初勝利とパーティ
俺は今、大きな門の前に立っている。この門の奥には恐ろしい怪物がいるに違いない。俺は覚悟を決めてゆっくりと門の扉を開けた。
誠「…いい景色だ。」
俺の視界には豊かな緑と綺麗な青い空が映っていた。とても平和な景色だった。
誠「おっ、あれが冒険者管理システムか。」
空を見上げるとプロペラで浮くロボットがカメラをあちこちに動かしていた。冒険者がモンスターを倒した時に不正がないかどうか調べているらしい。
誠「…で、クリスタルウルフはどこにいるんだ?」
辺りを見回すと奥からゆっくりと何かが威嚇しながら近づいて来ていた。遠くから見ても体格が大きいことがわかった。
?「グルルルル…。」
誠「…あれがクリスタルウルフか…。」
青白く尖った水晶のような体、大きさは俺の3倍はある。どうみても序盤にいていい様なモンスターじゃない。
クリスタルウルフ「グルル……グルアアッ!!」
誠「危ねっ!」
俺はクリスタルウルフの噛みつきを避けようと足に力を入れた。すると地面には大きな亀裂が入り、俺は一瞬にして数十キロ先にあった森の木にぶつかった。
誠「ゲホッ…いって…。…速さカンストって割りと不便だな…。」
痛む体を起こしてクリスタルウルフのいた方を見るとクリスタルの塊が勢いよく飛んできていた。
誠「飛ばすこともできんのかよっ!?」
なんとか速さの調節をしようとしたが少し力を入れすぎたせいで大袈裟に避けてしまった。そして避けたクリスタルの塊は木々を貫き、なぎ倒していた。
誠「…当たったら絶対に死ぬな…。」
?「…グルルルル…。」
誠「この音…まさか…。」
森の方を見ていると、なぎ倒された木々を踏み潰しながら赤黒い色をしたクリスタルウルフが森から頭を出した。その表情は怒りに満ち溢れ、殺る気満々だった。
誠「…二頭同時なんて…。…ってあれ?」
よく見ると赤黒いクリスタルウルフの足にはさっきのクリスタルの塊が突き刺さっていた。どうやら怒りの矛先は俺ではなく向こうのクリスタルウルフに向けられているようだった。
誠「(とりあえず隠れよう…。)」
木の影に隠れ、二頭のクリスタルウルフの方を見ると、二頭はお互いに相手の首筋を噛み合っていた。暫くキリキリと耳障りな音が周囲に響いた後、二頭のクリスタルウルフはゆっくりと地面に倒れ、粉々になり消え去った。
誠「…勝った…。俺の勝ちだっ!!」
俺は急いで冒険者管理システムの所へ戻り、万歳したり、ピースしたり、ウインクしたりを数分間繰り返し、俺が倒したんだぜアピールをした。
誠「よしっ!ギルドに帰ろう!」
俺はギルドに着くとすぐにカウンターへと向かった。そしてリディにカードを渡してクリスタルウルフ二頭を討伐したことを伝えた。
リディ「ほ、本当に倒したんですか!?」
誠「なんで疑うんだよ…。」
リディ「ち、ちょっと管理システムの確認をしてきますね!」
数分するとリディが戻ってきた。その顔はなんだか煮え切らない様な顔をしていた。
リディ「えっと…ですね…。モンスター同士が倒しあっただけで貴方は戦ってませんよね…?」
誠「…ソーユーサクセンデス。」
俺は表情を無にし、リディと目をあわせずに言い放った。その後、何度もリディから同じ質問をされたが俺も同じ返答しかしなかった。
リディ「…分かりました…。ではこちら、報酬金の30億ジルと、ドロップアイテムのクリスタル、青と黒です…。ジルは銀行に振り込んでおきますね。」
誠「これで俺も億万長者だぜ…!」
リディ「そうですね…。」
誠「ところで、このクリスタルって何に使うんだ?」
リディ「加工屋で装備にしてもらうか売却するかですね。」
誠「なるほど…。サンキュー!」
俺は右手に青、左手に黒のクリスタルを持ってギルドを出た。加工屋の場所は宿屋の隣なので場所は覚えていた。
誠「やっぱり武器がいいかな…。」
加工屋に向かう途中、クリスタルをどう使おうか考えていた。装備もいいと思ったけど俺は武器にすることにした。
誠「そろそろ着くな。」
俺はウキウキしながら歩いていた。すると横を誰かが走りながら通りすぎていった。それと同時に俺は右手に違和感を感じ、右手を見ると青いクリスタルが無くなっていることに気づいた。
誠「まさか…!?」
振り返って前を見ると、見覚えのある青い物を持った誰かが走っていた。俺は焦りながらも笑いをこらえ切れなかった。
誠「ハッハッハ!この俺様に追いかけっこで挑むとはな!」
俺は足に力を入れ名も知らぬ誰かを追いかけた。しかし、まだ調節が上手くできずに押し倒してしまった。押し倒してから気づいたが女の子のようだ。
誠「え、えっと…返してくれない?」
?「…その前に離れてくれませんか…?」
誠「あっ…。ご、ごめん!」
?「………。」
女の子は顔を赤くして喋らなくなってしまった。それはそうだ。いきなり知らない男に押し倒されたのだからな。可哀想に。
誠「え、えっと…話はギルドでしようか…。」
ギルドに着いてからも女の子は注文もせずに顔を赤くしながらもじもじしていた。とりあえずクリスタルは返してもらったけど、どうしたものか…。
誠「君、名前は?」
ベル「ベルです…。」
誠「ベル…ね。ベル、どうしてこんなことしたの?」
ベル「…お金が無いんです…。」
注文しないのはこれが原因か。まあ正直クリスタル盗まれたことは怒ってない。なぜなら可愛いからだ、可愛いから許す。
誠「なあ、ベル?」
ベル「…はい。」
誠「俺とパーティ組まないか?」
ベル「……え?」
誠「そうすればお金にも困らないと思うんだけど。」
ベル「う、嬉しいですけど…迷惑じゃないですか…?」
誠「そんな訳ないだろ。仲間が増えるなんていいことじゃないか。目の保養もできるしな。」
ベル「め、目の保養…?」
改めて見るとベルの格好は結構露出が多かった。胸は小さいが包帯を巻いただけという中々にエロい格好をしていた。
誠「どう?組んでくれる?」
ベル「本当に迷惑じゃないですか…?」
誠「ああ。」
ベル「私、あなたからクリスタル盗んだんですよ…?」
誠「返してくれたじゃん。」
ベル「……優しいんですね…。」
誠「よく言われる。」
ベルは泣きそうになりながら俺の手を強く握ってきた。俺はその手を握り返しベルにパーティを組んでくれるか尋ねた。するとベルは黙ったまま軽く頷いた。