魔王グロウルと貧困
俺達は暗闇のダンジョンをあっさりと攻略し、外に出た。すると外にはスレイプニルを愛でる人影があった。俺達は警戒しつつ近づき様子を見た。しかしフード付きのコートを被っているせいで、何の情報も得られなかった。
ベル「…どうします?」
誠「…とりあえず俺が話してくるよ。」
アイラ「危なくないか…?」
誠「全員で行くより良いだろ…。」
セナ「確かに…。」
俺は警戒しながら謎の人影に近づいた。するとその人影は、声をかける前に俺に気づきフードを外した。薄い紫色の髪をしたその人の顔立ちは美しく、とても綺麗な女性だった。
女性「…あなたが誠さん?」
誠「…そうですけど…。」
グロウル「私はこの世界の魔王をしているグロウルといいます。」
誠「グロウル!?」
俺は名前を聞いた途端に腰の剣に手をかけた。するとグロウルは両手を挙げて慌て始めた。どうやら戦いに来た訳ではないらしい。その雰囲気を察したのか、三人は岩影から出てきた。
誠「それで、魔王様が何でこんなところに?」
グロウル「スレイプニルが帰って来なかったので迎えに行こうと思ったんですが…。どうやら飼い慣らしてしまった様ですね…。」
ベル「いえ、飼い慣らしてなんかないです。」
アイラ「お願いですからそのまま連れ帰ってください。」
グロウル「あれ…?いいんですか…?」
誠「帰れなくなるんでやめてください。」
グロウル「ですよね…。じゃあ今日はもう帰ります…。」
そう言うとグロウルは手を伸ばして開いた。しかしその手からは何も起こらず、グロウルは顔を赤くして俺達を見た。
誠「え…?」
グロウル「…魔力切れ…です。」
誠「はい…?」
ベル「アイテム持ってないんですか…?」
グロウル「いや…その…実はお金がなくて…ですね…。」
意外だった。魔王と言えば余裕の表情で佇み最終的に敗ける存在だと思っていたが、この魔王は今すぐにでも倒せそうだ。
アイラ「金がないって…魔王なのに…?」
グロウル「魔物を召喚するのに結構お金がかかるんですよ…。」
ベル「そうなんですか…?」
グロウル「そうなんですよ…。この間召喚したオーディンも失敗作でしたし…。」
セナ「確かに…。」
誠「魔王も苦労してるんだな…。」
そんな会話をしていると、上空から聞き覚えのある声が聞こえてきた。剣聖だ。剣聖は神剣バハムートをグロウルに向けながら落下してきた。
剣聖「魔王グロウル!覚悟!」
誠「待て待て待て!」
俺は剣を抜きギアブレイクを発動させ、神剣バハムートを受け止めた。その衝撃は暴風を生み出し、地を砕いた。そのせいで近くにあった暗闇のダンジョンは崩壊した。
誠「ぐぬぬ…!」
剣聖「お前…!?」
誠「悪いけど今回は諦めてくれ…!」
剣聖「なっ…。くっ!」
剣聖は嫌々ながらも俺から離れ神剣バハムートをしまった。この間の勝負で俺に勝てないことを悟ったのだろう。そのまま剣聖は指笛で白馬を呼び帰っていった。
誠「ふう…。…大丈夫か?」
ベル「うぅ…。危うく吹き飛ぶところでしたよ…。」
セナ「私は平気…。」
アイラ「てかまたダンジョン壊してるぞ…。」
誠「俺は悪くない…。」
俺は剣をしまい、地面に倒れたグロウルの元に近づいた。そして手を伸ばしてグロウルを立ち上がらせた。
グロウル「あの…いいんですか…?」
誠「何がですか?」
グロウル「私…魔王なんですよ…?」
誠「…フッ。困っている人を助けるのは当然ですよ。キラッ。」
グロウル「…人じゃないですけどね…私。」
暫く時が止まったかのように感じた俺は軽く咳払いをして、三人にそろそろ帰るぞと伝えた。するとその時グロウルが、
グロウル「あの…私も…」
ベル「あれ?グロウルさん来ないんですか?」
グロウル「…え?…いいんですか?」
アイラ「この変態もいいって言ってるしな。」
誠「俺は変態じゃない。」
グロウル「本当にいいんですか…?」
セナ「気にすることじゃない…。」
グロウル「ありがとうございます…!」
俺達はグロウルを連れて馬車乗り場に帰った。相変わらずベルとアイラは泣きそうな顔をしていたが、俺は気にしないようにした。が、ベルとアイラが俺の腕を強く握ってきた。
アイラ「…おい待て、誠…。」
誠「何だ…って痛い痛い!」
アイラ「お前…何で私は担いで走らなかったくせに、魔王を担いで走ったんだ…?」
ベル「そうですよ…!何でグロウルさんなんですか…!」
誠「ヒューヒューヒュー。」
俺は下手くそな口笛を吹きながらスレイプニルを馬小屋に戻した。そしてそのままベルとアイラに掴まれたまま、家に戻った。リビングに着くと二人はやっと手を離してくれた。
誠「…まあそんなに怒らないでくれよ…。」
ベル「一回スレイプニルに乗ってみたらどうです…?」
誠「遠慮しておきます…。」
そんな話をしていると、玄関のドアを強くノックする音が聞こえてきた。俺達は玄関に向かいドアを開けた。そこには怒りの表情を浮かべたリディが立っていた。
誠「うげ…。…どちら様でしょう…!」
俺はそう言いながら勢いよくドアを閉じようとした。しかしリディは咄嗟に足を挟み、ドアを無理矢理こじ開けてきた。
リディ「誠さん…?…お話があります…!」
誠「ち、違う!今回のは俺じゃない!本当だってば!」




