終わりと始まり
俺の名前は速水誠。ごく普通の高校生。彼女はいないし友達も少ない。要するに引きこもりだ。学校に行く以外は基本、外に出ないでゲーム。無論、休みの日もゲームだ。
誠「…あーあ…。」
眩しく輝く太陽に殺意を覚えながら俺は学校へ向かっていた。そのままボーッとしながら歩いていると、髪の長い美しい女性が息を荒くしながら俺の真横を走しり去った。その髪からは甘い良い香りがした。
誠「あんな彼女がいれば俺の人生も楽しくなんのかな…。」
俺が地面に視線を落としかけたとき、俺の視界には走るさっきの女性と猛スピードで彼女に迫る大きなトラックが映っていた。周りがスローモーションになったようにゆっくりとなる。俺は冷や汗が背中を伝うのを感じながら女性のもとへ走った。
誠「危ないっ!!」
俺は無意識に手を伸ばし女性を突き飛ばそうとしていた。女性は俺の叫び声に気づいたのか俺の方を振り返った。その顔は驚きに包まれていたけど、それでも美しいと言える位に綺麗な顔だった。そこで意識は途絶えた。
暫くするとサイレンの音とザワザワと人が話す声が聞こえてきた。目を開けると目の前は見たこともない量の血で染まっている。
誠「(…これは…死んだな…。あの人は…助かった…のかな…。)」
俺は役に立った。きっと明日のニュースには「一人の女性を助けたヒーロー!」みたいな感じで称賛されているのだろう。これなら俺の人生も少しは意味があったのかもな。薄れる意識の中で回りの人の会話が聞こえてきた。
おばさん「可哀想にねぇ…。綺麗で優しい子だったのに…。」
おじさん「本当だよなぁ…。男の方はまだしもこの女の子には死んでほしくなかったなぁ…。」
誠「(…なんだとっ!?あの女性は助かってないのか!?てか、あのおじさんムカつくんだけど…!?)」
俺が心の中で叫んでいると突然、羽の生えたいかにも天使な感じの二人組が俺の両脇を抱えて空の彼方に俺を連れていこうとしていた。俺は必死に抵抗したがこの天使、実に握力が強い。振りほどけないし痛い。
誠「(ちょっと待ってくれ!生き返らせろなんて言わないから!あのおじさんを殴らせてくれればそれでいいから!!)」
天使は俺の言葉を無視して俺の体を引っ張っていく。地面から離れていくと同時に意識も薄れていった。そのまま視界は真っ暗になっていき気づくと俺は頭上に輪っかの生えた女性を前に対座していた。
誠「…えっと?どちら様でしょう?」
女神「女神です。」
誠「女神…。てことは俺…死んだんですか?」
女神「ええ。」
女神様はとてもニコニコしていた。この笑顔で数々の死者を癒してきたのだろう。でも俺は癒せないぞ。様々なギャルゲを攻略してきたこの俺にしてみればそんな笑顔は通用せん。
女神「…ところでこの女性に見覚えはありますか?」
誠「えっ…?」
女神は綺麗な顔立ちをした女性の写真を俺に見せてきた。その写真には俺が助けようとした女性が映っていた。胸が痛くなった。助けられなかった罪悪感が一気に押し寄せてきた。
誠「え、えっと…。」
女神「あっ、責めている訳では無いのですよ?むしろ助けようとした貴方を褒めてるんですよ。」
俺はいつの間にか女神の笑顔に目が釘付けになってしまっていた。これほどまでに美しく優しい笑顔が他にあっただろうか?見れば見るほどギャルゲとは違う美しさがあふれでていた。
誠「…うぅっ…!グスッ…。」
女神「えっ!?な、泣いてるんですか!?ど、どうしたんですか!?」
誠「女神様ぁ…っ!」
女神「ひゃっ!?」
俺は雰囲気に任せて女神を押し倒した。許されないとは思っているけど我慢できなかった。でもこれで地獄に送られても後悔はない。そんなことを思っていると頭の天辺に激痛が走った。げんこつだ。
女神「…コホン!」
誠「…痛い…。」
女神「次やったら本気で怒りますからね!」
誠「す、すみません…。」
女神「…まず、この女性ですけど、貴方がもう少し速ければ助かっていました。」
誠「あ…やっぱり助からなかったんですね…。」
女神「ええ。でも私は貴方の助けようとしたその優しさを称えたいと思っているんです。」
