戦術と勝利
俺は暫くの間、ギルドでリディと話しながら時間を潰していた。八時頃になるとギルドの扉が開き、皆が入ってきた。
ベル「あ、誠さんおはようございます。」
誠「おはよう。」
アイラ「今日は随分早起きだな。」
誠「何故だろうな…。」
セナ「ソファーから落ちたの…?」
誠「ご名答…。」
皆はそれぞれ席に座り、朝ごはんを頼んだ。飯を食べながら話をしていると、アルスが今日の話をしてきた。
アルス「誠さん…今日大丈夫なんですか…?」
誠「…なにが?」
剣聖「ダメだこいつ…。」
誠「…なんかあったっけ?」
グロウル「誠さんの偽物のことですよ!」
誠「ん?あー…まあ、平気じゃない?」
リディ「軽いですね…。」
誠「だって相手は俺だろ?ならきっとどこかで凡ミスするさ。」
アイラ「自分の事低く見すぎだろ…。」
当然だろう。我ながらこの世界に来てから暫く経つが、一度もかっこよく敵を倒した覚えがない。どうせ俺なんて無駄に足の速い能無しなのさ…。
誠「はあ…。」
千夏「どうしたんですか…?」
誠「いや…なんでも…。それより、夜までなにするかな…。」
剣聖「確かに…夜まで結構時間あるしね…。」
誠「…よし!じゃあ夜に備えて準備するか!」
ベル「…なんでニヤニヤしてるんですか…?」
俺は皆を連れて外に出た。着いた先はピンクの装飾が施された、いかにも危ない感じの店だ。それにしても…なんだか皆の視線が冷たい気がするな…。
アルス「誠さん…なんでこんなところに…?」
誠「はあ…仕方ない…説明しよう。まず相手は俺だ。そして俺はエロい事に目がない。つまり…皆がエロい格好をすればきっと…」
アイラ「するわけないだろ!」
誠「…え?」
剣聖「え?じゃないでしょ…。」
誠「嘘だろ皆…勝ちたくないのか…?」
ベル「いや…他の勝ち方考えましょ…」
誠「思い付かない。」
ベル「…即答ですか…。」
誠「うん、全っ然思い付かない!」
グロウル「…ね、熱意が凄いですね…。」
誠「やっとわかってくれたか!」
グロウル「いや…そういうわけでは…。」
何故だ…何故こんなにも熱弁しているというのに皆して俺を否定するんだ…。わからない…わからない…。
ベル「あの…誠さん?もうギルドに戻りませんか…?」
誠「…チッ。あーあ…チッ。わかりましたよ…チッ。戻ればいいんでしょ戻れば…チッ。」
アイラ「どんだけ舌打ちするんだよ…。」
ギルドに戻ったあと俺達は、結局なにもすることなく夜を迎えた。俺は嫌々ながら重い足を門の外に運んだ。そこには月に照らされた俺の偽物が立っていた。
誠?「よう、やっと来たか。」
誠「…来てくれてありがとうございます、だろ?」
誠?「ヘッ…大口叩けるのも今の内だぜ?俺はお前を倒して…」
誠「ああ…もうそういうのいいから始めようぜ…。」
誠?「…我ながら冷たいな…お前…。」
誠「ほらいくぞー!」
俺は全力で偽物に突っ込み、不意打ちを狙った。が、流石は俺の偽物。素晴らしい反射神経で俺の剣を受け止めた。流石は俺の偽物。
誠?「ヘッ…不意打ちのつもりか?」
誠「はあ…たまにウザいのが難点だな…。」
誠?「お前…それ自分に言ってるようなものなんだぞ…?」
そう言いながら俺の偽物は俺の剣を軽く弾き、俺を蹴飛ばした。皆の方まで飛ばされた俺は違和感を感じた。
誠「…なあグロウル?あいつって俺と同じステータスなんだよな…?」
グロウル「え?そうですけど…?」
誠「だよな…。」
おかしい…あいつはノーモーションで俺をここまで蹴飛ばした。もし俺がノーモーションで人を蹴飛ばしたら、ここまでは飛ばないはず…。
誠「なあグロウル…魔物って夜になると強くなるのか?」
グロウル「そ、そうですけど…あっ!」
誠「だから夜に呼んだのか…。」
誠?「そういうことだ…!」
偽物は剣を俺の方に向けて、とてつもない速さで近づいてきた。俺はその剣を受け止めるのが精一杯だった。力負けするのも時間の問題だろう。
誠「ぐ…ぐぬぬ…!」
誠?「ヘッ…どうした?その程度か?」
誠「この野郎…調子乗んなよ…!」
俺は偽物から少し離れてから剣で、思い切り地面を斬りつけて砂煙を起こした。相手は俺だ、きっと勝てる。
誠?「くそっ…時間稼ぎのつもりかっ!?」
砂煙が晴れて偽物は俺に気づき、その途端俺に斬りかかってきた。俺は恐れることなくその場から動かなかった。
誠?「ヘッ…諦めたか?…じゃあこれで終わりだ…ギアブレイク!」
誠「…ギアブレイク!」
互いの剣がぶつかったとき、辺りは轟音と衝撃に包まれた。そして俺の目の前には折れた剣を持ち、血を流す俺の偽物が映っていた。
誠?「ガハッ…!ば…かな…!力は…俺の方が上の…はず…!」
誠「残念だったな。今の俺の力は999、カンストだ。」
誠?「そん…なの…ありえない…!」
誠「ありえない…か、じゃあ教えてやるよ。実はな砂煙を起こした時に、アルスに支援魔法をかけてもらってたのさ。」
誠?「なん…だと…!?」
その言葉を最後に、俺の偽物は粉々に散った。俺が剣をしまうと、皆が安堵の表情で近づいてきた。
セナ「お疲れ誠…。」
アルス「流石です!誠さん!」
誠「いやいや、アルスのおかげだよ。」
千夏「誠さん…怪我はないですか?」
誠「大丈夫だよ。ちょ、大丈夫だから…触りすぎ…触りすぎだ。」
千夏「…よかった。」
グロウル「誠さん…その…ごめんなさい。迷惑かけてしまって…。」
誠「平気平気。気にすんなって。」
俺は暫く皆にチヤホヤされた。こんな感覚は久しぶりだったので、俺の鼻はどんどん高くなっていた。そして、
リディ「じゃあ、そろそろ帰りますか。」
アイラ「誠!今日は宴会だな!」
剣聖「どうしたの誠?来ないの?」
誠「いや…支援魔法切れるまで動けないんだけど…。」
アイラ「…じゃあ先行ってるからな!」
誠「えっ!?ちょっと待って!置いてかないでよ!」
俺は約一時間もの間、その場に立ち尽くす羽目になってしまった。…やっぱりアルスの支援魔法は使いづらいな…。




