勝負とダンジョン
?「待ちやがれ!」
誠「な、なんでしょう…?」
?「あたしが先にその紙に名前を書いたんだ!勝手に買おうとするな!」
誠「…いやいや、あの紙には俺の名前以外は書いてなかったぞ?」
ベル「いや、誠さん…書いてあります…。」
誠「えっ!?どこ!?」
俺はもう一度、玄関の紙を注意深く見た。すると紙の右下にものすごく小さな文字で「アイラ」と書かれていた。口調のわりに小心者だな…。
アイラ「どうだ!書いてあっただろ!」
誠「…まあ…確かに…。」
アイラ「この家は私が買う!いいな!」
誠「…じゃあ勝負しないか?」
言いながら俺は手を顔の前に出して強く握り、グーを作ってアイラに突きだした。その瞬間、アイラはビクッと怯えるように反応した。
アイラ「しょ、勝負!?い、いや私は…その、話し合いの方が…得意っていうか…平和が一番っていうか、なんていうか…。」
誠「じゃあ不戦勝ってことで、この家は俺が買うぜ?」
アイラ「なっ!?ま、待って!…やるわ。やってやるわよ!」
誠「よしっ!じゃあいくぞ!」
アイラ「…あたしはこれでも武闘家よ!どっからでもかかってきなさい…!」
俺は知っている。どんな人間だろうと突然なにかをされると反応が遅れることを。つまり、俺が開始の合図を言えるこの勝負では俺の方が絶対有利!
誠「最初はグー!ジャンケンポイ!」
アイラ「なっ!?じゃ、ジャンケン!?」
俺の手はパー、アイラの手はグー。俺の勝ちだ。アイラはポカンと口を開け、目をパチクリさせていた。
アイラ「ジャンケンなんて聞いてないわよ!」
誠「殴り合いなら勝てたのか?」
アイラ「そっ、それは…。」
誠「平和が一番なんだろ?」
アイラ「うう…。」
誠「ベル、行くぞ。」
ベル「あ、はい。」
俺とベルは家を買うために管理人の元に行こうとした。その時、アイラが俺の腕を掴んできた。
アイラ「…待って!」
誠「…なんだよ。」
アイラ「さ、三本勝負にしない…?」
誠「………。」
アイラ「…ダメ?」
誠「はあ…。じゃあ俺のパーティに入るか?」
アイラ「…え?」
誠「そうすれば家も一緒に買えるだろ?」
俺がそう言うとアイラは泣きかけていた顔をパアッと明るく変えて俺に抱きついてきた。
アイラ「いいの!?本当にいいの!?」
誠「おう。いいぞ。」
アイラ「ありがとうっ!」
誠「ほら行くぞ。」
俺はベルとアイラを連れて自己紹介をしながら管理人の元に向かった。暫く歩いて管理人の家を見つけたが特にイベントもない昼間なのにイルミネーションがついていた。なんだこの家は…眩しすぎて目が痛い…。
誠「なんだここ…。」
ベル「…とりあえず入りましょう。」
ドアを開けると大きめの音楽がなり響き金髪のチャラい男がクラッカーをならしていた。壁には「祝!一人目のお客様!」と書かれていた。
管理人「いぃぃらっしゃいませぇぇえ!」
誠「……。」
ベル「……。」
アイラ「……。」
管理人「お客様は記念すべき一人目のお客様でぇえす!」
誠「は、はあ。」
管理人「それでぇ?どこのお家を買いたいのかなぁ!?」
誠「顔が近いですよ…!」
その後は管理人とのうざったい会話を繰り返しながらあの家に戻った。すると管理人は家をじっくりと見始めた。…まさか今値段決めてるのか!?
管理人「んー…ま!タダでいいぜ!」
誠「た、タダ!?無料ってことか!?」
管理人「おう!記念すべき一人目のお客様だからな!」
ベル「いいんですか!?」
管理人「なーに!気にすんな!そんじゃ!」
管理人は手を振り来た道を戻っていった。見送った後、俺達は家に入り、中の整理を始めた。一通り整理を済ませると辺りは暗くなっていた。
誠「ふう…。片付いたな。」
アイラ「疲れた…。」
ベル「私お風呂入ってきますね…。」
アイラ「私も…。」
誠「…じゃあ俺は暖炉でゆっくりしてるかな。」
俺は火のついた暖炉の側の椅子に座り、暫くボーッとしていた。するといつの間にか寝てしまい、夢を見ていた。トラックに轢かれたあの日の夢を。
誠「…ん…寝ちまったか…。」
誠「…人助け…できてるのかな…。」
俺は遠くを見据えて悩みこんでしまった。こんな俺はかっこわるいなと鼻で笑って立ち上がり背伸びをした。
誠「んー…!ふう…。」
廊下に出るとお風呂場からスッキリした表情のベルとアイラが歩いてきた。
アイラ「いい湯だったぞー。」
ベル「スッキリしました!」
誠「そうか。じゃあ俺も入ってくるわ。」
俺は脱衣場で服を脱ぎ風呂場のドアを開けた。無駄に広い浴場に足をつき、頭を洗い、体を洗った。
誠「ふう…。」
風呂から上がりリビングの暖炉に戻るとベルとアイラがソファーで話をしていた。俺は椅子に座りながら二人に聞いた。
誠「何の話してたの?」
ベル「明日なにしようかって話をしてたんです。」
アイラ「あたしとしては家でゆっくりしてたいんだけど…。」
誠「戦えないもんな。」
アイラ「た、戦えるし!」
誠「じゃあダンジョンでも行ってみるか?」
アイラ「えぇっ!?だ、ダンジョン!?」