迷宮と麻痺沼
家に着きリビングに入ると部屋は滅茶苦茶に荒れていた。…そういえばゴキブリ駆除したあとそのままにしてたっけ…。
誠「まあいいや…。明日皆でやろう…。」
俺は風呂に入ったあと自分の部屋のベッドに潜り込んだ。そして次の日の朝、俺は昼頃に目を覚ました。背伸びをしてからリビングに向かうとリビングは綺麗に片付き、いつも通りの光景が広がっていた。
誠「あれ?片付けてくれたのか?」
ベル「剣聖さんが手伝ってくれたんですよ。」
誠「そうだったのか。」
剣聖「大変だったわよ…一体何したらあんなに汚れるの…?」
誠「爆発したんだよ…。」
剣聖「は…?」
俺は剣聖の煮え切らない様な顔を無視して、コートを羽織り剣を腰にかけた。そして皆の方を向いて親指を立てた。
誠「よし!ダンジョン行くぞ!」
俺達は外に出て馬車乗り場に向かった。完全に復帰していたわけではないが、一応馬車は出しているらしい。俺は馬車の切符を買ってその馬車に乗った。
運転手のおじさん「出発するぞー。」
誠「お願いしまーす。」
アイラ「…やっぱり普通の馬車っていいな…。」
ベル「スレイプニルの百倍はマシですね…。」
剣聖「スレイプニルって八本足の馬のやつ?」
ベル「そうです…。」
アイラ「誠はそんなやつに私達を乗せたんだぞ…。」
アイラは俺の方に指を指してきたが、俺は目をそらして外の景色を眺めた。すると馬車は段々と森の中に入っていった。
誠「あ、あの…森なんですけど…?」
運転手のおじさん「ん?お前達の行く場所って迷宮のダンジョンだよな?」
セナ「そう…。」
運転手のおじさん「ならこの道であってるぞ。」
誠「そう…なんですか…。」
俺は改めて外の景色を見た。木の影のせいで辺りは暗くなり、時折、生暖かい風が吹いていた。明らかに不気味になった雰囲気に俺は身を震わせた。
誠「着いたな…。」
ベル「不気味ですね…。」
アイラ「行きたくないんだけど…。」
俺達は馬車を降りたあと、暫くの間その場から動かずにいた。そして俺達は剣聖の背中に隠れて押し始めた。
剣聖「ちょっ!おい!?なんで私が先頭なんだよ!!」
誠「お前凄いスピードでダンジョン攻略してるんだろ…?」
ベル「ここ三番目のダンジョンですし…。」
アイラ「流石にもう攻略済みでしょ…?」
セナ「だから怖くない…。」
剣聖「好き好んでこんな所に来るわけないでしょっ!?」
誠「…攻略してないのかっ!?」
剣聖「当たり前でしょ!」
誠「…まあいい!」
俺達は剣聖の事情などお構いなしに背中を押し続けた。すると剣聖は俺達の熱意に負けたのか、先頭を歩いてくれた。…根はいいやつなんだな…なんかごめん…。
剣聖「はあ…。」
誠「ため息つくと幸せが逃げるぞ。」
剣聖「どの面下げて言ってるんだお前は…?」
ベル「まあまあ…落ち着いてください…。」
剣聖「…全く。…ん…?」
そう言いながら剣聖は歩くのを止めた。そのせいで俺は剣聖の硬い鎧に鼻をぶつけてしまった。急に止まったから何かと思い、俺は剣聖の視線の先を見た。すると今まで一本の道だったのに三本に別れていたのだ。迷宮ってそういうことか…面倒くさいな…。
剣聖「どうするの…?」
ベル「時間かかっちゃいますね…。」
誠「そうか?」
アイラ「作戦があるのか…?」
誠「そんなとこだ。」
俺はセナの肩に手を乗せながらそう言った。セナは少し困惑したあと、閃いたように目を見開いたあと腕輪を操作した。そしてロボットを装着して空に飛んでいった。
誠「よし。行くぞ。」
剣聖「また私が先頭なの…?」
誠「当たり前だろ。」
剣聖「はあ…わかったよ…。」
ベル「…そういえばセナちゃんは何してるんですか?」
ベルがそう言った時、三本に別れた道の右の道にセナの銃撃が当たった。どうやら右の道が正解のルートのようだ。
アイラ「なるほどな…。」
誠「ほら、進むぞ。」
剣聖「いちいち押すな!!」
剣聖を先頭に右の道を進んでいると、黄色く泡立つ液体の沼が数十メートル続いていた。色からして麻痺沼か…?
剣聖「麻痺か…。皆気をつけてね。」
誠「まあ俺は多分平気かな…!」
俺は足に力を入れて麻痺沼を端から端まで飛び越えた。俺は笑いながら振り返り三人に心からのドヤ顔を向けた。
剣聖「…相変わらずウザいな…。」
ベル「まあいつもあんな感じですけどね…。」
アイラ「確かに…。」
剣聖「…さて、行くかな。」
なんと剣聖はためらうことなく麻痺沼に足を踏み入れ、そのままこっちに向かって顔色も変えずに歩いてきた。
ベル「ちょっと!剣聖さん!?麻痺沼なんですよ!?」
剣聖「え?ああ、バハムートの効果で状態異常効かないんだ。」
アイラ「完全にチーターだな…。」
剣聖はあっという間に端まで来て俺にドヤ顔を向けてきた。…こいつやはり性格悪いな…いや、俺が言えたことじゃないか。
誠「おーい!来ないのかー?」
ベル「…どうします?」
アイラ「…走り抜ける…。」
ベル「…わかりました!」
ベルとアイラは同時に沼の端から走りだし、俺と剣聖の方に向かってきた。ベルとアイラは到着するとすぐに地面に仰向けに倒れた。
誠「おいおい…大丈夫か?」
アイラ「ち…ちょっと待って…。」
ベル「麻痺のせいで…体に力が…。」
剣聖「ま、休憩ってことでいいんじゃない?」
誠「…そうだな。」
俺は麻痺のせいで体を無気力に大の字に開き、よだれをたらしながら時折ビクつくベルとアイラから目をそらしてそう言った。




