剣聖と香り
事情があって短くなりました。すみません。
変態神オーディンを倒した俺達のパーティはギルドで称賛を受けていた。全ての注文をギルドが受け持ってくれるらしく、皆それぞれ好きなものを選んでいた。
誠「ん…?ベル頼まないのか?」
ベル「…私何もしてないですし…。」
誠「あれを見てみろ…。」
俺の指差す先には、大勢の人に囲まれて早食い競争をするアイラがいた。大男を圧倒する食い様は凶悪だ。
誠「こういうのはありがたく受け取るものだぞ。」
ベル「…わかりました!」
ベルはそこから吹っ切れた様に注文し始め、アイラに劣らない位に食べ尽くしていった。それを見ながら俺も皿に盛られた料理を食べていった。
誠「…ふう。ごちそうさま。」
ベル「私もお腹いっぱいです…。」
セナ「私も…。」
俺達はアイラを呼んで家に戻ろうとしたが、入り口の辺りがザワザワしていた。入り口には人が集まり、外に出られなくなってしまった。
アイラ「なんの騒ぎだ…ウップ…。」
誠「あの…どうしたんですか…?」
冒険者A「剣聖が帰ってきたんだよっ!」
誠「剣聖…。」
冒険者達が突然左右に別れ、真ん中に道を作った。そこには見覚えのある黒髪の女性が立っていた。そしてゆっくりと俺に近づいてきた。
誠「あ、あの…何でしょう…?」
剣聖「君がオーディンを倒したって人?」
誠「いや、正確にはセナなんだけど…。」
剣聖「そうなの?」
セナ「違う…。私に振らないで…。」
誠「なっ!?お前…!」
俺がセナの対応に驚いていると、剣聖は俺の肩に手を乗せてきた。なんだこいつ…妙に馴れ馴れしいぞ…。
剣聖「ねえ、君…私と勝負しない?」
誠「…は?」
剣聖「ルールは簡単…。」
そう言いながら剣聖は腰にかけた細身の剣を抜き、軽く振り回してから俺の顔に向けてきた。俺は驚いてしまい、女相手に後ずさりしてしまった 。
ベル「ま、誠さん…やめておきましょう…。」
アイラ「あいつと戦うのは流石にヤバいぞ…。」
誠「…そうなのか…?」
セナ「神剣バハムート…。触れた敵を一撃で葬る…。」
誠「や、ヤバいな…。」
俺は剣聖に勝負を断るべく声を出そうとしたが、回りの冒険者達の盛り上がりにかき消されてしまった。後には退けない雰囲気にかられてしまい、俺は剣を抜いた。
誠「…いいぜ。」
剣聖「決まりだね。」
たったそれだけの会話だけで回りの冒険者は火がついた様に盛り上がり始めた。俺と剣聖は互いに睨み合いながら、口元を緩ませた。
剣聖「危ないから離れててくださいね。」
剣聖がそう言うと、すぐにギルドにいた冒険者達は端に身を寄せた。それを見た剣聖は俺に向かって剣を振りかぶった。俺はそれを受け止めた、はずだったのだが。
誠「な…っ!?」
俺は大きな衝撃に耐えきれず、ギルドの壁を突き破り外に飛び出した。剣を地面に突き刺し停止したあと顔をあげると、ギルドの中で剣聖がニヤニヤしていた。
誠「俺の勝ちだな…!」
俺は地面から剣を抜き、足に力を入れた。とてつもない勢いで近づく俺を、剣聖は止めることができずに俺のタックルを喰らった。剣聖はそのまま吹き飛び、向かいの壁を破り地面に横たわったまま動かなくなった。
誠「だ、大丈夫ですか!?」
駆け寄って肩を叩いたが、気絶してしまったようだった。冒険者達の歓声を背に、俺は剣聖を抱えて三人を連れて家に帰った。
誠「…まさか俺の部屋に寝させることになるとは…。」
俺は自分のベッドで横たわる剣聖を隣の椅子に座りながら眺めていた。他の三人はもう寝ちゃったし、この椅子背もたれ無いから寝れないし…。この害悪剣士め…。
誠「…どっかで見たことあるんだよな…。」
俺は改めて剣聖の顔を凝視した。ゆっくりと顔を近づけると、何処かで嗅いだことのある香りがフワッと漂ってきた。
誠「…この香り…。」
俺は何かに気づいたように目を見開き、おもむろに剣聖の髪の毛をすくっていた。そして気づくと俺はその髪の毛を顔に運び、臭いを嗅いでいた。
剣聖「…ん…?」
誠「やべ…!」
剣聖「…え?」
誠「い、いや違う!これは誤解だ!」
剣聖「…この…変態!」
剣聖はベッドから起き上がり、神剣バハムートを震えながら俺に向けて構え、そして俺に斬りかかってきた。
誠「ま、待て!その剣は振り回しちゃいけないやつだ!」
剣聖「殺す…!殺す!!」
誠「た、頼むから!お、落ち着いてくれっ!」




