に散った。
誠「ふう…。怪我はない?」
?「大丈夫…。」
誠「よかった。」
セナ「助けてくれてありがとう。私はセナ。貴方は?」
誠「俺は誠だ。」
セナ「誠…。本当にありがとう。」
セナは抑揚のない小さな声で俺に感謝を伝えてきた。無表情だが、本当に感謝していることはなんとなく伝わってくる。
誠「いいのいいの。んじゃ、俺はダンジョン行くから。」
セナ「…待って。ダンジョンって始まりのダンジョン…?」
誠「そうだけど…?」
セナ「…実は私もそのダンジョンに向かう途中だった。でも、段差で馬車が大きく揺れて落ちてしまった…。」
誠「そうだったの?じゃあ着いてきなよ。」
セナ「でも今からダンジョンに行っても日が暮れてしまう…。そしたら迷惑になる…。」
誠「大丈夫。間に合うよ。ほら。」
俺はセナをおぶるために姿勢を低くした。セナは若干、戸惑ったが俺の背にまたがった。
セナ「本当に間に合うの…?」
誠「おう!しっかり掴まれよ…!」
俺はセナをおぶったまま馬車の元に戻った。ベルには驚かれたが、事情を説明して同行することを伝えた。アイラは相変わらず寝ていた。
ダンジョンに着くまでの間、セナと会話をしていた。
誠「そういえばセナの種族って?」
セナ「ライダー。機械を呼んで、それに乗って戦う。」
ベル「へー…。」
セナ「…でも落下の衝撃で呼ぶための機械が壊れてしまった…。」
誠「じゃあ攻撃手段がないのか…。」
セナ「すまない…。」
誠「ま、始まりのダンジョンって言う位だ。なんとかなるさ。」
俺達は暫く雑談をしながら、始まりのダンジョンに着くのを待った。数十分後、馬車は止まりダンジョンに着いた。
誠「アイラ起きろー。」
アイラ「…ん、着いたの…?」
誠「着いたぞ。」
俺の前にはざっと十階層はある塔がそびえていた。初ダンジョンに胸を高鳴らせ俺達は歩を進めた。