そう女神が言うと俺の足元に魔方陣が浮かび上がり輝きだした。突然過ぎて何が起きているのか瞬時に理解できなかった。
女神「そんな貴方には異世界で新しい人生を送ってもらい、楽しんでもらいたいのです。」
誠「い、異世界っ!?」
興奮が止まらなかった。今まで非現実的と思っていたものがすぐそばに来ていると思うとゾクゾクした。
誠「で、でも何で異世界なんだ?元の世界じゃダメなのか?」
女神「元の世界の貴方はすでに死んでしまっていますので…。」
誠「なるほどな…。」
そんな話をしていると俺の目の前に突然、ペンと紙が現れた。俺は困惑しながらもとりあえずそのペンと紙を手に取った。
女神「その代わりといっては何ですが、貴方には一つ力を与えます。貴方の望む力をそこに書き示してください。」
俺だけの力。ここでチートレベルの力をつければ不自由なく異世界で暮らせるんだろう。でも、ぬるいゲームなんてつまらないんじゃないか?…なら俺は。
誠「…速さが欲しい。誰かを助けられる速さ。」
女神「…やはり貴方は優しいですね。」
ペンと紙はいつの間にかどこかへ消え、女神のその言葉と笑顔を最後に俺は意識を失った。
目を覚ますと俺は本当に異世界に来ていた。しゃべる猫、耳の長い人、見たこともない綺麗な町並み、目につく全てにワクワクした。
誠「すっげ…。本当に異世界だ…!」
暫くはしゃぎながら歩いていると鏡を売っている店の前で足が止まった。服装が制服から異世界チックな感じに変わっていたからだ。銀色の胸当て、腰にはポーチと剣。我ながらかっこいい。
誠「ん…?このポーチって…。」
ポーチを開くと折り畳まれた紙と空っぽの袋が入っていた。…空っぽの袋は財布じゃないことを祈ろう。気を取り直して紙を開くと白紙だった、のだがみるみるうちに地形が描かれていった。
誠「おぉ…!」
不思議な地図に釘付けになっていると、鏡屋のおばさんが少し怒った顔をしながら俺に話しかけてきた。
鏡屋「あの…お客さん?買わないならどっか行ってくれません?」
誠「あっ!す、すみません!…あの…。」
鏡屋「…まだなにか?」
誠「最初ってどこに行けばいいんですかね…?」
鏡屋「……。」
明らかに鏡屋のおばさんの顔が変わった。ものすごくイラついている。暫くおばさんとの睨み合ったあと、おばさんは地図の中心にギルドがあることやら、そこで何をしたらいいのかやらを日が暮れるまで詳しく話してくれた。正直、この人に聞かなきゃよかった。
誠「…ありがとうございます。…なんかすみません。」
鏡屋「いいからどっか行ってちょうだい…。」
誠「…はい。」
俺はヘトヘトになりながらギルドに向かった。数分歩き続けていると回りの建物と大きさ、雰囲気が違う建物が建っているのが見えた。中に入ると鎧を纏った老若男女が飲み会の如く盛り上がっていた。こういう雰囲気は嫌いだ。
誠「えっと…とりあえず登録だったかな…。」
俺は鏡屋のおばさんの話を思い出しながら、うるさい人の群れを掻き分けてカウンターにたどり着いた。しかしカウンターには誰もいなかった。恐らく飲み会の対応をしてるんだろう。これだから飲み会は…。
暫く待っていると少し顔の赤いギルドの人がカウンターに来た。顔を見るに酔っている。これだから飲み会は…。
ギルドの人「す、すみません!今日は何のご用でしょう?」
誠「あ、登録をしに来たんですけど…。」
ギルドの人「登録ですね。ではこちらに…。」
ギルドの人についていくと水の張った壺が置いてあった。鏡屋のおばさんの説明によるとここに顔を突っ込むらしい。そうするとステータスやら種族やらが決まって職業を選んでって感じらしい。おばさんの説明は長すぎてほとんど覚えていない。
ギルドの人「ではこちらに顔を…。」
誠「分かりました…。」
壺に顔を突っ込むと水が輝きだし文字が浮かび上がってきていた。その文字はギルドの人がいつの間にか手に持っていたカードに飛んでいった。
ギルドの人「登録は終わりました。もう顔上げて大丈夫ですよ。」
誠「ふう…。どうですか?」
ギルドの人「えっと…ですね…速さがカンスト!?」
ギルドの人の発言に回りの人達が一気に静まったのが俺のステータスの凄さを物語っていた。