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首なし裸チキン、人を殺す

「ホント……。何なの、コイツら……」


 自らの両手にスッポリとハマった首なし裸チキン二羽を見て呟く三十代の女性。

 この街で展開するケーキ店で店長として働いていたのだが、店内に首なし裸チキン達が入店してこの様。せっかく今年は順調にクリスマスケーキの予約が捌けていたのに、ついていない。

 確実にノルマをこなす敏腕女店長と呼ばれていたのも、過去の事。今や両手の自由を奪われ、空中に吊り下げられて何もできない状態である。


 首なし裸チキン、人を運ぶ。高き高き空へと。何百人も運ぶ。彼女以外にも点々と、空中を同じ方向へ人間が運ばれているのである。無論、両手をその穴に入れられてだ。

 この街のランドマークである観光タワーを抜く高度による飛行には、最初こそ恐怖を覚えたが今はそれよりも疑問が湧き出てしょうがない。

 こいつらは何なのか。どうやって動いているのか。何処から来たのか。そして自分をどうするのか。

 そんな答えの無い疑問に押しつぶされそうになる。


「一体何処に連れて行こうって言うのよ……」


 首なし裸チキンは答えない。ただ手羽先を意味なく羽ばたかせ彼女を連れていく。そんな彼らを見て、彼女は諦め、項垂れる。

 もちろん、彼女以外も同じ。ちらほらと見える人間達は諦めて彼らに身を任せている。喚き散らしたところで、その姿通り首なし裸チキンは聞く耳を持っていないのだ。


 そんな諦めの飛行が数時間続いたところで、変化が訪れた。


「何、あれ……」


 彼女の視線の先に、自分たちと同じような境遇の人間達が集まっている。ただ、おかしな点がある。

 人と首なし裸チキンの比率がおかしい。遠目でボンヤリとしか確認できない状態だが、人の影が少ない。

 本来なら人一人に対して彼ら二羽。一対二の比率でなければならぬのだが、目の前の群れには人の数が少ない。明らかに首なし裸チキンの数が多いのだ。

 何故なのかという疑問を持ったまま近づいていく。


 近づき確認できたのは、首なし裸チキン達が『何か』を落としていること。彼らが『何か』を落とすたびに何とも言えぬ鳴き声のような、奇妙な音が聞こえてくる。

 そして『何か』が落ちていく先は駅前広場。彼女はそこに何が落ちているのか、目を凝らす。


「ヒッ……!」


 赤色というのはクリスマスカラーの一つである。赤白緑、この三色を十二月に見たならば人はクリスマスなのだと認識するのだ。この街の駅前広場にもクリスマスカラーが存在する。広場の地面は白。大きなクリスマスツリーは緑。

 そして多すぎる赤色。

 彼女の眼下に広がるのは赤く染まった人の体。手足がねじ曲がった者や、体の一部が破裂した者。地獄のような光景が、クリスマスツリーの下に広がっている。


 彼女は震えた。単純に人の死体を見て恐れたというわけではない。

 これから自身に起こるであろう出来事を想像して、震えているのだ。


 空中の処刑場へと近づく度に、恐怖が滲み出る。泣きながら空中でもがく人間。聞くに堪えない悲鳴を上げながら落ちていく人間。動かなくなる人間。

 今まで確認できなかったものにピントが合い、自分もああなるのかと、不安で押しつぶされそうになっていく。

 そして予想通り、彼女の右手が解放された。


「嫌、やめて! 何でこんなことするの!」


 かろうじて手が繋がっている片方の首なし裸チキンを必死に掴む。今、彼女の命を繋ぎとめているのは首なし裸チキンの穴の締り。これが緩めば彼女の左手は抜け落ち、死ぬ。

 あまりに下らない、あまりにも馬鹿らしい命の綱。けれども、そこに命がかかっている。首なし裸チキンの穴に命がかかっているのだ。

 だが、首なし裸チキンは容赦をしない。体内の異物を落とすため、穴を緩める。その度に彼女の心から余裕というものがなくなっていく。その度に彼女の心に恐怖が増していく。


 汗が垂れる。

 涙が零れる。

 尿が漏れる。


 死にたくない。ただただ生きたいという生物としての最大の欲求のみが増幅していく。

 彼女は震える声で叫ぶ。



「お願い、落とさないで! 死にたくない! 死にたくなっ……!」



 必死な命乞いを、首なし裸チキンは無視した。

 首なし裸チキンは自身の穴を緩めて、勢い良く体を上下に揺すった。そこに一切の慈悲はなく、ただ異物を体外に排出するという目的のみ。

 それに耐え切れず、彼女の手が抜けて体が落ちる。助かる見込みのない高さから。

 自分を見下ろす首なし裸チキン達が、彼女の人生最期の記憶であった。


 落下の衝撃で体が弾けて飛び散り、周囲が赤く染まる。彼女もクリスマスツリーの下で、クリスマスカラーの一つとなった。他の者達と同じように。


 首なし裸チキン、人を殺す。高き場所から低き場所へと落とし、命を奪う。

 首なし裸チキン、人を探す。その腹に拳を入れ込むために。

 首なし裸チキン、人を運ぶ。低き場所から高き場所へと。


 首なし裸チキンは以上の行動をただ繰り返していった。

 ただただひたすらに。何度も何度も。何百回も。


 今もボトリボトリと人が落ち、叫び、死ぬ。クリスマスの駅前広場で。華やかなクリスマスツリーのその下で。

 クリスマスに起きた地獄のような光景が人々の目に焼き付いた。

 私はイヴに何を書いているのか。

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