説得と偽物
俺はグロウルに癒してもらったあと、転移魔法で家に帰った。自分の部屋ではなくリビングに転移して、皆に心配をかけたことを謝ろうとした。が…
アイラ「うわっ!?急に出てくるなよ!」
剣聖「…また死にに来ようとしたの…?」
セナ「懲りない…。」
どうやら皆に心配をかけないようにするはずが、逆に心配をかけてしまったらしい。俺は皆に囲まれてしまい、また部屋に押し込まれそうになった。
誠「ちょ、ちょっと待って!もう治ったから!」
ベル「…本当ですか?」
千夏「もう死のうとしたりしないですか…?」
誠「しないしない!」
アルス「本当に…本当ですか?」
誠「大丈夫だって!」
俺は全力で皆を説得して、なんとかその場を押さえた。癒しを得て落ち着いた俺は、説得したあとすぐに空腹を感じた。…そういえば朝から何も食ってないな…。
誠「…飯食いに行かない?」
剣聖「晩御飯にしては少し早い気がするけど…。」
時計は六時過ぎを指していた。皆は空腹じゃないのだろうが俺は凄く空腹だった。だから俺は無理矢理に皆とギルドに向かった。
リディ「あれ?皆さんどうしたんですか?」
誠「飯食いに来た。」
リディ「え…?まだ六時ですよ…?」
ベル「色々あったんですよ…。」
リディ「は、はあ…。」
俺達は近くの席に座り、今日起きたことを話しながら飯を食べていた。暫く飯を食わずにいたせいか、とても美味しく感じられた。
アルス「…そういえば、誠さん?」
誠「…ん?モグモグ…なにモグモグ…?」
アイラ「飲み込んでから喋れよ…汚いな…。」
誠「んぐっ…で、なに?」
アルス「あの状態からどうやって復帰したんですか?」
誠「ああ…実はグロウルから特効薬を貰ってな。」
リディ「まさか…グロウルさんに変なことしたんですね…!」
誠「ち、違うから!断じて違うから!」
怖い顔をしながら接近してくるリディを説得しようとしていると、ギルドの扉を勢いよく開ける音と共にグロウルが現れた。
誠「はっ!グ、グロウル!頼む、俺のかわりに説明してく…」
グロウル「それどころじゃないんです!」
ベル「ど、どうしたんですか!?」
グロウル「じ、実は新しく創ったモンスターが逃げ出してしまって…と、とにかく外に来て下さい!」
俺達は疑問を抱きながらも、グロウルに着いて行き門の外に出た。すると奥から人影が一つ、近づいて来るのが見えた。
誠「モンスターじゃなかったのか…?」
アイラ「確かに…人にしか見えないな。」
剣聖「てか…どっかで見たことある人影なんだけど…。」
リディ「あれって…。」
人影が近づいて来るにつれて、その人影の容姿がわかるようになってきた。俺達の目の前に立ち止まった人影は顔、服装、身長、どれをとっても俺と全く同じだった。
誠「俺…?」
誠?「ヘッ…驚いたか?」
アルス「ま、誠さんが…。」
セナ「二人…。」
千夏「…ハアハア…ま、誠さんが二人…ゆ、夢でも見てるんでしょうか…?」
誠?「…な、なんだこの女…気持ち悪いな…。」
千夏「…ハア…冷たい誠さんも素敵…!」
千夏は目にハートを浮かばせて、狂ったように俺の偽物に飛びかかった。俺の偽物は避けようとしたが、千夏の強運のせいで石に足をとられ倒れた。
千夏「…ハアハア…誠さんの偽物…てことは何してもオッケー…。」
誠?「お、おい!離せ!離せっての!」
誠「…可哀想に…。」
グロウル「千夏さんって危ない人だったんですね…。」
誠?「くそっ!明日の夜またここに来てやる!その時は容赦しない…って痛い痛い痛い!そんなところ握るな!やめろ!ち、ちぎれる!」
俺の偽物は千夏を力強く突き飛ばして、何処かへ行ってしまった。残された千夏は悲しそうな顔をしていた。
千夏「…もう少しだったのに…。」
誠「なにがですか…?」




