スレイプニルと宴会
俺とセナは馬小屋から脱走したスレイプニルの足跡を追っていた。時間はそんなに経っていないからすぐに見つけられそうだった。
セナ「捕まえたらどうするの…?」
誠「グロウルに引き渡すかな…。」
セナ「どうやって…?」
誠「魔王なら千里眼的な水晶とか持ってるだろ。」
セナ「あの魔王、凄く貧乏だったけど…。」
誠「…まあ、何とかなるだろ…。」
そんな話をしていると視線の先に黒い物体が見えてきた。俺はセナを置いて少しスピードを上げた。そしてスレイプニルの横に並び、タックルを浴びせた。するとスレイプニルはバランスを崩し足を絡ませて倒れた。
誠「…ふう。」
セナ「私も活躍したかった…。」
誠「じゃあこいつを縛ってくれ。俺は疲れた…。」
セナ「それは専門外…。」
誠「…なんなんだよ…。」
俺はため息をつきながら倒れているスレイプニルの足を、ロープでぐるぐる巻きにした。額の汗を拭いて立ち上がると、セナが空に向かって手を振っていた。
誠「なにやってるんだ…?」
セナ「魔王を呼んでる…。」
誠「そんなんで来るか…?」
俺は腕を組んでセナを見守りつつ、これからどうするかを考えた。とりあえずグロウルに引き渡すのは絶対だとして…どうやって渡すかだな…。
誠「んー…。」
セナ「誠…。」
誠「ん?どうした?」
セナ「来た…。」
誠「…?何が?」
セナ「魔王…。」
誠「ああ…えっ!?」
セナの後ろにはグロウルが立っていた。まさかあの呼び方で来たっていうのか…?宇宙人かお前は。…まあいい。とりあえずスレイプニルを連れ帰ってもらおう。
誠「グロウル…急に呼んで悪いんだけど…。」
グロウル「…はい?」
誠「え…?」
俺がグロウルの方に目を向けると、グロウルはどこから取り出したかも分からない黒い剣を持っていた。それを見て俺は腰の剣に手をかけた。
誠「なっ!?」
グロウル「あっ!ち、違うんです!別に皆さんに危害を加えるつもりはっ!」
誠「じ、じゃあ何を…?」
グロウル「こうするんですよ。」
グロウルは黒い剣をスレイプニルに突き刺した。そして剣の扱いに慣れてないのか、腸を抉るように動かしていた。それを目の当たりにした俺はセナの目を手で覆った。
セナ「なに…?」
誠「み、見ちゃいけませんっ!」
セナ「わかった…。」
誠「…よろしい。」
グロウルは一息つきながらスレイプニルから剣を抜いた。するとスレイプニルは粉々に散り、ひづめだけが残った。
グロウル「よしっ!」
誠「何がよし!なんだよ…?」
グロウル「このひづめを売ってお金にするんですよ!」
誠「お、おう…。」
グロウル「では!失礼します!」
グロウルは嬉しそうにひづめを持ちながら手の先に魔方陣を作った。そしてその中に入りどこかへ行ってしまった。
誠「…貧困って大変だな…。」
セナ「恵んであげたら喜びそう…。」
誠「確かに…。恵んでやった方がいいかも知れないな…。」
グロウル「本当ですかっ!?」
誠「帰って来たっ!?」
俺は金欲しさに帰って来たグロウルに多少のジルを渡してあげた。するとグロウルは目を輝かせてお礼をし、またどこかへ行ってしまった。
セナ「凄く喜んでた…。」
誠「これまでに無いくらいな…。」
セナ「助けるって気分がいい…。」
誠「助けたっていうのか…これ…?」
俺は煮え切らない気分を抑えつつ、セナを連れて馬車乗り場に帰った。するとスレイプニルのせいで崩れた馬小屋の残骸は片付けられ、そこで宴会の様なものが行われていた。その輪の中にベル達もいた。
誠「何やってるんだ?」
ベル「片付けを手伝ったらご馳走してもらえたんです!」
剣聖「すみません、わざわざ。」
おじさん「いいんだ。助けられたお礼だ。」
誠「なるほどな。」
セナ「私達の席は無さそう…。」
誠「まあ仕方ないな。」
おじさん「なーに言ってるんだ。あの化け物を始末してくれたんだろ?」
誠「…いいんですか?」
おじさん「当ったり前だ。」
セナ「私、沢山食べる…。」
おじさん「ガッハッハ!この子達も変わらんだろ!」
誠「まあそうだな。」
セナ「じゃあ沢山食べる…!」
そう言って俺とセナはご馳走を囲む輪に加わり、皆と笑いながら食べたり飲んだりを繰り返した。その宴会の様なものはいつの間にか宴会となり、夜まで続いた。
誠「…ふう。食った食った。」
おじさん「にしても、本当によく食うなこの子達は。」
誠「お陰で食事代がバカ高いですよ…。」
おじさん「ガッハッハ!違いないな!」
俺は三人と剣聖の方を見た。仲良く気持ち良さそうに眠っている三人と剣聖を見ていると俺も眠くなってきてしまった。
誠「んー…!眠くなってきたな…。」
おじさん「おいおい。本当にここで寝るのか?」
誠「えっ?」
おじさん「馬の糞がそこら中に落ちてるぞぉ?」
誠「なっ!?」
おじさん「ガッハッハ!あの子達はもう糞まみれかもな!」
誠「マジすか…。」
俺は地面に落ちていた枝を拾って三人と剣聖の近くの地面に「俺に会うときは風呂入ってからにしろ」と書いて家に帰った。




