剣士と初クエスト
ギルドの人「えっと…速さがカンスト!?」
ギルドの人の声は食ったり飲んだり叫んだりしていた老若男女を黙らせた。その時の俺の顔はニヤけていただろう。これでもかと言うくらいにニヤけていただろう。
ギルドの人「す、凄いですよ!他はともかく、速さがカンストなんて見たことありません…!」
誠「(他はともかくって…。)」
ギルドの人「これだけ速いなら冒険者になるべきですよ!」
冒険者か…。異世界でゆっくりのんびり暮らすのも悪くないと思っていたが、せっかく女神からもらった力を無駄にはしたくない。
誠「じゃあ冒険者になります。」
ギルドの人「それでは次は種族ですが…速さを活かすならアサシンなんてどうでしょう?」
アサシン…なんて良い響きなんだ…。
そう思いながら視線を上げると壁にかけられた一本の黄金色の剣に目が移った。その剣は近くのランタンに照らされて美しく輝いていた。
誠「…あの剣って何ですか?」
ギルドの人「え?ああ、あれはこの世界にある全てのダンジョンを攻略した者に与えられる剣ですよ。」
誠「へー…。じゃあ、種族は剣士にします。」
ギルドの人「えっ!?何でですか!?」
誠「だってアサシンじゃ、あの剣装備できないですよね?」
ギルドの人「そ、そうですけど…!ダンジョン全攻略なんて誰も成し得てないんですよ!?」
誠「…俺がしてみせますよ。どれだけかかっても。」
俺のその発言に回りの老若男女は火がついたように盛り上がりはじめた。歓声に指笛、拍手が沸き上がった。
ギルドの人「…分かりました。種族は剣士で登録しておきますね。ではこのカードは…」
俺はギルドの人の説明を無視してカードを受け取った。このカードは俺が持ってないといけないことも、クエストの精算に使うことも鏡屋のおばさんに習ったぜ。
誠「じゃあ俺はこれで。」
俺は外に向かおうとドアに向かった。しかし、回りの人達にドアを塞がれて出ることができなかった。なぜドアを塞がれたかって?こういうことさ…。
男「なあ!俺のパーティに入ってくれないか!」
女「是非とも私達のパーティに!」
誠「フッ。悪いが俺は一人で…って肩を組むな!あーもう離せ!…離して!ください!」
俺は小一時間もみくちゃにされた後、やっとのことで外に出してもらえた。外はもう暗くなってるし、体のあちこちが痛い。
誠「…疲れた…。もう今日は寝よう…。」
俺は地図を見ながら歩き、宿屋にたどり着いた。一息ついてドアを開けようとした時、看板に目が移った。看板には「格安!20ジル!」と書かれていた。
誠「…忘れてた…。」
ジルというのはもしかしなくてもお金のことだろう。俺のポーチにはそんなものは少しも入っていない。俺は宿屋の前で呆然と立ち尽くしてしまっていた。
誠「…参ったな…。」
まさか異世界での初めての難関が金銭問題とは…。ギルドに戻って相談しようと振り返ると、さっきのギルドの人が立っていた。
ギルドの人「す、すみません!これ、最初に渡すつもりだった1000ジルなんですけど…。」
誠「……。」
ギルドの人「すみませんでした!そ、それでは!」
ギルドの人は俺に袋を渡してどこかへ行ってしまった。おのれギルドめ…。許さんぞギルドめ…。俺はギルドを若干恨みながら宿屋に入った。
誠「あの…泊まりたいんですけど…。」
宿屋のおばさん「はいよ。じゃあ20ジルね。」
俺は指定された部屋に入ると真っ先にベッドにダイブした。今日一日で色々起こりすぎたせいで疲れが溜まっていた。俺は目を閉じるとすぐに寝てしまった。
誠「ん…あぁ…。」
目を覚ますと時間は昼すぎを示していた。俺はゆっくりとベッドから起き上がり宿屋を後にした。その後は背伸びをしながらギルドに向かった。
誠「えっと…確か掲示板からクエストを受けるんだっけ?」
俺はギルドに入ってからすぐに掲示板に向かった。とりあえず簡単そうなクエストを受けようとしたのだが、掲示板にはたった一枚の紙が貼ってあるだけだった。
誠「えっと…クリスタルウルフを二頭討伐…か。…って、報酬金30億ジル!?」
ギルドの人「あ、そのクエストはオススメしませんよ…。」
誠「あ、昨日の…。」
ギルドの人「そんなに睨まないでください…。」
今この人の立場は弱い。ここは攻めるんだ速水誠!ここで攻めずにいつ攻める!ギャルゲをやり尽くした俺の力を見よ!
誠「…名前教えてくれたら許してあげますよ。」
ギルドの人「えぇっ!?名前…ですか!?」
どうだ!この俺の華麗なトークスキル!さあ!俺に名前を教えろ!昨日の宿屋の出来事はこの瞬間のための伏線だったのだ!
リディ「リディ…です…。」
誠「…ほう?良い名ですね。」
リディ「ど、どうも…。ってそんなことよりそのクエストは受けない方がいいですよ!」
誠「どうして?」
リディ「クリスタルウルフはボス級のモンスターなんですよ!」
誠「ふーん…ま、死にそうになったら帰ってくるさ。」
リディ「あ!ちょっと!」
俺はリディにクエストの紙を渡してギルドを出た。ギルドから真っ直ぐ歩くと大きな門がそびえていた。俺は門の扉を開け外に出た。